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記事 24件
  • 【インタビュー】稲見昌彦「ヒトと超人の境界面――身体拡張のアクチュアリティ」 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.669 ☆

    2016-08-17 07:00  
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    【インタビュー】稲見昌彦「ヒトと超人の境界面――身体拡張のアクチュアリティ」
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.8.17 vol.669
    http://wakusei2nd.com


    今朝は、東京大学先端科学技術研究センター教授の稲見昌彦さんのインタビューをお届けします。「身体拡張」や「超人スポーツ」で知られる稲見先生が、自身の関心領域についての議論を縦横無尽に展開。哲学的な領域を包括しつつある昨今の工学的知見を元に、テクノロジーによって拡大化・細分化される人間の「自己」あるいは「身体」の新たな定義について考えます。
    ▼プロフィール
    稲見昌彦(いなみ・まさひこ)

    1994年、東京工業大学生命理工学部生物工学科卒。1996年、同大学大学院生命理工学研究科修士課程修了。1999年、東京大学大学院工学研究科先端学際工学専攻博士課程修了。東京大学リサーチアソシエイト、同大学助手、JSTさきがけ研究者、電気通信大学知能機械工学科講師、同大学助教授、同大学教授、マサチューセッツ工科大学コンピューター科学・人工知能研究所客員科学者、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授等を経て2016年より東京大学先端科学技術研究センター教授。自在化技術、Augmented Human、エンタテインメント工学に興味を持つ。現在までに光学迷彩、触覚拡張装置、動体視力増強装置など、人の感覚・知覚に関わるデバイスを各種開発。米TIME誌Coolest Invention of the Year、文部科学大臣表彰若手科学者賞などを受賞。超人スポーツ協会発起人・共同代表。著書に『スーパーヒューマン誕生! ―人間はSFを超える』(NHK出版新書)がある。
    ◎聞き手:宇野常寛
    ◎構成:神吉弘邦
    ■3層のレイヤーから見える世界
    宇野 2月に刊行された稲見先生のご著書『スーパーヒューマン誕生―人間はSFを超える』、拝読いたしました。この本の中で扱っている話題と、今の稲見先生の研究領域とは、どのくらいつながっているのでしょうか?
    稲見 これまで主にやっていたテーマは「人間拡張」でしたが、現在の研究テーマは「人体の再設計や再定義」や「心の身体の問題」です。今回の書籍では、前者の方が今の時代に多くの人に伝わる話題だという判断で、そちらをメインに書いています。
    今の研究分野に名前を付けるなら「身体情報学分野」でしょうか。今年春に、東京大学先端科学技術研究センターに異動したときに、研究分野名を自由につけて良いというので、そう名乗っています。今は興味の対象がそちらに向かっているので「人間拡張工学分野」とは付けませんでした。
    宇野 この本では、ヴァーチャルリアリティとロボットの話題が一冊にまとめられていますが、この分野を包括的に表すような言葉はないんでしょうか?
    稲見 私はVR、ロボットを包含する学問領域名として、「身体情報学」と名付け、身体を情報システムとして理解、設計することを目指しています。身体拡張はその第一段階と考えています。旧来的には「ヒューマン-マシン インタフェース」や「コンピュータ-ヒューマン インタラクション」になるんでしょうが、こういった伝統的なヴァーチャルリアリティの分野が研究していたのは、情報世界と物理世界、つまりデジタル-フィジカルの関係をどう設計していくかでした。
    情報技術はニコラス・ネグロポンティの著書『ビーイングデジタル』で語ったように、すべてがデジタルに移行しようとしています。その両者の中間的なところに「タンジブル」があったりして、物理-情報界面領域はいま落合陽一先生も取り組んでいるところですね。
    この物理世界と情報世界を対比する考え方に対し、私は最近サイバネティクスの始祖であるノーバート・ウィーナーに倣って、世界を「自分が直接制御できるもの」と「自分が直接制御できないもの」に分けて捉えることを提案しています。そして自らの可制御領域を押し広げて行こうというのが「人間拡張」の考え方です。
    その考え方を基本とし、”We”という概念を考えます。「自分が直接制御できるもの」と「自分が直接制御できないもの」は、「自己」と「それ以外」と言い換えることができます。ここで主語を「自己」ではなく「我々」に転換する、つまり"I"から"We"へと考え方を広げることで、これはまさに我々人類が制御可能な領域を広げるというエンジニアリングによって目指すべき目標となります。
    このエンジニアリングの世界にも界面があって、それは「可制御界面」と捉えられます。その外側に広がっているのは「観察できるもの」と「観察できないもの」の世界で、ここでも主語を"We"に置き換えることによって、新たな技術により観察可能な世界つまり「可観測界面」を広げるという、サイエンスの目標と捉えることができます。そして、学問全般が目指す目標は人類にとっての「理解界面」を押し広げることかもしれません。
    まとめると「制御できる世界」「観察できる世界」そして「理解できる世界」。この3層のレイヤーが、テクノロジーによってどう変わっていくかに興味があります。


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  • 日本人はリオ五輪から何を学ぶべきか――『オリンピックと商業主義』著者・小川勝氏インタビュー ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.668 ☆

    2016-08-16 07:00  
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    日本人はリオ五輪から何を学ぶべきか――『オリンピックと商業主義』著者・小川勝氏インタビュー
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.8.16 vol.668
    http://wakusei2nd.com



    今朝は『オリンピックと商業主義』の著者であるスポーツジャーナリスト・小川勝さんのインタビューをお届けします。
    新国立競技場問題をはじめ、さまざまな問題を抱えながらも、4年後に迫っている東京オリンピック。政治とカネとノスタルジーが複雑に絡みあったこの状況を解きほぐす鍵は、本来のオリンピックの理念に立ち返ることだと語ります。現在開催中のリオ五輪を参照しながら、日本人は「2020年」にどう向き合うべきかを考えます(このインタビューは2016年7月22日に収録しました)。

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    『PLANETS vol.9』は2020年の東京五輪計画と近未来の日本像について、気鋭の論客たちからなるプロジェクトチームを結成し、4つの視点から徹底的に考える一大提言特集です。リアリスティックでありながらワクワクする日本再生のシナリオを描き出します。
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    ▼プロフィール

    小川勝(おがわ・まさる)
    1959年、東京生まれ。青学大理工学部からスポーツニッポン新聞入社、野球、米国4大プロスポーツ、長野五輪などを担当、2001年に退社してスポーツライターに。著書に「イチローは『天才』ではない」(角川ONEテーマ新書)「オリンピックと商業主義」(集英社新書)「東京オリンピック 『問題』の核心は何か」(集英社新書)など。
    ◎構成:森祐介
    ■どこまでを五輪開催の費用とするべきか
    ――今年はブラジルでリオオリンピックが開催され、4年後には東京でのオリンピックも近づいています。まずは現在のオリンピックをとりまく状況をお聞きかせください。
    小川 現在のオリンピックの開催について、もっとも耳目を集めやすいのは経済的な話題でしょう。2020年の東京オリンピックを誘致するにあたっても、とにかく経済効果の大きさばかりが語られていた印象です。しかし、オリンピックというものは、本来は税金を投入して当たり前の奉仕活動でした。黒字だ赤字だと、お金の話ばかりの「商業主義」に変わってしまったのは、1984年のロサンゼルスオリンピック以降のことです。
    当時の報道を知っている人にとっては、あそこから商業五輪がはじまったことは一般常識なのですが、僕より年下の方から「若い人にとっては、ロサンゼルスオリンピックは歴史上の出来事ですよ」と言われてしまって……。
    そういう意味でも、『オリンピックと商業主義』を出版した2012年は良い時期だったのではないかと思います。4年前は、まさに東京五輪の誘致活動が行われている最中でしたからね。
    ――東京オリンピックの誘致活動が行われていたとき、「税金の無駄遣いになるから誘致はやめよう」という意見が根強くありました。しかし、実際に何にお金がかかるのかについては、なかなか分かりづらいところがあります。
    小川 「何にいくらお金がかかるか」という議論の前提があやふやなのは確かです。よく「東京オリンピック開催にかかるお金」という言葉が使われますが、この言葉を使っているメディアの人たちも、内容をよく整理できていないという印象が強いです。
    前回の東京オリンピックでは、柔道の会場として日本武道館を税金で作りました。あれから50年以上が経った今、「日本武道館を建てた税金はムダだった」という人はまずいません。現在ではコンサート会場としてメッカになっているなど、当時の人たちが想定していなかった使われ方もしていますが、歴史のある施設ですので、少々赤字だとしても「潰してしまおう」とはならない。
    代々木第一・第二体育館や国立競技場にしても同じです。建設費用は「オリンピック開催に必要なお金」とも言えますが、同時に「公共財産をつくる事業としてのお金」でもあったわけです。東京オリンピックに間に合わせるためにつくった施設ではありますが、東京オリンピックだけにかけたお金ではない。黒字だ、赤字だという枠に、この建設費を入れてしまうのは間違いだと思います。
    ――当時とは社会状況も変わっています。たとえば新国立競技場について、また前回と同じような施設が必要なのでしょうか?
    小川 あの場所に競技場を作ること自体は大賛成です。自然環境への影響など、まだまだ検討が必要な部分もありますが、あの施設が持つ、伝統を引き継ぐことが何より重要だと思います。サッカーの天皇杯や関東学生陸上競技連盟の大会など、さまざまな競技において、国立競技場はとても大きな意味をもった場所です。
    サッカー選手にとっては、お正月に天皇杯で優勝してカップを掲げることは大きな目標のひとつですし、高校サッカーの学生たちにとっては、準々決勝まで残って国立で試合をするのが憧れです。こういった伝統はお金で買えるものではありません。多少赤字があったとしても、税金で補填して維持していく価値があるといえます。
    世界的に見ても、1964年の東京オリンピックは、西洋文化の外部で開催された初めてのオリンピックです。初めてアジアで開催されたオリンピックの場所であるというだけでも、残すに値するといえます。
    また、伝統の中身としては、デザインも重要です。たとえば甲子園球場にあるスコアボードはその象徴です。ほかの球場のバックスクリーンは、電光掲示板を使うのが当たり前になっています。甲子園でも導入されたのですが、「手書きの味わいは残そう」と、電光掲示でも、手書きに似たものになりました。鮮明な動画を使ってエンターテイメント的な演出をする球場もありますが、甲子園はそうあるべきではないという考え方ですね。合理性を考えたら、ほかの考え方もあるでしょう。しかし、阪神タイガースの縦縞ユニフォームがずっとそのままなのと同じで、これは理屈ではないのです。ファンが応援してきたタイガースの名シーンの記憶には、縦縞が一緒に入っている。それと同様、ファンと球団が抱えている歴史は絶対に失ってはいけないのです。
    ――新国立競技場に関しては、当初とは計画も変わってきました。
    小川 僕は最初の計画には絶対反対の立場から、いろいろな批判を書いてきましたが、新しい計画では、多少は良くなったと考えています。ただ、いまだに施設が巨大すぎるのは事実です。2002年に日韓共催ワールドカップを行った日産スタジアムは603億円でつくれましたが、新国立競技場は計画全体の予算が1550億円となっています。日本サッカー協会は、将来的にワールドカップを招致するために「8万席の固定席をつくるように」と言っていますが、あの場所の施設に8万席を造ればそれだけ大きな競技場になる。岡田武史元代表監督も「招致できるかもわからないし、可能だとしても何年先かわからない」と仰っている。開催できたとしても使うのはそのときの1回だけです。そんなことのために競技場が大きくなり過ぎるのであれば、日産スタジアムを増築するなど、他の可能性を考えるべきでしょうね。
    ■ブラジル経済の影響を受けて準備がギリギリに
    ――今回のリオデジャネイロオリンピックについて、小川さんはどう見ているのでしょうか?
    小川 比較的最近のオリンピックの開催地には大きく分けて2種類がありました。伝統国での開催と、新興国での開催。これが交互に行われてきました。たとえば2004年のアテネ大会。これは第1回オリンピックが行われた伝統国ですよね。その次の2008年の北京大会は新興国で、中国では初開催でした。2012年は開催3度目のロンドン大会。今回は新興国のリオ大会。これは南米で初めての五輪です。
    今回のリオの標語は「A New World」です。オリンピックの創始者であるピエール・ド・クーベルタンが、IOC(国際オリンピック協会)を作ったときの趣旨は「世界に五輪を広げていく」というもので、それに沿ったものとなっています。


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  • 月曜ナビゲーター・宇野常寛 J-WAVE「THE HANGOUT」8月8日放送書き起こし! ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.666 ☆

    2016-08-15 07:00  
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    月曜ナビゲーター・宇野常寛J-WAVE「THE HANGOUT」8月8日放送書き起こし!
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.8.15 vol.666
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    大好評放送中! 宇野常寛がナビゲーターをつとめるJ-WAVE「THE HANGOUT」月曜日。前週分のラジオ書き起こしダイジェストをお届けします!

    ▲先週の放送はこちらからご覧いただけます!
    ■オープニングトーク
    宇野 時刻は午後11時30分を回りました。みなさんこんばんは、宇野常寛です。そして松岡茉優さん、生放送、本当にお疲れ様でした! 松岡さん、『シン・ゴジラ』観ました? まだ観てないですか。残念です。ということは、本当に残念ですが、松岡さんとの今日の絡みはここまでですね。なぜならば、今から僕はこの『シン・ゴジラ』についてネタバレ全開で喋るからです。僕は容赦なくネタバレしますよ。1週間も待ちましたからね。先週、すごく喋りたかったのに、スタッフから止められて我慢しましたから、僕には話す権利があると思うんです。ネタバレに配慮して、お城の堀の周りをぐるぐる回るような批評をするのは、やはり僕の性に合わないなと痛感したんですよね。本当に先週の放送は不完全燃焼感がすごかったですね。したがって、今から容赦なく『シン・ゴジラ』のネタバレをします! ということで、全国のリスナーの皆さん、そしてまだ『シン・ゴジラ』を観ていない人にお知らせです。これから10分間ぐらいラジオのボリュームを限界まで下げてください。でも、このまま聞かれなくなっちゃうのは嫌なので、10分ほど経ったら絶対に戻ってきてくださいね。特に孤独な夜を過ごしている人は、DMM.comあたりを立ち上げてね。なにかこうソロプレイとかに励んでもらえると、時間的にちょうどいいかなと思います。そしてフィニッシュを迎えて賢者モードになった上で戻ってきてください。それでは、タイトルコールの後、ゴジラの話を全開で始めます。宇野常寛がお届けする「THE HANGOUT」、『シン・ゴジラ』ネタバレ編。本日もスタートです。
    〜♪


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  • いま野球界の構造はどうなっているのか? 選手育成過程と、今夏の「女子マネージャーと硬式球」問題(「文化系のための野球入門――ギークカルチャーとしての平成野球史」vol.3)☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.665 ☆

    2016-08-12 07:00  
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    いま野球界の構造はどうなっているのか?選手育成過程と、今夏の「女子マネージャーと硬式球」問題(「文化系のための野球入門――ギークカルチャーとしての平成野球史」vol.3)
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.8.12 vol.665
    http://wakusei2nd.com


    2016年は清原元選手の逮捕、巨人選手の野球賭博問題、プロ球団の試合前後の金銭授受など、野球界で様々な問題が噴出しました。またアマチュア野球においては、この夏も女子マネージャーの高校野球への参加をめぐって「炎上事件」が起きています。本記事では、野球界が抱える構造的な問題を、より俯瞰的な視点から解説します。
    ▼執筆者プロフィール
    中野慧(なかの・けい):1986年生、PLANETS編集部。文化、政治からスポーツまで色々な書籍・記事を担当しています。過去の構成担当書籍に『静かなる革命へのブループリント』(宇野常寛編、河出書房新社)、『ナショナリズムの現在』(著・小林よしのり他、朝日新聞出版)、『「絶望の時代」の希望の恋愛学』(宮台真司編、KADOKAWA/中経出版)等。
    過去の配信記事一覧はこちらから。
    前回:「高校野球カルチャー」の本当の問題点とは?――高野連、坊主頭、夏の大会「一票の格差」を考える(「文化系のための野球入門――ギークカルチャーとしての平成野球史」vol.2)
    本記事に関するご意見、ご感想等は、こちらまでお送りください。
    ■野球文化の問題点は「特別扱い」「異常なことを異常だと感じられなくなっていく構造」
     久しぶりの配信になりますが、最初に宇野編集長より与えられたこの連載のミッションは「いま文化系にとって野球とは?」を語っていくことでした。野球文化にはまだ明示的に語られていない面白い要素があるのでそこをメインにしたい――と思っているのですが、前回の記事を配信した際に様々な方から感想をいただいて、野球に詳しくない人にはまだまだ不親切な部分があったと感じました。
     今、野球界は様々な問題を抱えています。まずは、「現状のプロ、アマチュア含めた野球界の全体像はどういうものか?」「いま騒がれている問題の根源はどこにあるのか?」について、野球に詳しくない人に対してもわかりやすく見取り図を整理したいと思います。そこで今回の記事は編集担当者でもある僕(中野)の発表パートにして、その後にこれまで座談会に参加してくれた皆さんも含めて、討議形式で考えてみたいと思います。この発表パートでは、野球に詳しい人であれば「そんなの当たり前でしょ」と思うような部分も詳しく解説していきます。
     結論から言うと、野球文化の問題点は「特別扱い」「異常なことを異常だと感じられなくなっていく構造」にあると思っています。
     まずは、現状メディアに出ている問題の数々を順番に整理してみることにします。今年(2016年)、元プロ野球選手の清原和博が覚醒剤で逮捕され、巨人選手が野球賭博に関与していた事件の詳細もより明らかになりました。さらにプロ12球団中8球団で、試合前に各選手が現金を拠出し合い、試合前の円陣で声出しを担当した選手に、勝った場合には「ご祝儀」と称して金銭を与え、負けた場合には当該選手が現金を支払うという慣習が定着していたことも発覚しました。
     基本的に刑法の賭博罪において、「ゴルフで勝負して負けた人が勝った人にジュースをおごる」というような行為は、その場で消費できる少額のものであるので許容されています。「声出し金銭授受」に関しては数万円と金額が大きくなるので賭博罪に該当する可能性も高くなってくるのですが、まだグレーゾーンの範囲のため、プロ野球を統括するNPB(日本野球機構/プロ野球の統括団体)は選手たちに処罰を下しませんでしたし、刑事事件に発展する可能性も低いとされています。
     ただ、巨人選手の賭博行為に関しては、そもそも野球賭博は公営ギャンブルではないため関与すると賭博罪に該当します。また、NPBが制定している「野球協約」というルールでは野球賭博に関与することが明確に禁止されているため、NPBは3選手を永久追放、1人を1年間の出場停止という処分を下しました。この件については警察も動いており、主犯格の1人が今年4月に逮捕されています。
     そしてこの問題と前後して、西武・巨人・オリックスで活躍したスーパースターである清原和博が覚醒剤取締法違反で逮捕されています。保釈時に報道陣が大挙して押し寄せるなどメディアスクラムが加速した一方で、「覚醒剤のような依存症に対しては『刑罰』ではなく『治療』によって対処すべきだ」という意見も出ています。
    (参考)
    薬物依存症は罰では治らない(松本俊彦/精神科医)SYNODOS-シノドス-
    薬物問題、いま必要な議論とは(松本俊彦×荻上チキ)SYNODOS-シノドス-
     清原事件と巨人選手の野球賭博問題に関しては、「タニマチ」の存在がクローズアップされました。タニマチとはもともと相撲界の言葉で、スターと私的に付き合い、金銭的なバックアップをするお金持ちの支援者のことです。相撲、芸能界、野球界など比較的古い世界では、こうしたインフォーマルな関係はよくあることだとされています。
     ただ、タニマチは必ずしも善人ばかりではなく、中には裏社会と繋がりのある人たちもいたりします。そういった「悪い人」の中には野球賭博を開帳している人もいたりしますし、芸能界との繋がりのなかでスターを薬物使用に引き込んでいくような文化もあるわけです。
     プロ野球界においては、巨人・阪神という伝統的に人気のある2球団の選手にタニマチがつく場合が多いとされています。また巨人・阪神に限らず、アマチュア時代から人気のある選手にもタニマチがつく場合があります。そういったインフォーマルな付き合いのなかで、清原も、そして巨人選手たちも悪事に手を染めていったのではないか、というのが現状出ている議論ですね。
     また、今年7月になって「ハンカチ王子」こと日本ハムの斎藤佑樹選手も、個人的につながりのあるベースボール・マガジン社の社長に「ポルシェをねだる」ということをしていた疑惑が「週刊文春」によって報じられました。これに関しては基本的には違法性はない(あるとすれば車庫証明違反等)わけですが、「高い年俸を貰っているプロ野球選手である以上、ポルシェに乗りたいなら自分で稼いだお金で買うべきだ」という批判も出ています。ここでは違法かそうではないかというよりも、スポーツ選手としてのイメージが問題になっているわけです。
     こうした数々の問題に、深いところで共通するものが、「野球の特別扱い」と、「異常なことを異常だと感じられなくなっていく野球界の構造」だと思っています。たとえば「出版社の社長にポルシェをねだるとお金を出してもらえる」というのはとても普通の感覚ではありえないことですが、そういった異常なことを「異常だと感じられなくなっていく」構造が野球界には深く根付いています。
    ■「高校球児のコスプレ」をする野球エリートたち
     なぜそうなってしまったのか。様々な要因が考えられますが、社会と野球との関わりということで言えば「戦後社会で野球があまりにも特別扱いされすぎてきた」、そして野球界内部の問題で言えば「野球エリートの育成課程に問題がある」ということだと思います。
     先に結論を言ってしまうと、サッカーのJFA(日本サッカー協会)のように、プロ・アマを総合的に統括するような組織が野球にはないことが最大の要因です。これはしばしば色んな人が言及していることですが、もっともっと強調されていいことです。
     日本の野球界はアマチュアとプロがずっといがみ合ってきた歴史があります。さらにアマチュア野球界内部でも高校と大学では統括する組織が違いますし、大学野球界ではさらにひどい縄張り争いが繰り返されてきました。そういった歴史の積み重ねと、日本社会における「野球」というものの独特のプレゼンスの大きさが歪みを引き起こし、ここに来て様々な症状として噴出しているのだと思っています。
     まずは、「野球エリートの育成課程」の特殊性について説明していきたいと思います。基本的にプロ野球選手になる人の多くは、小学生のときに野球やソフトボールを始めている場合が大半です。学童野球はゴムでできていて安全な「軟式球」を使うことが多く、軟式野球の場合は、年代別に小学校低学年なら「D球」、高学年は「C球」、中学は「B球」、高校〜一般は「A球」とそれぞれサイズと重さが違う球を使います。軟式球は日本発祥の規格です。
     しかし、特に才能がありそうな子はプロと同じ「硬式球」を使う「ボーイズリーグ」「リトルリーグ」「ヤングリーグ」といった組織に所属するクラブチームでプレイします。「将来にわたってトップレベルでプレイし続け、プロ野球選手を目指すのであれば、早めに硬式球に慣れていたほうがいい」というわけです。ちなみに「本場」であるアメリカでは野球といえば硬式球を使うものなんです。アメリカ人は軟式球の存在すら知らないことが多いですね。日本における軟球の代わりとしてソフトボールがすごく人気があったりします。

    ▲下段左が硬式球、真ん中が軟式球。硬式球はコルクの周りに糸を巻き付け牛革で覆っているが、軟式球は内部が空洞になっており外皮はゴム(ちなみに一番右のボールは準硬式球と呼ばれ、内部構造は硬式とほぼ同じだが外皮が軟式と同じゴムでできていて、中間的な球。準硬式球のプレイヤー数は硬式・軟式と比べるとかなり少ない)。硬式球はほとんど石のような固さで、投球や打球が直接身体に当たるととても痛く、骨折の危険性も高いが、軟式球が当たって骨折するケースは非常に少ない。(画像出典)野球図鑑|ホームメイト・リサーチ 

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  • 【対談】吉田尚記×宇野常寛 すべてのコンテンツは宗教である ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.664 ☆

    2016-08-11 07:00  
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    【対談】吉田尚記×宇野常寛すべてのコンテンツは宗教である
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.8.11 vol.664
    http://wakusei2nd.com


    今朝は吉田尚記さんと宇野常寛の対談をお届けします。「コンテンツ」の本質を伝統的な「宗教」になぞらえて読み解く吉田さんと宇野の議論は、オタクの歳の取り方から、「他者の物語」への共感能力の衰退、さらには物語を生成する二次創作的な環境の問題にまで広がります。運営型コンテンツ全盛の今、物語系コンテンツの想像力の在処を探ります。
    ▼プロフィール
    吉田尚記(よしだ・ひさのり)
    1975年12月12日東京・銀座生まれ。ニッポン放送アナウンサー。2012年、『ミュ〜コミ+プラス』(毎週月〜木曜24時00分〜24時53分)のパーソナリティとして、第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞受賞。「マンガ大賞」発起人。著書『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版)が累計13万部を超えるベストセラーに。マンガ、アニメ、アイドル、落語やSNSに関してのオーソリティとして各方面で幅広く活動し、年間100本近くのアニメイベントの司会を担当している。自身がアイコンとなったカルチャー情報サイト「yoppy」も展開中。現在、新型のラジオ「Hint」を開発し、 https://camp-fire.jp/projects/view/8696 で9/20までクラウドファンディング続行中。
    なお、コミックマーケット90は8/14(日)東地区ポ-45b『練馬産業大学落語研究会』で出展。
    ◎構成:有田シュン
    ■ コンテンツを「宗教」として考える
    宇野 今日は、アナウンサーの吉田尚記さんをお招きして、これからの物語の可能性、というテーマで議論してみたいと思います。いまエンターテインメントというか、物語と人間の関係は大きく変化している。それは一番わかり易いところで言うと社会の情報化の結果ですね。誰もが自分の物語を発信することができるようになった時代、あるいは現実に存在するおもしろいことを検索して知るコストがどんどんゼロに近づくことによる、虚構の機能の変化という問題に僕らはぶつかっている。
     こうした問題について、一度ふたりでじっくり話してみたい、というか吉田さんの考えを聞いてみたい、というのが今日の趣旨です。
    吉田 最近、僕がずっと考えてるのは、「コンテンツは宗教である」ということです。本格的に宗教を信奉・研究されている方がいらっしゃるのを承知のうえで、そう考えると納得できることが非常に多いことに気づきました。
     僕は90年代に、篠原涼子が所属していた『東京パフォーマンスドール』というアイドルグループの追っかけをやっていました。いわば20年来のアイドルオタクです。と同時に、アニメやゲームや漫画好きのオタクでもあります。世の中にはいろいろなオタクがいますが、この両方を併発している人は少数派なんですね。でも、僕はどちらも大好きなんです。このような複数のジャンルのオタクを続けていると、それぞれの共通点や、どんなに人気が出ても天下を取れないものがあるということも、だんだんわかってきます。その中の一つが「グラビアアイドル」です。
     なぜか。「歌」がないからです。AKB48やももいろクローバーZは武道館をいっぱいにできるけど、グラビアアイドルにはできない。歌には商品性を超えて人間の心を動かす根源的な力があるんだと思います。
     その昔、文化人類学者が南の島に蓄音機を持ち込んで、体系的な音楽文化を持たない現地の人たちに西欧の音楽を聴かせるという実験がありました。そのときの写真を見ると、悲しい音楽を聴かせたときはものすごく悲しそうな顔をしていて、楽しい音楽を聴かせたときはものすごい笑顔になっている。知識や文脈と問わず、根源的な感情を揺さぶる力が、どうやら音楽には備わっているらしい。さらには、太古においては言語よりも先に歌があったという説もあります。僕は、歌で表現された感情を因数分解したものが言葉になったのではないかと思う。だから歌は、ただの言葉になった瞬間に根源的な領域から離陸してしまうんです。
     面白いことに、熱狂や興奮の伴うところには、必ず歌がついてきます。映画でもドラマでもアニメでも、当たり前のように主題歌を作りますし、スポーツにも応援歌があります。それくらいに根源的なのが歌です。
     そして今日の文化においても、歌にしか分かりやすい熱狂はないと思います。天下を取るアイドルは必ず「歌」を持っている。それに対して、グラビアアイドルは基本的に歌いません。
     そして、歌は宗教の重要な構成要素の一つでもあります。例えばキリスト教なら聖歌がある。イスラム教にはコーランがある。仏教にはお経がある。三蔵法師が天竺まで命がけでお経を取りに行ったのが象徴的ですよね。自分の好きなアーティストのライブがインドでしか行われないとなれば、必ず行く奴が出てくる。三蔵法師のモチベーションはそれだったんだと思います。
     今よりもはるかに情報量が少なかった時代に「仏陀」という物語がドンと提示される。「面白い!」と思った瞬間にガチオタになる。手に入る経典をすべて読み尽くす。聖地巡礼もする。そして最後には「インドに行っとく?」となる。行ったら行ったで、向こうにある法典を母国語でも読めるように手動でリッピングする。何年もかけて修行して帰国する。そりゃヒーローになるよね。「あいつはすごい!」と歴史に名が残る。今まで宗教的情熱だと思われていたのが、実はコンテンツに対する熱だったとすると、殉教者や信心に厚い偉人のエピソードはすべて腑に落ちる。
     『枕草子』には、清少納言が法事を楽しみにしている話がありますが、これも法事をコンサートやDJイベントと考えれば、全然おかしくない。コンテンツのない暮らしの中で、坊主というMCが来てお経を上げるわけです。『枕草子』には「今日のお坊さんはお経が下手で萎えるわ」という感想が書かれているんだけど、これって完全にバンギャのブログですよね。当時、宗教がコンテンツとしてどのように消費されていたのかよくわかります。
     歌のほかにもうひとつ、アイドルと宗教の共通点があります。それはコンサートです。コンサートをやらないとアイドルは天下を取れません。これはミサや集会に近いものだと思っています。その場合、お経は歌となります。写真集などの本は聖典ですね。
     さらに大事なのが、毎日仏前で読経する「御勤め」です。宗教は必ずこういった自宅での日課を課しています。これについては最近ゲームの登場によるパラダイムシフトがありました。そうです、ゲームは御勤めなんです。AKBには恋愛ゲームがあるけど、あまり上手くいってませんよね。なぜなら音ゲーではないからです。御勤めはお経をあげるのが基本で、『ラブライブ!』が成功したのは、その辺が上手くできているからです。一番最初に御勤めとしてのゲームを生み出したのは『THE IDOLM@STER』です。アイマスのゲームをやっているうちに「この歌を聴きたい」と思い始める。コンサートというミサが始まり、ノベライズやコミカライズによって聖典が発売される。そして、キャラクターはいわば教祖です。そしてその声を当てている声優さんたちは、巫女に近い。
     このようにコンテンツは、宗教になぞらえて解釈すると、腑に落ちるものが少なくありません。特に運営が存在するタイプのコンテンツは、宗教的な形式に上手くはまっているかどうかで、完成度をチェックできると思います。

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  • ブリティッシュ・ドリームの叶え方――英国版「わらしべ長者」と3つのキャピタリズム(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第10回)【毎月第2水曜配信】☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.663 ☆

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    ブリティッシュ・ドリームの叶え方――英国版「わらしべ長者」と3つのキャピタリズム(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第10回)【毎月第2水曜配信】
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.8.10 vol.663
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    今朝は『現役官僚の滞英日記』をお届けします。しばしば「階級社会である」と言われるイギリスですが、現代におけるその構造はどうなっているのでしょうか。シティが持つ「カネ」、ジェントルメンズ・クラブの「コネ」、大学やシンクタンクの持つ「知識」の3要素と、ヒトの流動性の担保を両立する独特の仕組みを解説します。
    ▼プロフィール
    橘宏樹(たちばな・ひろき)
    官庁勤務。2014年夏より2年間、政府派遣により英国留学中。官庁勤務のかたわら、NPO法人ZESDA(http://zesda.jp/)等の活動にも参加。趣味はアニメ鑑賞、ピアノ、サッカー等。
    本メルマガで連載中の橘宏樹『現役官僚の滞英日記』これまでの配信記事一覧はこちらのリンクから。
    ※本稿の内容(過去記事も含む)に関して、皆様からのご質問や、今後取材して欲しいことを受け付けたいと思います。こちらのフォームまたはTwitter(@ZESDA_NPO)にお寄せいただければ、できるかぎりお応えしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
    前回:エリートの自滅――問われるコミュニティブ・リーダーシップの真価(橘宏樹『現役官僚の滞英日記:オクスフォード編』第9回)
    こんにちは。橘です。7月末に無事に最終帰国をしました。さすが東京は蒸し暑いですね。出発直前の1週間は別送便の梱包や部屋の掃除、送別会でバタバタと余裕なく過ごしました。感慨に耽る暇はなかったのですが、オクスフォードのクラスメイトやロンドンで知り合った方々とは、また近いうちに会いましょうと言って少し長めのハグをしてきました。これは別れじゃない、これからが友情のスタートなのさ、などと自分に言い聞かせながら、寂しさはなるべく振り切って、今は家族や同僚との二年ぶりの再会の喜びに目を向けています。また、例によって疲労と時差ボケにも苦しんでいます。朝早く目が覚め、昼下がりには強烈な睡魔に襲われ、夜は眠れません。身体が日本の気候や生活習慣に馴染むのには、思うより時間がかかりそうです。
    さて、日本に降り立ってまず感じたのは、街を走る自転車への恐怖です。イギリスでは自転車は歩道の走行が禁止されており車道を車線通りに走ります。しかし、日本では狭い歩道を自転車が対向して走ってきます。その上イヤホンをして片手でスマフォをいじりながら自転車を漕ぐ人もいますよね。イギリスの自転車ルールに慣れた神経では、この危なっかしさに少し気疲れします。
    それから、やっぱり街全体に高齢者が多いなと感じました。ロンドンでは乳母車が溢れかえっていたことに比べると非常に対照的です。社会の活力維持という点ではやや心配な点もありますけれど、東京はロンドンよりも、かなりバリアフリーが進んでいると思いますし、アクティブな高齢者が楽にあちこち出かけられることはよいことだと思います。
    このほかにも帰国して気がつく僕の内面の変化、日本の良さをあらためて感じた点、違和感を抱いたポイントなどは多々ありますが、それらについては、次回最終号にまとめてみたいと思います。今回は、ロンドンでの1年、オクスフォードでの1年を通じて得た学びを総括したいと思います。
    僕は、イギリスに来たばかりの連載第1回において、

    《僕は、「この人たちは、少しずるい気もするけど、戦略家、リアリストとして『センス』がいいのではないか」という印象を受けました。しかも、100年くらい全世界の制海権を握っていたということは、一時期に突出したリーダーがいたというだけではなくて、伝統的、集団的、組織的な形でそうしたセンスを共有していたのではないか》

    と書いたように、イギリスの指導層の強さやうまさの秘密を学ぶことが大きなテーマでした。このうち「リアリストとしてのセンス」に関しては、ロンドンでの1年を終えた昨年の7月頃に「無戦略を可能にする5つの戦術」にまとめたとおりの結論を得ました。
    「無戦略」を可能にする5つの「戦術」~イギリスの強さの正体~(橘宏樹『現役官僚の滞英日記』第11回) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.381 ☆
    今回は、もうひとつの問題関心であった「伝統的、集団的、組織的」な「センスの共有方法」について、僕の観察結果を書いてみたいと思います。
    前号に掲載した写真でおわかりのように、イギリスにはロイヤル・アスコットのような社交の場でシルクハットに燕尾服で特別席に居並ぶ人々に象徴される、「上流階級」が明確に存在しています。
    エリートの自滅――問われるコミュニティブ・リーダーシップの真価(橘宏樹『現役官僚の滞英日記:オクスフォード編』第9回)【毎月第1木曜日配信】☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.637 ☆
    彼等のような人々は日本社会ではなかなか目の当たりにしにくい存在なのですが、イギリスの上流階層は、ただ金持ちであるということ以上に、「特権」を持っています。特権とは、誰々しかどこそこに入れない、といった話が多く、結局のところ、「カネ・コネ・知識」を莫大に持っている人々との交流権を意味します。そして、巧妙にフィルターをかけて、既存メンバーにメリットを出せそうな人にはこの交流権を与えて取り込んでいくことで、閉鎖性を保ちながらもコミュニティの魅力をアップデートしているのです。
    ■「カネ・コネ・知識」――連動する3つのキャピタリズム
    僕は、この2年間イギリスのエリート層の世界を観察して、この「カネ・コネ・知識」の3つの価値を中心とした3つのキャピタリズム(①フィナンシャル・キャピタリズム、②ソーシャル・キャピタリズム、③インテレクチュアル・キャピタリズム)が存在していると思うに至りました。このうち2つ(ソーシャル・キャピタリズム、インテレクチュアル・キャピタリズム)の存在については、尾原和啓さんの「配電盤モデル」をお借りしながら連載第6回で少し詳しく描写しました。各キャピタリズムはそれぞれ、クローズドの対人関係を基調としたクオリティ・コントロールを伴う「英国型プラットフォーム」とも呼べるスタイルの下で、知なら知を、富なら富を、絶えず集めては生み出しています。
    「英国型プラットフォーム」と2つのキャピタリズム――「プロデュース理論」で比較する日英のイノベーション環境(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第6回)【毎月第1木曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.558 ☆
    これら3つのプラットフォームそれぞれが価値を自己増殖しているとともに、互いに連動し循環しています。一枚で表現するとすれば下図(図1)のとおりです。

    (図1)
    なかでも、投資や寄付を通じて「カネ」を「コネと知識」に変換してみんなで積み上げておき(図2)、適宜「コネと知識」を「カネ」に変えて富を増やす(図3)という「カネ」⇔「コネ・知識」間のダイナミックな潮流がやはり基調となっています。この価値変換において決定的な役割を果たすのが、サロンなどの閉じられた社交場であり、そこで出会う「カタリスト」の機転です。ですから、「特権」とは、すなわち、自分の持っているキャピタルを、自分が欲しい他のキャピタルに変えてくれる「カタリスト」に出会えるサロンへの入場資格なのです。そして、キャピタルとは他の2キャピタルと機転の積。つまり、「カネ」とは「コネ」と「知識」と「機転」の積であり、「コネ」とは「カネ」と「知識」と「機転」の積であり、「知識」とは、「カネ」と「コネ」と「機転」の積である、ということなのです。

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  • そしてカーデザインは21世紀へ――今までの自動車、これからの自動車/日本の大衆車・後編(根津孝太『カーデザインの20世紀』最終回) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.662 ☆

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    そしてカーデザインは21世紀へ――今までの自動車、これからの自動車/日本の大衆車・後編(根津孝太『カーデザインの20世紀』最終回)
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.8.9 vol.662
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    今朝のメルマガでは、デザイナー・根津孝太さんの連載「カーデザインの20世紀」最終回をお届けします。これまでの連載の総まとめとして、現在の大衆車が置かれている状況と、その未来を考えていきます。
    ▼プロフィール
    根津孝太(ねづ・こうた)
    1969年東京生まれ。千葉大学工学部工業意匠学科卒業。トヨタ自動車入社、愛・地球博 『i-unit』コンセプト開発リーダーなどを務める。2005年(有)znug design設立、多く の工業製品のコンセプト企画とデザインを手がけ、企業創造活動の活性化にも貢献。賛同 した仲間とともに「町工場から世界へ」を掲げ、電動バイク『zecOO (ゼクウ)』の開発 に取組む一方、トヨタ自動車とコンセプトカー『Camatte (カマッテ)』などの共同開発 も行う。2014年度よりグッドデザイン賞審査委員。
    ◎構成:池田明季哉
    本メルマガで連載中の『カーデザインの20世紀』これまでの配信記事一覧はこちらのリンクから。

    前回:一億総中流はファミリーセダンの夢を見るか――「いつかはクラウン」から新型プリウスまで/日本の大衆車・前編(根津孝太『カーデザインの20世紀』第12回)

    前回は、大衆車であるファミリーセダンが戦後の日本にとって特別な意味を持っていたこと、そしてその系譜を受け継ぐプリウスのデザインについてお話ししました。しかし誰もが自動車を手にし、自動車があることを前提としたライフスタイルが一般的になっていくと、より「便利なもの」が、生活の「手段」として求められるようになっていきます。さらにバブル崩壊によって、この流れはさらに加速していきました。そこで今回は、実用性が追求されていった大衆車の現状と、それらを踏まえた21世紀のカーデザインについて考えていきたいと思います。
    ■同じ顔になってゆく自動車たち
    バブル崩壊以降、大衆車のデザインは「コモディティ化」への道を歩んでいきました。「コモディティ(Commodity)」とは「どこにでもあるもの」を意味する言葉で、商品と商品の間の差がなくなってしまい、どれを買っても大差がないような状態のことを言います。
    例えば、ホンダ・N-BOXとダイハツ・タント、そしてスズキ・スペーシアという異なるメーカーの三つの軽自動車があります。どれも人気のある車なのですが、このデザインを見て、みなさんはどういった印象を受けるでしょうか。

    ▲ホンダ・N-BOX。(出典)

    ▲ダイハツ・タント。(出典)

    ▲スズキ・スペーシア。(出典)
    もちろん作り手側がこだわっているポイントはたくさんあり、個々にユニークな機能もあるのですが、ユーザー視点から見たとき、全体的にかなり似ていると感じられるのではないかと思います。軽自動車という決められた規格の中で利便性や快適性を追求し、車内スペースの確保や製造コストの低減などを突き詰めていくと、どうしても似た見た目になってしまうんです。近年の空力解析技術の向上によって、最適解が似通ってしまうという側面もあります。軽自動車に限らず、大衆車と呼べるような自動車はどれも外見的に近づきつつあるんですね。
    コモディティ化という言葉はネガティブな意味で使われることも多いのですが、性能を追求していくことは基本的にはいいことです。誰もが安価で性能のいい自動車に乗れる、まさに「どこにでもあるもの」になったということは、大衆車のそもそものコンセプトの完成だとも言えます。
    ■ファミリーセダンが担っていた機能の分裂
    一億総中流という幻想が生きていたファミリーセダンの時代には、誰もが同じ自動車を手に入れることを夢見ていました。ところが時代が下るにつれて、ファミリーセダンが担っていた機能はいくつかのパターンに分裂していったんです。
    現在の日本の大衆車がどのようなカテゴリーに分かれているかを考えるために、今日本で最も売れている自動車のランキングを見てみましょう。

    (出典)日本自動車販売協会連合会ホームページ、全国軽自動車協会連合会ホームページ掲載の新車販売データより作成
    これは通常別々に集計されている普通自動車と軽自動車の2015年度新車販売台数を合わせて並べ、上位20位までを抜き出したものです。これを見ると、現在の日本で売れている大衆車は軽自動車、ハイブリッドカー、コンパクトカー、ミニバンという四つのカテゴリーになっていることがわかります。ひとつだけSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)というカテゴリーのホンダ・ヴェゼルがランクインしていますが、ランキング上位20台のうち実に19台が、上記四つのカテゴリーのどれかになっているわけですね。
    上位20台のうち半分を占める軽自動車は「スペース系」と呼ばれる、居住性の高さを追求したタイプが人気を集めています。軽自動車については、この連載の第5回(そして小さいクルマは立派になった―黎明期国産軽自動車のトライ&エラーとその帰結)と第6回(21世紀に必要なのは「もっと遅い自動車」だ―超小型モビリティが革新する「人間と交通」の関係)で扱いました。また1位、2位、7位に登場するハイブリッドカーは、前回詳しく語っています。そこで今回は、残りのふたつ、コンパクトカーとミニバンについて見ていきたいと思います。
    ■小さなボディに秘めた走りの良さ――コンパクトカー
    「コンパクトカー」とは、普通自動車でありながら、ダウンサイジングを意図して設計された自動車のことです。法律でその存在が厳密に規定されている軽自動車よりはやや曖昧な分類ですが、普通自動車なので軽自動車よりも居住性や走行性能を確保する上で寸法的には余裕があります。そのため、軽自動車ではちょっと物足りないという人や、長距離移動をする人に支持されています。ファミリーセダンにあった「通勤の足」としての機能は、軽自動車だけでなく、コンパクトカーにも引き継がれたと言えます。
    コンパクトカーと呼べる自動車の歴史は長いのですが、現在のそれに直接繋がる車が登場したのは、00年代のはじめです。トヨタ・ヴィッツ、日産・マーチ(3代目)、ホンダ・フィットがその代表格ですね。今もモデルチェンジを繰り返しながら販売され続けているベストセラーです。これらの車は、たとえばヴィッツならカローラとその弟分であるスターレット、マーチならサニー、フィットはシビックとその弟分のロゴという、おもに70〜90年代にかけて人気を博した大衆車の系譜上にあります。ライバルと競う形で、あるいはユーザーの生活レベルの向上と共に、少しずつ大きく贅沢になっていったカローラ、サニー、シビックの弟分として、兄貴分が生まれた当時のポジションを再現すべく投入された経緯があると言ってもいいかもしれません。だいたい自動車の企画から販売までは4年程度かかりますから、バブル崩壊を受けて90年代後半に企画された車なんですね。

    ▲トヨタ・ヴィッツ(初代)。(出典)

    ▲日産・マーチ(3代目)。(出典)

    ▲ホンダ・フィット(初代)。(出典)

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  • 月曜ナビゲーター・宇野常寛 J-WAVE「THE HANGOUT」8月1日放送書き起こし! ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.661 ☆

    2016-08-08 07:00  
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    月曜ナビゲーター・宇野常寛J-WAVE「THE HANGOUT」8月1日放送書き起こし!
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.8.8 vol.661
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    大好評放送中! 宇野常寛がナビゲーターをつとめるJ-WAVE「THE HANGOUT」月曜日。前週分のラジオ書き起こしダイジェストをお届けします!

    ▲先週の放送はこちらからご覧いただけます!

    ■オープニングトーク
    宇野 時刻は午後11時30分を回りました。みなさんこんばんは、宇野常寛です。そして松岡茉優さん、今夜も生放送お疲れ様でした! 実は今日、僕は家にメガネを忘れてしまっていて、松岡さんの美しさを100パーセントの解像度で見られないんです。でも、安心してください。僕の心の目は、他の誰よりもあなたの美しさを正確に捉えています。僕もイベントに行きたかったです。せっかくガラスに松岡さんが張り付いてくれたのに、ぼんやりとしか見えなかったのが残念です。一応ね、視力は0.3か0.5ぐらいはあるんですよ。だから放送には支障ないんですが、週に1度の決定的な楽しみを、やはり十二分な体勢で迎えることができなかったというのが本当に悔しいですね。
    さて、ではこの話からしますかね。やっぱり、小池百合子でしたね。僕は毎週木曜日に日テレの「スッキリ!!」というワイドショーに出演しているんだけれど、そこで都知事選の話をするのが毎週嫌で嫌でね。だって、都知事選の話題から確認できるのは、今の日本がクソだということだけですよね。主要三候補のどれを引いてもジョーカーだったわけですが、結果として小池都知事になりました。小池都知事って言っちゃったよ。もう既にここは小池百合子の統治下にあるんだもんね。恐ろしい話ですね。でもそんなこと言ったら、ちょっと前まで石原慎太郎が支配していたわけだから、むしろ毒が抜けたと考えた方がいいかもしれないですよね。どの候補者でも一長一短はあったと思うんだけれど、小池百合子に関して言えば、都議会との対決姿勢はいいんじゃないでしょうか。10年前にあった、小泉改革の頃みたいな雰囲気って、もうすっかりないじゃないですか。今のシステムをだましだまし使っていきながら、なんとか全面崩壊を防ごうぐらいのビジョンしかないんですよね。

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  • 京都精華大学〈サブカルチャー論〉講義録 第7回 〈鉄人28号〉から〈マジンガーZ〉へーー戦後ロボットアニメは何を描いてきたか(毎週金曜配信「宇野常寛の対話と講義録」)☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.660 ☆

    2016-08-05 07:00  
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    京都精華大学〈サブカルチャー論〉講義録第7回 〈鉄人28号〉から〈マジンガーZ〉へーー戦後ロボットアニメは何を描いてきたか(毎週金曜配信「宇野常寛の対話と講義録」)

    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.8.5 vol.660
    http://wakusei2nd.com


    今朝のメルマガは「京都精華大学〈サブカルチャー論〉講義録」をお届けします。今回からはロボットアニメがテーマ。日本独特の「乗り物としてのロボット」が生まれた経緯を『鉄人28号』『マジンガーZ』という草創期のヒット作から紐解きます(この原稿は、京都精華大学 ポピュラーカルチャー学部 2016年5月13日の講義を再構成したものです)。
    毎週金曜配信中! 「宇野常寛の対話と講義録」配信記事一覧はこちらのリンクから。

    前回:京都精華大学〈サブカルチャー論〉講義録 第6回:坊屋春道はなぜ「卒業」できなかったか――「最高の男」とあたらしい「カッコよさ」のゆくえ(毎週金曜配信「宇野常寛の対話と講義録」)

    ■戦後日本で奇形的な進化を遂げた「乗り物としてのロボット」
     今日はロボットアニメについて講義をしていきたいと思います。
     日本の戦後アニメーションにおいて、ロボットは中心的なモチーフでした。ロボットアニメの歴史を追うことによって、戦後アニメーションが何を描こうとしてきたのかが見えてくると言っても過言ではありません。ところが、日本の戦後アニメーションが描いてきたこの「ロボット」はちょっと変わっている。今日はそこから話していきたいと思います。

     ここに日本のアニメーションを代表する「ロボット」たちが並んでいます。
     鉄腕アトム、鉄人28号、マジンガーZ、ガンダム、そしてエヴァンゲリオンーーみなさん、どうですか? 実はこの中に厳密には「ロボット」とはいえないものが混じっています。どれかわかりますか?
     正解は、鉄腕アトム以外全部「ロボット」ではありません。ほかは全部、「ロボット」ではなく人型の道具で、マジンガーZ、ガンダム、エヴァンゲリオンは「乗り物」です。実は戦後アニメーションは厳密な意味では「ロボット」をほとんど描いてこなかったんです。
     そもそも「ロボット」とは何でしょうか。実はロボットの定義とは、「人工知能をもち、自律的に動くもの」です。だから鉄腕アトムはロボットだけれど、リモコンで動く機械である鉄人28号はロボットではないし、ガンダムに至っては「人型の乗り物」にすぎません。逆に、現代では人型をしていなくても人工知能で制御されていればロボットだと分類されていますね。
     特にこの「乗り物としてのロボット」は日本アニメーションの発明です。要するに、戦後アニメーションは間違ったロボット観を普及させてしまって、その結果日本人のほとんどが「ロボット」とは何か、そもそも分からない状態になってしまっていると言っていいでしょう。ただこの「乗り物としてのロボット」が20世紀の映像文化やその周辺のサブカルチャーに与えた影響は絶大で、たとえば2013年に公開され話題になった『パシフィック・リム』というハリウッド映画では「乗り物としてのロボット」が出てきますが、これは監督のギレルモ・デル・トロが日本のアニメや特撮に強く影響を受けているからですね。
     本来は人工知能の夢の結晶だったロボットに対して、「乗り物としてのロボット」というまったく別の文脈を与え、奇形的な進化を遂げたのが日本のロボットアニメなんです。今日はその歴史を考えていきたいと思います。
     みなさんは「ロボット工学三原則」を知っていますか? アイザック・アシモフという20世紀のSF作家の『われはロボット』(早川書房、2004年)という有名な小説に出てくる、科学者がロボットを作る上で守るべき三つの原則で、こういう内容です。

    第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
    第二条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
    第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。

     この原則は、人工知能が暴走して人類や社会に害をなしたり事故を起こすことのないように考え出されたものです。科学技術が飛躍的に進歩し、人類がコンピュータを生み出した1950、60年代には「科学の力で疑似生命を生み出すことができるんじゃないか?」という期待が膨れ上がっていました。そういう状況のなかで、SF小説でロボットがテーマとして扱われるようになります。そうなると必然的に「擬似生命を生み出せるというのは、人間が神になるってことじゃないか?」「ロボットが自由意志を持ったとき、本当に社会に有用なものになるのか?」「本当に人間にとって友好的な存在になるのか?」という問いも生まれていくんですね。人工知能の正の可能性、負の可能性の両方を検討するなかでSF小説が発展していったんです。
     ところが、ロボット工学三原則が代表する20世紀的な人工知能の夢というテーマは、少なくとも戦後のロボットアニメというムーブメントの中では主流になることはありませんでした。初の国産アニメーションである『鉄腕アトム』は、人工知能の夢を正面から扱った作品です。そこには、人間が人工知能を生むことによって生命を創りだすことができるのか、つまり「人間は神になることができるのか?」という問いや、ロボットの人権や政治参加といったテーマ、あるいは人工知能が独自の意志で人類に反乱を起こすといったエピソードが頻出します。少なくともその誕生時において、日本のアニメーションは正しく「ロボット」と向き合っていた。しかし、そんな時代はすぐに終わってしまいます。

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    2016-08-04 07:30  

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