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記事 57件
  • あなたの持ちものを欲しがる人に売ることをビジネスとは言わない(前編)|橘宏樹

    2022-05-06 07:00  
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    現役官僚である橘宏樹さんが、「中の人」ならではの視点で日米の行政・社会構造を比較分析していく連載「現役官僚のニューヨーク駐在日記」。今回は、ニューヨークひいてはアメリカ社会で大きな存在感をもつユダヤ系の人々について。市内人口の9%を占め、金融・経済・政治・メディアの重要局面で絶大な影響力を発揮するユダヤ人社会が、現在どのような状況にあるのかをタイプ別に解説します。
    橘宏樹 現役官僚のニューヨーク駐在日記第4回 あなたの持ちものを欲しがる人に売ることをビジネスとは言わない(前編)
    まずは近況:物価上昇・円安のダブルパンチ
     おはようございます。ニューヨークの橘宏樹です。日本の皆様はいかがお過ごしでしょうか。4月中旬現在、ウクライナ侵攻については、長期化するだろうとの見方、5月9日のロシアの対独戦争戦勝記念日までに、めぼしい戦果をあげるべく、ロシアが大規模総攻撃を仕掛けるだろうとの見方が飛び交っている状況です。SNS上のプロパガンダ合戦も激しい状況で、何が正しい情報なのか、この情報は誰のどういう意図で世に出されたものなのか、いちいち判断するのが困難な状況です。 ニューヨークの日常生活は、というと、兎にも角にも物価上昇が激しいです。生活を直撃しています。家賃も電気代も値上がりし、スーパーの野菜や肉までもが1~2週間で1割くらい値上がりしています。原因は、順調な経済成長をベースに、ウクライナ侵攻に起因する原油と小麦の不足、コロナ禍によるサプライチェーン混乱からの品不足が主要因です。飲食店の人手不足は特に深刻で、高騰する賃金がダイレクトに価格に反映され、例えば、つい先週まで13ドルで食べられたラーメンが今日は16ドルになったりしています。(一蘭のような高級ラーメン店ならば、下記のニュースのように、最低でも20ドルします。)
    ラーメン1杯2500円のNY 物価高騰(2022年4月16日 デイリー新潮)
     さらに、円安が厳しい状況です。原因は、短期長期色々とありますが、日本の貿易赤字に加えて、上記のような物価上昇、すなわち市場の貨幣流通量を減らすため、アメリカは金利を上げました。日本は金利を簡単に上げられないところ(上げたら国債の利払いが増える)、市場は当然、より高い利回りの債券に買い替える(日本国債を売って米国債を買う)動きが進みます。僕たちのように日本円で給料をもらっている人々は、物価高と円安のダブルパンチで、本当にへとへとです。今月の給料明細を見たときは、減給処分でも食らったのかとのけぞりました…
    円安が一段と進行、ドル130円に届くか:識者はこうみる(2022年4月12日 ロイター)
     そして、治安が悪化しています。4月11日ブルックリンの地下鉄駅で起きた発砲事件にはニューヨーク中が震撼しました。幸い死者はでなかったものの、16人が負傷しました。犯人が逃走中の間は、電車は止められ駅は封鎖され、まだ捕まらないのか、今どのあたりを逃げているのか、と、オフィス内でみんな逐一ニュースを見守っていました。特に事件が起きた地下鉄駅は「ジャパン・ビレッジ」という非常に大きなスーパーやレストランの入った日系の複合施設の最寄り駅だったので、日本人コミュニティにとっても特別に肝を冷やす事件でした。
    地下鉄駅で発砲事件(2022年4月13日 週刊NY生活)
     というわけで、コロナの蔓延状況はかなり改善してはいるものの(ほとんどの場所でマスク義務も解除。しかし足下では新規感染者数が微増傾向で、これもまた実は気持ち悪い)、庶民のニューヨークライフは非常に厳しい状況です。
    ▲セントラルパークでも桜が満開。
    ユダヤ人は強いのか
     さて、本連載の大テーマは「ニューヨークの力強さの秘密を探る」ですが、今回はユダヤ系の人々の力強さの秘密について少し考えてみたいと思います。投資家のジョージ・ソロス、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ、映画監督のスティーブン・スピルバーグ、facebookあらためMetaのマーク・ザッカーバーグ、メディア王のマイケル・ブルームバーグなど、ユダヤ系の著名な成功者は多いです。
     とりわけニューヨークではユダヤ系の人々の金融・経済・政治・メディアにおける影響力は絶大です。実際、僕の肌感覚としても、こちらでビジネスをしていると、どんな分野であっても、話が進んで重大局面で出てくる、家主や地主、親会社の幹部、大株主などの判断権を持つ人物はユダヤ系であることは確かに多いです。
     そこで今号では、前後半2回にわたって、アメリカのユダヤ人がどのような人々なのかざっくりご説明するとともに、日本とユダヤ人の関係、そして日本がユダヤ人から学べるポイントについて考えてみたいと思います。
     
  • あなたに電動キックボードの声が聞こえるか(後編)|橘宏樹

    2022-04-01 07:00  
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    現役官僚である橘宏樹さんが、「中の人」ならではの視点で日米の行政・社会構造を比較分析していく連載「現役官僚のニューヨーク駐在日記」。先端的なニューヨーカーたちが日常的に使う電動キックボードを、さっそく自らの通勤の足に採り入れた橘さん。そこで得られた気付きから、日本の研究支援やビジネスの現場に持ち帰れるものが何かについて、思考を進めていきます。 (前編はこちら)
    ◯お知らせ 今年度より、コンテンツ再編にともないDaily PLANETSの配信日を毎週月曜日・火曜日・金曜日と変更させていただきます。毎週木曜日更新の無料ウェブマガジン「遅いインターネット」とあわせ、引きつづきPLANETSをよろしくお願いいたします。
    橘宏樹 現役官僚のニューヨーク駐在日記第3回 あなたに電動キックボードの声が聞こえるか(後編)
    日本の科学技術力を底上げする方法について
     日本のテクノロジーと言えば、先日、仕事で、ニューヨークで活躍する日本人の超一流の理系研究者らとお話しする機会がありました。みなさん海外での活躍がだいぶ長い方々でしたが、日本への愛国心は大変強く、母国のテクノロジーやイノベーション力が衰退していることを、とても憂いておられて、どうしたらよいか、興味深い意見をいろいろと聞かせてくれました。
     まず、一同口を揃えて言うには、彼らのような海外一線の研究者らと日本国内の研究者コミュニティーの間は、かなり断絶しているとのことでした。別に喧嘩別れしたわけではなくとも、日本人研究者が所属組織と提携関係のない海外の研究機関等に移籍する際には、「片道切符」になってしまい、結果的には、所属組織と縁を切らされるかたちになってしまうことが多いそうです。すると、日本国内の研究者コミュニティ内での居場所もまた失われてしまうので、彼らの研究成果や最新情報、人脈が国内に還元されていくチャンネルが途絶えてしまうわけです。確かに、これでは、後進に海外で活躍する先輩からの情報が入ってこないわけです。それどころか、組織としても、新しいコネクションを開拓できるチャンスを、みすみす潰してしまうことになっているわけですね。なんと、もったいないことでしょうか……。
     ちなみに、役所では、いろいろと特務や諸事情がある人材については「総務課『付き』」など、無役だけれどなんとなく「籍」(多くの場合物理的な「席」も)を置いておく人事上の技術があって、いろいろと便利に使われています。まわりも、ああいろいろあるんだろうな、と察します。民間でもこういうテクニックはあると思います。なので、研究所でも、形だけ、例えば所長特任補佐、などといった席(籍)を残しておいて、zoomなどで、定期的に近況報告してもらうだけでも、だいぶ違うと思います。
     また、日本人研究者は、欧米の研究者に比べると、概して、ビジネス上のニーズに関するアンテナやセンスが低いことも憂いていました。例えば、特許を取得しても、自ら企業等に売り込みを行わず、世間知らずの自分でも知っているような知名度の高い大企業から声がかかるまで受け身で待つばかりで、良い筋の新興ベンチャーキャピタル等から声をかけられても信用せず、頑なに商談に応じない傾向があるとのことです。一方、米国では博士課程のプログラムの中に、知的財産の扱い方や諸手続き、マーケティングやコンサルタントの役割等について概説する授業があるため、研究者も知財ビジネスのリテラシーを養う機会が確保されているそうです。なるほどなあと思いました。日本の大学でもこうした授業を導入するのは難しいことではないはずですから、すぐにでも広く取り入れられるとよいなと思います。
    黄金期到来 東工大ら率いる「大学発スタートアップ・エコシステム」始動(Forbes JAPAN) - Yahoo!ニュース
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  • あなたに電動キックボードの声が聞こえるか(前編)|橘宏樹

    2022-03-28 07:00  
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    現役官僚である橘宏樹さんが、「中の人」ならではの視点で日米の行政・社会構造を比較分析していく連載「現役官僚のニューヨーク駐在日記」。ロシアのウクライナ侵攻に対するリアクションが街のそこかしこに現れ、有事の空気感が漂う中で、先端的なニューヨーカーたちが日常の足として使う電動キックボードが象徴する、イノベーションに対するメンタリティについて考察します。
    橘宏樹 現役官僚のニューヨーク駐在日記第3回 あなたに電動キックボードの声が聞こえるか(前編)
     おはようございます。ニューヨークの橘宏樹です。世界の報道はウクライナ戦争一色ですね。どうしても、この話から始めざるを得ません。戦況や停戦交渉の行方は目まぐるしく変わり、毎日様々な情報が伝えられます。両軍の死者は増え、一般市民も大勢巻き込まれ、焼け出された難民がどんどん増えています。3月7日のニューヨーク・タイムズの一面には、迫撃から逃げ遅れた親子の遺骸の写真が大きく載りました。  3月11日、米国上院はウクライナへの緊急軍事・人道援助に136億ドルを充てる予算案を可決しました。野党共和党もすんなり支持しました。  ロシアがなぜウクライナ侵攻を行ったか。最も大きな刺激となったのは昨年11月10日の米国−ウクライナ憲章の改訂において、米国がウクライナの領土的・経済的安全を保障することを再度確認したということ、ウクライナのNATO加盟の支持を強めたことなどが理由とされています。ロシア側の視点については、学生時代からの友人であるテレビ東京豊島晋作キャスターのこちらの動画がよく伝えてくれていると思います。
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  • 分断に対抗する選挙制度改革:勝者がルールを決めるのか。ルールが勝者を決めるのか(後編)|橘宏樹

    2022-02-18 07:00  
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    現役官僚である橘宏樹さんが、「中の人」ならではの視点で日米の行政・社会構造を比較分析していく連載「現役官僚のニューヨーク駐在日記」。選挙制度改革について論じる第2回の後編です。近年、採用が進められている「順位選択式投票」。深刻化する社会の「分断」を解決する手段となり得るのか、そして日本人の政治不信解消にはどのような議論が必要なのか考察しました。(前編はこちら)
    橘宏樹 現役官僚のニューヨーク駐在日記第2回 分断に対抗する選挙制度改革:勝者がルールを決めるのか。ルールが勝者を決めるのか(後編)
    民主主義の本質は手続きに宿る:選挙の「5W1H」を見直す
     さて、第1回の後半では、NY市が市政選挙の投票権を外国人移民にも与えたニュースを取り上げつつ、権力闘争のルールそれ自体が、権力闘争の対象となる、アメリカの民主主義というゲームのダイナミックさ、ある種の不安定さについて、議論しました。今回も、もう少しその続きをお話ししたいと思います。
     民主主義とは、選挙による多数決を基本原則として集団の意思を決定する制度です。そして、選挙には5W1Hがあります。①誰が(who)②なぜ(why)③いつ(when)④どこで(where)⑤何に(what)⑥どうやって(how)投票するのか。「神は細部に宿る」と言うように、これら5W1Hを具体的にどうするかが、どのような民主主義を実現したいのかを決定づけます。前回のNY市外国人参政権拡大は、まさしく①誰が(who)が変革された話でした。
     日本の選挙においては、もっぱら、②なぜ(why)と③いつ(when)と⑤何に(what)が議論されますよね。争点はなにか。解散はいつか。どの政党・誰に投票するか。2016年に18歳へ選挙権年齢を引き下げた際には、珍しく①誰が(who)が議論されましたが、⑥どうやって(how)はほとんど議論されたことはありません。
     一方、アメリカでは、大統領等に議会の解散権はなく③いつ(when)は固定されているのであまり議論になりません。その代わり、現在、全米規模で、⑥どうやって(how)が大変革されています。2つの大きなhowの変革をご紹介します。
    一度に5人に投票:「順位選択式投票」とは
     2000年の大統領選挙でブッシュとゴアが歴史的大接戦を演じて以来、全米各地で投票制度の見直しの議論が始まりました。あまりにも真っ二つに分かれている状況で、真に選ばれるべき勝者は誰であるべきなのか。実は、みんなが2番手に選んでいる人の方がふさわしいのではないか。「分断」をなんとかできる、より妥当な方法は何だろうか。と模索が進んできました。
     そこで、採用が進んでいるのが、「順位選択式投票(Ranked-Choice voting:RCV)」です。RCVとは、有権者が上位5名の候補者を選び、1位から5位までの選好順位とともに投票し、全員の1位票を集計するものです。1位票を50%以上得票した候補者が勝利します。1位票を50%以上獲得した候補者がいない場合は、1位票の得票が最も低かった候補者の票を、その候補者に投じられていた2位票の数に応じて、他の候補者に再分配します。このプロセスを、50%以上の票を獲得する候補者が現れるまで繰り返します。
     RCVは、アイルランド大統領選挙、ロンドン市長選挙、オーストラリア下院議員選挙でも採用されており、米国内でも、サンフランシスコ市やオークランド市を先駆にNY市など50か所が導入しています。2021年には、NY市を含む20か所でRCVによる選挙が実施されました。現在も約20州で導入キャンペーンが行われています。
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  • 分断に対抗する選挙制度改革:勝者がルールを決めるのか。ルールが勝者を決めるのか(前編)|橘宏樹

    2022-02-17 07:00  
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    現役官僚である橘宏樹さんが、「中の人」ならではの視点で日米の行政・社会構造を比較分析していく連載「現役官僚のニューヨーク駐在日記」。今回は、コロナ禍での政府の意思決定のあり方について。未曾有のパンデミックを前にどの国でも臨時的な対応が迫られるなか、米国ではそれがある程度許容されているようですが、そこには意思決定プロセスの「透明性」に鍵があるようです。
    橘宏樹 現役官僚のニューヨーク駐在日記第2回 分断に対抗する選挙制度改革:勝者がルールを決めるのか。ルールが勝者を決めるのか(前編)
     おはようございます。橘です。みなさまいかがお過ごしでしょうか。2月上旬のNYの気温は、ちょっと暖かくなったり、吹雪の日もあったりと、寒暖差がちょっと激しいです。
    ▲殉職警官を悼むNYPDの追悼パレード。最近のNYは、銃撃事件が相次ぎ治安の悪化が深刻です。
    銃弾に倒れ殉職の22歳NY警察。「あの日喧嘩をしたまま…」新妻のスピーチに全米が涙(安部かすみ氏 2022年1月30日)
     日本では、新型コロナウイルスの新規感染者数は増加中で、まん延防止等重点措置の適用拡大がなされるなど、厳しい状況と聞いておりますが、NY州では、新規感染者数や陽性率の増加傾向という点では、ピークを過ぎて下り坂です。2月16日時点で、入院者数は、NY州がコロナ行政において最も重要な指標のひとつとしてきたICUの空きベッド率は目安の30%を割り込んで22%となっています。NY州の発表によれば、2月6日までのサンプルにおいて、ワクチンを完全に接種した人のうち、ブレークスルー感染して陽性反応が出た割合は8.6%、入院した人の割合は0.29%とかなり少ないですから、つまり、入院者・死亡者のほとんどが、ワクチン未接種者であると推定されます。
    ▲ニューヨーク州の直近3か月の新規感染者数推移の状況。すっかり山は越えました。(2月15日時点。ニューヨーク・タイムズより)
    (ちなみに、これらの数値はNY州のウェブサイトで公開され日々更新されています。英語が苦手な方も、昨今のブラウザの自動翻訳機能は優秀ですので、ご活用いただきながら、参考までにちょろっとご覧になってみてはいかがでしょう。)
    NY州の新規感染者数・死者数・ワクチン接種者数(NYタイムズ)ブレイクスルー感染者数のデータ(NY州政府)NY州の病床数のデータ
     なので、州・市政府のコロナ政策は、マスク着用義務、ワクチン接種拡大に完全にしぼりこんでいます。NY市のアダムズ新市長も、NY州のホークル知事も、年始に足並みを揃えて、オミクロン対策は、「経済と公衆衛生のバランス」に配慮して行っていく、と述べており、かつてのようなロックダウンは考えていないようです。
     一方、「公衆衛生と自由のバランス」については、揺り戻しが起きています。昨秋から、国全体や州で、公衆衛生を重視しワクチン接種やマスク着用義務を課していく行政命令が出ていましたが、最近は、ワクチンを打たない自由、マスクをしない自由を尊重するべきという司法判断が続いています。例えば、昨年11月にバイデン政権が定めた従業員100人以上の企業に対して従業員に対するワクチン接種義務を課す規則が、1月13日、連邦最高裁が違憲と判断して差し止め命令を出しました。米最高裁、バイデン政権の企業向けワクチン義務化規則を差し止め(2022年01月14日 JETRO)
     NY州でも、州知事が昨年末に出した屋内公共スペースでのマスク着用義務命令について、州最高裁が、知事の命令だけではダメで、州議会の承認が必要であり、違法だと判断しました。米NY州のマスク着用義務化に違法判決、州最高裁が判断(2022年1月24日 ロイター)
     このように、行政・立法・司法の三権がひっきりなしに係わり合って、短期間に判断を二転三転させながら試行錯誤を重ねていく模様は、以前『現役官僚の滞英日記』でも触れた、無戦略を可能にする5つの「戦術」の4つ目「トライ・アンド・エラー」を彷彿とさせます。米英共通のアングロサクソン流ということなのでしょう。「無戦略」を可能にする5つの「戦術」~イギリスの強さの正体~(ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.381 橘宏樹『現役官僚の滞英日記』第11回)


    ▲2021年11月に2年ぶりに開催された、全米最大規模のコミケイベント「アニメNYC」の様子。コスプレは『鬼滅の刃』と『イカゲーム』が圧倒的な人気。
    社会の許容度を支える2つの「透明性」
     判断が右に左に振れ続ければ、日本では、そのこと自体について、朝令暮改だとか、一貫性がないとか、批判しがちです。そして釈然とせずブツブツ文句を言いながら、指示には一応従いつつ、そのうちに「喉元過ぎれば熱さを忘れ」ていくことを繰り返していく、というパターンが多く見られる気がします。一方で、アメリカ社会は、判断が右に左に振れ続ける不安定さに対して、かなり許容度が高い気がします。ことコロナだからしょうがないという諦めも大きいとは思いますが、僕は、少なくとも2つの意味での透明性が社会の許容度を支えているように思います。
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  • 【新連載】現役官僚のニューヨーク駐在日記 ニューヨークはなぜ力強いのか|橘宏樹

    2022-01-19 07:00  
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    今月から、現役官僚である橘宏樹さんによる新連載「現役官僚のニューヨーク駐在日記」が始まります。これまでPLANETSでは「現役官僚の滞英日記」や「GQ(Governement Curation)」の連載を通して、「中の人」ならではの視点から政界の裏側や政治と生活との結びつきを紹介してくれた橘さん。本連載では、ニューヨークへの赴任から1年を経たタイミングで、橘さんが改めて感じたアメリカの政治風土を日本の読者向けに紹介していきます。第1回は連載全体の見通しと、外国人参政権が可決されたことに対する橘さんならではの見解について。
    橘宏樹 現役官僚のニューヨーク駐在日記第1回 ニューヨークはなぜ力強いのか
     ご無沙汰しております。橘宏樹です。国家公務員をしています。ニューヨークに赴任して1年が経ちました。マンハッタンの、とあるオフィスで働いています。
     僕は以前、イギリスに留学していた2014~16年の2年間、PLANETSで「現役官僚の滞英日記」を連載させてもらいました。イギリスの老獪さの秘密を解き明かすことを目標に、毎月、半ば途方に暮れながらも掴んだものを書き綴り、書籍化もしてもらいました。その後もニューヨークに来る直前の2020年9月まで約3年間、「GQ(Governement Curation)」という、あまり報道されないけれど非常に重要な行政の動きを解説する連載をさせてもらっていました。  そして今回のニューヨーク赴任にあたって、せっかくだから、また何か書かないかと宇野編集長からお声がけいただきました。一応、1年間働いて仕事のペースもつかめてきたところで、任期もまだあと2年はありそうですし、連載を始めることにしました。
    ▲着陸寸前の飛行機の窓から臨むニューヨーク。セントラル・パークが見えます。
     ニューヨークは、言うまでもなく世界最大の経済・文化の中心都市のひとつです。日本からの観光客も多く、たくさんの日本語の報道やコラムで取り上げられている街だと思います。なので、本連載では、「現役官僚の滞英日記」や「GQ」と同様、なるべくそうした記事とは、角度の異なる内容を書いていければと考えています。時事的なトピックを扱う際も、事実の紹介を踏み越えて、なるべく本質的で普遍的な何かに対する洞察に努めたいですし、なにより、この地で、日本人や日本社会にとって真に学ぶべき何かを掴みたいと考えています。なので、現地で暮らすがゆえに得られる肌感覚を重視した記述が主になると思いますから、自然、語尾は「感じる」「思う」といった主観的な表現が多くなるかもしれません(ちなみに、仕事のことは一切書きません)。
     さて、目下のニューヨークでは、オミクロン株が猛威を振るっており、一日当たりの新規感染者数は史上最高値を更新中です。しかし、ワクチン接種者の重症化事例はかなり少ないので、行政は昨冬のようなロックダウンは考えていないようです。街も大勢の人出があります。  冬のマンハッタンは、クリスマスのイルミネーションがとても美しかったです。ライトアップされた5番街、クライスラービル、エンパイヤ・ステートビル、ロックフェラーセンターなどをみんながインスタグラムにアップしています。ハイセンスできらびやかです。
     しかし、その足下では、マンホールから立ち上る蒸気のなかを、ボロボロな黒ずくめの服装で無灯火の電動自転車にまたがるUber EatsやAmazonの配達員が、猛スピードで逆走しています。銀行のATMにホームレスが泊まり込み、超巨大トレーラーが狭い路地を横切り、渋滞にいらだつドライバーたちのクラクションは鳴りやみません。地下鉄も落書きやゴミがそこら中に目につき、古くて汚くてあんまり乗る気になりません。都市インフラの老朽化はかなりひどいと思います。映画『ジョーカー』で描かれた「ゴッサムシティ」そのもの。世紀末的な格差社会が広がっています。
     どこから何を学び、どう切り出して、何をみなさんにお伝えしようか、にわかに戸惑うほど、ネタの宝庫です。
    ▲様々な様式の建築が立ち並ぶ。エンパイア・ステートビルはクリスマス仕様。
    ▲銀行のATMで寝泊まりする人々
    ニューヨークの「力強さ」の秘密を解き明かしたい
     ニューヨークは、政治も行政も経済も文化も、本当に面白いです。ブロードウェイのミュージカルのように、すべてがエンタメなんじゃないかとすら思えるほどに、飽きさせない魅力があります。そして、ニューヨークは、その魅力によってあらゆる人々を惹きつけ、全米のみならず全世界の中心都市のひとつであり続けています。
     この度のパンデミックにおいて、ニューヨークは毎日大勢の死者を出す世界最悪の状況を経験しましたが、比較的短期間で不死鳥のごとく復活しました。この1年間、僕が当地で目の当たりにした経済や社会の回復には、胸をすくような、ダイナミックな「力強さ」がありました。なぜニューヨークにはこのような回復が可能だったのでしょうか。ワクチン接種の急速拡大政策などを展開したクオモ前知事の強力なリーダーシップが大きかった、などと、プロセスを評価・分析することは可能なのですが、僕の関心は、むしろ、ニューヨークは、なぜクオモ氏を知事に選出できるのか、なぜ彼を活かせるのか、といった、もっと根本的な、もっと茫漠とした何かにあります(もちろん、ご承知のとおり、クオモ前知事はセクハラスキャンダル等で訴追された、毀誉褒貶のある人物ではあります)。
     そこで、今回の連載では、ニューヨークのそんな「力強さ」の秘密を解明することをテーマにしていきたいと思っています。
     現時点でおぼろげに抱いている仮説としては、この「力強さ」は、なんというか、ニューヨークでは、問題を解決することに対する苛烈なほどの執着心が、個人や組織や社会に徹底的に沁みついているような印象があることと、関係がある気がしています。
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  • 橘宏樹 GQーーGovernment Curation 第13回 国債 ~国債は誰のものか。グラフの「註」を読み解く~

    2020-01-21 07:00  
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    現役官僚の橘宏樹さんが「官報」から政府の活動を読み取る連載、『GQーーGovernment Curation』。今回のテーマは「国債」です。国家予算の約3割を占める国債ですが、近年は海外投資家の保有比率が増えています。現在の国債価格は、マイナス金利政策の影響で上昇傾向にありますが、この保有比率の変化は、景気回復後の日本経済のファンダメンタルズに、大きな変化をもたらすことになるかもしれません。
    (写真出典 Alice Pasqual on Unsplash)
    こんにちは。橘宏樹です。国家公務員をしております。このGovernment Curation(略してGQ)は、霞が関で働く国民のひとりとして、国家経営上本当は重要なはずなのに、マスメディアやネットでは埋もれがちな情報を「官報」から選んで取り上げていくという連載です。どんな省益も特定利益にも与さず、また玄人っぽくニッチな話を取り上げるわけでもなく、主権者である僕たちの間で一緒に考えたいことやその理由を、ピンポイントで指摘するという姿勢で書いて参ります。より詳しい連載のポリシーについては、第一回にしたためました。
    【新連載】橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第1回「官報」から世の中を考えてみよう/EBPMについて
     そして、今更ですが、新年あけましておめでとうございます。本年もGQをよろしくお願いいたします。2017年12月が第1回で、その後拙著の刊行記念エッセイ全5回の連載を挟みつつではありますが、早いものでGQも3年目に突入です。これまでの12回を振り返ってみると、①EBPM、②水道法、③農業、④教育、⑤通商、⑥金融、⑦社会保障、⑧会計検査、⑨入国管理、⑩公務員人事、⑪SDGs、⑫防衛と、一応、各行政分野に万遍なく触れて来れた感じなのかなと思います。
     また、当初は毎月の連載を目指していたのですが、昨年は業務の方が色々と詰まってしまいまして、だいたい2か月に1度くらいの投稿になってしまいました。書きたいことはたくさんあるのですが、体力、気力、時間といった条件を揃えるのがなかなか難しかったです。しかし、昨年末の人事異動で環境は改善したと思いますから、また気持ちも新たに令和の官報を解説していきたいと思います。
     さて、まずは昨年11月、12月を振り返りますと、最後まで大きな出来事が目白押しでしたね。天皇即位のパレードや祝賀行事、東京オリンピックのマラソンの札幌開催決定、「桜を見る会」問題の紛糾(本当に立場上コメントが難しいです...)、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の失効回避、沢尻エリカ被告の覚せい剤所持、中曽根元首相の死去、ペシャワール会中村哲医師の死去、IRをめぐる収賄容疑、カルロス・ゴーン氏の逃亡などなど。海外では、アメリカとイランの緊張が高まり、両国のシビれる判断から戦争が一旦回避されたり、英下院総選挙の保守党勝利を受け今月末のEU離脱が確定したり、相変わらず激動の日々です。
    ビジネスの「プロデュース」を考えるセミナーのご案内です。無料です。好奇心だけで結構ですので、ぜひ聞きにいらしてください。
     そんななか、いつものように、スポットの当たっていない重要な官報はないかなと検索しておりました。で、当初は、2019年11月の「農産物輸出促進法」の成立について取り上げようかなと、思いました。以前本稿でも取り上げたEUとのFTAとも非常に深く関連します。
    橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第5回 通商 逆襲の自由貿易~日欧EPA~
     EU等が求める、産地がどこかを証明したり、放射性物質の検査をクリアしていることを証明したりする「輸出証明書」を都道府県等が発行できるようにすることがポイントの一つですが、輸出証明書の発行の単位と、ブランド戦略の単位は、必ずしも同じではないのではないか、ということを論じようかと思ったのです。愛媛県産のミカンには愛媛県が、和歌山県産のミカンには和歌山県が、輸出証明書を発行するわけですが、大量注文に対応できるようにロットを確保するべく、小っちゃな産地でくくらないで「ジャパン・オレンジ」で売り出さないといけないのではないか、と。このことは以下の機会に「ミカンはワインに学ぶとよいのではないか。」という見出しで論じたことではあります。
    橘宏樹「父性のユートピア」をあきらめない(『現役官僚の滞英日記』刊行記念エッセイ第三部・最終回)
     しかし、年末、通常業務のなかで、とある統計の最新値を目にして、ちょっと驚いたことがありました。国債に関する、とある数値が、僕が記憶していた「大体この程度の数字だろう」という値よりも少し大きくなっていたのです。何かが直ちにどうである、というようなことは言えないのですが、なんというか、「地味にゾッとする」ものを感じたのです。とはいえ、国債という分野は、専門性も高く、議論百出で、ある種の機微にも触れるトピックですから、この感覚をお伝えするには言葉選びもなかなか慎重にしなくてはなりません。なので、GQで取り扱うのを一瞬、躊躇ったのですが、この「地味にゾっとした感触」を共有することこそがGQの本来の使命であろうとも思い直しまして、やはり今号で取り上げることにしました。折しも1月は通常国会が開催され令和2年度予算が審議されますから、GQ1月号としてもふさわしいと思われます。以下、そういう意味で、挑戦となります。
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  • 橘宏樹 GQーーGovernment Curation 第12回 韓国格下げが本質ではない~令和元年度「防衛白書」を読み解く~

    2019-10-31 07:00  
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    現役官僚の橘宏樹さんが「官報」から政府の活動を読み取る連載、『GQーーGovernment Curation』。今回は、令和元年版の防衛白書を読み解きます。日韓関係が冷え込む中、外交・防衛戦略上の韓国の重要度も格下げされたかに見える今回の白書ですが、その背景には、ASEANを中心にインド洋・太平洋を結ぶ巨大なビジョンが構想されているようです。
    (写真出典 陸上自衛隊HPより)
     こんにちは。橘宏樹です。国家公務員をしております。このGovernment Curation(略してGQ)は、霞が関で働く国民のひとりとして、国家経営上本当は重要なはずなのに、マスメディアやネットでは埋もれがちな情報を「官報」から選んで取り上げていくという連載です。どんな省益も特定利益にも与さず、また玄人っぽくニッチな話を取り上げるわけでもなく、主権者である僕たちの間で一緒に考えたいことやその理由を、ピンポイントで指摘するという姿勢で書いて参ります。より詳しい連載のポリシーについては、第一回にしたためさせていただきました。
    【新連載】橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第1回「官報」から世の中を考えてみよう/EBPMについて
     まず、台風15号及び19号並びに間断ない豪雨によって被害を受けられた皆さまに謹んでお見舞い申し上げます。一日も早い復旧を心よりお祈り申し上げます。また、豚コレラの猛威もなかなか収まらないのも心配です。他方で、ラグビーW杯での日本代表の躍進には大変に目覚しいものがありましたですよね。海外にルーツを持つ日本代表選手が躍動する姿は多くの日本人の目には新鮮に映ったことと思います。ちなみに僕は小さい頃からサッカーのラモス瑠偉選手が大好きだったこともあり、ソフトパワーとしてのサムライ魂がむしろ世界中に浸透していっている証拠を見たようにも感じていました。
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     永田町・霞ヶ関にも大きな動きがありました。財務省は、2020年度一般会計予算の概算要求総額が104兆9998億円で過去最大になったと発表しました。高齢化による社会保障費の膨張などが主な原因です。僕の印象では、あまり大きく報道されなかった感がありますが、いかがでしょうか。そして、消費税率が8%から10%へと増えました。さらには第4次安倍第2次改造内閣の組閣。初入閣は13人にのぼり、各省の事務方も心機一転しています。小泉進次郎氏の環境相入りが特に注目を集め、就任後の各種発言ではこれまでにない困難に直面しています。そして、即位の礼です。休日となったこともあって、儀式の生中継に張り付いてい方々も多かったのではないでしょうか。分断や格差の時代、国民の統合の象徴としてのお役目は一層重くなっていくんだろうと思います。個人的には、テレビの前で、息をこらして紫色の幕が開くのを待ちながら、元号を定め、休日を設ける、「時」という至上のプラットフォームを左右する力は、大きいなあ、と感じたりしていました。ギリシャ神話でも、最高神ゼウスの枕詞(まくらことば)には「時の神クロノスの御子たるゼウス」と付されますね。ちなみに、枕詞と言えば、本稿にも大事にしている枕詞があります。「我が国の主権者たる国民」である僕たちという言い回しです。あくまでも国家経営の当事者である主権者が判断を行う上で大事な情報を届けるという点で、本稿はこの枕詞は強く意識しており、これからも繰り返し使っていきます。
     さて、今号では、激動の9、10月を振り返るなかで、敢えて、「防衛」を扱いたいと思います。具体的には、2019年9月27日「令和元年版 防衛白書の閣議了承」を取り上げます。というのも、防衛白書とは、「わが国防衛の現状と課題及びその取組について広く内外への周知を図り、その理解を得ることを目的として毎年刊行」されるものですが、今年度版では、防衛協力国の紹介順において従来2番目だった韓国が4番目に移動していることについて、昨今の日韓関係の悪化と結びつけることだけで済ませてしまう報道が多過ぎると感じたからです。
    韓国の重要度を引き下げ 安保協力で 令和元年版防衛白書(産経新聞 2019年9月27日)韓国の紹介順2→4番目に「降格」 防衛白書を閣議了承(朝日新聞 2019年9月27日)韓国との関係悪化を反映=防衛白書(時事ドットコム ニュース 2019年09月27日) (なお、日経のこの記事は僕が以下で書く内容に近いことにも触れています。)安保協力、距離感に変化 防衛白書 韓国後退、インドが浮上(日本経済新聞 2019年9月28日)
     確かに、昨今の日韓関係の悪化は由々しいです。また、白書は、毎年出す書類なので、時事的な配慮をにじませたりと、細やかなメッセージの出し入れが行われたりします。しかし、日本国の主権者たる国民が、今年度版の防衛白書から読み取るべきメッセージは、「日韓関係の悪化が防衛白書にも反映された」という次元にとどまらない、もっと全然違うことだと僕は思います。踏み込んで言ってしまえば、日韓関係が良好であっても、今回、韓国の紹介順が下がっていた可能性はかなり高いのではないか、と思われます。
     というのも、現在、とある巨大な、しかも、実は比較的長い経緯を有する構想に基づいて、日本の安全保障観のシフトが着々と進められています。外交上のスローガンにとどまらず、実体的な安全保障の次元にもその構想が反映されてきています。僕は、国民はこの構想の存在感を令和元年度防衛白書において確認することこそが重要だと思いました。  ではその安全保障観のシフトとは何でしょうか。以下、みなさんと一緒に情報をたぐってみたいと思います。  
    河野大臣の記者会見をよく聞く
     まず、日韓関係と2位→4位の関係についてですが、河野防衛大臣は、白書発表時の記者会見で、
    Q:韓国について伺います。本来友好的な書きぶりをするべき安全保障協力の章の中で、韓国については、昨年の国際観艦式での問題、レーダー照射問題、今年のGSOMIAの破棄など具体例を挙げた上で、韓国側の否定的な対応が防衛協力や防衛交流に影響を及ぼしている、と批判的・否定的な書きぶり(防衛白書366頁)になっています。このような書きぶりになった意図を教えてください。
    という質問に対し、
    A:事実を列挙しているということです。
    と回答しています。
    Q:防衛協力を進める国を紹介するコーナーにおいて、韓国を記載する順番が昨年2番だったのが、今年は4番になりました。その理由を教えてください。
    という問いに対しては、
    A:防衛大綱の順番に並べたということです。
    と回答しています。
     つまり、防衛白書の本文中では韓国をしっかり批判していても、それが安全保障パートナー国の紹介順を2番から4番に格下げした理由であるとまでは述べていません。理由は「防衛大綱の順番に並べたということ」であると述べています。なるほど。そうですか。では、防衛大綱を見てみましょう。
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  • 橘宏樹 GQーーGovernment Curation 第11回 SDGsのわかり方

    2019-08-21 07:00  
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    現役官僚の橘宏樹さんが「官報」から政府の活動を読み取る連載、『GQーーGovernment Curation』。今回は、最近メディアで目にすることが増えてきた「SDGs」がテーマです。日本では既に進めてきた取り組みと重複することもあり、特に反論もなく国を挙げて推進する構えですが、欧米ではその背景に複雑な政治的動きがあるようです。
     こんにちは。橘宏樹です。国家公務員をしております。このGovernment Curation(略してGQ)は、霞が関で働く国民のひとりとして、国家経営上本当は重要なはずなのに、マスメディアやネットでは埋もれがちな情報を「官報」から選んで取り上げていくという連載です。どんな省益も特定利益にも与さず、また玄人っぽくニッチな話を取り上げるわけでもなく、主権者である僕たちの間で一緒に考えたいことやその理由を、ピンポイントで指摘するという姿勢で書いて参ります。より詳しい連載のポリシーについては、第一回にしたためさせていただきました。
    【新連載】橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第1回「官報」から世の中を考えてみよう/EBPMについて
     またもやちょっと間が空いてしまいました。前回6月号以来、G20の大阪開催、韓国に対する輸出管理施策、参議院議員選挙(PLANETSファミリーの音喜多駿氏も当選おめでとうございました!)、ジャニー喜多川氏の逝去、京都アニメーションの放火事件、吉本興業の闇営業をめぐる一連の騒動、小泉進次郎議員と滝川クリステル氏の結婚、香港での空港封鎖デモなどの話題がメディアを席捲していました。
    ▲今週末の8月24日(土)PLANETS連載「中東で一番有名な日本人」でもおなじみ鷹鳥屋明氏をお呼びしたイベントをします!(詳細)学生は無料。PLANETS CLUBの皆様は割引があります!(詳細はfacebookグループの掲示板ご参照のこと。)好奇心だけで結構ですので、ぜひ聞きにいらしてください。
     さて、今回は、ずばりSDGsを取り上げたいと思います。本年6月21日、持続可能な開発目標(SDGs)推進本部会合(第7回)が開催され、「拡大版SDGsアクションプラン2019」が決定されました。SDGsという単語はかなり日本社会でも浸透が進んだ印象があります。サステナブル・デベロップメント・ゴールズ。持続可能な開発目標。貧困撲滅とか環境保護とか男女平等とか、明らかに良いことがんがん進めていこうっていう世界的な運動でしょ?くらいの認識は共有されているのではないでしょうか。PLANETSファミリーのたかまつななさんも普及運動を推し進めておられますしね。レインボーカラーの輪っかのSDGsバッジをつけてる人は都内に限らず地方でも結構見かけます。
     このままだと、地球と人類が滅びてしまいかねない、誰一人幸せから取り残さないために、全地球的にチカラを合わせて達成していかないといけないことがあるよね、というこの運動。解説ページは既にたくさんあります。僕はこちらのサイトなどがわかりやすいかなと思います。
    イマココラボ SDGs総研 国連広報センター
     そして、日本は今年、SDGsイヤーです。6月の大阪G20のテーマもSDGs。8月末の横浜でのアフリカ開発会議(TICAD)も当然SDGsがメイントピックになります。9月の国連サミット(HLPF:ハイレベル政治フォーラム)では、SDGsの進捗状況を首脳級が初めてフォローアップします。ちなみに、国内のリーダーシップは内閣直下に設けられた推進本部が担っており、国連マターなので、とりまとめは外務省が担当しています。(外務大臣は推進本部の副部長)
     では、日本政府がSDGsのために具体的に何してるのか、という話になると、どうでしょうか。どのくらいの解像度で理解されているでしょうか。各省のHPで資料はたくさん出ています。ちょっとぐぐるだけでも、色々なキャンペーンや情報てんこ盛りPDFがたくさん出てきますね。最も根っこの資料となる「アクションプラン」も2018、2019とあるなあ、どこが違うんだろう、そんでもって、拡大版ってなんなんだよ、って感じじゃないでしょうか。(個人的には、同じ資料にどうしてもSociety5.0の話も混ざってくることが多いので、なんというか読んでいてキャパオーバーてしまいます…。)
     本稿では、そんなSDGsと日本行政について、こうした資料の解説はしません。そのかわり、よそであまり書かれないけれど、主権者としての我々が知っておくべきではないかと僕が思う「SDGsのわかり方」について書きたいと思います。それは、SDGsとは、①行政そのものであること。②EBPMであること。③キャンペーンであること。の3つです。
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  • 橘宏樹 GQーーGovernment Curation 第10回 公務員の兼業促進と官民リベラル・エリート・ネットワークの思惑

    2019-06-13 07:00  
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    現役官僚の橘宏樹さんが「官報」から政府の活動を読み取る連載、『GQーーGovernment Curation』。久しぶりの連載再開となる今回は、3月に通達された公務員の兼業・副業解禁について取り上げます。この動きの背景には、この20年の間に発達した官民の協働体制、民間の公益団体や社会事業家の献身的な活動がありました。

     こんにちは。橘宏樹です。国家公務員をしております。このGovernment Curation(略してGQ)は、霞が関で働く国民のひとりとして、国家経営上本当は重要なはずなのに、マスメディアやネットでは埋もれがちな情報を「官報」から選んで取り上げていくという連載です。どんな省益も特定利益にも与さず、また玄人っぽくニッチな話を取り上げるわけでもなく、主権者である僕たちの間で一緒に考えたいことやその理由を、ピンポイントで指摘するという姿勢で書いて参ります。より詳しい連載のポリシーについては、第一回にしたためさせていただきました。
    【新連載】橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第1回「官報」から世の中を考えてみよう/EBPMについて
     前回が2018年12月号でちょうど半年ほどお休みをいただいておりました。かなり忙しい部署に異動してしまったこともあり、体力と時間を確保するのがなかなか難しく、すみませんでした。元号も令和に改まりましたし、心機一転、頑張っていきたいと思いますので、またどうぞよろしくお願いいたします。
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     さて、今回は、本年3月に内閣人事局が各省に通知した公務員の兼業・副業「解禁」について取り上げたいと思います。きっと皆様の中には、「これは公務員の働き方改革の話であって、一般社会、国民全体にとって直接は関係ない話だ」とお感じになる方もおられるかもしれません。しかし僕は、今回の公務員の兼業促進は、公務員個人や組織の生産性やライフワークバランスを改善する働き方改革の文脈よりもむしろ「小さな政府」を準備するための政策のひとつとしても捉えられるのではないかと思っています。 そしてその経緯や展開は、行政が担えなくなった公共領域を巡って、この約20年間、政府の表舞台・裏舞台で躍動してきた官民にまたがるリベラル・エリートたちの共闘ドラマの一幕として見てみても面白いのではないか、と思います。
    「解禁」というよりは、基準の明確化
     まず、公務員の兼業・副業について、何がどうなったか。多くの方がご存知と思いますが、国家公務員には国家公務員法第104条等が規定するとおり、兼業・副業への制限があります。
    国家公務員法第104条(他の事業又は事務の関与制限) 「職員が報酬を得て、営利企業以外の事業の団体の役員、顧問若しくは評議員の職を兼ね、その他いかなる事業に従事し、若しくは事務を行うにも、内閣総理大臣及びその職員の所轄庁の長の許可を要する。」
     素直に読むと、許可を得たなら兼業やってよさそうですよね。実際、昭和41年にもやってよい兼業の範囲に関する通知は出ていたのですが、相続した不動産の賃貸収入、原稿料、講演料といった、限られたケースの収入しか念頭に置かれていませんでした。それ以外の「報酬あり」かつ「定期的な労働」による兼業・副業は、どういう場合ならば許されるのか、これまで示されてきませんでした。
     それが今回、非営利団体において、週8時間、月30時間を超えない範囲で、報酬(交通費等実費のほかにもらう分)も社会通念上相当と認められる額であれば貰ってよい、などというように、やってよい範囲の基準が示されました。もちろん、社会通念上相当の額っていくらだよ?というツッコミはあると思いますけど、業務内容や景気やご時勢によって変るので、まずはこう言っとくしかないんじゃないかな、と思います。
    国家公務員のNPO兼業後押し 政府、許可基準を明確化 共同通信(2019年3月27日)
    国家公務員の兼業について(概要)内閣官房内閣人事局(2019年3月)
    内閣官房内閣人事局通知第225号 「職員の兼業の許可について」に定める許可基準に関する事項について(通知)(2019年3月28日付)
     いずれにせよ、NPO活動であれば「報酬」ももらってよい、という基準が示されたのは「職務専念義務=副業・兼業禁止=副収入一切ゼロ」が当然だと思われていた公務員業界において、非常に画期的だと思います。
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