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  • 複数の世代感覚を媒介することに成功した『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(『石岡良治の現代アニメ史講義』10年代、深夜アニメ表現の広がり(5))【毎月第4木曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.695 ☆

    2016-09-22 07:00  
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    複数の世代感覚を媒介することに成功した『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(『石岡良治の現代アニメ史講義』10年代、深夜アニメ表現の広がり(5))【毎月第4木曜配信】
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.9.22 vol.695
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    今朝のメルマガは『石岡良治の現代アニメ史講義』をお届けします。今回は富山のアニメ制作スタジオP.A.WORKSの諸作品に注目しつつ、2011年を代表するヒット作となった『あの花』へと至る「深夜アニメ的表現」の系譜を考えます。
    ▼プロフィール
    石岡良治(いしおか・よしはる)
    1972年東京生まれ。批評家・表象文化論(芸術理論・視覚文化)・ポピュラー文化研究。東京大学大学院総合文化研究科(表象文化論)博士後期課程単位取得満期退学。青山学院大学ほかで非常勤講師。PLANETSチャンネルにて「石岡良治の最強☆自宅警備塾」を放送中。著書に『視覚文化「超」講義』(フィルムアート社)、『「超」批評 視覚文化×マンガ』(青土社)など。
    『石岡良治の現代アニメ史講義』これまでの連載はこちらのリンクから。

    前回:『月刊少女野崎くん』に現れた深夜アニメ表現の現代的射程(『石岡良治の現代アニメ史講義』10年代、深夜アニメ表現の広がり(4))

    ■P.A.WORKSの諸作品と『SHIROBAKO』の達成
     前回は動画工房について語りましたが、この連載では京アニとシャフトに関しては、独立した項目を設けていました。もうひとつ、独立した項目を設けていませんが、ここ十年の比較的重要なスタジオとして、富山県南砺市城端に本社を置く、P.A.WORKS(ピーエーワークス)が挙げられると思います。
     元請け第一作の『true tears』(2008年)は、今から振り返ると『心が叫びたがってるんだ。』(以下『ここさけ』)のプロトタイプと言えるアニメで、一応は同名のゲームを原案としていますが、今ではほぼアニメの印象のみが顕著な作品です。P.A.WORKSは富山県に限らず、北陸を舞台にした聖地アニメを多数制作しています。たとえば近作では、黒部ダム近辺を舞台に展開される『クロムクロ』(2016年)というロボットアニメがありますね。あくまでも地元をコンスタントに舞台にし続ける、そういうスタジオです。
     アニメ聖地巡礼的な文脈でいうと、『花咲くいろは』(2011年)が旅館ものとしての重要作で、作中では架空の祭りとして設定されていた「ぼんぼり祭り」が、金沢湯涌温泉でアニメをきっかけに「湯涌ぼんぼり祭り」として実際に誕生し、今でもイベントが行われています(2016年に第6回を開催)。このように、比較的長期的なスパンで地域に根差すような聖地巡礼アニメを作っています。
     P.A.WORKS制作で規模的にヒットしたものは、北陸アニメだけではないですね。具体的にいうと『Angel Beats!』が挙げられます。学園のモデルは金沢大学なので、聖地アニメ性がないわけではないのですが、『Kanon』や『Air』で知られるノベルゲームブランドKeyの麻枝准が原作シナリオを担当しており、特に終盤においてある種のバッドテイスト性を伴いつつも大ヒットしました。2015年の『Charlotte』も麻枝准シナリオのアニメで、こちらの主要な舞台は東京都国立市です。麻枝准原作のこの二作については色々と興味深いのですが、考察は別の機会にできればと考えています。
     むしろここで考えてみたいP.A.WORKS作品は、『ガールズ&パンツァー』(以下『ガルパン』)の水島努監督が手掛けた『SHIROBAKO』(2014-15年)という「アニメ制作もの」のアニメです。こちらは、武蔵野アニメーションという架空の制作会社を舞台にしており、JR中央線の武蔵境駅近辺がモデルになっています。この舞台設定は、中央線沿線に数多くのアニメスタジオが存在している状況を反映したものといえるでしょう。
     『SHIROBAKO』の概要について簡単にいうと、アニメの制作、声優、アニメーター、それとCGグラフィッカーといった仕事に同じ高校出身の女性たちが就いているという設定で、「高校の同級生がみんな業界で活躍する」というファンタジー要素を軸に、しかし仕事の現場についてはリアル寄りに描いたアニメです。実際の苛酷さを知っている人からみるとアニメ業界を美化していると言われることも多いです(ショートアニメ『ハッカドール THE あにめ〜しょん』の第7話「KUROBAKO」が、タイトルの時点ですでにアニメ業界の「ブラック企業」的暗部をパロディにしています)が、それでも割とシビアな側面や新旧世代の対立などを丁寧に拾っているアニメです。

    ▲『SHIROBAKO』(出典:公式サイトより)
     『SHIROBAKO』で個人的に興味深いと思ったのは後半のモチーフです。武蔵野アニメーションは前半と後半では異なるアニメを制作しているんですが、前半がアクションアニメ(『えくそだすっ!』というタイトルでアメリカンニューシネマ風のシナリオが展開されます)なのに対して、後半は萌えミリタリーものを題材にしているからです。『第三飛行少女隊』という架空の萌えミリタリーアニメは、空軍という題材的に明らかに『ストライクウィッチーズ』(2008年)(略称『ストパン』の由来はある意味ひどいのですが)がモデルだと思われますが、もちろん実際には水島努監督自身が『ガルパン』で得た経験を元にしているわけです。

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  • 『月刊少女野崎くん』に現れた深夜アニメ表現の現代的射程(『石岡良治の現代アニメ史講義』10年代、深夜アニメ表現の広がり(4))【毎月第4木曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.675 ☆

    2016-08-25 07:00  
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    『月刊少女野崎くん』に現れた深夜アニメ表現の現代的射程(『石岡良治の現代アニメ史講義』10年代、深夜アニメ表現の広がり(4))【毎月第4木曜配信】
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.8.25 vol.675
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    今朝のメルマガは『石岡良治の現代アニメ史講義』をお届けします。2010年代に入って「難民アニメ」を数多く手掛け、男性視聴者を中心に支持を拡大したスタジオ「動画工房」。今回は、動画工房アニメのなかでも例外的に男女双方からの支持を獲得し、最大のヒット作となった『月刊少女野崎くん』の現代性を考察します。
    ▼プロフィール
    石岡良治(いしおか・よしはる)
    1972年東京生まれ。批評家・表象文化論(芸術理論・視覚文化)・ポピュラー文化研究。東京大学大学院総合文化研究科(表象文化論)博士後期課程単位取得満期退学。青山学院大学ほかで非常勤講師。PLANETSチャンネルにて「石岡良治の最強☆自宅警備塾」を放送中。著書に『視覚文化「超」講義』(フィルムアート社)、『「超」批評 視覚文化×マンガ』(青土社)など。
    『石岡良治の現代アニメ史講義』これまでの連載はこちらのリンクから。

    前回:「難民アニメ」から見えてくるコミュニケーション型消費の現在(『石岡良治の現代アニメ史講義』10年代、深夜アニメ表現の広がり(3))

    ■ポスト京アニ的な身ぶり表現を展開するスタジオ「動画工房」
     ゼロ年代以降の深夜アニメにおいて制作スタジオの「シャフト」「京アニ」が象徴的存在となったことは広く知られており、この『現代アニメ史講義』でも独立して扱いましたが、2010年代に入り存在感を見せているスタジオに動画工房があります。動画工房は前回扱った「難民アニメ」すなわち「きらら系」原作ものを得意としており、近作では『三者三葉』や『NEW GAME!』がそのカテゴリーに当てはまります。実際には様々なタイプのアニメの元請をしていますが、現在アニメファンが「動画工房的」と聞いて思い浮かべる作風は、『ゆるゆり』(2011年)以降のものになり、監督としては太田雅彦や藤原佳幸を挙げることができます。
     動画工房の作風について、明確な特徴を挙げることは難しいのですが、京アニが得意としているキャラクターの身ぶり・しぐさの作画を、「きらら系」のデフォルメされたデザインに乗せつつ洗練させている、と言えば良いかもしれません。『未確認で進行形』(2014年)や『NEW GAME!』(2016年)のOP動画を見るとある程度明らかだと思います。京アニの『けいおん!』(2009年)は原作絵のデザインを変えることで、やや寸胴にすら見えかねない体型のキャラたちのしぐさを半ばリアル寄りに描いていましたが、動画工房の場合は、特にきらら系原作アニメでは、キャラクターデザインを原作絵に近付けつつ、ポスト京アニ的な身ぶり表現を手堅く展開しています。
     このような作風のアニメは、現在ではもっぱら男性向けとみなされる傾向があります。だいたい二昔前ぐらいまでは、男性キャラ中心の作品=男性向け、女性キャラ中心の作品=女性向けという了解がありましたが、今では完全に逆になっています。例えば、『黒子のバスケ』や『ハイキュー!!』のようなスポーツマンガや『おそ松さん』のキーヴィジュアルを目にすると、現在のアニメファンは「これは腐女子などに受けそうだ」と考えずにはおれないはずです。ですがもちろん赤塚不二夫の『おそ松くん』は、もともとは1960年代の週刊少年サンデーに掲載された少年マンガで、当時は男性が主要なターゲットでした。また逆に、きらら系難民アニメに典型的な女性中心のヴィジュアルイメージを見た時、現在のアニメファンの多くは、まず男性向けアニメと考えると思われます。
     『ゆるゆり』が「ゆるい百合」から取られているように、深夜枠で多く見られる女性キャラ中心のアニメでは、純然たる友情よりは若干恋愛感情寄りでありつつも、現実のレズビアンと比べるとかなりデフォルメされた関係性がしばしばみられます。この事情はBL作品と現実のゲイ男性とのズレとも似ていて、一般に、現実のセクシャルマイノリティと、オタク文化に現れるセクシャルマイノリティの表象にはしばしばズレが見られます。BLにしろ百合にしろ、ときに性差別的な表現も現れるので、考察には一定の慎重さが求められますが、それでもここで少し考えてみたいのは、なぜ現在の男性向けアニメに女性キャラ中心のものが多いのかという問題を、性的な表現の観点から検討していくことです。
    ■深夜アニメに典型的な性的モチーフの変容
     深夜アニメでは、今でも「水着回」「温泉回」(いずれも観光リゾートの基本であることは注目されます)が定番となっていますが、少し前のアニメではよく見られた、男性が女性の着替えや裸を直接覗きに行くようなセクハラエピソードは、現在では激減しています。代わってしばしばみられるようになったのが、男性が男性、女性が女性の裸体に関心をもつという仕方での、形を変えた「セクハラ」モチーフです。ここには同性愛差別的な要素が皆無とはいえず、また性的な表現の妥当性の感覚はいつの時代でも決して安定しているとは言いがたいので、はっきりした根拠で断定できる事柄は残念ながら多くありません。けれども、例えば1960-80年代ぐらいまでのアニソンに顕著に見られた「男らしさ」「女らしさ」を強調するタイプの歌詞が現在激減しているように、性規範的な役割についての規定が流動的になる傾向は明らかでしょう。
     しばしばオタク文化は性差別的と非難されますが、私は一定の留保が必要だと考えています。それは今述べたように、過去と現在のアニメ表現を比較すると、時代ごとの諸々の規範の変化に伴い、性的な表現に関する許容可能性の感覚も変化していること、そして、深夜アニメでは性的な表現が一つの売りとなっていることが無視できないと思うからです。『ドラゴンボール』の亀仙人のような振る舞いは、今ではゴールデンタイムで許容されることはほぼなく、深夜アニメでも即座に撃退されるネタキャラであることが通例でしょう(ジャンプ系で言うなら『To LOVEる』の校長が典型です)。

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  • 「難民アニメ」から見えてくるコミュニケーション型消費の現在(『石岡良治の現代アニメ史講義』10年代、深夜アニメ表現の広がり(3))【毎月第3水曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.647 ☆

    2016-07-20 07:00  
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    「難民アニメ」から見えてくるコミュニケーション型消費の現在(『石岡良治の現代アニメ史講義』10年代、深夜アニメ表現の広がり(3))【毎月第3水曜配信】
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.7.20 vol.647
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    今朝のメルマガは『石岡良治の現代アニメ史講義』をお届けします。今回は2010年代における男性視聴者向けアニメの動向がテーマ。しばしば「なろう系」と呼ばれる作品群やその他ラノベ原作アニメの現況、そしてゼロ年代日常系アニメがさらに先鋭化した「難民アニメ」の特質について考えます。
    ▼プロフィール
    石岡良治(いしおか・よしはる)
    1972年東京生まれ。批評家・表象文化論(芸術理論・視覚文化)・ポピュラー文化研究。東京大学大学院総合文化研究科(表象文化論)博士後期課程単位取得満期退学。青山学院大学ほかで非常勤講師。PLANETSチャンネルにて「石岡良治の最強☆自宅警備塾」を放送中。著書に『視覚文化「超」講義』(フィルムアート社)、『「超」批評 視覚文化×マンガ』(青土社)など。
    『石岡良治の現代アニメ史講義』これまでの連載はこちらのリンクから。

    前回:「動画の時代」がもたらしたアニメ消費の構造転換(『石岡良治の現代アニメ史講義』10年代、深夜アニメ表現の広がり(2))

    ■男性アニメオタクコミュニティの現在
     ここ10年のアニメファンが全般的に「ライトオタク化」しているという話はよく言われることですが、要するに、かつて男性アニメオタクの好物とされた「メカと美少女」が以前と比べてさほど重視されなくなっているのだと私は考えています。この問題については「今世紀のロボットアニメ」を扱うパートで改めて考察する予定ですが、「ヤマト・ガンダム・エヴァ」の三題噺の延長で近年のアニメを語ることの困難、とまとめることができるかもしれません。かつては「メカと美少女」から男性オタクのセクシュアリティについて論じる言説が多く、斉藤環さんの『戦闘美少女の精神分析』(2000年)のような精神分析的オタク論も、そういうフレームのもとでの言説と言えるでしょう。しかし現在では、こうした側面だけではアニメを捉えることが困難になっています。それはもちろん、かつてはアニメソフトをあまり購入しないと言われていた女性アニメファンの影響力の増大などもあるのですが、そもそも男性オタクが無条件的にメカ好きであるとは言えなくなっていることが大きいと思われます。「美少女」要素はもちろん重要であり続けていますが。
     ただし、今でも「メカと美少女」によって駆動されているヒットアニメは数多く、『マクロスΔ』(2016年)も普通にヒットしているように、ガンダムとマクロスという二大ブランドはコンスタントに製作され続けています。加えて、2010年代の深夜アニメにおけるヒット作の一つである『ガールズ&パンツァー』(2012年,劇場版2015年)は、戦車というメカと、美少女の組み合わせという点では、わりと伝統的な男性オタクの嗜好性に沿ったコンテンツということができます。女性ファンもいないわけではないのですが、特に2015年の劇場版では、従来からのファン層である『ストライクウィッチーズ』(2008年-)などに代表される「萌えミリタリー」コミュニティに加えて、広義の映画秘宝系マニアというか、B級アクション映画のファンをも惹きつけてヒットしました。ネットで流布した「ガルパンはいいぞ」という思考停止に見えかねない賞賛コメントは、そういう流れを集約したものと言えます。
     もう一つ「メカと美少女」美学に忠実でありつつコンスタントに続いているシリーズを挙げるなら『戦姫絶唱シンフォギア』(2012-)になると思います。『シンフォギア』シリーズは、SF西部劇ゲーム『ワイルドアームズ』のスタッフによるもので、90年代風の熱血要素が色濃く現れており、ファン以外に広く知られているとは言えません。いわゆる「閉じコン」の様相を呈してさえいるのですが、独特な作風も相まって根強い支持を集め、4期5期と続いていくことが明らかになっています。装甲をまとった戦闘美少女が歌いながら戦うミュージカル要素が独特で、悠木碧や水樹奈々といった声優が息が切れたり、ときに声が安定しないまま歌うバトル場面が魅力でしょう。シリーズが続いている一因としては、歌の要素を活かしたイベントが盛り上がるタイプの作品であることが大きいと思います。
     このように、『ガルパン』や『シンフォギア』は割と伝統的な形式に忠実な部分もあり、事実昔からのアニメファンの支持も多い作品です。具体的に言うなら1972年生まれの私よりも年長のアニメファンですね。けれども『宇宙戦艦ヤマト2199』(2012-2014年)のように年長者専用ということは決してなく(ファンの方すみません)、現在のオタク消費の形態に適応しているからこそ、広い支持を集めているわけです。ここはぜひとも強調したいところで、『シンフォギア』の場合は声優イベントとの結びつきが鍵となっており、そして『ガルパン』は、2010年代アニメの中で、聖地巡礼モデルが最も成功した作品のひとつとなっています。私はこの10年くらいのアニメの動きでは、男性のみがアニメの消費をリードする時代ではなくなったという認識を持っていますが、もちろん男性ファンが中心のこれらアニメも重要な存在感を示し続けています。特に『ガルパン』は、ちょうどポスト3.11期の震災復興とも結びつく形で、茨城県大洗市への聖地巡礼を促すイベントもコンスタントに行われていて、コンテンツツーリズムの現状を考える上でのモデルケースとなっているわけです。

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  • 「動画の時代」がもたらしたアニメ消費の構造転換(『石岡良治の現代アニメ史講義』10年代、深夜アニメ表現の広がり(2))【毎月第3水曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.618 ☆

    2016-06-15 07:00  
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    2016.6.15 vol.618
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    今朝のメルマガは『石岡良治の現代アニメ史講義』をお届けします。今回は、アニメ制作のデジタル化や、YouTubeやニコニコ動画など動画サイトの登場によって起こったアニメ消費構造の変化について論じます。
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    前回:「ノイタミナ的なもの」の発生源(『石岡良治の現代アニメ史講義』10年代、深夜アニメ表現の広がり(1))

    ■オタクのライト化と「動画の時代」の到来
     以上おおまかに語ってきた深夜アニメの流れは、90年代からゼロ年代前半ぐらいまでのアニメについて、現在の視点から遡って見たものになります。なので、リアルタイムの記憶を持つ人からは異論も出るでしょうし、どうしても厳密に語りにくいところが残るので、ある程度の便宜的な指標と考えてください。とりあえず80年代と90年代に大きな力を持ったOVAと、90年代以降に広まった深夜バラエティ番組という、二つの傾向について触れたわけですが、ゼロ年代後半から現在に至るまでの深夜アニメでは、両方が合流した市場を形成しています。
     もう一点、年ごとに見ていくと緩やかな変化に思えますが、今の視点から過去のアニメをざっくりと振り返ると、ゼロ年代の前半と後半ではスタイルが大きく変化していることに気付きます。これはもちろん、アニメ制作のデジタル化による色彩の多様化と、背景の精密化が表現として定着したことが大きな理由となっています。
     それと関連して、YouTubeやニコニコ動画の普及によって顕著になった、オタクのライト化を伴う消費環境の大きな変化も挙げられるでしょう。ゼロ年代前半は、まだまだポストエヴァ&攻殻機動隊を狙った、ロボットアニメやいわゆる「ジャパニメーション」風のアニメが多かったことも、その頃のスタイルの特徴と言えると思います。詳しくは次回「今世紀のロボットアニメ」として扱う予定ですが、オタクのライト化に伴い、ガジェットとしてのロボットの求心力が大きく低下していることは間違いないと思います。一例としては、ゼロ年代のオリジナルロボットアニメとしてのヒット作『コードギアス 反逆のルルーシュ』(2006-2008)が、ロボットすなわち「ナイトメアフレーム」に興味が薄くても楽しめる作りだったことが挙げられるでしょう。

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  • 「ノイタミナ的なもの」の発生源(『石岡良治の現代アニメ史講義』10年代、深夜アニメ表現の広がり(1))【毎月第3水曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.594 ☆

    2016-05-18 07:00  
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    2016.5.18 vol.594
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    今朝のメルマガは『石岡良治の現代アニメ史講義』をお届けします。今回からは「深夜アニメ」がテーマ。『あの花』をはじめとする2010年代深夜アニメの一大潮流「ノイタミナ的なもの」がどのようにして形成されたのかを考察します。
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    石岡良治(いしおか・よしはる)
    1972年東京生まれ。批評家・表象文化論(芸術理論・視覚文化)・ポピュラー文化研究。東京大学大学院総合文化研究科(表象文化論)博士後期課程単位取得満期退学。青山学院大学ほかで非常勤講師。PLANETSチャンネルにて「石岡良治の最強☆自宅警備塾」を放送中。著書に『視覚文化「超」講義』(フィルムアート社)、『「超」批評 視覚文化×マンガ』(青土社)など。
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    前回:キッズアニメは「闘争性」を脱臼させる(『石岡良治の現代アニメ史講義』キッズアニメーー「意味を試す」〈4〉)
    ■深夜アニメ表現の象徴としての『あの花』とノイタミナ枠
     今回は「10年代、深夜アニメ表現の広がり」というやや漠然としたタイトルになりますが、現在のアニメのほとんどが放映時間的に「深夜アニメ」になった状況について、いくつかの角度から考えていきます。私は、2010年代の深夜アニメで最もメジャー化したタイトルは『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(2011、以下『あの花』)だと思っています。現状が流動的なこともあり、若干曖昧な言い方になることをご容赦いただきたいのですが、「ポストジブリ」というほどの規模ではないものの、細田守や新海誠の監督作品とほぼ同じカテゴリーに、長井龍雪監督、岡田麿里脚本、田中将賀キャラデザの『あの花』、そして同じく秩父近辺が舞台になっている『心が叫びたがっているんだ。』(2015、以下『ここさけ』)が含まれるのではないかという見立てです。
     もちろん、売上や影響力などのマーケット的には、深夜アニメ発のタイトルでは『魔法少女まどか☆マギカ』(2011)、『ラブライブ!』(2013-2014)、『ガールズ&パンツァー』(2012-2013)もかなりヒットした作品ですが、これらと『あの花』の違いを挙げるなら、普段アニメをあまり見ない人が各シーズンごとに見る数本のうちに入る点だと思います。現在ではアニメをまったく見ない人は減っているものの、それでも深夜アニメに対してある種の「濃い」世界を感じる人たちにとって、『あの花』が他のヒットアニメとは違う感触をもって受け止められているのでしょう。御存知の通り、この漠然とした雰囲気を作り上げたアニメ枠こそが、2005年に始まった「ノイタミナ」なのだろうと思います。
     この枠をエンタメ小説に例えるならば、狭義のライトノベルやWEB小説(時に「なろう系」とまとめられることもあります)よりは、雑誌「ダ・ヴィンチ」(KADOKAWA/メディアファクトリー)がプッシュするタイプの原作を擁したシリーズということができるでしょう。そこで想定されているのは、男性オタクだけでなく、女性読者も強く意識した枠、すなわち、「ラノベ」と呼ばれる以前のジュニア小説的な側面をもちつつ、現在の小説レーベルでは例えば「新潮文庫nex」(新潮社)などが追求しているようなテイストと言えばよいでしょうか。『図書館戦争』(作・有川浩、単行本はアスキー・メディアワークス/文庫版は角川文庫より刊行)や『四畳半神話大系』(作・森見登美彦、角川文庫)のような人気小説がノイタミナからアニメ化されていることが、そうした連想を誘うのでしょう。

    ▲『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(2011)
    ■「ノイタミナ的なもの」の発生源
     こうした印象をまとめると、ここ十年ぐらいの深夜アニメでは「ノイタミナ的なもの」を考えることが不可欠だということです。ノイタミナは2005年の『ハチミツとクローバー』から始まった深夜アニメ枠で、翌年の『ハチミツとクローバーⅡ』が長井龍雪の初監督作品ということも注目されます。『ハチクロ』の後は『Paradise Kiss』(2005)、『怪 〜ayakashi〜』(2006)、『獣王星』(2006)、『働きマン』(2006)、『のだめカンタービレ』(2007)と続いていて、はじめの2年間くらいは完全に少女マンガものばかりでした。そうした傾向が変わるのは『もやしもん』(2007)、『墓場鬼太郎』(2007)あたりからでしょうか。『もやしもん』は若干『げんしけん』マイナーチェンジ版という感じで、特に序盤は良いマンガだと思いますが、個人的には原作者のオタク的自意識の露悪的な部分がやや苦手で、このへんは人によって変わってくるところかもしれません。近作だと『僕だけがいない街』(2016)もこの枠ですね。

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  • キッズアニメは「闘争性」を脱臼させる(『石岡良治の現代アニメ史講義』キッズアニメーー「意味を試す」〈4〉)【毎月第3水曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.569 ☆

    2016-04-20 07:00  
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    キッズアニメは「闘争性」を脱臼させる(『石岡良治の現代アニメ史講義』キッズアニメーー「意味を試す」〈4〉)【毎月第3水曜配信】 
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.4.20 vol.569
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    今朝のメルマガは『石岡良治の現代アニメ史講義』をお届けします。4回にわたってお届けしてきたキッズアニメ編のまとめとして、健全/不健全のあいだで揺れ動くキッズアニメならではの機能と面白さについて解説します。
    ▼プロフィール
    石岡良治(いしおか・よしはる)
    1972年東京生まれ。批評家・表象文化論(芸術理論・視覚文化)・ポピュラー文化研究。東京大学大学院総合文化研究科(表象文化論)博士後期課程単位取得満期退学。跡見学園女子大学、大妻女子大学、神奈川大学、鶴見大学、明治学院大学ほかで非常勤講師。PLANETSチャンネルにて「石岡良治の最強☆自宅警備塾」を放送中。著書に『視覚文化「超」講義』(フィルムアート社)、『「超」批評 視覚文化×マンガ』(青土社)など。
    『石岡良治の現代アニメ史講義』これまでの連載はこちらのリンクから。
    前回:大人気女児アニメ『プリパラ』に見る「性差モチーフの撹乱」(『石岡良治の現代アニメ史講義』キッズアニメーー「意味を試す」〈3〉)
    ■ シュール系コメディは欲望が着地しないことに意味がある
     これまでの部分では、女児アニメの考察が多めでしたが、まとめると、『妖怪ウォッチ』なども含めて、キッズアニメはシュール系コメディの宝庫と言って良いと思います。なぜキッズアニメはシュールな作風になりやすいのでしょうか? 私の仮説を述べると、要するに「有意味な行動のあり方が試されている」からだと思います。「アニメが意味を試す」とでもいえるでしょうか。その結果、わたしたちが試されるんですね。『ジュエルペットサンシャイン』に出てくるヤギの八木沼くんなんかもそうなんですけれども。だから、私としては何かのパロディよりも、八木沼くんとか囲碁パンダといった、即席で出てきたような意味不明キャラに可能性を感じています。
     さて、シュール系コメディのポイントは、とりわけ性的な意味にはなかなか着地しないところです。そして浮遊し続けるんですね。つまり、簡単に「ふぅ……」ってならないということです。「シコリティ」とか、エロ周辺のネットスラングは数多く、私自身は下ネタとかエロ表現を、もちろん深夜アニメの重要な宝だと思っています。だから今回の言い方だと、あたかもエロネタをディスっているように思えてしまうかもしれませんけれども、そういうわけではありません。それでもやはり、一面でエロはやっぱり目的性がはっきりしているわけです。要するに動物では本能とされることが多い領域だし、性行為の結果、実際に人間が増える、という有用性があるわけですよね。
     『銃・病原菌・鉄』や『文明崩壊』といった著作で知られるジャレド・ダイアモンドに『Why is sex fun?』という本がありますが、これは日本語ではタイトルを変えているんですよね。直訳すると『なぜセックスは楽しいか?』という本です。人間にとってセックスはソロプレイであっても楽しいわけですけれども、そういいつつも日本人は、諸外国の人々と比べて、パートナーがいても性行為の回数が少ないと言われていますね。さて、この本は文庫になっています。『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』です。単行本では『セックスはなぜ楽しいか』なんですが、おそらく売れなかったか誤解されたか、とにかくなんらかの理由でタイトルが変わったんでしょう。
     おおむねみんな性的な話や内容が大好きなんですけれども、キッズアニメはそこに着地しないのが重要なんです。だからこそ『おねがいマイメロディ』の「おねがい」がじんわり来るんですね。なんて言えばいいのかな、よくオタサーの姫が色々おねだりとかする光景があるわけですけれども、あれは一見関係ない風情を見せつつも、コミュニケーションが性的な雰囲気で満たされるところが特徴といえるわけで、「性の有用性」が場を回すポイントになっているわけです。だからこそオタサーの姫の表象が、多くの場合露悪にとどまってしまうのではないでしょうか。ひたすら「おねがい」をするマイメロさんと比べると、生ぬるく感じられるんですね。マイメロさんはやばいですよ。だってオタサーどころか、マイメロさんのお願いは、しばしば宇宙の秩序を危うくしますからね。だから、超合金マイメロが快調に宇宙巡航モードで動きまわる姿は、昔のコピぺであった「宇宙ヤバイ」【1】みたいな感覚に近いんだと思います。

    【1】宇宙ヤバイ:ネットの代表的なコピペの一つ。(参照)宇宙ヤバイとは (ウチュウヤバイとは) [単語記事] - ニコニコ大百科


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  • 大人気女児アニメ『プリパラ』に見る「性差モチーフの撹乱」(『石岡良治の現代アニメ史講義』キッズアニメーー「意味を試す」〈3〉)【毎月第3水曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.542 ☆

    2016-03-16 07:00  
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    大人気女児アニメ『プリパラ』に見る「性差モチーフの撹乱」(『石岡良治の現代アニメ史講義』キッズアニメーー「意味を試す」〈3〉)
    【毎月第3水曜配信】 
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.3.16 vol.542
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    今朝のメルマガは『石岡良治の現代アニメ史講義』をお届けします。今回はシュール系キッズアニメの始祖としてのサンリオの画期性、そして2010年代女児アニメの覇者『プリパラ』が切り拓いた新境地について解説します。
    ▼プロフィール
    石岡良治(いしおか・よしはる)
    1972年東京生まれ。批評家・表象文化論(芸術理論・視覚文化)・ポピュラー文化研究。東京大学大学院総合文化研究科(表象文化論)博士後期課程単位取得満期退学。跡見学園女子大学、大妻女子大学、神奈川大学、鶴見大学、明治学院大学ほかで非常勤講師。PLANETSチャンネルにて「石岡良治の最強☆自宅警備塾」を放送中。著書に『視覚文化「超」講義』(フィルムアート社)、『「超」批評 視覚文化×マンガ』(青土社)など。
    『石岡良治の現代アニメ史講義』これまでの連載はこちらのリンクから。
    前回:キッズアニメはなぜ「シュール系コメディ」として機能するのか(『石岡良治の現代アニメ史講義』キッズアニメーー「意味を試す」〈2〉)
    4.現代キッズ・アニメの射程(2)シュール系コメディの宝庫
    ■サンリオの重要性
     私がある意味、現代キッズ・アニメの良さと感じているのがシュール系コメディの宝庫である点です。「サンリオの偉大」と言ってよいかもしれない事態です。例えばハローキティは「仕事を選ばない」スタンスで様々なものとコラボしています。ハローキティの超合金が発売されましたが、マイメロディの超合金も発売されています。

    ▲今年(2016年)初頭に発売されたマイメロディの超合金(出典)
     私は子どもの頃に手塚治虫『ユニコ』の映画を観に行っているんですが、これもサンリオ作品だったんですね。そのとき『いちご新聞』を買っています。わりと私の原点にはサンリオがあって、他にもやなせたかし原作の『チリンのすず』という絵本が、サンリオアニメになっていますが、ストーリーには富野アニメ的な感覚もあるので、ぜひ絵本を読むなりアニメを見るなりしてください。『チリンのすず』は超いいですよ。ひつじのチリンが両親の復讐のために狼に弟子入りして…という話ですね。

    ▲チリンの鈴・ちいさなジャンボ・バラの花とジョー【やなせ・たかし原作】 
     サンリオの近作で興味深いアニメとして『SHOW BY ROCK!!』があります。サンリオが深夜アニメ市場を狙ったもので、男女両方の客層を目指しつつも、多くの女性ファンを獲得した作品です。セルルックではない3DCGアニメとしても興味深いアニメです。『SHOW BY ROCK!!』の卵のおじさんの声優がうえだゆうじなんですが、『デトロイト・メタル・シティ』のクラウザーさんをやっていたんですよね。いろいろな要素がみられることもあって、『SHOW BY ROCK!!』については今後の展開に注目しています。
     そうした事情もあって、いつかサンリオ論に取り組みたいと思っています。この「現代アニメ史講義」のフレームとは別の射程があるんじゃないかと思っているんです。サンリオって、70年代に『LYRICA 〜リリカ〜』という少女漫画雑誌をやっていたんです。手塚治虫の『ユニコ』はそこで連載していました。私は後追いで『LYRICA 〜リリカ〜』の初期の号を古本屋で集めようとしていたんですが、引っ越しの際に無くしちゃったんですね。まさに勿体ないという感じですが、何かの機会にまとめて考察したいと思っています。キッズアニメがシュール系コメディの宝庫となっていることについても、サンリオから考えることができると考えています。
    ■稲垣隆行『ジュエルペットサンシャイン』はシュール系キッズアニメの金字塔である
     2010年代のシュール系キッズアニメの金字塔は、みなさんの中にも観た方もけっこう多いと思うんですが、『ジュエルペットサンシャイン』と言っていいと思います。2011年から12年です。厳密に言えば「ジュエルペット」シリーズはその前年の『てぃんくる』がわりと良質な女の子向けのハートウォーミングなシナリオで感心していたんです。そうしたら、いきなり翌年すごくクレイジーな世界が全面展開された感じですね。このシリーズの頂点をどこに置くかによって、『てぃんくる』派と『サンシャイン』派がいて、私は『サンシャイン』派になります……コメントで「『サンシャイン』勢もくるぞー」って、なに言っているんですか。「『ハトプリ』勢もくるぞー」「『ジュエルペットサンシャイン』勢もくるぞー」ってぜんぶ俺一人じゃないですか(笑)。「ひとりでなんとか勢兼ねているぞ」って感じですよね。はい。TVアニメ枠としては最終作になってしまったのですが、『マジカルチェンジ』(2015)はサンシャイン魂があってわりと好きでした。

    ▲ジュエルペット サンシャイン DVD-BOX1
     『ジュエルペットサンシャイン』で何が笑えたかというと、例えばエアロスミスのような70-80年代ハードロックのネタをばんばんやっていて、DVDではぜんぶ曲が差し替えになっていました。つまり、テレビ放送では可能だけど、あとからの版権許諾では再現不可能なパロディをたくさんやっていたんです。あと、1983年の映画『フラッシュダンス』の完全再現ネタは、親世代向けですらなく、前回で語った加藤陽一さんのネタ振りと近いものがありました。
     考えてもみてください。『ジュエルペットサンシャイン』をリアルタイムで観ている人たちは、要するに2000年代に子どもができた世代ですよね。どう考えても親は30代くらいじゃないですか。だからこれは下手すると、いわゆる「じいじ、ばあば」の世代のネタなんですね。『フラッシュダンス』が話題になっていたのは私が小学生の時でしたので、その頃の大人だと50代になります。簡単に言うと、加藤陽一さんの金八先生ネタをさらに突き抜けて「ちょっとやりすぎなんじゃないか」というところまでやっていたわけです。
     これだけだと「ネタアニメ」のように見えてしまいますが、もうひとつ『ジュエルペットサンシャイン』でおすすめしたいのは、ヤギの八木沼くんです。基本はただのヤギがクラスメートというネタで、当然のように大事な紙をムシャムシャ食べたりしているんですが、24話では実写のヤギ画像が出てきたんですね。全話がつらい人も、ここだけ見てみると、ほとんど実験アニメーションのようにみえる絵面のおかしさがわかると思います。ここはアニメーション論的な意味でも、実写の強引な混ぜ方が興味深い回でした。
     ちなみに私は『プリパラ』の「パルプスの少女ふわり」登場回で、『アルプスの少女ハイジ』が元ネタということもあり、ヤギが出た瞬間に「ヤギキター!」ってなりましたね。私なりの基準では、キッズアニメに飛び道具じみた動物が来たらもうその瞬間に神回確定という感覚を持っています。この感覚はとっぴにみえるかもしれませんが、『ジュエルペットサンシャイン』を見た人はわかるはずです。「ヤギキタ! これは神でしかない」ってやつですね。深夜アニメで例えるなら、『ラブライブ!』のアルパカとか、『ソメラちゃん』の「メヌースー」のヤバさと言えばわかるかもしれません。
     『ジュエルペットサンシャイン』の稲垣隆行監督はすばらしいですね。深夜アニメでも、この人は音響をやっている人なので、水島努さんとかと同じような良さがあります……『ジュエルペット』もサンリオキャラクターとして一定の安定した需要があったところに、アニメで好き勝手に展開してもかまわないという形をとっていました。つまり、先ほど挙げた超合金マイメロとか、一連のハローキティコラボレーションのように、仕事を選ばない系のひとつとして『ジュエルペット』があったんですね。アニメがキャラのイメージを腹黒にしてしまったりしても、さほど気にしないというあり方です。
     その典型としては、沢城みゆきさんが演じている赤ちゃんシロクマ「ラブラ」のクズっぷりが挙げられます。なお、『ジュエルペット』シリーズは、沢城みゆきさんが何役も同時にこなしているところも注目ポイントで、赤ちゃんから少年少女、おばあさんと恐るべき幅の広さをみせています。稲垣監督の深夜アニメでは『聖剣使いの禁呪詠唱(ワールドブレイク)』も、作画リソースの乏しさをネタに昇華していて、かなり笑えるラノベアニメでした。といっても音響の面ではきっちり作られています。
     ただ、稲垣監督が手がけた『空戦魔導士候補生の教官』は、ちょっとイマイチなんですが、ロゴが素晴らしいので見てください。ロゴがどこぞの『とある科学の超電磁砲』みたいなロゴなんですけど、「お、英語かな?」と思って見ると「KUSEN-MADOUSHI-KOUHOSEI NO KYOUKAN」ってローマ字なんですよね。

    ▲『空戦魔導士候補生の教官』公式サイトより

    ▲タイトル部分の拡大図
     タイトルがいちばんシュールかもしれない。本編は残念ながら『ワルブレ』に比べると貧窮なんですけど、それでも大量のオブジェクトを主人公が剣で切りまくっているオープニング映像が、昔のゲーム「スペースハリアーかな?」という感じなんですね。3DCGを使わずに2Dで無理やり3次元を実現したような、昔のゲームのような空間を飛び回りながら、剣で斬りかかるところをみると、私なんかはちょっとアツくなるんですけど、それだけですかね。ちょっとパワーが落ちますね。
    ■シュール系コメディのひとつの理想は森脇真琴監督作品にある
     というわけで、加藤陽一さん、稲垣さんと挙げてきましたが、次にその集大成として、『プリパラ』の森脇真琴監督作品について考えたいと思います。大好評の『プリパラ』ですが、その前作「プリティーリズム」シリーズのほうが好きだという人もいるかもしれません。たしかに、『レインボーライブ』のりんねちゃんとか、ライバルとの和解展開とかは本当にアツかったので、私も過去に「定点観測」でまとめて語ったことがあります。要するにいい感じにドラマティックなんですね。近年の女児アニメとしては珍しく、男女の恋愛要素もかなり含まれていました。ここからは、男性アイドルグループを独立させた『キンプリ』も派生コンテンツとして生まれていて、そのぶっ飛んだ世界がかなり話題になっているので、今後が楽しみです。それに比べると『プリパラ』は初期はメロドラマ要素が少なめで、それは男性キャラが少ないからですね。とはいえ、一年目はファルル、二年目はひびきにかかわるシナリオでは、要所要所でドラマティックな展開も入っており、「プリティーリズム」の末裔としての性格もあります。

    ▲映画『KING OF PRISM by PrettyRhythm』(略称:キンプリ)公式サイトより。女児向けアーケードゲーム原作のTVアニメ「プリティーリズム」シリーズに登場した3人の男性キャラのサイドストーリーを描く。応援上映(ペンライト・サイリウムなどの応援グッズの持ち込みや声出しが可能)なども開催され注目を集めている。

    ▲『プリパラ』アニメ公式サイトより(※以後、『プリパラ』の登場人物については公式サイトのキャラクター紹介をご参照ください)
     私は森脇真琴監督の大ファンで、今回のメインテーマといってもいいんですが、中でも、ぜひ『おるちゅばんエビちゅ』を観てほしいと思っています。森脇真琴はこれが監督デビュー作なんですね。今世紀に入ってからかなり女性のアニメ監督が増えましたが、その先駆者のひとりといえる側面もあります。『おるちゅばんエビちゅ』は何がすごいって……三石琴乃さんがハムスターのエビちゅ役をやっているんですが、飼い主「ご主人ちゃま」の性生活を観察したり、女性器の名称をばんばん言いまくったりするハイテンションな下ネタアニメなんですね。しかも『とっとこハム太郎』がアニメ化される前なんです。つまり「汚いハム太郎」の方が先行していたわけです。『おるちゅばんエビちゅ』は原作者伊藤理佐の代表作でもありますが、なにしろWikipediaを検索すると「警告:この項目には性的な表現や記述が含まれます。免責事項もお読みください。」って書いてありますからね(笑)。要するにエロ4コマの世界をアニメ化したわけですね。企画:庵野秀明、監督:森脇真琴なんですね。これは隠れたガイナックスの神アニメですね。

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  • キッズアニメはなぜ「シュール系コメディ」として機能するのか(『石岡良治の現代アニメ史講義』キッズアニメーー「意味を試す」〈2〉)【毎月第3水曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.521 ☆

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    今朝のメルマガは『石岡良治の現代アニメ史講義』をお届けします。今回は、2010年代のアイドル系女児アニメ『アイカツ!』『プリパラ』を取り上げつつ、キッズアニメがなぜ「シュール系コメディ」としても機能するのかを考察します。
    ▼プロフィール
    石岡良治(いしおか・よしはる)
    1972年東京生まれ。批評家・表象文化論(芸術理論・視覚文化)・ポピュラー文化研究。東京大学大学院総合文化研究科(表象文化論)博士後期課程単位取得満期退学。跡見学園女子大学、大妻女子大学、神奈川大学、鶴見大学、明治学院大学ほかで非常勤講師。PLANETSチャンネルにて毎月のレギュラー番組「石岡良治の最強☆自宅警備塾」を放送中。著書に『視覚文化「超」講義』(フィルムアート社)、『「超」批評 視覚文化×マンガ』(青土社)など。
    『石岡良治の現代アニメ史講義』これまでの連載はこちらのリンクから。
    前回:「キッズアニメ」と「非キッズアニメ」の落差(『石岡良治の現代アニメ史講義』キッズアニメーー「意味を試す」〈1〉)
    3.現代のキッズ・アニメの射程(1)アイドル系女児アニメについて
     今世紀を代表する女児アニメは『プリキュア』シリーズ(2004〜)でしょう。
     『プリキュア』は1990年代の『セーラームーン』モデルを更新し、バトルアクションを強調したシリーズです。『Yes!プリキュア5』(2007-08)以降はセーラームーンの要素を取り入れたりするなど、長寿シリーズということもあり作風は様々ですが、私がシリーズ中一番だと考えているのは『ハートキャッチプリキュア!』(2010-11)で、いくつかのモチーフについては『魔法少女まどか☆マギカ』よりも優れていると考えています。けれどもこのシリーズにも近年は翳りが見えていて、『ハトプリ』を強く意識した『ハピネスチャージプリキュア!』(2014-15)がシリーズ中最も低評価に終わり、存続が危ぶまれていました。続く『GO!プリンセスプリキュア』(2015-16)は、個人的にはプリンセスモチーフを現代の女性像とどう折り合わせていくのかについてやや疑念もあったのですが、危機意識もあってか、シナリオ面でもかなり力が入っており、総じてかなり良い作りでした。
     『プリキュア』シリーズを考える上で、EDのダンスCG(『フレッシュプリキュア!』2009年以降)は重要です。近年の『プリキュア』に翳りが見えていた理由は、明らかに他のアイドル系女児アニメとの競合によるものなのですが、淡々と進化を続けるCG技術は他の追随を許していません。一年の長期シリーズ作品なので、全話見るのが厳しいという人は、CGの変遷だけでも見てみるとそのことがわかると思います。そもそも、『プリパラ』や『アイカツ!』のようなアイドル系女児アニメのCGモデルが、『プリキュア』EDを手本としているところがあります。現代のセルルック3DCGを考えるならば、OPやEDでしばしば見られるダンスCGの系譜をたどる必要があります。初期作の印象もあって、『プリキュア』はゼロ年代アニメであるという印象をもつ人が多いと思います。現在放映中の『魔法つかいプリキュア!』も、原点回帰の上、魔法学校という舞台が若干『ハリーポッター』めいていますが、EDのダンスCGにおいては10年代型のアニメであり、この点には今後も注目したいと思っています。
     『アイカツ!』(2012〜)と『プリパラ』(2014〜)が担う「アイドル系女児アニメ」については、私がこれまで定点観測的に何度か語ってきたことを改めてまとめ直して語りたいと思います。特に先行する深夜系アイドルアニメ(『THE IDOLM@STER(アイマス)』『ラブライブ!』)との差異を語ります。もちろん深夜系アイドルアニメは重要なのですが、私自身はキッズ枠アイドルアニメのポテンシャルに惹かれます。さて、『アイマス』はもともとアーケードゲームとして出て、Xbox360に移植されて、その後プレイステーション3に移植されます。当初から男性オタクがターゲットで、メディア展開とともにファンを広げていきました。他方『アイカツ!』と『プリパラ』は、アーケードカードゲームとしての面を持ち、かつターゲットが女児であるのはもちろんですが、実在アイドルをモデルとしていないことがポイントだと考えています。『アイカツ!』はキャラクターの声優とシンガーは別の人を起用しており、対して『プリパラ』は声優とシンガーが同一人物なのですが、既存のアイドルグループとの類似はあまりみられません。
     『アイマス』の初期にはかなりの程度ハロプロ的な感触がありました。けれども『アイドルマスターシンデレラガールズ(デレマス)』はイロモノ系の登場人物が増えており、ハロプロから少しずつ遠ざかっていき、まさに『アイマス』としか言いようのない世界へと発展していきました。『ラブライブ!』にも似たところがあって、初期はあからさまにAKB48『ギンガムチェック』のPVなどの参照から始まっていますよね。劇場版の『SUNNY DAY SONG』の場面も、そこはかとなくAKB48の『恋するフォーチュンクッキー』のPV風味でした。けれどもスマホアプリ『スクフェス』の独自の存在感などを含め、「ラブライバー」にまつわるイメージが独自に広がっている現在では、そうした関連性は見えにくくなっていると思います。このように『アイマス』も『ラブライブ!』も、一見すると実際のアイドル界と関係のないように見えて、接点を持っています。「二次元vs三次元」のような対立がときに煽られるのは悲しいことです。2015年末にはμ’sの紅白歌合戦出場もあり、『ラブライブ!』は10年代を代表するアニメの一つになりました。
     近年のアイドルアニメについて興味深い事実としては、『アイカツ!』と『ラブライブ!』の両作にサンライズが関与していて、数々のロボットアニメを差し置き、すでに主力シリーズとなっていることでしょう。それに加えて、『アイカツ!』と『プリパラ』は、ゼロ年代のカードゲーム『オシャレ魔女♥ラブandベリー(ラブベリ)』(2004~2008)の継承という面があります。セガの開発した『ラブベリ』は『甲虫王者ムシキング』の女の子版として作られ、結果的には短命に終わりました。今見るとローポリゴン感満載で懐かしさすら感じます。この話をもう少し展開させて言うなら、任天堂がDSや3DSで展開しているセレクトショップシミュレーションゲーム『わがままファッションガールズモード』シリーズと関連付けることができるかもしれません。『アイカツ!』と『プリパラ』はプレイアビリティが高い、つまりカードゲームのプレイ経験と直結しているからこそ、実在のアイドル世界から離れていてもかまわないのだと考えられます。両作ともカードゲームとの連動が特徴的で、ターゲットの女児以外のプレイヤーである「〜おじさん・おばさん」を大量に生み出しています。
     もう一つのポイントはアイドルおなじみの「ダンス」や「ポーズ」でしょう。男性女性問わず、子どもをターゲットにする時「ごっこ遊び」との結びつき方が重要になってきます。変身バンクがポーズを生み出す側面ですね。「ダンス」と「ポーズ」そして「着せ替え」が3DCGモデルに結びついているところが、これらの女児アイドルアニメの特徴になります。『アイカツ!』は最初期にカクカクだった動きがどんどん改善されていきました。『プリパラ』もシーズンごとに3DCGモデルを改良しています。このようなことはアイドル系女児アニメが長丁場であるからできることです。つまり話数の多さに優位点があるということです。話数が多いからこそ、CGモデルを随時更新し続けていけるわけです。
    ■ 長期シリーズであることがシュールさをもたらす
     キッズアニメの重要な特徴として、ワンシーズンが基本の現代アニメにおいて珍しく、長期シリーズ中心ということがいえます。だからみなさんも「とても全話は観られないな」と考え、そもそも視聴しないことも多いでしょう。ですが、キッズアニメはそもそも子どもが想定視聴者なので、ある程度適当に観ていい作りになっていることが多いんですね。もちろんシナリオ上重要な話を飛ばすと若干厳しいときもありましが、少なくともワンシーズンアニメと比べれば、途中からでも入れるように作ってあるので、たまに気が向いた時に見てみると良いと思います。私もいくつかのシリーズは途中から見て、あとから遡ったりしています。

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    今朝のメルマガでは『石岡良治の現代アニメ史講義』をお届けします。今回からは「キッズアニメ」を題材に、ポップカルチャーが直面する「性と暴力」の問題や、「玩具」という外部性とアニメ表現の関係性について考察していきます。
    ▼プロフィール
    石岡良治(いしおか・よしはる)
    1972年東京生まれ。批評家・表象文化論(芸術理論・視覚文化)・ポピュラー文化研究。東京大学大学院総合文化研究科(表象文化論)博士後期課程単位取得満期退学。跡見学園女子大学、大妻女子大学、神奈川大学、鶴見大学、明治学院大学ほかで非常勤講師。PLANETSチャンネルにて毎月のレギュラー番組「石岡良治の最強☆自宅警備塾」を放送中。著書に『視覚文化「超」講義』(フィルムアート社)、『「超」批評 視覚文化×マンガ』(青土社)など。
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    前回:『Free!』『たまこまーけっと』『ユーフォニアム』に見る京アニ表現の次なる可能性 (『石岡良治の現代アニメ史講義』京都アニメーション:境界の両岸(2))
    ■「意味を試す」現代のキッズアニメ
     みなさん、こんにちは。石岡良治です。今回取り上げるテーマは「キッズアニメ」です。
     「キッズアニメ」では「意味」が試されているというのが私の考えです。踏み込んで言えば、例えば『不思議の国のアリス』が担っている言葉遊びのようなナンセンスがキッズアニメでは展開されていて、そこが魅力になっているということです。
     今年(2015年)の8月22日放送分の『プリパラ』ED(ed5、曲は「胸キュンLove Song」)で、「そふぃ」画像が差し替えになった件を思い出してください。この一件はキッズアニメを考える上で重要だと私は考えています。ニコニコ動画などで『プリパラ』のEDになり、実写の女性がダンスし始めると、視聴者が「投了」とコメントし解散するという様式美がかつてはありました。これは「二次元」と「三次元」を過剰に区別するものなので、個人的にはあまり好きではないのですが。ところが、今の『プリパラ』のED(※2016年1月から再び実写が混ざるEDになりました)は、女性キャラのプライベートフォトを紹介するていのもので、水着や部屋着などのセクシーショット風のものが含まれていて、一部カットは微エロとみることができるものです。「エロ」表現は「意味性」においても「目的性」においても分かりやすすぎるものです。そふぃの「キャミソールでメイク」姿から「オーバーオールと大漁旗」への変更( http://togetter.com/li/863867 )は、BPOに来た「女児向けにそぐわない」との意見への配慮とされていますが、これは志摩市の萌えキャラ問題(注1)と比べると、良い攻めの姿勢と言えます。個人的な意見では「キャミソールでメイク」でも「オーバーオールに大漁旗」でもどちらでもいいと思うのですが、この差し替えでイラストが一枚増えたという意味ではよい「ネタ」になったと考えています。
     簡単に言うと「キッズアニメ」がいつも直面する表現的テーマとして「性と暴力」イメージがあるということです。映画やテレビ、その他の映像のモチーフとして「性」や「暴力」が画面に映し出されると私たちはハッと目が覚めますよね。またお茶の間で「性」や「暴力」を目にすると家族がソワソワしだします。今回キッズアニメについて考えてみたいのは、性も暴力も「意味」に満ちているからこそ、そこを明示的に扱うことが少ないキッズアニメでは、「シュール」だったり「カオス」だったりするようなモチーフが興味深い仕方で繰り広げられるということについてです。

    (注1)志摩市の萌えキャラ問題:主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)が開催される三重県志摩市が海女の萌えキャラクターを公認したことに対して「性を強調する描き方だ」と抗議が相次ぎ、騒動を受けて志摩市は「正式に非公認キャラクターとして継続」するという措置を取った。

    (1)キッズアニメの領域
     まずは概論から語りたいと思います。キッズアニメの領野について深夜アニメとの関係を考えようと考えています。日本の「アニメ」はかつて「テレビまんが」と呼ばれていました。例えば『SHIROBAKO』の劇中に出てくる「アンデスチャッキー」(モデルは1973年の『山ねずみロッキーチャック』でしょう)のようなものが典型的な「テレビまんが」といえます。
     ちなみにアニメ『SHIROBAKO』で「アンデスチャッキー」の主題歌アニメーションが出てくる場面では、1番でチャッキーの隣にいるヒロインが2番では馬のキャラと寄り添っていて、地味にNTR(寝取られ)っぽい雰囲気が成立しているので必見です。
     子供の世界(3〜6歳頃)は「怖さ」と結びついているところがあります。これは重要なことで「怖さ」は記憶の深層をついてきます。世代ごとに「怖さ」の領域は異なりますが、私について言うと、この年代の頃はピエロが怖かったですね。理由は簡単で、デパートの屋上にミニ遊園地があった頃、お金を入れるとピエロ人形が踊るのを見ることができるマシンがあって、薄気味悪かった記憶があります。今は別に怖くないですが、例えばピクサーの『インサイド・ヘッド』でピエロキャラが深層の恐怖を現している場面では個人的な理由で感情移入していました。
    ■ 70年代キッズアニメの領域から離脱して生まれた「深夜アニメ」
     先ほど例に挙げた「アンデスチャッキー」は1970年代アニメをモチーフにしているわけですが、70年代のキッズアニメは今振り返るとやたらと暗い展開のものが目立ちます。『みなしごハッチ』などの寂しげなテイストですね。この頃の「テレビまんが」は、「まんが」という言葉が示す通り、絵本などを含めた広義のコミック文化との関係を含むと同時に「子どもがメインターゲット」という含意がありました。
     そんなキッズアニメから離脱していったのが今の「アニメ」と言えます。1974年の『宇宙戦艦ヤマト』以降に成立したアニメファンコミュニティには「ティーンズ=中学生になってもアニメを視聴し続ける」という意思がありました。現在の深夜アニメがエロ要素を含むものだらけであるということの一つの原点として、中高生がエロ好きということが起因しています。アニメを2次創作的に性や暴力を含む仕方で読み替えをしていったものが、今度は一次創作として大量に生み出されたということです。
     ティーンズ以降の世代がアニメを観続けるときに、二つの可能性が生まれました。ひとつは主として団塊世代以降に生じたことですが、マンガ文化が読者とともに題材や年齢の幅を広げていったことです。漫画で言うと『ビッグコミック』がその象徴です。『ゴルゴ13』の読者は老人になった今でもマンガを読みますよね。他方では、子ども向け作品であっても「読み」の対象にすることがあります。これは子ども向けの作品でもずっとついていくという考え方です。この時代の文化の香りを今も残しているのは、『ルパン3世』ぐらいでしょうか。
     もうひとつは、女児向けアニメでしばしば話題になる「大きなお友達」です。昔のアニメでいうなら『ミンキーモモ』あたりが、大きなお友達向けの需要がかなり大きかったアニメの典型です。これははっきり言って絵柄の問題です。80年代の女児向けアニメにおいて、例えば『クリィミーマミ』は、定番扱いになったこともあり、デザインなどのスタイルを受け継ぐアニメが存在しています。
     大きなお友達感のあるアニメは、たとえば1990年代なら『カードキャプターさくら』ですが、80年代では『ミンキーモモ』でしょう。私は小学生の頃から『なかよし』や『りぼん』を読んでいて、少女マンガ育ちという面をもちますが、自意識過剰だったこともあり、『ミンキーモモ』の絵柄を「男性オタク向け」とみなして敬遠していました。むしろ『クリィミーマミ』の方を好んでいました。今振り返ると痛い限りですが、少なくとも、現在古典的な定番としての位置を得た『クリィミーマミ』と、男性オタクファンが多数ついていた『ミンキーモモ』の絵柄の差異は、割と重要だったと思います。もちろんどちらにも「大きなお友達」ファンがいるわけですが、例えば『魔法少女リリカルなのは』のような、もっぱら男性向けの「魔法少女もの」が、演出だけでなく絵柄でも女児アニメとは異なるものになっていることを、こうしたあたりから考えることができるかもしれません。
     さて、アニメーション表現は一般に「寓話」を得意としています。古典的な動物寓話だけでなく、児童文学や絵本の世界とも密接に結びついたところがあり、だからこそディズニーやジブリの作風は、キッズアニメのイメージとなっているのでしょう。しかし今回語るキッズアニメは、日曜日の朝に放送しているアニメや夕方に放送されているアニメ、または一部少年誌原作作品です。週刊少年ジャンプ原作の『ワールドトリガー』は、チーム制FPSを題材とした戦略的マンガといった趣きをもちますが、ニチアサ枠で低予算のキッズアニメに半ば無理やりなってしまっている印象があり、こういうのもキッズアニメに入るでしょう。
     現在でも「実写」「アニメ」のイメージが分岐するさいに「キッズ層」が意識されていることを踏まえると、「キッズアニメ」は特別な考察を要する領域であると言えます。ただし、「キッズアニメ」と付き合っていくのは大変だと思います。とにかく話数が多いからです。たとえば今回、私が事前に『マイメロ』を全話追えず、シーズン1しかフォローできなかったように。
     以下、キッズアニメを考えていきますが、その際には「キッズアニメ」と「非キッズアニメ」の落差を考察していくと面白いのではないかと考えています。例えば、私は『ギャラクシーエンジェル』や『ミルキィホームズ』といった、シュールな作風の非キッズ系作品にも、ある種のキッズアニメ性を感じています。この点については、のちほど森脇真琴監督作品を扱うときに語りたいと思います。

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  • 『Free!』『たまこまーけっと』『ユーフォニアム』に見る京アニ表現の次なる可能性 (『石岡良治の現代アニメ史講義』京都アニメーション:境界の両岸(2))【毎月第3水曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.473 ☆

    2015-12-16 07:00  
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    『Free!』『たまこまーけっと』『ユーフォニアム』に見る京アニ表現の次なる可能性 『石岡良治の現代アニメ史講義』京都アニメーション:境界の両岸(2)
    【毎月第3水曜配信】 
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.12.16 vol.473
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    今朝は、批評家の石岡良治さんの連載『現代アニメ史講義』の第2回後編をお届けします。
    前編では「青春」を描くアニメスタジオとしての京アニの特質を論じましたが、後編では『Free!』『たまこまーけっと』『響け!ユーフォニアム』などの近作から、京アニ表現の次なる可能性を考えます。
    ▼プロフィール
    石岡良治(いしおか・よしはる)
    1972年東京生まれ。批評家・表象文化論(芸術理論・視覚文化)・ポピュラー文化研究。東京大学大学院総合文化研究科(表象文化論)博士後期課程単位取得満期退学。跡見学園女子大学、大妻女子大学、神奈川大学、鶴見大学、明治学院大学ほかで非常勤講師。PLANETSチャンネルにて毎月のレギュラー番組「石岡良治の最強☆自宅警備塾」を放送中。著書に『視覚文化「超」講義』(フィルムアート社)、『「超」批評 視覚文化×マンガ』(青土社)など。
    『石岡良治の現代アニメ史講義』これまでの連載はこちらのリンクから。
    前回:『石岡良治の現代アニメ史講義』第2回 京都アニメーション(前編)「境界の彼岸」 
    ■ 日常系・空気系への移行期
     次は『けいおん!』(2009年)から『氷菓』(2012年)までの時期をみていきます。
     Key作品で得た学園フォーマットの可能性を拡大したことが、この時期の特徴として挙げられます。この時期「脱(だつ)いたる絵」の傾向が進んでいったのですが、それが堀口悠紀子デザインの『けいおん!』で明確になりました。堀口さんは今では「白身魚」名義でのイラストレーターとしての活躍が目立ちますが、『らき☆すた』(2008年)から京アニ作品に携わっています。堀口さんの絵柄は『らき☆すた』から『けいおん!』にかけて、「セカイ系」から「日常系・空気系」へと移行していきました。

    ▲らき☆すた ブルーレイ コンプリートBOX

    ▲けいおん!!(2期)Blu-ray Box
     この時期、『涼宮ハルヒの消失』(2010年)、『映画けいおん!』(2011年)で映画枠に対応するレイアウトに適応できるようになったと考えています。『涼宮ハルヒの消失』における長門有希の屋上シーン、『映画けいおん!』のロンドンでのライブシーンにおける放課後ティータイムとロンドンという街の両方が写っているシーンに顕著にみられます。
     私たちが考える京アニのイメージはこの時期に形成されたと言えるでしょう。『けいおん!』以降、京アニ視聴者が増加したというのが私の考えです。
    ■ 京アニはキャラクターをどう動かしているか
     この2つの劇場版の間で犠牲になった作品が『エンドレスエイト』(注1)です。
     日本ギャグ漫画界の巨星、漫☆画太郎先生の技法に「コピーアンドペースト(コピペ)」というものがあります。(参考資料:白石俊平「漫☆画太郎論 「罪と罰」を読んで」 )漫☆画太郎さんのコピペは、トラック激突オチが有名ですが、機械的な反復が中心で、ときどきバリエーションが加わるものです。それに対して『エンドレスエイト』は完璧に全てを身体化して、毎回作画をしていました。京アニの実験作は、動作をひとつひとつ丁寧に描いてしまう特徴があります。動かしすぎではないか、または物語に関係のない動作をしているのではないかと疑問に思っている方はいらっしゃると思います。私自身の嗜好としては、拙著『「超」批評 視覚文化×マンガ』でも語っているように、マンガやアニメ、その他が生き生きとした動きを期待されている場所で、生命性のあるモノが動作を止めたり、死を迎えたり、切断されるところにポテンシャルを感じます。

    (注1)エンドレスエイト:涼宮ハルヒシリーズ原作第6巻『涼宮ハルヒの暴走』に収録されているエピソード。2006年の第1期アニメ化の際には扱われなかったが、2009年のアニメ化の際には映像化された。終わらない夏休みを繰り返す内容で、アニメでは8話連続して細かな脚本や演出の異なるほぼ同じ内容が放映され話題となった。


    ▲涼宮ハルヒの憂鬱 ブルーレイ コンプリート BOX
     しかし、京アニのアニメに関しては、動作を止めてしまうとキャラクターが死んでしまうからこそ動かすのではないか、という強迫性をたまに感じます。キョン妹による「キョンくん、電話〜」というセリフの反復に、漫☆画太郎先生のトラックオチに似たようなものを感じます。京アニの動きは、演出とマッチングしていないこともしばしばありますよね。しかし、そこにこそ京アニの良さがあります。一時的な演出として効果的かつエコノミカルに奉仕するような動きとは限らないのが、京アニのある種の過剰さであると言えます。
     『日常』においても校長と鹿のプロレス対決を本気で描きこんでいます。ここに京アニの執拗な強迫観念があると言えるかもしれません。『群像』2015年7月号の随筆(石岡良治「再び書き始めるために」、322-3ページ)で、私は『ピタゴラスイッチ』について語っています。『日常』の第1話は、意外なギミックもあり伏線も回収している点で完璧なピタゴラスイッチであると思います。
     私の印象論ですが、京アニは、バラバラなものを因果関係で繋げるチェインリアクションで連鎖反応的に描くことが必ずしも得意ではないように思います。キャラクター単体の描きこみは良いのですが、キャラクター同士があまりかみ合わないと言い換えることができます。そのズレがドラマを生み出すとも言えます。しかし、なぜうまくかみ合わないかというと、一つ一つの物体やキャラが、特定の機能に還元されていないからです。キャラの個性が大事にされている反面、ピタゴラスイッチ的な「回路」にはなりにくいため、『日常』の装置的なギャグにはそぐわないようは気がします。また、ギャグアニメは「静」と「動」の動きでメリハリをつけるものですが、『日常』においては全てのキャラクターが動きすぎであるように思います。

    ▲日常 ディレクターズカット版 DVD-BOX
     しかし、『日常』は再構成されたNHK放映版(2012年にEテレで放映)で、そのような残念さがだいぶ軽減されていました。私が京アニを常にスゴいとは思わない理由として、「編集」のキレが必ずしもよいわけではないところを挙げます。『AIR』『けいおん!』(1期)のように「シナリオ進行の速さ」がうまく機能している場合もありますが、このようなケースは尺の都合で外的に生まれた成功のような気がします。『日常』はDVDを売る商売という点では必ずしもうまくいかなかった、すなわち京アニ売上神話を崩した作品と言われる時がありますが、そこで生まれた副産物が、シャッフルして編集し直した『日常』NHK版です。するとそこにはピタゴラ装置性が生まれました。映像の中でも「動き」の連鎖反応は起きるのですが、「編集」で切る作業によって、シーンとシーンのつなぎがメリハリのあるものになりました。その結果、『日常』NHK版は一定の評価を得ることになりました。もちろんそこでカットされた場面を惜しむ人も多いため、今私が言っているような、『AIR』『けいおん!』(1期)『日常』NHK版が好き、という感性を持っている人は、いわゆる狭義の京アニ原理主義者とは明らかに違うように思います。
    ■ アニラジ系作品の元祖としての『らき☆すた』
     
     『らき☆すた』についても少しだけ言及します。現在人気のラジオ番組『洲崎西』(注2)は『らき☆すた』的なものとされていますが、その中でもどちらかというと「らっきーちゃんねる」的なものであると言えます。また「らっきーちゃんねる」は『gdgd妖精s』から『てさぐれ!部活もの』に至るまでの石ダテコー太郎(石館光太郎)作品にも見られる「アニラジ」的な作品に影響を与えているのではないかとも考えています。「らっきーちゃんねる」の意義については今後さらに明らかになるところもあるので、続けて考えなければいけないと思います。
     また、『らき☆︎すた』の舞台である鷲宮神社は「聖地巡礼」として最も成功した場所であると言えます。しかし、『らき☆すた』の聖地性はデフォルメが効いたもの(http://blog.livedoor.jp/seichijunrei/archives/51979645.html )なので、絵面としてはフォトリアルなクオリティとはいえません。OPにおいても、春日部のいたるところで登場人物がダンスを踊っているのですが、背景が交換可能な感じに映っています。しかしそのような風景こそが「聖地巡礼」においてヒットしたということは、ある意味『らき☆︎すた』は京アニの中でも例外的な作品と言えます。シャフトの『ぱにぽにだっしゅ!』からの影響がしばしば指摘されますが、色々と別の展開をみたところが興味深いアニメです。

    (注2)『洲崎西』:2013年7月2日から超!A&G+で放送されているラジオ番組。パーソナリティは若手女性声優の洲崎綾、西明日香。

    ■ 女性の視覚的快楽へと踏み出した『Free!』
     最後は『中二病でも恋がしたい!』(2012年)以降の時期です。この時期は自社レーベルが中心となっていった時期でした。この時期の作品で、私が素晴らしいと思う作品は『Free!』シリーズ(第1期は2013年、第2期は2014年放映)です。『Free!』は基本的には男性キャラが演じた『けいおん!』と言えるもので、そこに新しい要素が加わったものと考えています。一般的に女性向けコンテンツは、BLなどの性的な要素を展開するときにも、直接的な「肉体描写」よりは、登場人物同士のセリフや視線のやり取りなどの「関係性」に特化したものが多いと言われています。男性向けコンテンツが、女性キャラの容姿やボディパーツなどの「視覚的快楽」に向けられるのに対して、「関係性の妄想」を誘うような描写が際立つという形で対比されてきたわけです。典型的なのは、スカートを履いたキャラが出てくるときのニコ動でのコメントです。特にスカートの中が見えていない時でも、ネタのように「みえ」というコメントがほぼ確実に出てきます。それだけ男性向けのアニメ描写が「視覚的快楽」に向けられているわけですが、女性向けの場合には、それっぽいセリフの方がより作りこまれる傾向が多かったわけですね。

    ▲Free! 1 [Blu-ray]
     そこで『Free!』が画期的だったのは、OPで全員が上半身の筋肉を見せつけ、直接的な視覚的快楽要素を全面展開しているところです。乙女ゲーやBLコンテンツなどの、男性キャラが多数現れる作品では、もちろん何人か肉体派キャラがいることが多いのですが、『Free!』がすごいのは、葉月渚のような、通常なら筋肉が強調されることがないかわいい系ショタキャラであっても、当然のように筋肉質に描かれていることです。「上半身の魅力」へのこだわりをスタッフが表明していることが知られていますが、そうした筋肉描写が可能になったのは、京アニの作画の力があってこそといえます。全員腹筋が割れていることに加えて、例えば橘真琴は背筋の描写へのこだわりが徹底していて、回を追うごとにムキムキになっていっています。「視覚的快楽」というキーワードは、ローラ・マルヴィ(注3)というフェミニズム映画理論家の論文に出てくる言葉なのですが、そこではもっぱら「女性の身体が男性視聴者に対して現れる姿」が批評されていました。言うなれば、『Free!』は深夜アニメの世界において、この関係性を反転し、女性視聴者にとっての視覚的快楽としての筋肉、という描写を確立したのではないか、と考えています。

    (注3)ローラ・マルヴィ:フェミニズム映画理論家。1975年の論文「視覚的快楽と物語映画」で、古典的ハリウッド映画において女性が「見られる存在」として描かれることによって、観客の視線が常に男性的主体として位置づけられることを指摘した。


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