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お申込み締切は本日9月14日(金)まで! 『PLANETS vol.10』先行予約を受付中です
2018-09-14 14:30本日9月14日(金)23:59までのお申込み限定で、宇野常寛 責任編集の雑誌『PLANETS vol.10』先行予約を受け付けています。まだの方はぜひご予約ください!
先行予約でお申込みいただくと、
(1)一般発売よりも早く、書籍を出荷します! 書店・Amazonでの発売は10月初旬予定ですが、こちらの期間中にご予約いただくと、9月25日(火)〜27日(木)頃に出荷を致します。(通常、出荷から2〜3日でお手元に届きます)
(2)特典がつきます。 ①『PLANETS vol.10 が100倍おもしろくなる全ページ解説集』 編集長・宇野常寛によるオリジナルの解説集です。これが読めるのは先行予約の方だけ!
②宇野常寛によるお手紙 読者の皆様へ、感謝の気持ちをつづります。
☆ご予約はこちらから(PLANETS公式オンラインストア)☆ http://bit.ly/2p6e8dS
▼『PLANETS -
宇野常寛『汎イメージ論 中間のものたちと秩序なきピースのゆくえ』第五回 吉本隆明とハイ・イメージのゆくえ(4)【金曜日配信】
2018-09-14 07:00
本誌編集長・宇野常寛による連載『汎イメージ論 中間のものたちと秩序なきピースのゆくえ』。戦後中流的な核家族による〈対幻想〉は共同幻想に飲み込まれ、糸井重里的な「モノへの回帰」による〈自己幻想〉の更新も無効化される、「自立」の思想はいかにして可能か。吉本隆明が重視しなかった〈兄弟/姉妹的な対幻想〉にその端緒を探ります。(初出:『小説トリッパー』 2018 夏号 2018年 6/25 号 )
3 共同幻想からハイ・イメージへ
戦後社会を支えた「大衆の原像」――戦後中流的な核家族――というかたちでの対幻想への立脚も、そしてそんな戦後社会の黄昏に出現した消費社会下における「モノ」の消費を用いた自己幻想強化も、今日において情報技術に支援されて拡大するボトムアップの共同幻想の前には無力だ。 では、どうするのか。ここでは予告したようにその手がかりを吉本隆明自身が遺した思考に求めていきたい。 糸井重里による「モノ」への回帰は、吉本隆明が、いや戦後日本が思想的に乗り上げた暗礁からの、吉本隆明的なものの批判的継承によって試みられた脱出法の模索だったといえる。 このときの糸井のアプローチは(かつての吉本がコムデギャルソンに身を包んで雑誌に登場したときのように)自己幻想の水準で行われている。 では、同様の批判的継承を対幻想の次元で行うことは可能だろうか。 『共同幻想論』にはふたつの対幻想が登場する。ひとつは夫婦や親子といった核家族的な対幻想であり、時間的な永続と結びついている。もうひとつは兄弟姉妹的な対幻想で、これらは空間的な永続と結びついている。つまり前者は閉ざされた関係性をつくり、子を再生産することで時間的な永続をその幻想の中核にもつ。対して近親姦の禁忌によって開かれた関係性を構築する後者は、子を再生産しないために時間的永続の幻想を持ち得ないが、代わりに空間的な永続を保持する。 そして吉本は同書で、本来「逆立」するはずの後者の対幻想が共同幻想と結びつくメカニズムを――私たちが国家を擬似家族的な共同体として捉えたがってしまうメカニズムを――解き明かしている。吉本によれば古代社会における国家とは、後者の兄弟姉妹的な対幻想が、共同幻想に転化することで氏族社会が拡大したものだ。この時期の吉本の思想的、政治的な実践において、夫婦/親子的な核家族的な対幻想が二〇世紀最大の共同幻想である国家への抵抗の拠点として選択されるのはそのためだ。
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橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第6回 金融 銀行はなぜ平日に休めるようになったのか 〜地銀を改革に追い込む怒涛の規制緩和〜
2018-09-13 07:00
現役官僚の橘宏樹さんが「官報」から政府の活動を読み取る連載、『GQーーGovernment Curation』。電子マネーやFintechの普及、仮想通貨の登場によって変革期を迎えている金融業界ですが、金融庁が監査の基準を大転換したことで、特に地方の金融機関は、地域経済において新しい役割を担わされることになりそうです。
こんにちは。橘宏樹です。国家公務員をしております。このGovernment Curation(略してGQ)は、霞が関で働く国民のひとりとして、国家経営上本当は重要なはずなのに、マスメディアやネットでは埋もれがちな情報を「官報」から選んで取り上げていくという連載です。どんな省益も特定利益にも与さず、また玄人っぽくニッチな話を取り上げるわけでもなく、主権者である僕たちの間で一緒に考えたいことやその理由を、ピンポイントで指摘するという姿勢で書いて参ります。より詳しい連載のポリシーについては、第一回にしたためさせていただきました。
【新連載】橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第1回「官報」から世の中を考えてみよう/EBPMについて
2018年8月は、第100回となる夏の甲子園やアジア大会で熱戦が繰り広げられました。また、映画「カメラを止めるな!」のヒットも注目を集めました。他方で、月末のさくらももこさんの訃報も大変印象深く、心からご冥福をお祈りしております。 永田町では、国民民主党の代表選は玉木雄一郎氏の再選に落ち着く一方、9月の自民党総裁選は安倍総理と石破元幹事長と事実上の一騎打ちとなることが確定しました。そして、来年の統一地方選挙、夏の参議院選へと、政治の季節に備えてそれぞれ準備を整えていくことになります。霞が関では、各省の来年度予算の概算要求内容が公表され財務省との折衝が始まっていきます。 また、個人的には、8月21日にはPLANETS CLUBの定例会にお招きいただき、メンバーの皆様と「チャタムハウス・ルール」の下で楽しい時間を過ごすことができました。話題になった「『平成最後の夏期講習』の続き」を宇野編集長とやることができまして、いい夏の想い出ができました。
8/21(火)開催!現役官僚・橘宏樹さんに聞く、行政・政治の未来(PLANETS CLUB第6回定例会)
さて、今回は「金融」を取り上げたいと思います。色々な動きがありますが、今回は、8月10日の閣議では「銀行法施行令等の一部を改正する政令」などを中心に、特に地方銀行に対して金融行政が何をしようとしているかについて、ざっくりご紹介したいと思います。
たぶん、今、金融界ほど未曽有の激動に直面している業界はないのではないでしょうか。技術革新が金融の業態それ自体を猛烈なスピードで変化させています。例えば、“Fintech”(決済や送金など金融業務に情報技術を用いること)が広がっています。AIもどんどん取り入れられています。この数年で、電子マネーの利用、キャッシュレス化もかなり進んでいます。インターネット・バンキングも普通になりました。仮想通貨への投資もかなり身近なものになりました。またこれらの変化に伴って、銀行員の人員削減や支店の削減、地銀の経営統廃合のニュースも増加しています。「技術もグローバルスタンダードもどんどん変わっているのに、なぜかなかなか変わらない。」というような「ガラパゴスあるある」な話が多いコンサバ日本組織社会ですが、この分野はかなり違うようです。
◆変貌する金融庁
こうした状況に対して、金融庁も規制を設けたり緩和したり、と、施策をどんどん展開しています。「今、面白い仕事をさせてもらってる」という金融庁職員の友人も多いです。金融庁自身も変化しています。確かに、今年6月に出された金融庁の基本方針「金融検査・監督の考え方と進め方 (検査・監督基本方針)」は興味深いです。銀行等を検査監督する際に思考停止してしまわないように、ということで、なんと「検査マニュアル」を廃止するとまで言っています。「ルール・ベース」から、より本質や大局を捉える「プリシンプル(原理原則)・ベース」とのバランスを謳っています。
▲「金融検査・監督の考え方と進め方 (検査・監督基本方針)」より
さらには、7月4日に「金融庁の改革について」との文書を発して、時代に合わせたガバナンスを宣言し、組織体制も「総務企画、監督、検査」の3局体制から「総合政策、企業市場、監督」の3局体制に改めました。これらは、先月退任した大物長官と呼ばれた森信親前金融庁長官のリーダーシップによるところとも聞いています。
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本日21:00から放送☆ 宇野常寛の〈水曜解放区 〉2018.9.12
2018-09-12 07:30
本日21:00からは、宇野常寛の〈水曜解放区 〉!
21:00から、宇野常寛の〈水曜解放区 〉生放送です!
〈水曜解放区〉は、評論家の宇野常寛が政治からサブカルチャーまで、
既存のメディアでは物足りない、欲張りな視聴者のために思う存分語り尽くす番組です。
今夜の放送もお見逃しなく!★★今夜のラインナップ★★メールテーマ「私の自慢」今週の1本「アントマン&ワスプ」アシナビコーナー「ハセリョーPicks」and more…今夜の放送もお見逃しなく!
▼放送情報放送日時:本日9月12日(水)21:00〜22:45☆☆放送URLはこちら☆☆
▼出演者
ナビゲーター:宇野常寛アシスタントナビ:長谷川リョー(ライター・編集者)
▼ハッシュタグ
Twitterのハッシュタグは「#水曜解放区」です。
▼おたより募集中!
番組では、皆さんからのおたよりを募集しています。番組へのご意見・ご感想、宇野に聞いて -
岸本千佳『都市を再編集する』第5回 ありふれた倉庫を「自分の城」につくりかえる
2018-09-12 07:00
不動産プランナーの岸本千佳さんによる連載『都市を再編集する』。今回は、岸本さんが自身の事務所のために行ったリノベーションです。人づてに舞い込んできた、微妙な立地の業務用倉庫の案件。決してポジティブではない諸条件をプラスに転換すべく、岸本さんの「再編集」が始まります。
何の変哲もない倉庫に潜む新しい価値
前回までは、建物の所有者から依頼が来て、プロジェクトがスタートしましたが、今回は、はじめて自らリスクを取ってスタートしたプロジェクトです。金額も規模も小さいですが、小さく始めることが大事だと心がけています、何事も。
2015年夏、間借りをしていた事務所を出て、そろそろ自分の城をつくろうと考えていました。ここは不動産屋という身分を存分に生かしてお得な物件を借りて、プランナーらしく、せっかくなら自分を実験台に、他人の物件ではできない何か面白いことをしてみたい。 場所や家賃といった条件はかなり広範囲に、ぼんやりと考えていました。広ければ誰かに貸したり、シェアできる人を見つければいいと思っていたからです。 そんな矢先、知り合いの工務店さんから「物件を見に来てほしい」と電話がありました。これまでも何度か物件の相談を受けている工務店さんで、私の運営している物件メディアに掲載する、もしくは活用のアイディアがあれば企画から入る。内見時は、そのどちらも可能性があります。なんでも、工務店自身が使っている「倉庫」とのこと。物件は例えば事業用(店舗など)の場合、住居よりも通常高い賃料だったり、用途によって金額が決まってきます。その中でも倉庫は最底辺。 だけど、使う側にしてみれば、不動産屋と大家で決めた用途が必ずしもハマるわけではない。私は、駐輪場バーや木賃アパートのシェアアトリエのこれまでの経験から、「用途に惑わされず、ピュアな眼で空間だけを見る」ことの重要性を知っていました。
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鷹鳥屋明「中東で一番有名な日本人」第13回 中東とゲームの関係、中東に本当に廃課金ユーザーは多いのか?
2018-09-11 07:00
鷹鳥屋明さんの連載『中東で一番有名な日本人』。中東でもゲームは大人気の娯楽。スマホのアプリゲームに多くの人がお金と時間を投じているほか、90年代の日本の名作RPGを強く意識した国産ゲームも開発されているようです。知られざる中東のゲームカルチャーについてレポートします。
今年の日本の夏も大変暑いですが、中東の夏も40度を超え、場所によっては60度を超える場所もあります。湿度がそこまでないので不快感はないですが、海側の沿岸部に行くと湿気があるのでなかなかきついです。 そして夏の時期は現地の人は外に出ることなく、家でテレビをみるか、ビデオゲームで遊ぶか、インスタグラムやスナップチャット、SNS、そして携帯電話でプレイをするアプリゲームを楽しんで時間を潰したりします。娯楽が今まで少なかった中東では携帯電話による手軽な娯楽が生活の中に溶け込んでいきました。
▲中東のゲームショップの様子
2015年のデータになりますが、約750人の日頃アプリゲームを楽しむサウジアラビア人に調査したデータによると(出典:©Amir・Bozorgzadeh許可取得済み)サウジアラビアで1日に1時間以上アプリゲームを行う層は全体の53%で、さらに1日5時間以上ゲームをする、と答えた層は全体の12%を占めています。
▲サウジアラビア人ゲーマーの1日当たりのアプリゲームプレイ時間
日本でもよく言われますが、ゲームにおいて課金という要素はとても大きなものです。廃課金という言葉がありますが、アラブの課金ユーザーはどのくらい課金しているのでしょうか?
▲サウジアラビアゲーマー1ヶ月当たりの課金額データ(1SAR=30JPY)
グラフ上の「SAR」はサウジアラビアリヤルの略で1SARは日本円で約30円になります。 月々の課金が1500円〜3000円が約61%、3000円〜1万5000円が26%、1万5000円〜3万円が9%、3万円以上が4%となります。 サウジアラビア人もかなりの時間とかなりの額をアプリゲームに費やしていることがわかります。
▲サウジアラビアでダウンロードされるジャンル別アプリゲーム
また人気ジャンル別のダウンロード数では戦略ゲーム、アドベンチャーゲーム、アクションゲームが人気となっています。中東の各国では今までアメリカで作られたアドベンチャー、パズルなどのゲームをそのままプレイし、課金を行なっていました。また人気のタイトルはアラビア語に翻訳されてプレイできるものもあります。このように手軽な娯楽として機能しているアプリゲームですが、そこに目をつけて、近年では中東ユーザー向けの中東オリジナルの作品を作り、自国のゲームで課金ユーザーを囲い込もうとする国産化の動きが出てきました。
▲西洋によるアラブ人向けのアプリゲーム例「ARAB EMPIRE」
UAE産ゲームの草分けの存在、「AFTERWORK GAMES」
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レゴが世界の見え方をビルドする――レゴ認定プロビルダー・三井淳平インタビュー (PLANETSアーカイブス)
2018-09-10 07:00
今朝のPLANETSアーカイブスは、レゴ認定プロビルダー・三井淳平氏のインタビューです。世界で13人目、日本人初のレゴ認定プロビルダーである三井さん。レゴの世界に魅せられたきっかけや、レゴビルディングにおける微分派・積分派という流派の違い、日本画とレゴの意外な関係性などについて、お話を伺いました。(司会・構成:池田明季哉) ※この記事は2014年11月14日に配信した記事の再配信です。
■微分と積分、見立てと積層
宇野 僕は最近レゴがすごく面白いなと思って、子供の頃以来にキットを買って作っているんですが、今年はレゴがすごく大人に注目されている一年だと思うんです。『LEGO ムービー』も公開されましたし、『レゴはなぜ世界で愛され続けているのか』という書籍が翻訳されてビジネスマンの間で盛り上がりました。
でもその現状に対して、ひとりのレゴファンとして不満もあるんです。『LEGO ムービー』はすごく大好きな映画で傑作だと思っているんですがあの映画の中核にあるのは、言ってみればレゴを取り巻く状況に存在するイデオロギー対立ですよね。レゴをめぐる「思想」に焦点を当てている。そして書籍の方は「最高のブランドを支えるイノベーション7つの真理」というサブタイトルがついていて、ビジネスとしておもちゃメーカーが頑張った話に終始している。
もちろん、そういった視点も興味深いのだけど、個人的にはレゴブロック自体の魅力や、組み立ての魅力に踏み込んだ議論があまりないことが不満だったんです。そこで世界で13人目、日本初のレゴ認定プロビルダーである三井さんに、そうしたところも含めていろいろお話を聞こうと思ってお呼びしました。今日はよろしくお願いいたします。
三井 ありがとうございます。よろしくお願いします。
――まずは三井さんの作品作りについてお伺いしていきたいと思います。三井さんはいろいろな作品を作っていますよね。一番最初にレゴに興味を持ったきっかけはなんなんですか。
三井 小さいときからずっと遊んではいたんですが、本格的なものを作ろうと思ったのは、中学生くらいのときにインターネットで作品を見たのがきっかけです。ブロックをたくさん使って模型に近いようなものを作っている人がいたんですね。それが大人としてのレゴのはじまりです。
――模型に近いような、ということは、精巧さに感動したということでしょうか。
三井 精巧さももちろんそうなんですが、発色の感じとか、敢えてデジタルな感じとか、素材をさらに面白く見せることができるという印象を持ったんです。
――言わば大人のレゴとしての最初の作品は何を作ったんですか。
三井 戦艦大和の小さい模型ですね。
――戦艦大和のどこに魅力を感じて選んだのでしょう。
三井 やはり形が魅力的だったことが大きかったです。機能美と言いますか、洗練された使いやすさや性能を求めた結果、形が綺麗になっていくものに面白さを感じていて。いくつか候補はあったんですけども、戦艦大和の形は、ぜひレゴで表現したいと思いました。しかもまだ誰も手をつけていなかったので、これは作りたいなと思ったんです。
――それからどんどんレゴビルディングをしていくことになるわけですね。一番最初にレゴで周りに認められたのは、どういった作品だったのでしょうか。
三井 それも戦艦大和で、6m近くある巨大なものを、マンションの一室をまるまる使って作りました。レゴファンが画像をアップする「ブリックシェルフ」というサイトがあるのですが、そこにアップしたらランキングに乗ったりして、海外の方にもたくさん見ていただきました。
▲The Creators - LEGO minifig movie
――僕もレゴは昔からすごく好きで、三井さんの作品もたくさん見てきたのですが、他のレゴビルダーさんと違う独自の世界観や方法論があると思ったんです。ご自分では、レゴビルダー三井淳平の作品の特徴は、どのようなものだと思われますか。
三井 できるだけ基礎的なブロックを使っているところでしょうね。カーブしているパーツとか、ある程度形が出来上がっているパーツは使わないようにしています。表現がちょっと極端になっても、そこは基礎パーツを使って表現したいという思いがあります。
――なるほど。三井さんの限定されたピースで作るという作風が、レゴの魅力とマッチして素晴らしいものになっているんですね。どうしてそういった手法に辿り着いたのでしょう。
三井 辿り着いたと言えるかどうかわかりませんが、自分の中で整理されるきっかけになったのは、日本の方が作ったスヌーピーのモデルを見たことです。その方はウェブサイトを運営していて、制作過程も全部掲載されていたんですね。そこで紹介されていたのは、レゴを形作るとき断面を意識して重ねていくという手法で、「積分モデル」という表現がされていました。自分も断面図を常に意識して、断面を縦からも横からもCTスキャンのように積み重ねていく手法を使っていたので、それが「積分」という形で整理されたという経験はありました。
▲こちらも三井氏による球体の制作動画。さまざまな方向に積層したパーツを最終的にひとつにまとめている
宇野 僕は模型も好きなんですけど、コンピュータ上で3Dデータを使って設計したり、固まりから原型を削りだすような手法ではそういった発想にならないはずですよね。僕はレゴだからこそ表現できる快楽は、リアルなモデルとは別にある気がするんです。レゴと他の立体物は、どう決定的に違うと思われますか。
三井 いくつか要素はありますね。ひとつはさきほど言いました、積分的な手法です。粘土だと全く同じものを作るのは指先の器用さがかなり必要ですが、レゴの場合はコピーを作ろうと思えば簡単に作れます。特にブロックを積み重ねる積分型の作品の場合、形状の再現性が高いんです。だから試行錯誤がしやすいというのが大切です。断面を意識しながら形を作るという方法に、レゴが最も合っている部分ですね。
これとは別に、見立てによって対象を近似的に置き換えていくという作業も出てきます。これは言わば微分的な手法と言えます。対象を細かく分解して、それぞれの部分を最も合ったパーツで置き換えていくわけですね。さらにパーツ同士を組み合わせて、このパーツとこのパーツを組み合わせればこうなる、というパターンがある程度あって、あとはそれを空間的に配置していく、というイメージです。これもレゴの再現性に関わる良い部分だと思います。
――なるほど、レゴのユニークさには、単位を積み重ねて行く積分的な手法によるものと、細部に分解していく微分的な手法によるものがあると。この積分的な作り方と微分的な作り方というのは、結構はっきり分かれるものなんですか?
三井 はい、これは結構はっきり分かれています。ビルダーもふたつの方向にだいたい分かれていますね。
宇野 以前カーデザイナーの根津さんとレゴについて対談したときに、「レゴというのはディフォルメと見立てだ」という話をしたんです。そのときには、今三井さんがおっしゃったような、積分的な手法と微分的な手法のふたつをあまり厳密に区別していなかった。でも今日お話を聞くと、明確にふたつの対立した流派があるということですね。北斗神拳と南斗聖拳みたいな(笑)。
(参考:【特別対談】根津孝太(znug design)×宇野常寛「レゴとは、現実よりもリアルなブロックである」 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.090 ☆)
三井 そうですね(笑)。積分派というのは、作りたい対象を機械処理的に分析していくところがあります。使うブロックも基礎ブロックが中心です。対して微分派の人はパーツありきで始めます。このパーツはこういうカーブを描いているから、このカーブと言えばエイリアンの映画に出てきたエイリアンの頭の形だな、みたいなそういう発想になっています。だからパーツも、特殊なパーツを多く使う傾向があります。
宇野 つまり三井さんの属する積分派というのはレゴドットによる構造把握の面白さを出す、構造批評のような方に向かって行くと。対して微分派というのは対象の表層を別のものに近似していくことによって、ユニークな模型を作る方向であると言えるわけですね。どちらが多いとか少ないとかあるんですか?
三井 日本の住環境として狭いというのがあるので(笑)、積分派の方はひたすらにブロックを必要とするということもありまして、微分派がやや多いかもしれないですね。
――解像度を上げるためにはスケールが必要になってきますからね。
三井 解像度という意味では、実はスケールを大きくする以外にも、多次元的に積層を行うという方法もあるんです。普通は下から積み上げて行くのですが、ブロックの向きを縦にも横にも使っていくと、単に積み上げるのではないモデルを作ることができます。例えばホワイトタイガーはまさにその考え方で、多次元的な積層をした結果、動物の姿を作っているといった感じです。
▲ホワイトタイガー。「TVチャンピオンレゴブロック王選手権2010」の番組内で制作。ブロックのポッチの部分が様々な方向を向いているのがわかる
■ディフォルメの批評性――層の再構築
宇野 僕はレゴの魅力というのは、独特のディフォルメにもあると思うんです。三井さんはそれについてはどう思われますか。
三井 それは私も常日頃から感じているところです。対象をレゴのモデルとして構築していくときにディフォルメをしていくわけですが、その中で本質に近づく機会はいくつもあります。
例えば建築物だと「構造上この部分が芯になっている」という部分があります。こうしたキーになる部分をしっかり作ると、当然その部分が強調された作りになります。こうした鍵になる部分というのは、多くの場合対象物を外から見てもふんわりとしかわからないのですが、レゴにすることによってより明確になることがよくあります。
彫刻家の方がよく使われる表現ですけど、「人を考えるときにはまず骨格を考えて、それから形を作って行くとリアルなものが作れる」と言います。そこはレゴにも通じている部分があって、表面的な肉のつき方から入るのではなくて、骨格がこうなっているからこうなっているはずだ、というところから考えた上で作って行くと、非常に良いものができる、ということはあります。
宇野 これはとても大事な話だと思います。絵画や彫刻の場合は、あくまで表層にリアリティを出すために骨格を仮定しようということですよね。でもレゴはそもそも骨格を想定して構築しない限りモノができない。なぜなら構造がしっかりしていないと崩れ落ちてしまうからです。このふたつは似ているようだけれども、レゴの方が圧倒的にその条件に支配されている。レゴによる優れて批評的、本質的なディフォルメをするためには、積分的な思考によって構造というものを把握して再構築しないといけないということですよね。
三井 そうだと思います。私は実際に設計図というのは全く書きません。やるとしても自分でスケッチを描くくらいです。設計図を作ってしまうと、どうしてもそれを表面的にトレースする形になってしまうんです。そうではなく、表現したい頭の中のイメージに近づけていくようにしています。
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宇野常寛『汎イメージ論 中間のものたちと秩序なきピースのゆくえ』第五回 吉本隆明とハイ・イメージのゆくえ(3)【金曜日配信】
2018-09-07 07:00
本誌編集長・宇野常寛による連載『汎イメージ論 中間のものたちと秩序なきピースのゆくえ』。情報社会化の進行にともなう人々の共同幻想への依存、その処方箋のひとつに糸井重里の「ほぼ日」があります。「モノからコトへ」の時代に、あえてモノに回帰することで自立を促す。糸井が提案する洗練されたスタイルの意味と射程について考えます。(初出:『小説トリッパー』 2018 夏号 2018年 6/25 号 )
2 モノからコトへ、そしてもう一度モノへ?
ではどうするのか。 ここではこの問題を少し違った角度から検討してみよう。 今日における吉本隆明の紹介者として糸井重里の仕事を、とりわけ「ほぼ日刊イトイ新聞」を補助線的に参照したい。 糸井重里にとっての「ほぼ日刊イトイ新聞」(一九九八年開設、以下「ほぼ日」)は言ってみればまだ人々がモノの消費で自己を表現していた時代の黄昏に、インターネットという新しいメディアというかたちで出現したコトの消費の先駆けだった。そのメッセージは一言で言えば「現代の消費社会に対してはこれくらいの距離感と進入角度で接すると自分も気持ちよく、他人にも優しくできる」というものだ。インターネット上の文章という、無料の、それもインターネットに接続されたパソコンさえあればいつでも、どこでもアクセスできる文章を日常の中に置く。当時糸井が提示したインターネットとは、個人が自分でちょうどよい進入角度と距離感を調節できるメディアだった。天才コピーライターの糸井がこの自らのメディアに与えた「ゴキゲンを創造する、中くらいのメディア」とは、要するに消費社会に対する気持ちのいい進入角度とほどよい距離感とを提案するメディア、という意味だと思えばよいだろう。それは言い換えればモノ(消費社会)とうまく距離を取るためのコト(情報社会=インターネット)ということでもある。初期の「ほぼ日」は、この時期のインターネットのウェブサイトの大半がそうであったように「読みもの」主体の「テキストサイト」だった。まさに「ほぼ毎日」更新されるコラムや対談記事は、そのテキストの指示する内容よりも、「語り口」をもってして世界との距離感を表明していた。それは吉本的に述べれば、明らかに「指示表出」よりも「自己表出」に力点が置かれたメディアだった。 しかし今日の、上場後の「ほぼ日」は違う。
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森田真功「関与するものの論理 村上龍と20-21世紀」 第2回『オールド・テロリスト』と『希望の国のエクソダス』をめぐって(1)
2018-09-06 07:00
批評家の森田真功さんが、小説家・村上龍の作品を読み解く『関与するものの論理 村上龍と20-21世紀』。2015年刊行の長編小説『オールド・テロリスト』の舞台は、『希望の国のエクソダス』(2002)の19年後の日本です。00年代と10年代、少年と老人、建国とテロリズム――対象的な主題を扱うこの2作品に共通しているのは、週刊誌・ワイドショー的な想像力が成立させている共同体への、強烈な否定でした。
老人たちの蜂起を描く『オールド・テロリスト』
80年代や90年代における活発さと比べるのであれば、近年の村上龍は作家としての活動をさぼり気味である。したがって、目下のところの最新作は、2015年に発表された『オールド・テロリスト』だということになる。『オールド・テロリスト』が古い世代の存在とテロリズムに紙幅を割いていることは、題名に示されているとおり。単行本の「あとがき」にある村上の言葉を借りるなら〈70代から90代の老人たちが、テロも辞さず、日本を変えようと立ち上がるという物語のアイデアが浮かんだのは、もうずっと前のこと〉であって〈彼らの中で、さらに経済的にも成功し、社会的にもリスペクトされ、極限状況も体験している連中が、義憤を覚え、ネットワークを作り、持てる力をフルに使って立ち上がればどうなるのだろうか〉という問いを作品の支柱にしていることがわかる。
▲『オールド・テロリスト』(2015)
老年に差し掛かったベテランの作家が、老人に材を取った作品に取り組むことは一種の必然であろう。自身が関わっているテレビ番組の「カンブリア宮殿」で巡り会った成功者をヒントにした部分があるのかもしれない。いずれにせよ、若い世代の共感に寄り添うような立場とは距離を置き、物語が作られていることは明らかだ。1996年の『ラブ&ポップ』に付せられた「あとがき」における〈(女子高生のみなさん)私はあなた方のサイドに立ってこの小説を書きました〉という発言のなかで射程に置かれていたのとは異なった層が『オールド・テロリスト』では見据えられているのである。他方、社会の高齢化は、2010年代に入り、より深刻になりつつあって、そこにフォーカスを絞った作品だとも読める。ちなみに2015年には、かつてヤクザであった老人の右往左往を描いた北野武の映画『龍三と七人の子分たち』が公開されている。こうしたシンクロニシティは、いかに社会の高齢化がオンタイムなテーマであったかの証左になりえると思う。
さて、しかし、率直に述べれば、『オールド・テロリスト』は、村上龍の著作において特に秀でた小説というわけではない。荒唐無稽な筋書きと登場人物たちを囲うスケールとが、どうもちぐはぐな印象を受けるし、展開に中弛みがあり、終盤のカタストロフィまで引っ張っていく力に弱さを覚えるのである。熱心なファンでさえ(あるいは熱心なファンだからこそ)まず『オールド・テロリスト』を挙げる向きは少ないのではないか。だが、決して捨てておくべき小説でもない。先にいったように、今日的な社会の問題、現代的な日本の風景を作品は下敷きにしており、それを切り出していく筆致に村上龍の「らしさ」がある。この国と、そして、この現在とに直結した困難を突きつけてくるかのような「らしさ」である。全体の整合性であるよりも一場面ごとにグロテスクなうねりを感じさせる「らしさ」が、作品に長編であることとは別のレベルでヴォリュームを与えているのだ。では、その「らしさ」は何によっているのか。『オールド・テロリスト』の語り手であるセキグチのプロフィールが大きな手がかりとなっている。
週刊誌的なリアリティに属するもの
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本日21:00から放送☆ 宇野常寛の〈水曜解放区 〉2018.9.5
2018-09-05 07:30
本日21:00からは、宇野常寛の〈水曜解放区 〉!
21:00から、宇野常寛の〈水曜解放区 〉生放送です!
〈水曜解放区〉は、評論家の宇野常寛が政治からサブカルチャーまで、
既存のメディアでは物足りない、欲張りな視聴者のために思う存分語り尽くす番組です。
今夜の放送もお見逃しなく!★★今夜のラインナップ★★今週の1本「ペンギン・ハイウェイ」アシナビコーナー「井本光俊、世界を語る」and more…今夜の放送もお見逃しなく!
▼放送情報放送日時:本日9月5日(水)21:00〜22:45☆☆放送URLはこちら☆☆
▼出演者
ナビゲーター:宇野常寛アシスタントナビ:井本光俊(編集者)
▼ハッシュタグ
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