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記事 29件
  • 【全文無料公開】奥能登の知られざる魅力を満喫! 奇跡の地方創成モデル「春蘭の里」訪問記(後編)

    2018-11-21 07:00  

    2018年10月、地方創生の貴重な成功例として注目を集めている石川県能登町「春蘭の里」に宇野常寛とPLANETS編集部がお邪魔してきました。奥能登の旅のレポートの後編では、過疎化の中で「春蘭の里」はいかにして甦ったのか、現地の立役者の方々に話を聞きながら、NPOと連携しクラウドファウンディングを活用する、新しい地方創生のあり方についてお伝えします。全文無料公開です。 ※本記事の前編はこちら
    「春蘭の里」のクラウドファウンディングはこちらから(11月25日まで)
    春蘭の里から普遍的な地方創生へ
     夕闇もふけてきた頃、今回は「春蘭の里」という、PLANETSの「公開取材」と銘打って、宇野と多田さんの対談収録が行われました。「春蘭の宿」の立派な囲炉裏をぐるりと10人ほど囲み、多田さんのお話にじっと耳を傾けます。
    ▲公開収録の様子
     開始早々、さっそく宇野から多田さんに「春蘭の里」成長の秘訣につ
  • 【全文無料公開】奥能登の知られざる魅力を満喫! 奇跡の地方創成モデル「春蘭の里」訪問記(前編)

    2018-11-20 07:00  

    地方創生の貴重な成功例として注目を集め、目下クラウドファンディングによる全国への支援呼びかけも実施中の石川県能登町「春蘭の里」に、宇野常寛とPLANETS編集部がお邪魔してきました。恵まれた風土と文化、豊富な山海の幸、故郷を蘇らせるため奮闘するパワフルなリーダー。そこから見えてきた「地方創生」の形とは? 2日間にわたる奥能登の旅のレポートを前後編でお届けします。全文無料公開です。
    「春蘭の里」のクラウドファウンディングはこちらから(11月25日まで)
    1泊2日、奥能登「春蘭の里」へ!
     高く澄み渡る秋晴れの空、四方に紅葉間近の濃い緑の山、山、山…。とある10月のある日、PLANETS編集部一行は「のと里山空港」に降り立ちました。
    ▲のと里山空港の入り口
     ことの発端は2018年3月、向島百花園にて行われたNPO法人ZESDA主催のイベント「山菜の、知られざる魅力」。(イベントの様子はこち
  • 日本の町工場から鮮やかに蘇る東映怪人たち――「メディコム・トイ」代表・赤司竜彦インタビュー(PLANETSアーカイブス)

    2018-11-19 07:00  
    550pt

    今朝のPLANETSアーカイブスは、トイメーカー「メディコム・トイ」代表の赤司竜彦さんへのインタビューです。ソフビに関するディープな趣味の話題から、日本の「ものづくり」の本質と未来像。さらに、文化の世代継承をめぐる対話が繰り広げられました。怪人やヒーローたちのレトロな造形と鮮やかな色彩にも注目です。(構成:有田シュン) ※この記事は2015年2月27日に配信した記事の再配信です。
    ■日本の地場産業「スラッシュ成型」を活用すべく誕生した
     
    宇野 僕は普段、評論家として活動しつつメルマガの編集長としていろいろな記事を出しているんですが、時々完全に自分の趣味の世界の記事を出しているんです。そんな僕が今一番ハマっているものが「東映レトロソフビコレクション」シリーズです。ほぼ毎月買っています!
    赤司 本当ですか?(笑)
    宇野 そのくらいハマっているんです。それに「ハイパーホビー」(徳間書店)が休刊になったことが非常にショックで、僕はこれからどうやって「東映レトロソフビコレクション」の最新情報をゲットすればいいのだろうと途方に暮れていたんですが、「もう自分で取材に行くしかない」という結論に至り、今日お伺いした次第です。
     

    ▼メディコム・トイの運営するソフビ総合情報サイト「sofvi.tokyo」
     
    赤司 なるほど! ありがとうございます。
    宇野 今日はこの「東映レトロソフビコレクション」シリーズを手掛けてらっしゃる、赤司さんのお仕事について伺っていきたいと思います。そもそもこの「東映レトロソフビコレクション」シリーズを立ち上げたきっかけは何ですか?
    赤司 まずちょうど三年くらい前に、いわゆる日本の地場産業であるソフビを作る上でのスラッシュ成型を持つ工場の仕事がない、というお話をひんぱんに聞くようになってきたんです。当時は、大体ソフビ商品の9割が中国で生産されていたという時期だったのですが、その話を聞いて改めて「今、日本の工場はそんなに大変なんだ」「じゃあ日本の工場でできる仕事を何か考えないと」と考えるようになりました。
     ただ、弊社も日本での製造自体は、会社の創業当時以来12年くらいブランクがあったんです。そんな時にとあるメーカーの同世代の方からソフビ工場をいくつか教えてもらい、「東映レトロソフビコレクション」を作りたいんだけど、と相談したんです。
     そしたら、皆さん「えっ、メディコムさんってうちでやるんですか?」と意外にもびっくりされていました。もちろん中国と比べて、日本の方は製作費が高いというような背景はあったものの、「こんな小さなソフビフィギュアを作れるんだ」という技術力の高さもあって、ちょっとずつ仕事を始めたんです。
     そして一番最初に出たのが、『仮面ライダー』の「ドクガンダー」と『人造人間キカイダー』の「グレイサイキング」の2つです。2011年の発売です。なぜ『キカイダー』かというと、「なんで『キカイダー』のスタンダードのソフビはないんだろう」っていう夢を見たからなんです(笑)。 
     

    ▲東映レトロソフビコレクション グレイサイキング(『人造人間キカイダー』より)
     
    宇野 なるほど(笑)。 
    赤司 なんで当時作られていなかったんだろう……。まあ多分、20時台のオンエアだったとか、あんまり子供が観てなかったとかいろんな理由があったのかもしれないですけど、あったら欲しいなぁ、から始まっているんです。そこからライセンス周りで半年くらいかけて何とか東映さんにご尽力いただいて、ライセンスをオープンしていただけるような環境ができてきて。そこから、やっと実際に商品を作り始めることになったわけです。 
    宇野 全国のソフビオタクにとってはなるほど、っていう感じのお話ですよね。最初に雑誌で見た時は、「あ、なんか変わったものが始まったな」と思っていたんですが、実際に現物を見てみるとびっくりするくらいクオリティが高くて、「ああ、これはもう集めるしかないぞ!」と思いました。僕はたぶん『仮面ライダーV3』の「ガマボイラー」ぐらいから買い始めました。(2013年10月発売)
     

    ▲東映レトロソフビコレクション ガマボイラー(『仮面ライダーV3』より)
     
    赤司 そこから遡るのは結構大変ですね。
    宇野 大変でした。だから中古ショップで買い漁ったり、ヤフオクを駆使して集めました。ザンブロンゾあたりが結構大変でしたね。
     
     
    ■「東映レトロソフビコレクション」シリーズの制作体制
     
    宇野 どういう体制で制作されているのでしょうか。
    赤司 熊之森恵という原型師さんを中心に据えて、その他の6人の原型師さんチームにオペレーションを任せます。当然原型師さんごとに技術的な差やスピードの違いもあるのですが、その辺を熊之森さんがうまくコントロールしてくれています
    宇野 レトロ感のあるスタンダードサイズでありながら、造形の精度は21世紀のレベル。当時のスタンダードソフビが結果的に持っていたデフォルメの面白さというものを、ものすごく引き出しているアイテムになっていると思います。
    赤司 あまり具体的に定義したことはないんですけど、ネオレトロとか言われているようなジャンルなんだろうとは思うんですよね。当然マーケットには、レトロをレトロのまま再現することしか認めない!という方もいらっしゃるんですが、実はレトロという方向性で商品の構成とアレンジを詰めていくと、意外と物足りなく感じるようになったり、色々な玩具を見た上でレトロな方が物足りないって感じる方が多いのも事実なので、そこらへんのさじ加減はさすが熊之森アレンジといったところですね。
    宇野 本当にそうですよね。でも、僕はこのスタンダードサイズのソフビの頃はまだ生まれていなくて、スカイライダーの方の『仮面ライダー』(1979年放送)の一年前に生まれているので、後からビデオで70年代の特撮とかを見て好きになった世代なんですよ。
     ですので、スタンダードサイズのソフビとか全然知らないで育っているんです。同サイズの500円ソフビとか700円ソフビしか知らないで生きているのですが、この「東映レトロソフビコレクション」を見た時に、70年代の東映キャラクターの良さというものが150%引き出されていると非常に感動したんです。本当にそれぞれのキャラクターの魅力というものを、とてもうまく引き出すデフォルメになっていると思います。
     他のスタンダードサイズのレトロソフビというのは、言ってしまえば当時の思い出をリフレインしているだけの商品になっていると思うんです。でも「東映レトロソフビコレクション」シリーズは、明らかにこのサイズでデフォルメすることを利用して、元のキャラクターの魅力を引き出すというゲームを戦っています。
    赤司 ありがとうございます。私もキャラクターの魅力を引き出すという点では、このアレンジは有効だと感じています。 
    宇野 現代の造形センスとすごく合っていて、特にこの「ドクガンダー」のカラーリングとか……!
     

    ▲東映レトロソフビコレクション ドクガンダー(※成虫。『仮面ライダー』より)
     
    赤司 ニヤっとしちゃいますよね。 
    宇野 個人的なエピソードになりますが、中古ショップでまず「ドクガンダー」の「ワンフェス2012冬開催記念モデル」を買ったんです。これは素晴らしいなと思って飾っていたんですが、カタログ見てたらオリジナル版もどうしても欲しくなって、そっちはそっちでまたヤフオクに出た瞬間を狙って落札。以来、毎日眺めてます。どうやったらこのカラーリングにたどり着くことができるんでしょうか。
    赤司 たぶん、世代的なものもあるのかもしれないですね。自分たちからすると、意外とナチュラルなカラーリングなんですよ。劇中に出てきた「ドクガンダー」を、70年代のフィルターに通すとこんな感じになるだろうなあと。ソフトビニールという素材を使ってキャラクターをどうディフォルメ、カリカチュアするかというメソッドに、70年代風でありながら、そこだけではないみたいなところがきっとあるんでしょうね。
    宇野 そこがやはり、このシリーズの魅力だと思います。ただ当時のスタンダードサイズのソフビを再現しました、っていうシリーズだったら、たぶん僕は買ってないと思います。
    赤司 なるほど。その辺りはさじ加減の問題ですよね。一個一個の商品を見てみると、原型師さんによって微妙にテイストは違うんですけど、最後に熊之森さんがうまくアレンジをしてくれるんです。
     生産の方のメソッドになって、ちょっとテクニカルな話になっちゃうんですけど、元々作った粘土原型を一度蝋(ワックス)に置き換えるんですが、この作業は全部熊之森さんがやっていて、そこで彼独自のテイストとかアレンジが施されます。そうしながら最後に蝋を落としているんですが、その工程が一番シリーズとしての統一感を出しているところなんじゃないかな、という気がします。
    宇野 なるほど。ちなみに、このラインナップはどう決められているんですか?
    赤司 僕と熊之森さんが、ほぼ一日かけて半年分くらいを決めます。
    宇野 第一弾が「ドクガンダー成虫」という恐ろしい決断を下されたわけですが、結果的に大傑作だったと思います。このセレクションはどこから生まれてきたんですか?
    赤司 意外とここは明快です。当時、バンダイさんが出していたソフビの中で、頭から消していって、たぶん一番最初に欠けているのが「ドクガンダー 幼虫」なんです。そこで、「幼虫はダメだろう!」という話になって、最終的に成虫になったという感じだった気がします(笑)。
    宇野 そうだったんですね! その後の「スノーマン」、「ザンブロンゾ」という2号編の怪人が最初に来てるのもそういう理由ですか?
    赤司 そうですね。この辺も、やっぱり最初は立体化に乏しいものを作っていこうという発想からだと思います。 
    宇野 「ガニコウモル」とかは有名怪人だし、なんとなくわかるんですけど、「スノーマン」「ザンブロンゾ」、「イソギンジャガー」って結構すごいラインナップですよね。
     

    ▲東映レトロソフビコレクション イソギンジャガー(『仮面ライダー』より)
     
    赤司 なぜ「イソギンジャガー」を選んだかというと、この回は石ノ森章太郎先生が監督をされているんですよ。

     
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  • 本日21:00から放送!宇野常寛の〈木曜解放区 〉 2018.11.16

    2018-11-16 07:30  
    本日21:00からは、宇野常寛の〈木曜解放区 〉

    21:00から、宇野常寛の〈木曜放区 〉生放送です!〈木曜解放区〉は、評論家の宇野常寛が政治からサブカルチャーまで、既存のメディアでは物足りない、欲張りな視聴者のために思う存分語り尽くす番組です。今夜の放送もお見逃しなく!
    ★★今夜のラインナップ★★メールテーマ「サプライズ」今週の1本「ボヘミアン・ラプソディ 」アシナビコーナー「たかまつななの木曜政治塾」and more…今夜の放送もお見逃しなく!
    ▼放送情報放送日時:本日11月16日(金)21:00〜22:45☆☆放送URLはこちら☆☆
    ▼出演者
    ナビゲーター:宇野常寛アシスタントナビ:たかまつなな(お笑いジャーナリスト)
    ▼ハッシュタグ
    Twitterのハッシュタグは「#木曜解放区」です。
    ▼おたより募集中!
    番組では、皆さんからのおたよりを募集しています。番組へのご意見・ご感想、宇
  • 宇野常寛 NewsX vol.7 ゲスト:丸若裕俊「〈伝統〉をアップデートする」【毎週金曜配信】

    2018-11-16 07:00  
    550pt

    宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネル・ひかりTVチャンネル+にて放送中)の書き起こしをお届けします。10月16日に放送されたvol.7のテーマは「〈伝統〉をアップデートする」。ゲストに丸若裕俊さんを迎えて、茶を通じて日本の伝統を現代に更新する取り組みや、生活にリズムを生み出す句読点としての茶のあり方などについて語り合いました。(構成:籔和馬)
    NewsX vol.7「〈伝統〉をアップデートする」2018年10月16日放送ゲスト:丸若裕俊(丸若屋代表・EN TEA代表) アシスタント:得能絵理子 アーカイブ動画はこちら
    宇野常寛の担当する「NewsX」火曜日は毎週22:00より、dTVチャンネル、ひかりTVチャンネル+で生放送中です。アーカイブ動画は、「PLANETSチャンネル」「PLANETS CLUB」でも視聴できます。ご入会方法についての詳細は、以下のページをご覧ください。 ・PLANETSチャンネル ・PLANETS CLUB
    丸若裕俊さんの過去の記事はこちら【インタビュー】丸若裕俊 茶碗に〈宇宙〉をインストールする 前編|後編『ボーダレス&タイムレスーー日本的なものたちの手触りについて』
    猪子寿之がもたらした佐賀での出会い
    得能 NewsX火曜日、今日のゲストは丸若屋代表・EN TEA代表の丸若裕俊さんです。まずは、宇野さん、丸若さんとどういう経緯で知り合ったのかを教えてください。
    宇野 友人の猪子寿之さんが、長崎県の大村市という長崎空港がある町で、講演会と長期の展示をやるから、そこに来てくれということで行ったんだよね。そこで、大村市長をはじめ、いろんな地元の業者とか地元マスコミとかいるんだけど、「これぞ日本の地方」という感じのすごいテンションの高いガハハ系のヤンキーが主導権を握っている地元中学校同窓会みたいな感じだった。みんな狩猟民族で居場所がないなと思った中に、ひとりだけ農耕民族がいるなと思って、ちょっと話してみたのが、丸若さんなんだよ。丸若さんは猪子さんともずっと仕事をしているし、個人的にもすごい親しい関係で、佐賀に自分の茶葉事業の拠点があって、あの時もそこに訪れていたんですよね。
    丸若 僕も猪子さんに呼び出されて、大村に行ったら、宇野さんがいたんですよね。だから、本当に会うべくして会った感じですよね。
    宇野 丸若さんはすごくカッコいい車とかに乗っていたんだよ。この人だけが文化の香りがすると思っていて話しかけて、お仕事の話とかをさらっと聞いて、そのあと夜にホテルに戻って、調べたら、この人はすごい面白いことをやっているなと思った。そこで僕から丸若さんにコンタクトをとって、ちょっといろいろ話を聞かせてもらえませんかと言ったことがきっかけで、今ウチのメールマガジンで丸若さんの仕事とそのコンセプトを語ってもらうという連載(『ボーダレス&タイムレスーー日本的なものたちの手触りについて』)もやっているし、「PLANETS vol.10」にも出てもらっているような関係ですね。
    ▲『PLANETS vol.10』
    伝統・文化の21世紀的解釈
    得能 今日のテーマは「〈伝統〉をアップデートする」です。
    宇野 誤解しないでほしいんだけど、今から「日本の伝統・文化は最高だ」とか「最近の若者はチャラチャラしていているから、もっと日の丸とかを崇めろよ」みたいな、ネット右翼みたいなことを言う気は全くないわけ。わびさびが大事とか、おもてなしが大事とかいう話も一切ない。どちらかというと、丸若裕俊というクリエイターが日本のトラディショナルな生活文化から何を持ち帰って、それが今の僕らの生活とか、社会にとってどんな意味を持つのかという、そういう話をしてみたい。
    得能 ひとつ目のキーワードは「丸若裕俊とは何者か」です。
    宇野 ここまで聞いて、丸若裕俊という人はどういうことをやっている人なのかと真っ先に疑問が湧いていると思うので、ざっくりと丸若さんがこれまで何をやってきたかということを紹介してもらって、そこから話を始めたいなと思います。
    丸若 僕がやっているものは、伝統・文化というようなもの。僕の場合は、それがプロダクト、職人技術で作るものづくりがほとんどなんです。そのなかで、僕は翻訳する役なんですね。昔ながらの日本の伝統・文化をそのまま伝えると、今はもう生活環境があまりにも変わっちゃっているじゃないですか。
    宇野 ふすまの絵とか、時代劇に出てくるようなお茶碗とかになっちゃうということですよね。
    丸若 そういうものも、もちろんシチュエーションがその当時であったら、こういう効果を発揮していたという事例がありますよね。その同じ効果を現代だったら、どうやったら伝えられるのかということを、僕の場合、言葉じゃなくてモノを作るということで、みんなに伝えていく仕事をしているんです。でも、実際にモノを作るのは職人さんなんですよ。職人さんが作ってくれるものを僕がセコンドみたいな感じで寄り添って作っていくことを10年以上やっているんですね。
    宇野 僕は京都での生活が長かったので、街を歩いていて目に入るレベルで伝統・文化のあるものにめちゃくちゃ接してきたわけですよ。1000年以上の歴史のあるものが、『ポケモンGO』のザコモンスター並みの感じでいっぱい遭遇するというね。それで、そういったものは京都であるから、偽物であるわけはないんですよね。でも、それがときどきコスプレのように見えちゃうときがあった。だって、京都の街中は超近代化されていて、現代的な文化的な都市だからね。京都の伝統・文化がすごいことはよくわかるんだけど、それは当時の平安時代とか室町時代においてエッジだったものであって、それを今の日本においたとしても、街中に博物館があるようにしか見えないわけですよね。そういったものに対して、丸若さんは当時の伝統・文化のエッセンスを抜き出してきて、今に蘇らせたらどうなるか。500〜1000年前の当時の名匠たちがもし今生きていたら、こんなものをやっていた人だったんじゃないかな、ということをしているというのが、僕の理解なんですよ。
    丸若 たとえば、ひとつの文化において400〜500年くらい前に、こんな素晴らしい作品がありましたとなったときに、それは大きく分けると二つの要素でできているわけですよ。ひとつは「本質」、もうひとつは「時代感」。この二つのものがベストバランスで混じり合っているものが「名品」と呼ばれているわけですよ。そこで重要なことは、本質という部分は変えちゃいけないんです。1ミリも変えちゃいけないし、角度も変えちゃいけないんですよ。そのモノのガワの空気をまとう部分、時代を反映する部分は、僕が21世紀という時代を生活していているんだったら、21世紀をそのものにフルに表現しなくちゃいけないと思っているんです。それでようやくイコールになりえると思っているんですね。僕がそれをやろうと思ったのは、「これだったら自分でなにかできるな」「人よりかはなにか形にできるな」と思ったからなんです。だけど、多くの場合はその逆なんです。本質を変えて、ガワだけ残す感じになっている、いわゆる和風といわれるようなものになっちゃっている気がしていて、それだと職人さんとかモノを作る人たちももったいないなと思ったんですよね。
    宇野 すべてのカルチャーにはタイムレスな本質が、特に名品と呼ばれているものであるほど横たわっています。その本質がリアルタイムの空気とぶつかることによって、化学反応的にいろんなものが生まれていくというわけですよね。丸若さんはその本質の部分をちゃんと時間を超えて持ってきて、21世紀の今の空気にぶつけて化学反応を起こしているんですよ。  なので、次のキーワードから、丸若さんの具体的な作品を見ながら、お話していきたいなと思います。
    「工芸批評」としての工芸
    得能 続いてのキーワードは「工芸のアップデート」です。
    宇野 丸若さんのお仕事をざっくりと大きく分けると、「工芸」と「茶」でいいですよね?
    丸若 そうですね。
    宇野 なので、前編後編みたいな感じで、最初は「工芸」について色々語ったあとに「茶の話をしたいと思っているので、まずは「工芸」からいきたいなと思います。
    ▲上出長右衛門窯作 PUMA 8 SPEED URBAN MOBILITY BIKE
    丸若 僕が工芸と出会って、やっていこうとなったきっかけが、この自転車(『上出長右衛門窯作 PUMA 8 SPEED URBAN MOBILITY BIKE』)なんですよ。パッと見た目はおしゃれな自転車ですよね。これは北欧のデザインで、MoMAとかにデザインが所蔵されるような自転車で、プーマさんがその当時、日本で自転車を出そうとしていた企画から生まれたものですね。この自転車には実は、伝統工芸と言われる技術と工業、日本の美意識と北欧の美意識が混ざっているんですよね。

    丸若 これがパーツだけの写真です。石川県の九谷焼という焼き物があるんですけど、その焼き物は磁器でできているんですよ。伝統的な技術のものがなんでパーツになっているのかというと、家で飾るときはこれをつけて、外に行くときはいわゆる普通のサドルだったり、グリップだったりに替えられるようにしたんです。
    あと、僕は子供心をすごく大切にしているんですよ。やっぱり変形とか、パーツが分解できるとか、そういう楽しみって子供心にくすぐられるので、そういうのを作品に入れたかったんですよね。
    宇野 ガンダムのプラモを改造したり、ミニ四駆にハイマウントローラーつけたりみたいな感じですね。
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  • 長谷川リョー『考えるを考える』 第12回 “分身ロボットの父”吉藤オリィ氏はいかに「孤独」を捉え、その解消に挑むのか

    2018-11-15 07:00  
    550pt

    編集者・ライターの僕・長谷川リョーが(ある情報を持っている)専門家ではなく深く思考をしている人々に話を伺っていくシリーズ『考えるを考える』。今回は、“分身ロボットの父”とも称されるロボット開発者である、オリィ研究所所長の吉藤オリィ氏にお話を伺います。「孤独の解消」をテーマに、分身ロボット「OriHime」の研究開発、体験イベント「オリィフェス2018」の開催など、幅広い活動に取り組む吉藤氏。「孤独の解消」を追究している理由から、「我慢強さ」を美徳とする時代遅れの教育システムまで、我慢“弱さ”を武器にワクワクを追求し続けている吉藤氏の思考に迫ります。(構成:小池真幸)
    「孤独=ひとりでいること」ではない。孤独の解消に寄与する、コミュニケーションテクノロジー
    ――まずは、分身ロボット「OriHime」の研究開発から体験イベント「オリィフェス2018」まで、多岐に渡っている吉藤さんの活動内容についてお伺いできますか?

    吉藤 一言でいうと、「孤独の解消」をテーマに研究活動を行なっています。ここでいう「孤独」とは、「ひとりでいること」ではなく、「自分は誰からも必要とされていない」「自分は誰の役にも立てない」「誰も自分の理解者がいない」と自覚して苦しむこと。そして、こうした苦しみを生み出す大きな要因として、「外出できない」「言葉を話せない」「目が見えない」といった身体的な「不可能」が挙げられます。そのハードルを乗り越え、人びとが前向きな人生を送れるようになるために支援することが、私の研究活動の目的です。
    ――孤独を生み出してしまう「不可能」を、「可能」にするための活動をされていると。逆に言えば、「孤独」につながらない「不可能」は関心対象ではない?
    吉藤 はい。たとえば、私は空を飛べるようになりたいとは思いません。仮に飛べるようになっても、空に他の人間はいないので、「孤独の解消」にはつながりませんからね。「他の人は空を飛べるのに、自分だけが飛べないから孤独だ」といった状況や、人のいる場所に移動するために空を飛ぶ方がよいとなったら、考えも変わってくるかもしれませんが。

    吉藤 私が取り組んでいるテクノロジーやイベントは、すべて孤独を解消するためのツールなんです。「外出できないから、人びとが集まる場に参加できない」という「不可能」を解決しようと、家に居ながら外の場への参加を可能にしてくれるOriHimeを開発しました。オリィフェスのようなオフラインでのイベントも、「そもそも居場所だと感じられる場がない」「友人がいない」という問題を解決するために開催したものです。オリィフェスに来れば、「オリィ研究所の取り組みに共感してくれた」という共通項で、他の人とつながることができますからね。
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  • 香港の利権を独占しているのは……?|周庭

    2018-11-14 07:00  

    香港の社会運動家・周庭(アグネス・チョウ)さんの連載『御宅女生的政治日常――香港で民主化運動をしている女子大生の日記』。再び民主派の議員が立候補資格が取り消され、政府と民主派との対立が深まる香港。政府による土地の独占、造成予定の人工島の危険性など、現在の香港が抱えている問題について語ります。(翻訳:伯川星矢)
    御宅女生的政治日常――香港で民主化運動をしている女子大生の日記第22回 香港の利権を独占しているのは……?
    また一人、立法会選挙の候補者が立候補無効となりました。
    去年、6人の立法会議員が資格剥奪となり、その補欠選挙を行うこととなりました。そのうちの4回は今年の三月に行われました(私が立候補無効となった回)。 今年の11月25日、前回議員資格剥奪となった劉小麗(ラウ・シィウライ)氏の代わりに、九龍西区に補欠選挙が予定されています。本来それは劉氏の議席であり、彼女自身も続投を希望して
  • 三宅陽一郎 オートマトン・フィロソフィア――人工知能が「生命」になるとき 第八章 人工知能にとっての言葉(前編)

    2018-11-13 07:00  
    550pt

    ゲームAIの開発者である三宅陽一郎さんが、日本的想像力に基づいた新しい人工知能のあり方を論じる『オートマトン・フィロソフィア――人工知能が「生命」になるとき』。人間の世界認識の根幹となる「言語」を、人工知能はいかにして実装しうるか。前編では、西洋哲学における言語論の蓄積を踏まえながら、言語的な認識の構造のモデル化を試みます。
    序論
     シモーヌ・ヴェイユはこのことを次のようにみごとに表現している。
    「同じ言葉(たとえば夫が妻に言う「愛しているよ」)でも、言い方によって、陳腐なセリフにも、特別な意味をもった言葉になりうる。その言い方は、何気なく発した言葉が人間存在のどれぐらい深い領域から出てきたかによって決める。そして驚くべき合致によって、その言葉はそれを聞く者の同じ領域に届く。それで、聞き手に多少とも洞察力があれば、その言葉がどれほどの重みをもっているかを見極めることができるのである。」(『重力と恩寵―シモーヌ・ヴェイユ『カイエ』抄』)
    ▲『重力と恩寵―シモーヌ・ヴェイユ『カイエ』抄』
     人が人と話すとき、ある言葉は相手の心の浅瀬まで、ある言葉は深い心の海まで届きますが、それが一体、どのような機構によるものなのか、まだわかっていません。会話する人工知能の最も遠い目標はそこにあります。言葉によって人と心を通わすこと。しかし、言葉によってだけでは不可能なのです。そこに存在がなければならない。そこに身体、あるいは実際の身体でなくても、同じ世界につながっている、という了解があってはじめて、人工知能は人の心に働きかけることができます。それは言葉だけを見ていていては、見えないビジョンですが、我々は言葉を主軸に置きながらも、その周りに表情を、振る舞いを、身体を、そして社会を持っています。人が人に接するということは、大袈裟に言えば、その背景にある、或いは、その前面にある世界を前提にしています。言葉というエレガントな記号だけで情報システムは回っているために、どうしても人間のネットワークもそのように捉えたくなります。しかし、それは世界の根底ある混沌の表層であるとも言えます。発話者の存在が、また一つ一つの言葉が世界にどのように根を張っているか、また根を張っていない流動的な自由さを持っているか、が、何かを伝える力を言葉に宿すことになります。言葉だけ見ていてはいけない、しかし、言葉を見ないといけない。言葉は人間関係と社会の潤滑油であり、ときに、言葉が伝えられる、という事実そのものが、その内容よりも重要なことがあります。暑中見舞いの葉書が来るだけでも、その人が自分を気にかけてくれるとわかります。LINEのスタンプだけでも暖かさを感じます。言葉という超流動性を獲得することで、人は、世界の存在の深い根から解放されお互いに干渉することができます。しかし、同時に言葉はいつもそんな人間の根の深い部分へと降りて行くのです(図8-1)。
    ▲図8-1 言語の持つ二つの方向
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  • ディズニー、ピクサー、ジブリ…『アナ雪』大ヒットから見えるヒロイン像の"後進性"ーー石岡良治×宇野常寛が語る『アナと雪の女王』 (PLANETSアーカイブス)

    2018-11-12 07:00  
    550pt

    今朝のPLANETSアーカイブスは、批評家の石岡良治さんと宇野常寛の語る『アナと雪の女王』です。『アナ雪』の大ヒットから逆説的に見えてきたのは、ディズニーの遥か先を走っていたはずのピクサー、そしてジブリが直面する「テーマ的な行き詰まり」だった――?(構成:清田隆之 初出:サイゾー2014年7月号) ※この記事は2014年7月25日に配信した記事の再配信です。

    ▲アナと雪の女王 MovieNEX [Blu-ray]
    ピクサー化するディズニー・アニメの象徴としての『アナ雪』
    宇野 『アナと雪の女王』はまず、予告編で「Let It Go」のシーンを観たときに、「ディズニーは、この作品にものすごい自信があるんだな」と思ったんですよ。それで実際に観てみたら、まぁやりたかったことはわかるのだけど、作品としての出来がいいとまでは思えなくて、予告編の期待は超えなかったですね。 『アナ雪』の話をするにあたっては、前提として、ここ10年くらいのディズニー映画とピクサー映画の流れについて言及しておく必要があると思う。アニメファン的に見ると、ディズニーとピクサーって技術的にはそこまで差がないんだけど、ゼロ年代は特にシナリオは圧倒的にピクサーのほうが上だと言われていた。『モンスターズ・インク』(01年)、『ファインディング・ニモ』(03年)、『Mr.インクレディブル』(04年)など、圧倒的にシナリオワークの優れた作品を連発していたピクサーに対して、ディズニーはいまいちな作品ばかりだった。家族観・ジェンダー観にしても、旧来のディズニーは古典的なプリンセス・プリンスもの、ボーイ・ミーツ・ガールの話をベタに描いていたのに対し、ピクサー作品は、例えば『Mr.インクレディブル』だったら「古き良きアメリカの強い父」みたいなイメージがもう通用しないというところから出発していたように、時代の移り変わりや新しい家族観・ジェンダー観を取り込むことによって重層的な脚本を実現してきた。言い換えるとそれは親世代、つまり団塊ジュニア世代の記憶資源に訴えかけながら、子どもも楽しめる物語をどう作るか、ということ。一つのストーリーで大人にはイノセントなものの喪失の持つ悲しみを、子どもには古き良きアメリカのイメージを、その記憶を持たないことを利用して輝かしいものとして提示する、というのがピクサー的、ジョン・ラセター(※1)的なものの本質だと思うわけ。これは『トイ・ストーリー』から、最近のピクサー化しつつあるディズニーの『シュガー・ラッシュ』(※2)まで通底している。要するに、この流れはさまよえる現在の男性性をテーマにしてきた流れだとも言える。

    (※1)ジョン・ラセター…ピクサー設立当初からのアニメーターであり社内のカリスマ。06年にディズニーがピクサーを買収し、完全子会社化したことでディズニーのCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)に就任。ディズニー映画にも多大な影響を及ぼしているという見方がなされている。
    (※2)『シュガー・ラッシュ』…公開/ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ(13年/日本)。アクションゲームで何十年も敵キャラを演じることにうんざりしたラルフが、別のゲームの中でヒーローになろうとしたことから、複数のゲームの世界を舞台にした騒動が巻き起こる。

     じゃあ、『アナ雪』は何か、というと、ここでもう自信喪失したおじさんたちの話はやめよう、ってことなんだと思う。自信喪失したおじさんたちの回復物語はもうやりつくしたので、自分探し女子の物語に切り替えて新しいことをやろう、ってことなんでしょうね。この決断は良かったんじゃないかと思う。その結果、出てきたのが最終的に王子様のキスではなく、姉妹愛というか同性間の関係性で救済される新しいプリンセス・ストーリーだった、ってこと。ディズニーといえばおとぎ話的な「いつか白馬の王子様が……」的な世界観でやってきていて、まあ、現代的なそれとは到底相容れないアナクロな世界観が維持されている文化空間なわけで、そこからこの作品が出てきたので、みんなこれは新しい、感動した、って言っているわけだけど……。うーん、それって、あくまでディズニーの過去作と比べたら今時のジェンダー観に追いついているってことに過ぎないんじゃないかって思うんですよね。この作品に何か特別なものがあるとは思えない。
    石岡 僕はまず、歌のバズり方自体に興味を持ったんですよ。これは日本特有だと思うけど、「Let It Go」が「ありのままで」と訳されて、「意識高い」女性に大受けしてますよね。あの歌って、いろんなところで指摘されているように、いわば邪気眼というか厨二病の能力解放の歌だと思うんだけど、それを”自己啓発系”の歌として読んじゃうっていうのは、ある意味で痛快ですよね。つまり、普段は邪気眼的なものに共感を示さないような女性に、「これは私のことだ!」と感じさせているわけで、うまいといえばうまい(笑)。
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  • 宇野常寛 NewsX vol.6 ゲスト:上田唯人 「僕たちは走ることで、世界に(あたらしく)触れることができる」【毎週金曜配信】

    2018-11-09 07:00  
    550pt

    宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネル・ひかりTVチャンネル+にて放送中)の書き起こしをお届けします。10月9日に放送されたvol.6のテーマは「僕たちは走ることで、世界に(あたらしく)触れることができる」。「走るひと」編集長の上田唯人さんをゲストに迎えて、部活・体育的なランニングとは一線を画した、〈都市〉と〈生活〉に開かれた新しいランニングの可能性について語り合いました。
    NewsX vol.6「僕たちは走ることで、世界に(あたらしく)触れることができる」2018年10月9日放送ゲスト:上田唯人(「走るひと」編集長) アシスタント:加藤るみ(タレント) アーカイブ動画はこちら
    宇野常寛の担当する「NewsX」火曜日は毎週22:00より、dTVチャンネル、ひかりTVチャンネル+で生放送中です。アーカイブ動画は、「PLANETSチャンネル」「PLANETS CLUB」でも視聴できます。ご入会方法についての詳細は、以下のページをご覧ください。 ・PLANETSチャンネル ・PLANETS CLUB
    上田唯人さんと宇野常寛の過去の対談記事はこちら ライフスタイル化するランニングとスポーツの未来 『走るひと』編集長・上田唯人×宇野常寛 前編|後編
    「自分の物語」としてのスポーツ
    加藤 NewsX火曜日、今日のゲストは「走るひと」編集長の上田唯人さんです。まずは「走るひと」というランニング雑誌について教えていただけますか?
    宇野 「走るひと」はランニング雑誌なんだけれど、いつか私は高橋尚子になるとか、有森裕子になる、みたいな人が読む雑誌ではないと思うんですよ。
    上田 アスリートのトップ選手を取り扱っている雑誌がいままでの雑誌だとすると、「走るひと」でやっていることは、クリエイターだったり、アーティストだったり、いろんな仕事をやっている人が走っている様を取り上げて、紹介している雑誌ですね。
    加藤 私たちでも馴染みやすいように、一般目線で書かれている雑誌なんですね。
    宇野 みんなで長距離ランナーになろうということではなくて、ランニングというライフスタイルを推奨している、走ると人生や生活が楽しくなるということを提案している雑誌という印象かな。
    上田 いろんなアーティストが、創作活動の中で走ることを必要なものとして位置づけていたりする。それはなぜか、今までは違ったのか、みたいなことを雑誌の編集活動を通じて伝えているという感じですかね。
    加藤 宇野さんと上田さんはどういうきっかけで知り合ったんですか?
    宇野 以前、僕は「走るひと」に取材されたんだよ。どうやら走っているらしい一般人のうちの一人として出てくるみたいな感じでね。
    上田 「走るひと3」が出たときに、宇野さんのことを記事にさせてもらったんです。これを作っているときに、ちょうど宇野さんも「PLANETS vol.9」を作られていて、そのメインテーマが「オルタナティブ・オリンピック・プロジェクト」だったんですよね。僕らは走ることを中心として雑誌をつくっていますけど、ただ走ることだけじゃなくて、もうちょっと広い意味でのライフスタイルとしてのスポーツの今後を考える上で、宇野さんみたいな方が走り出していることだったり、オリンピックの未来を考えていくことが重要だなと思っていたときに、宇野さんを取材をさせていただいたのが最初のきっかけですね。
    宇野 2015年に出した「PLANETS vol.9」は僕にとって達成感と挫折が両方あった雑誌なんですね。まず、一言で言うと、僕は2020年のオリンピックに反対だったわけなんですよ。グダグダになるのはわかっていたので、こんなオリンピックはやるべきではないとね。  ただ、そこに対して文句ばかり言っているのはカッコ悪いから、自分たちだったらどうするか、ということで、いろんなことを考えたんですよ。競技中継の方法だったり、オープンニングはこうしたいとか、あとは都市開発のプランだったりとか、自分たちの2020年を提案することで、今進んでいるグダグダのオリンピックをポジティブに批判しようとしたんですね。それで、雑誌を完成させて、すごい達成感があったんですよ。でも、同時に挫折感もあった。それはなんでかというと、一言で言うと売れなかったんだよね。今の「PLANETS vol.10」のほうが全然売れている。そこで、なんで売れなかったのかを僕は考えたんですよ。そのときに僕は何をやろうかとしていたのかというと、オリンピックという観るスポーツのアップデートだったんですね。
    宇野 これはチームラボの猪子寿之さんと組んで考えた市民を巻き込んだオープニング。単に派手な開会式を見て、「これが日本だ!最高!」というふうに感情移入するには限界がある。そうじゃなくて、市民が参加できる開会式にしようということで、こういったインタラクティブなインスタレーションを街中で開催しようというプランとかを出したわけなんだよね。
    宇野 あと、これは井上明人さんというゲーム研究者を中心に進めていた、オリンピックのスポーツをもうちょっと拡張していこうという記事なんだよ。結局オリンピックとパラリンピックで分かれていて、ノーマルな身体を持った人間とノーマルじゃない身体を持った人間の競技に分かれちゃっているじゃない。やはり、そのことに壁を感じるわけね。その壁をなくして、誰でもスポーツに参加できる、もっと自由で平等なものにしようと思っていて、新しいスポーツを発明するということを僕らはやったんですよ。  どっちもすごく手応えがあった。これは同時にオリンピックを通して、社会にどう多様性を実装するかとか、社会に対しての参加感を人々にどのようにして植えつけていくのかという思考実験でもあったんですね。  ところが、「PLANETS vol.9」はあまり売れなかったし、僕自身も達成感と同時に限界も感じた。その限界は何かというと、オリンピックは結局「他人の物語」なんだよ。オリンピックはどこまでいってもテレビ産業だし、基本的には画面の中のアスリートの活躍を観て、そこに感情移入をして、自分も勝手に感動するという装置なんだよね。もちろん僕はそれをくだらないことであるとまったく思わないんだけれど、今の時代はインターネットの時代で、もうモニターの中の他人の物語に感動して満足する人間はどんどん少数派になっていっている。やはり自分が参加して、自分が主役の物語を自分でドヤ顔で発信することのほうが、みんな気持ちよくなっている。そこが足りなかったんじゃないかなと思ったわけ。  そんな中で、上田さんと出会って、ランニングというテーマで対談をさせてもらった(参照)ときに、観るスポーツをアップデートするんじゃなくて、「する」スポーツのことを考えたほうがいいんだ、と僕は気づいたんだよね。だから、僕はもう一回走り始めたんですね。なので、「PLANETS vol.10」を作っているときに、上田さんに真っ先に連絡をして「今回一緒にやってくれませんか」ということになったんです。それで、上田さんに、60ページにわたる「走るひと」×「PLANETS」という異なる雑誌のコラボレーションで記事を作ってもらったんですよね。
    ▲『PLANETS vol.10』
    「ライフスタイルスポーツ」と「自己修練」―ランニングを巡る二つの考え―
    加藤 今日のトークのテーマは「僕たちは走ることで、世界に(あたらしく)触れることができる」です。宇野さん、このテーマを設定した理由は何ですか?
    宇野 僕自身が上田さんと出会って、どうしてもう一回ランニングを始めて、今でもずっと続けているかというと、楽しくて、気持ちいいからなんですよね。みんな、実はこのことを意外とわかっていない。ランニングやヨガをライフスタイルスポーツと呼ぶことを、僕は上田さんから教わったんですよ。最初はライフスタイルスポーツを健康管理のためにやる人が多いと思うんだけど、長く続けている人はランニングやヨガが生活の中に組み込まれていることが気持ちよくて楽しいからやっている。街を走ることを通じて、世界の見え方がどう変わるのかということを、今回上田さんとあらためて話して、視聴者に伝えたいなと思って、このテーマを選びました。
    加藤 今日も三つのテーマでトークをしていきたいと思います。最初のテーマは「なぜいま、ランニングなのか」です。
    宇野 ランニングと言っているけれど、体育の授業や運動部の走り込みと、今の世界中の都市で現役世代が走っているライフスタイルスポーツとしてのランニングでは、別物だと思うんですね。そのあたりの概念整理から始めたいなと思って、このテーマを設定しました。
    上田 僕らも雑誌を作っているなかで、いろいろ過去を振り返ったときに、2008年のリーマン・ショックとか、あるいは、その後の東日本大震災の影響ってすごく大きいなというのはあった。それは、さきほど宇野さんがおっしゃった、「観るスポーツ」から「するスポーツ」に変わっていった変遷と実は符合するんです。なぜかというと、大きな変化が起こったときに、働いている人や生活している人が自分の生活を見直す契機になったのがすごくあったなと。そのときに、自分の時間をどう使うか、それを豊かにするためにどうするか、と考えたときに、走ることを選ぶ人だったり、ヨガをすることを選ぶ人、あるいは食を見直す人がいたりして、お金の使い方、時間の使い方に対する変化がすごくあったなと思ったんですよ。そういう意味でも、宇野さんご自身が走り出されたこともおもしろいですし、世の中全体もそういう機運を共有しているような感じがすごくあった。それがなぜ今ランニングなのか、ということのひとつの切り口なのかなと思います。
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