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山下優 波紋を編む本屋 第2回 書店は文化なのか
2019-05-21 07:00550pt
青山ブックセンター本店・店長の山下優さんによる連載『波紋を編む本屋』。第2回では、書店が文化の一端を担うためにはどうしたらよいのか? 「人のつながり」という視点から考えます。
撮影:森川亮太
街から書店が消えていくと惜しまれることが多いですが、その惜しまれ方には違和感を感じています。青山ブックセンター本店も2回ほど、閉店、倒産の憂き目にあっている。昨年、六本木店が閉店した際も、ウェブサイトの閲覧が多かったため、サーバが落ちたり、SNSでも多くの反響がありました。
そう、書店は閉店したり経営母体が変わったりするのです。なぜか。当たり前ですけど、書店も商売、ビジネスの一つだからです。今さら何を、と感じられるかもしれませんが、書店の数が全盛時より減っていくにつれ、書店の存在自体が文化と捉えられているような、その感じ方、惜しまれ方に違和感を感じています。日本では、書店に税金が投入されているわけでもありませんし、税制の優遇もありません。
(たしかに、最近はポイント施策等によるグレーゾーンもありますけれども)、基本的には再販制度(再販売価格維持制度)によって、書籍は、書店、コンビニ、ECサイトなど、どこでも一律で同価格で販売されています。日本書籍出版協会によれば「出版物再販制度は全国の読者に多種多様な出版物を同一価格で提供していくために不可欠なものであり、また文字・活字文化の振興上、書籍・雑誌は基本的な文化資産であり、自国の文化水準を維持するために、重要な役割を果たしています。」(一般社団法人日本書籍出版協会ホームページ、読者のみなさまへより)と述べられています。個人的にも本全般と出版は紛れもなく文化だと思っています。
では改めて、書店は文化なのか。NOであり、YESともいえます。なぜNOかと言えば、書店が、そこにただあるという存在自体だけでは、文化とは言えないからです。YESと言うためには、様々な本を実際に並べる場を生かし、読みつがれてきた本を引き継ぎつつ、さらに未来を切り開いていこう書店員の意志があってこそ、書店は本の文化の一端を担っているといえるのではないでしょうか。
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宇野常寛 NewsX vol.30 ゲスト: 佐渡島庸平「これからのクリエイターの育て方」【毎週月曜配信】
2019-05-20 07:00550pt
宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネルにて放送中)の書き起こしをお届けします。4月9日に放送されたvol.30のテーマは「これからのクリエイターの育て方」。株式会社コルクの佐渡島庸平さんをゲストに迎えて、「自分の物語」が中心になった時代にコンテンツは何ができるのか。マスメディアではなくコミュニティと繋がって生きる新しいクリエイターのあり方について考えます。(構成:佐藤雄)
NewsX vol.30 「これからのクリエイターの育て方」 2019年4月9日放送 ゲスト:佐渡島庸平(株式会社コルク) アシスタント:加藤るみ
宇野常寛の担当する「NewsX」火曜日は毎週22:00より、dTVチャンネルで生放送中です。 番組公式ページ dTVチャンネルで視聴するための詳細はこちら。 なお、弊社オンラインサロン「PLANETS CLUB」では、放送後1週間後にアーカイブ動画を会員限定でアップしています。
日本のマンガはもう売れない! 今必要な「エンタメのIT化」とは?
加藤 NewsX火曜日、今日のゲストは株式会社コルク代表の佐渡島庸平さんです。佐渡島さんと宇野さんはどこでお知り合いになったんですか?
佐渡島 私が独立してから会いました。宇野さんのイベントによく呼んでもらっています。
宇野 PLANETSを見てくれている人には常連になっていますね。
加藤 佐渡島さんのコルクという会社を簡単に説明いただけますでしょうか。
佐渡島 もともと僕は講談社で編集者をやってたんです。アメリカだとクリエイターはエージェント会社と契約していることが多くて、エージェントはクリエイター側に立ってどういう戦略を練れば良いか考える仕組みがあるんですが、日本ではまだ数少ないのです。作家は全部自分で出版社と交渉しなきゃいけないんですよね。だから日本では実質的に作家は出版社と交渉ができない存在だったんです。そこを世界基準に合わせたほうが良いなって思って、クリエイターのエージェント会社を作った感じですね。
加藤 今日のテーマはこちら「これからのクリエイターの育て方」です。
宇野 僕はコルクがやっていることは大きく分けて2つあると思う。自分も書き手だからよくわかるんだけど、日本は圧倒的に作家の立場が弱い国。そこに作家のエージェントという文化を入れることで作家の権利をしっかり保護するシステムを日本に根付かせるのが最初のミッション。もうひとつが、インターネットの登場によって根本的に世界中の文化産業の仕組みが揺らいでいる。従来の出版ビジネスや放送ビジネスが成り立たない時代にどう作家と作品を守っていくのか。そのための新しい仕組みづくりが必要で、そこに挑戦している。それが第二のミッション。外から見ると今は第二のミッションの比重のほうが大きくなっていると思う。
佐渡島 たとえばテレビ業界で働いていて、ニュース番組を作っている人がいるとします。田舎に戻って、親戚のおばちゃんに「テレビ業界で働いてるならドラマ作れるでしょ。ちょっと家族ドラマ撮って」みたいなことを言われる。同じテレビでもニュースとドラマは違うし、同じドラマでもテレビドラマと映画では脚本のルールや映像の撮り方が違う。ほんの少しメディアが変わるだけで文法が全然変わるんです。マンガ文化も貸本が雑誌連載になったことで、マンガの描き方はすごく変わっていってた。さらに、今まで紙の本で楽しんでいたものがスマホで読むものに変わってきた。メディアが変わると絶対に中のコンテンツの在り方も変わるはずなんですよ。 中国ではそれがすごくうまく変わりだしています。5〜6年前の中国では日本の海賊版マンガを無料で読めるマンガアプリが500万ダウンロード近くあったんですよ。日本人の感覚だと、それだけ読まれていたら日本のマンガが輸出できないって考えるんですけど、中国の人口で考えると500万ダウンロードは少なすぎて投資に値しないんです。中国人マンガ家のチェン・アンニーという人が自分で「快看漫画(クァイカンマンホア)」というマンガアプリ作っているんですけど、それが今どれくらいダウンロードされているか知っていますか?
宇野 500万よりは多いってことですよね。2000万とか?
佐渡島 1億4000万ダウンロードになります。MUU(マンスリーユニークユーザー)は4000万人いて、掲載されている漫画は全部縦スクロールなんですよ。4〜5年前に中国の会社との交渉に日本のマンガを持っていくと一応は買ってくれたんです。それが今、クァイカンと交渉すると「日本のマンガは誰も読まないので要らないです」って言われるんです。縦スクロールじゃないと誰も読まない。クァイカンは今1000人のマンガ家を抱えています。中国人は今は平均所得が上がってきてるので、むちゃくちゃ課金するんですよ。好きなマンガのためなら、日本人よりも所得の低い人が、それなりの価格帯でも全然課金する。中国人が無料じゃないと読まないなんてことは全然ないんです。 それに合わせて、日本のマンガも作り方や内容が変わっていかなきゃいけないんですが、日本の出版社のシステムがあまりにもうまくいきすぎていた。もちろん書店や出版社が潰れるようなことはもう起きてますけど、2000年からの約20年間、ほぼ右肩下がりの業界なのに大手出版社でまともなリストラがまだ起きてないのは、それだけ余裕のあった仕組みなんだと思います。非常に優れた仕組みの上で、まだマンガが売れていて、電子書籍市場もマンガに牽引されてどんどん大きくなっているという状況です。さらに日本ではほとんどの出版社が上場していないので、イノベーションのジレンマが起きまくっています。今ジャンプとマガジンがコラボをやってますけど、それは「マンガのIT化」が起きているだけで、僕らのところで起きなきゃいけないのは「エンタメのIT化」なんです。人材がまったく流出してないので、エンタメのIT化に挑戦しているクリエイティブを支える周辺人材がまったくいないんです。新しいクリエイターと一緒にそれを作っていくというのが、今僕がやってることです。
加藤 本日のテーマにいきたいと思います。「クリエイターエージェント業について」。既にお話いただいてますが、もう少しお話いただければと思います。
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統計学者・鳥越規央インタビュー(前編)セイバーメトリクス以降の優雅?で感傷的?な日本野球(PLANETSアーカイブス)
2019-05-17 07:00550pt
今朝のPLANETSアーカイブスは、統計学者・鳥越規央さんへのインタビューです。映画『マネーボール』などでも脚光を浴びた、「野球を統計で分析する」手法=「セイバーメトリクス」の歴史と現在についてお話を聞きました。スポーツだけでなく、AKBのような文化興行や政治にまで射程を及ぼすセイバーメトリクス、その本当のポテンシャルとは――?(聞き手・構成:中野慧) ※この記事は2015年2月10日に配信された記事の再配信です。
セイバーメトリクス――この聞き慣れない単語が徐々に広まり始めたきっかけは、やはりブラッド・ピット主演で映画化された『マネーボール』(2011年)だろう。米オークランド・アスレチックスの敏腕GM(ゼネラルマネージャー)として弱小球団を強豪に育て上げたビリー・ビーン。彼はそれまでのアナクロなスカウティングシステムを拒否し、徹底的なデータ活用(=セイバーメトリクス)によって、強豪球団から声のかかることのない一見実力のない選手たちを安価な給料で集め、アスレチックスを強いチームに育て上げていく。そのビリー・ビーンを描いたこの映画は、「弱者の一撃」という古典的なストーリーラインに加えて、脚本のアーロン・ソーキン(『ソーシャル・ネットワーク』他)らによる、人情話に重きを置きがちだったそれまでの野球映画と異なる冷徹な描き方が、野球好きのみならず映画ファンのあいだでも高く評価された。
▲『マネーボール』2011年/ブラッド・ピット(主演)ベネット・ミラー(監督)アーロン・ソーキン(脚本)他
しかしこの「セイバーメトリクスによる革命」はアメリカに限ったものではなく、まさに「耐用年数を過ぎた戦後文化の象徴」たる日本のプロ野球にも2000年代以降導入され、それによって球界の勢力図も急速に塗り変わりつつある。
今回は日本におけるセイバーメトリクスの第一人者で(実はAKBオタでもある)統計学者・鳥越規央先生をお招きし、セイバーメトリクスの歴史や日本におけるローカライズ、そして他分野への応用可能性についてお話を伺った。
■オタクとインターネットがセイバーメトリクスを作り上げた
――「セイバーメトリクス」というものはこれまでのような打率や打点、投手なら勝利数や防御率のようなわかりやすい指標ではなく、「もっと細かく色んな数字を組み合わせることで、選手の能力をより精緻に数値化することができる」ということを打ち出し、それらのデータをもとに選手を集めチームを強くしようという手法ですよね。このセイバーメトリクスは、そもそもどのようにして生まれてきたんでしょうか。
鳥越 もともと「データで野球を見る」という観戦文化はアメリカでも一部のマニアのあいだで昔からあったのですが、セイバーメトリクスそのものは、1970年代前半のビル・ジェームズという退役軍人が始祖であると言われています。彼は友達の靴屋でバイトをしながら野球を見ていて、もともと野球好きだからとデータを取っていった。そうしたら面白いことが分かってきて、それらをまとめて自費出版したんですね。
最初は全然売れず、一説には75人しか購入しなかったといわれてます。ですが、これまでの野球のセオリーに反するような分析結果もデータから証明できるという面白さが、だんだんマニアの口コミで広がっていったんですね。版を重ねるに連れ、購読者も増えその結果、スポーツ・イラストレイテッドのライターの目に留り、1982年に出版社から販売されるとたちまちベストセラーになったのです。ただやはりというか、日本と同じようにアメリカでも「野球の素人がこんなこと言っても俺たちは騙されないぞ!」みたいな感じで現場ではなかなか受け入れられなかったようです。
セイバーメトリクスが面白いのは、「思い込みを是正する」という部分です。たとえば、野球の世界だと「ノーアウト満塁は点数が入りにくい」というのがありまして。
――「大チャンスに見えるけど、実は得点するのが難しい」という野球界の定説ですよね。ノーアウト3塁やノーアウト2・3塁に比べると内野ゴロをホームでフォースアウト→一塁に転送でダブルプレーを取られやすいですとか、スクイズしても走者へのタッチでなくホームベースへの触塁だけでアウトにできるからとか、いろんな理由が言われていますよね。
鳥越 でも、ノーアウト1塁、ワンナウト1・3塁、2アウト2塁……等々、状況別に整理したデータを見ると、得点が入る期待値が一番高いのってノーアウト満塁なんです。
なぜ野球界で「ノーアウト満塁では点が入りにくい」という説が流布するかというと、一番点数が入りやすそうなチャンスであるにも関わらず、自分のひいきのチームがノーアウト満塁で無得点に終わったらそのショックが大きすぎて、実際は点が入ってる場面が多いにもかかわらず心の中で「ノーアウト満塁は点が入りにくい」という思い込みを形成してしまうからですね。
セイバーメトリクスって、そういう「人間の思い込みを是正する」というのがテーマなんです。「思い込み」はプレイヤーの方にもあるようで、これはロッテのコーチから実際に聴いた話なのですが、自分はコントロールが悪いと思い込んでいる投手がいて、「いや、君の三振率とフォアボール率の比率(K/BB という指標)を見ると平均よりも高いんだから、自分でノーコンと決めつけることないよ」と諭したりできる。余計な悩みだったことがわかれば、選手自身も自分が本当に改善すべきポイントが見えてきますよね。
――なるほど。ちなみに、セイバーメトリクスの始祖であるビル・ジェームズや、その後この手法を発展させていったのってどういう人たちだったんですか? 『マネーボール』でも描かれていましたが、必ずしも元プレイヤーだったりするわけではないわけですよね。
鳥越 それは「野球オタク」のみなさんですね。セイバーメトリクスの語源となったアメリカ野球学会(Society for American Baseball Researchのこと。頭文字を取った「SABR」をセイバーと発音する)というものがありまして、僕は2007年に参加したんですが、とにかく参加者すべて「オタク」臭を漂わせている人たちばかり。会場のロビーでは野球カードに興じる人達もいれば、オールドスタイルのユニフォームを身にまとう人もいたりで、まさに「野球版コミケ」ですよ。参加者の内訳ですが、いわゆるアナリストと言われる人は4割ぐらいで、あとは企業の社長だったりお医者さんだったり、作家さんだったり、本当に野球が大好きで趣味でデータ分析をしている人たちの集い、という感じでしたね。
コンピュータやネット環境が発達したことによって、そういう人たちが自分なりの分析を発表できる時代になった。その分析を見て、さらにいろんな人たちが考えて改良を重ねていくわけです。
――ソフトウェア開発でいうならオープンソースのように、ボトムアップで作られていったんですね。
鳥越 そういうことですね。例えばピッチャーの評価法に、DIPS(Defense Independent Pitching Statistics)という概念があります。これは「失点のピッチャーによる責任ってどこまでなんだろう?」ということを考えたときに、運とかチームの守備力といった「投手自身ではコントロールできない」部分の影響はできるだけ排除してあげたいと思うわけです。でも一方で、例えば「ホームラン打たれるのは投手の責任だよなぁ」とか、「フォアボールを与えたりするのは明らかにピッチャーの責任」とか「逆に三振を取るのはピッチャーの力量のみに依存する」といった考えから 「じゃあこの3つの指標だけでピッチャーを評価してみるのはどうか?」ということを誰かが提起するんです。この場合の「誰か」というのはボロス・マクラッケンという人なんですけど。そうすると、色んなセイバーメトリシャンがそれに基づいて「自分はこう考える」といろんな意見を出し合って、一番理に適い、しかも計算が容易な指標が普及していくんですね。DIPSの中で今一番普及しているのはトム・タンゴが提唱したFIP (Fielding Independent Pitching) という指標です。ちなみにこのFIPという指標は先発・中継ぎ・抑えも同様に評価できるので、今では主要な指標のひとつとなっています。
さらには、野手も投手も究極的に同じ指標で評価することのできるWAR(Wins Abobe Replacemnt)が出てきたり、これまでセイバーメトリクスの中でメジャーな指標だったOPS(出塁率+長打率。打率などよりもより得点貢献への相関が高いとされる)よりもRC (Runs Created) や XR (eXtrapolated Runs) 、さらにはwOBA(Weighted On-Base Average)というように、どんどん新しい指標が提案されていくんですね。
――野球には「この選手は打率や打点とかではあんまりパッとした数字は出ていないけれど、なぜかいつも強いチームにいる」ということがよくありますよね。そういったかたちで、これまではっきりとした数字は出ていなかった「なんとなく」だったり「空気感」のような部分を、より細かな指標で可視化させるというのが、セイバーメトリクスの大きな意義ですよね。
鳥越 その意味では最近、「運」というものを数値化しようという考え方が出てきています。選手本人の調子が悪くなくても、不運が重なって思うように成績を残せないことがよくありますが、たとえばバービップ(BABIP)という指標はその「運」「不運」を可視化しようというものです。
投手が投げた球を打者に打たれて、それがフェアゾーンに飛んだとき(ホームランを除く)にそれがヒットになる確率って、ほとんどの投手で3割付近に収束するという理論があるんです。たとえば今季、ある投手の調子が悪いなと思ったときにBABIPを見たら3割5分だった、と。そうなると、その選手の調子が悪いというよりも、チームの守備がまずかったり、たまたま転がったところが悪かっただけである可能性が高いと考えられる。なので翌年は本来の数字に戻せるのではと推測する。逆に成績がよくてもBABIPが2割5分だったら運に助けられている部分が大きいから、次のシーズンは成績がよくないかもしれないと予想できる。
――そのセイバーメトリクスが一部のマニアだけでなく、アメリカで少しずつ世の中に広がり始めたきっかけってなんだったんでしょうか? やはりビリー・ビーンの登場が大きい……?
鳥越 いや、大きなきっかけになったのは『ファンタジーベースボール』でしょうね。ビリー・ビーンがチーム編成にセイバーメトリクスを取り入れ始めたのは90年代前半以降ですが、ほぼ時を同じくして『ファンタジーベースボール』がネット上で爆発的に普及し始めました。
『ファンタジーベースボール』というのは、オンラインゲームの一種で、サラリーキャップ(選手の総年俸額を制限すること)の中で自分たちの夢のチームを作るというものです。実際のメジャーリーガーを題材にしていまして、彼らの現実世界での活躍がゲームでの加点対象になるのです。サラリーキャップですからオールスター級の選手を集められるわけじゃないですよね。だから実際の成績を見て、コストが安いけど良い成績を残している選手を集めていく。これはまさにビリー・ビーンのやっていることと同じですね。プレイヤーがデータを見て年俸の安い若手を雇った結果、その選手が実際に活躍してチームに大きなポイントをもたらしたとき、プレイヤー冥利につきるのでしょうね。
■パ・リーグを中心にセイバーメトリクスが普及した2000年代
――セイバーメトリクスの日本での受容についても伺っていきたいのですが、そもそも「野球にデータを導入する」という意味では、日本では90年代ヤクルト・野村克也監督の「ID野球」もありましたよね。鳥越さんの著書では、要するにID野球というのは野村監督の経験知に負う部分をデータ化・定式化していたものだったという分析も書かれていました。そうなるとID野球とセイバーメトリクスはまったく別物ということなんでしょうか?
鳥越 セイバーメトリクスのスタート地点では対極にあるものだったと考えています。僕は「ミクロの視点」と「マクロの視点」というふうに整理していますが、ミクロの視点で「次のノーアウト1,2塁でボールカウント2-1で、ここからはこう投げたらいい」という一瞬一瞬の判断をする際に、野村ID野球の経験知が使えるんだと思います。ですがセイバーメトリクスはミクロな判断というよりは、「この選手は科学的に見るとこういう成績だったから、この人の評価はこうですよ」というマクロな視点を与えるものなんです。
――なるほど。では、アメリカ流のセイバーメトリクスが日本で本格的に受容され始めたのは、いつぐらいなんでしょうか。
鳥越 一番最初に導入したと言われているのは、ロッテの監督を二度にわたり務めたボビー・バレンタインですね。もともとテキサス・レンジャーズで監督をやっていた方なので当然、セイバーメトリクス的考え方を身につけていたわけです。彼が最初に日本に来たのは1995年ですが、ポール・プポという統計の専門家をフロントに招聘して積極的にデータの活用を推し進めた。それで万年Bクラスだったロッテをいきなり2位に押し上げ、ファンのあいだでも大変支持されていたんですが、残念ながら彼のやり方は当時のフロントやコーチ陣に受け入れられなかった。やっぱり「俺たちの意見よりもデータを見るのか!」と反発する人が多いわけです。
――日本のプロ野球全体が、職人芸のようなスカウティングを頼りにしていた時代ですよね。
鳥越 やっぱり「職人さんの粋な腕を評価する」という文化が日本にはあるわけですね。しかしその後約10年間、ロッテはBクラスに沈んだため、ファンは余計にバレンタインの復帰を待望するようになっていったのです。
――そのバレンタインがロッテの監督に復帰したのは2004年で、1期目と2期目には約10年の間がありますよね。ちょうどこの時期はビリー・ビーンの手法がメジャーでかなり注目され始めた時期だと思うのですが、その間にセイバーメトリクスを導入していった日本の球団ってあるんでしょうか?
鳥越 ボビーが戻ってくるのと同時期、2004年に日本ハムファイターズが東京から北海道に本拠を移したのですが、それを機に、2005年頃に導入しています。デトロイト・タイガースのGM補佐から、阪神の総務部次長へと歴任された吉村浩さんをヘッドハンティングしたんですね。彼はセイバーメトリクスの知識を持っていて、1億円かけてBOS(Baseball Operation System)というシステム作り、それを基にフロント主体でチーム作りをやっていくことになったんです。
一方で同じ頃ロッテに復帰したボビーは、パ・リーグの予告先発制度を活用して、相手の先発投手に相性のよい打者を選んで毎試合打順を組むという大胆なことをやって、前の日4番だった里崎が次の日にはスタメン落ち,その翌日は9番だったりするもんだから「猫の目打線」なんて呼ばれていたりしましたね。結局2005年シーズンはロッテがパ・リーグのチーム得点1位の攻撃力でクライマックス・シリーズを勝ち抜き優勝、阪神との日本シリーズは4勝0敗の圧勝で日本一になったわけです。そのシリーズでの両チームの総得点33−4は、いまでもネット上で大差の例えとして使われていますよね。
――ロッテと日ハム以外に、セイバーメトリクスを導入していった球団ってどういうところがあるんですか?
鳥越 今だと、楽天が2012年から導入していますね。8月から立花陽三さんという、元々ソロモン・ブラザーズ、ゴールドマン・サックス、メルリンチなどで証券マンをやってた人を球団社長に迎えたんですね。彼はまず「我々でもわかるように楽天の戦力を数値化しろ」と指令した。そのためにセイバーメトリクスの分析をしている会社と契約して、2012年のシーズンが終わったところで分析結果を見てみたら、田中将大投手を中心に投手陣は揃っていて十分戦えるが、打線の方は4番・5番が穴だということがわかった。そこで右の長距離砲に狙いを定めて調査したところ、スカウトがA.J(アンドリュー・ジョーンズ)とマギーをリストアップしてきた。そこで立花さんが自ら交渉に向かい中軸を埋めた。そして2013年、投打がうまく噛み合って日本一になったわけです。
それからソフトバンクも日本IBM、クロスキャットとともに「χ援隊(かいえんたい)」と名付けられたデータ解析、レポート配信システムを構築しまして、スコアラーだけでなく、首脳陣や選手すべてに支給されたiphone、ipadにリアルタイムで分析したデータを配信、チーム内で共有できるようになりました。パ・リーグ優勝がかかった2014年10月2日の対オリックス戦で、10回裏1アウト満塁、一打決めればサヨナラ優勝という場面での松田がベンチ前でスタッフが手にしたデータを凝視しているシーンはちょっと感慨深いものがありましたね。
――パ・リーグを中心にセイバーメトリクスが普及して勢力図がどんどん書き換わっていったわけですね。しかしこれだけセイバーメトリクスが有名になってきているのに、セ・リーグのチームは導入していないんですか?
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鷹鳥屋明「中東で一番有名な日本人」第19回 ところ変われば化粧変わる、中東コスメ展示会
2019-05-16 07:00550pt
鷹鳥屋明さんの連載『中東で一番有名な日本人』。今回は中東のコスメ事情のレポートです。女性の美しくありたいという思いは万国共通。顔の大部分を隠すイスラムの女性も、目元を中心におしゃれには余念がないようです。中東で人気のつけまつげやネイル、さらに日本や中国、韓国の化粧品の評判について報告します
慎ましく、でももっと美しく
日本も中東もそろそろ春から夏の陽気を感じる季節になってきました。これから中東は気温が上がり、30度を超える日が増えてきます。こう暑くなるとそろそろ紫外線の心配をする季節になってきたとも言えます。日本よりも紫外線量の多い中東はお肌のケアも欠かせないですが、今回はビューティーワールド・ドバイを通じて現地の「お化粧事情」をご報告致します。
▲ビューティーワールド・ドバイ入り口
ビューティーワールドは世界各国で行われている化粧品、ネイル、美容機器、ヘア、スパなど美容に関わるものの最新の製品、サービスを見ることができる美容系の総合見本市です。ドバイでは2019年4月15日〜17日の間に、日本でも2019年は5月13日〜19日の間に東京ビックサイトで開催されています。ドバイでは3日間の間におおよそ約2000社、3〜4万人の来場があるイベントです。
▲ビューティーワールド・ドバイ会場内
会場では化粧品の香りだけでなく、様々な香りをつけたボディケア製品、オーガニック石鹸の香り、アラブでは多くの人が身につける香水の特設ブースから漂う独特の香り、スパゾーンから漂う香り、ヘアケア製品の香りなど男性の私からすると、日頃慣れない多くの香りに包まれて鼻が混乱していました。有名なブランドの新作発表や宣伝広告だけではなく、化粧品原料、OEM生産、製造装置、測定装置など幅広い分野の広告や展示品が並んでいました。
▲スパゾーンの実物を試すバイヤー、来場者
▲メイクアップ実演とメイクアップ後のモデルの女性たち
▲ヘアサロンのテクニック講習まで行われていました
所変われば化粧も変わる
日本で美容、ケアに関して最初にイメージするのは「お肌」と考える方が多いかもしれません。それに対してアラブの女性は化粧をする際にどこに一番力を入れるのかと聞かれれば多くの人は「目」であると答えるでしょう。そして二番目は「手元」(爪とも)ではないかと考えられます。 これはアラブの女性の多くが顔をヴェールで(正確にはヒジャブやニカブ)隠しているため露出の機会が一番多い部分が「目」のゾーンであるためです。そして日常生活の中でどうしても晒すことになる部分に手元があります。アラブの伝統的な装飾であるヘナ(ヘンナとも言います)はまさに中東〜南アジアにおける手の装飾の代表と言えます。 そんな伝統を証明するかのように会場の中ではムガル帝国時代創業のアイケア製品の会社もブースを構えており、伝統的な製品だけでなく新しいラインナップを揃えていました。
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成馬零一 テレビドラマクロニクル(1995→2010)宮藤官九郎(2) 演劇とお笑い クドカンを育んだ小劇場演劇
2019-05-15 07:00550pt
ドラマ評論家の成馬零一さんが、90年代から00年代のテレビドラマを論じる『テレビドラマクロニクル(1995→2010)』。今回は、宮藤官九郎のルーツである戦後の演劇文化を論じます。新左翼の強い影響下にあった小劇場演劇は、80年代以降は学生運動を相対化する「笑い」に転じ、「身体の再解釈」という主題を得て、つかこうへい、野田秀樹、鴻上尚史、平田オリザといった才能を輩出します。
小劇場演劇からキャリアをスタートして、テレビドラマで成功した二大脚本家と言えば、三谷幸喜と宮藤官九郎だが、今もテレビドラマと小劇場演劇の交流は活発だ。 現在放送中の『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』(NHK)の脚本を担当する三浦直之も劇団ロロの主宰で、小劇場演劇で高く評価されている。本作は浅原ナオトの小説『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』(KADOKAWA)をドラマ化した原作モノではあるものの、ボーイミーツガール・ストーリーの名手として知られる三浦の筆致はみずみずしいもので、珠玉の青春ドラマに仕上がっている。 昨年はインスタグラムのストーリー機能で配信された縦長の画面を駆使したショートドラマ『デートまで』『それでも告白するみどりちゃん』(現在はどちらもYouTubeで視聴可能)が評価され、いつか長尺の連ドラを書いたら面白いのではないかと思っていたのだが、NHKのよるドラ枠という、新鋭クリエイターを積極的に起用する深夜枠(夜11時30分放送)の脚本家として起用された。このタイミングで三浦を起用したNHK関係者の眼力は確かで、今後のテレビドラマを考える上で重要な作品となるのではないかと思う。他にも岩井秀人(劇団ハイバイ)や根本宗子(月刊「根本宗子」)など、小劇場演劇からキャリアをスタートしてテレビや映画といった他ジャンルに進出していくという流れは定着している。
旧劇と新劇
古くは寺山修司から近年の三浦直之に至るまで、小劇場演劇を拠点に様々な才能が誕生した。今回はそんな小劇場演劇の歴史について振り返ることで松尾スズキの歴史的立ち位置について検証する。
まず、日本の演劇には「旧劇」と「新劇」がある。 旧劇は能、文楽、狂言、歌舞伎といった江戸時代までに生まれた伝統演劇。明治以降、ヨーロッパ演劇に影響を受けた演劇が新劇だ。 前者が様式的な時代劇、後者がリアリズムを基調とした現代劇だと言えよう。 宮藤官九郎の大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(NHK)を見ていると、スポーツと体育が、外国人との身体能力の落差に追いつくための手段として国家規模で推し進められていたことがよくわかる。 夏目漱石や森鴎外が持ち込んだ近代文学にしても同様だ。鎖国を解いて世界を向き合うことになった日本は江戸時代までの古い文化を捨てて、近代に適応するため政治や軍事技術はもちろんのこと、文学やスポーツも取り入れようとした。 新劇もそういった文化の一つで、ヨーロッパの演劇を取り込むことで日本人は近代の身体と思考法を手に入れようとしたのだ。
新劇のカウンターとして生まれた小劇場演劇
左翼的なイデオロギーが強かった新劇は、戦時下には弾圧され戦意高揚の軍事劇に駆り出された。その結果、数々の劇団が解散へと追いやられたが、戦後、再び盛り返す。 文芸坐、俳優座、民芸といった大手劇団や、左翼系の新劇を否定する浅利慶太の「劇団四季」が結成され、三島由紀夫や安部公房らが戦後派の劇作家も活躍した。
演劇評論家の扇田昭彦は戦後新劇について以下のように語っている。
これらの劇作家によって、優れた劇作がいくつも生まれたことは間違いない。だが、戦前派の指導者を中心に再出発・再編成されたためもあって、戦後の新劇界は、文学における「戦後文学」に匹敵するような、「戦後演劇」の新しいかたちを総体として作り出さないまま、一九六〇年代を迎えた。 (『日本の現代演劇』著・扇田昭彦(岩波新書)「序章 新劇場がスタートした」)
そんな旧態依然とした新劇に対するカウンターとして登場したのが小劇場演劇である。 60年代にはじまった小劇場運動は、バラックのような倉庫や映画館、路上や、テントなどで創作劇を上演し、新劇が手をつけてこなかった伝統劇との繋がりをめざし、前近代的なものの再検証がおこなわれた。中心となったのは寺山修司の天井桟敷と唐十郎の赤テントである、彼らの芝居は「見世物小屋の復権」が提唱され、「アングラ演劇」と呼ばれた。
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【新連載】草野絵美 ニューレトロフューチャー 第1回 テクノロジーへの思いをアートで体現する
2019-05-14 07:00550pt
今日のメルマガは、草野絵美さんによる新連載の第1回目をお届けします。音楽からファシリテーションまで、多方面に活躍する草野さんが、アーティストとしての活動を本格化。80年代のSF的な想像力と10年代に実現したテクノロジーとのギャップから、現代という時代を見つめなおします。
はじめまして。私の名前は、草野絵美です。コラムを書いたり、テレビCMに出演したり、TV番組の司会をしたり、作詞作曲をしたり、歌ったりと、様々な活動をしていますが、肩書きとして筆頭に掲げるのは、「アーティスト」です。”Artist” という肩書きは、英語圏で言えば美術作品を手がける芸術家という意味合いが強いですが、日本では、ミュージシャンをアーティストと呼ぶことも多くあります。ちなみに私は、どちらかというと前者の“芸術家”としてのアーティストを名乗っているつもりです。
とはいえ、私には手がけた美術作品はまだ少なく、フェスに出たりアルバムを配信している音楽活動のほうが目立っているので、このようなことを言うのは正直おこがましいとも思っています。しかし、音楽活動では、楽曲やMVやパフォーマンスなどを包括する世界観を複合芸術として生み出している感覚です。もっと言うと、宮島達男氏が著書『art in you』で説くように、アーティストを職業ではなく、生き方そのものであると捉えるほうが自然であると私は信じています。自分の内なる想いを納得をするまで形にすること、それを他者に伝えること、それは私の理想の生き方です。
80年代レトロカルチャーの「新しさ」
平成初頭に東京に生まれた私は、物心ついたころには、ギャル文化、アムラーやシノラーなどの熱狂的な流行に出会い、大人の文化に羨望を抱きながら真似をしていました。しかし、自身が青春時代を過ごす2010年代を皮切りに、圧倒的なファッションリーダーは姿を消し、無数の親しみを帯びたオンライン・インフルエンサーたちの世界線に変わっていきました。 H&M、Zara等のファストファッションが街に溢れ、ガングロギャルやロリータなど、日本特有のファッション部族たちが徐々に衰退を目の当たりにました。終いには、コレクションで模倣した粗悪品も飽きられ『ノームコア(*1)』というなんとも寂しいスタイルが普及したのも印象深い出来事でした。 そんな一連の時代を過ごしてきた私にとって、多くの人間が同じ国の、同じメディアで同じコンテンツに熱狂させられていた時代は二度と戻れないレトロであり、不思議と猛烈に惹かれるものがありました。特にYouTube上にアップロードされたバブル時代のテレビの映像は、どこかグロテスクな魅力を内包しているように私の目には映りました。まだ情報よりも物への執着に狂喜乱舞している情景が、奇妙にもこれから始まる近未来のようにも錯覚し、とにかく目が離せなかったのを覚えています。
このような偏愛により、大学在学中の2013年に音楽ユニット『Satellite Young』を結成しました。曲調・ビジュアルは近未来風に解釈された80年代アイドルでありながらも、歌詞で扱うテーマは80年代には存在することのなかった「オンライン交際」や「人工知能」「ネット上の仮想記憶」など現代におけるテクノロジーと人間の関係性です。
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宇野常寛 NewsX vol.29 ゲスト:隅屋輝佳 「市民が法律を〈つくる〉方法」【毎週月曜配信】
2019-05-13 07:00550pt
宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネルにて放送中)の書き起こしをお届けします。4月2日に放送されたvol.29のテーマは「市民が法律を〈つくる〉方法」。Pnika(プニカ)代表理事の隅屋輝佳さんをゲストに迎え、民間のニーズに応える法律の改正を可能にするには、どのような仕組みが求められるのか。インターネットを活用した海外の事例の紹介を交えながら、あるべき法律と社会の関係について考えていきます。(構成:籔 和馬)
NewsX vol.29 「市民が法律を〈つくる〉方法」 2019年4月2日放送 ゲスト:隅屋輝佳(Pnika代表理事) アシスタント:得能絵里子
宇野常寛の担当する「NewsX」火曜日は毎週22:00より、dTVチャンネルで生放送中です。 番組公式ページ dTVチャンネルで視聴するための詳細はこちら。 なお、弊社オンラインサロン「PLANETS CLUB」では、放送後1週間後にアーカイブ動画を会員限定でアップしています。
現在の市民生活の障壁となる法律の問題
得能 NewsX火曜日、今日のゲストは一般社団法人Pnika代表理事の隅屋輝佳です。宇野さんと隅屋さんはどのようにしてお知り合いになったんですか?
宇野 Yahoo! JAPANの安宅和人さんという有名なデータサイエンティストがいるんだけれど、彼が主催している勉強会で一緒で、そこで知り合ったという感じ。
得能 隅屋さんはどういう活動をしていらっしゃるんでしょうか?
隅屋 社会のルールである法律を限られた人だけではなくて、いろんな立場の人、マルチセクターで一緒に考えて一緒につくることを可能にする新しい仕組みをつくりたいと思って活動している団体が、一般社団法人Pnikaです。
得能 今日のテーマは「市民が法律を〈つくる〉方法」です。
宇野 法律は立法府でつくられるし、もう少しレベルが低い政令や省令などは行政が定めるんだけど、僕ら市民がそれに直接コミットすることは難しいイメージがあると思うんですよ。でも隅屋さんたちは、今のインターネットや情報テクノロジーを使って、それを可能にしていく、市民と法律との距離を近づける活動をしようとしている。選挙で立法府に自分たちの代弁者を送り込んで世の中を変える。あるいは市民運動やデモなどで時の政権に圧力を加える。または、ある種のコネ政治的なロビイングなど、いろんな政治参加の方法はあるんだけれど、今までにない新しい方法をテクノロジーを背景につくろうとしている運動だと思うんですよ。
得能 最初のキーワードは「法律の『壁』 法律の『ハードル』」です。
宇野 今の日本に限らず、法律は常にアップデートされないといけないんだけれど、現行の民主主義の制度では変えるのに時間がかかったりする。法律が僕らの市民生活やビジネスの現場のイノベーションの邪魔をしているケースもあるんだよね。法律の内容もそうなんだけど、法律のあり方に問題がある。法律と市民との距離が、僕らの市民生活やビジネスを難しくしている側面があるはずなんですよ。そういうところに注目して、隅屋さんたちのPnikaは活動しているので、そこの問題整理から始めてみたいと思っています。
隅屋 イノベーションがこんなに必要とされる時代もないし、いろんな新しい文化やIoTのような、今までの業種の枠組みにとらわれない新しいプラットフォームビジネスがたくさん起こってきていると思うんです。でも、それを前提としていない法律が邪魔してしまっている。そういう事例がたくさん起こってしまっています。だから、法律の内容やプロセスを変えていく必要があると思って活動しています。実際にどういうところの法律が、自分たちの市民生活と乖離しているんだろうというところを、具体例としてお見せしたほうがいいと思うので、いくつかの例を持ってきました。
Fight for the Japanese Tatto culture
隅屋 たとえば、あまり私も馴染みがないんですけど、一部アートとして海外では認められているタトゥー、それに対して、クラウドファンディング等で裁判費用を集めるのが話題になっています。タトゥーの彫り師が全員医師か。○か×かという、そういうようなことで。
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2020年、押し寄せる大量の中国人観光客にどう対応するか?6年後の東京に迫られる課題――社会学者・張彧暋(チョー・イクマン)インタビュー(PLANETSアーカイブス)
2019-05-10 07:00550pt
今朝のPLANETSアーカイブスは、香港出身の社会学者・張彧暋(チョー・イクマン)氏のインタビューをお届けします。2020年の東京オリンピックの課題は、「外国人にどう東京の・日本の魅力をアピールするか」ではなく、押し寄せる中国人観光客にどう対応するかであるという張氏。そして、日本ポップカルチャーの東アジアでの「実際の受け取られ方」とは――!?(聞き手・構成:中野慧)※本記事は2014年7月29日に配信された記事の再配信です
■2020年、東京には大量の中国人観光客が押し寄せる
ーー張さんは、2020年の東京オリンピックの開催についてどのようなことを考えていますか。
張 私は香港人なので、やっぱり観光客としての目線で捉えていますね。2008年に北京オリンピックがあって、2012年にロンドン、その次に2016年にリオ・デ・ジャネイロがあって、その後が東京オリンピックなわけですよね。たとえば2008年の北京オリンピックって、かつて1964年に開かれた東京オリンピックと性格が似ていたと思うんです。チャン・イーモウさんの劇場型の開会式に見られるように、工業化と経済発展のさなかの中国にとっては、ナショナリズムが盛り上がるクライマックスの時期でした。
それに対して2020年の東京って、すでに工業化自体は完了しているわけですよね。宇野さんが「PLANETS vol.9」でやろうとしているプロジェクトも、工業化社会ではなくサービス・エコノミーやクリエイティブ・エコノミーの側面を打ち出していこうというものだと思います。
▲『PLANETS vol.9 東京2020 オルタナティブ・オリンピック・プロジェクト』
その一方で面白いのは、2013年に日本に来た観光客の数は年間1000万人ぐらいで、一番多いのは韓国で、次に台湾、中国、香港で、やっぱり東アジアの国々が大半なわけです。そして東アジアのなかでも、韓国・台湾・香港と日本の経済構造は近似性が高い。すでに製造業が衰退し、新しいサービス、新しい体験が発展している。経済構造が近いということは観光に求めるものも近いということで、これらの国から来る観光客は、たとえば秋葉原に代表されるようなサブカルチャーであったり、いろんな温泉体験であったり、美味しい食事であったり、カフェ巡りだとか、ファッションだとか、美術館に行くことを目的にしていたりする。香港の例を出すと、5-10年前までは東京に来ても日用品などを買っていたわけですが、今は韓国や台湾からの観光客と同じように、消費だけではなく文化体験のほうにゆっくりと方向性が変わっていっています。
ですが中国からの観光客はまだ工業化時代のメンタリティが強く、ナショナリズムと経済の成長と国の誇りを一緒に考えています。たとえば香港には去年、年間5000万人の観光客があのちっぽけな島に来て、大半が中国大陸からの観光客でした。彼らが求めているのはサービスではなく、ブランド品と日常用品の買い物です。そしてその5000万人の観光客はそろそろ香港には飽きてきて、今は台湾に進撃中です。そして台湾ではたくさんの中国人観光客が溢れて、マナーが悪いということで非常に問題になっている。
で、2020年の東京オリンピックを考えるとやはり、韓国・台湾・香港やヨーロッパ人、アメリカ人はともかくとして、そういう中国の観光客に対してどう対応するかが課題になってくると思います。たとえば、彼らが求めているのは必ずしも秋葉原のサブカルチャーだけではなくて、薬品を買いに来たりとか……。
ーーえっ。薬品って、何のことですか……?
張 香港でいま一番多い店は薬局なんです。観光客がいろんな美容品とかサプリメント、もしくは赤ちゃんのための粉ミルクを求めるからですね。中国はとにかく社会に対する信任(Trust)があまりにも低くて、信頼性の高い、体に良い製品を買い求めるんです。
ーー「外国人にどうやって興味を持ってもらうか」ということだけではく、むしろ中国の人たちがたくさん押し寄せるのはもう確実だから、どうやって対応するかを考えないといけないということですね。
張 そう。対応といってもホテルの数のようなインフラの話や、サービスをどう充実させればよいかという問題ではなく、とにかくすごい人数が来るから、そこにどうやって対応するかということですね。
年間数千万の観光客が東京に溢れて薬局で薬を買ったり粉ミルクを買ったりとか、もしかするとホテルでダブルベッドに10人が寝ているとかそういう光景も繰り広げられたりするかもしれない。おそらく東京の生活リズムを破壊されていくし、都市の景観自体もすっかり変わってしまいます。
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本日20:00から放送!宇野常寛の〈木曜解放区 〉 2019.5.9
2019-05-09 07:30本日20:00からは、宇野常寛の〈木曜解放区 〉
20:00から、宇野常寛の〈木曜解放区 〉生放送です!〈木曜解放区〉は、評論家の宇野常寛が政治からサブカルチャーまで、既存のメディアでは物足りない、欲張りな視聴者のために思う存分語り尽くす番組です。今夜の放送もお見逃しなく!
★★今夜のラインナップ★★メールテーマ「引っ越し」今週の1本「バースデー・ワンダーランド」アシナビコーナー「井本光俊、世界を語る」and more…今夜の放送もお見逃しなく!
▼放送情報放送日時:本日5月9日(木)20:00〜21:30☆☆放送URLはこちら☆☆
▼出演者
ナビゲーター:宇野常寛アシスタントナビ:井本光俊(編集者)
▼ハッシュタグ
Twitterのハッシュタグは「#木曜解放区」です。
▼おたより募集中!
番組では、皆さんからのおたよりを募集しています。番組へのご意見・ご感想、宇野に聞いてみたいこと、お -
與那覇潤 平成史ーーぼくらの昨日の世界 第4回 砕けゆく帝国:1995
2019-05-09 07:00550pt
今朝のメルマガは、與那覇潤さんの「平成史ーーぼくらの昨日の世界」の第4回をお届けします。時代の転換点と言われる「1995年」。55年体制の終焉、オウム真理教事件、サブカルチャーの爛熟ーーその背景にあったのは、かつて江藤淳が「ごっこ遊び」と批判した、戦後日本の欺瞞を覆い隠していたアイロニーの機能不全でした。
エヴァ、戦後のむこうに
「それは今すぐにも切り裂かれる空の、告別の弥撒(ミサ)のようだ。パイプ・オルガンの光りだ、あれは。 ……この銀いろの鋭利な男根は、勃起の角度で大空をつきやぶる。その中に一疋の精虫のように私は仕込まれている。私は射精の瞬間に精虫がどう感じるかを知るだろう」[1]
1995(平成7)年10月4日に初回が放送され、97年7月公開の旧劇場版(Air/まごころを、君に)での完結まで一大旋風を巻き起こしたアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』のノベライズにある一節です――と書いたら、ひっかかる人はいるでしょうか。もちろんそうではなく、三島由紀夫が1968年に発表した自伝的な随想『太陽と鉄』の末尾にある、自衛隊機F104への搭乗記の一部です。
『太陽と鉄』の鉄とは、ボディビルディングに使用していたバーベルのこと。同書が刊行された68年10月に三島は民兵組織「楯の会」を発足させ、70年11月25日の割腹自殺へと歩みはじめます。この大文学者の想像力のなかでも、性的なマッチョイズムが軍服と私兵と機械(戦闘機=銀いろの鋭利な男根)に形象化されていたことが[2]、よくわかる美文と言えるでしょう。
『新世紀エヴァンゲリオン』(旧エヴァ)が平成前半の日本で社会現象となった理由は、さまざまに語られてきました。主人公・碇シンジら中学生の心の闇(家庭崩壊やコミュニケーション不全)を描くシナリオと、95年のスクールカウンセラー事業開始にみられる心理主義的な風潮との合致。キリスト教(敵キャラクター=使徒)と異教との対立をモチーフに人類全体の浄化(補完)をめざす闇の組織ネルフが、やはり95年の春から大問題となるオウム真理教を連想させたという偶然[3]。ブルセラショップが街にあふれる時代とシンクロした、青少年向けのTV番組としてはきわどい性描写など。
しかし高校生だった当時エヴァをまったく見ておらず、2007年に大学教員になって日本文化史を講じるためにようやく鑑賞した私には、この作品がむしろ違うことを訴えていたように思えます。『旧エヴァ』は14歳の碇シンジの失敗し続けるビルドゥングス・ロマン(成長物語)である以上に、つねに軍服に身を包み悪役然として登場するその父・ゲンドウが、いかに「父になれない」存在かが主題だったのではないか、と。
総監督の庵野秀明さんは1960年生なので、本人の体験ではないのでしょうが、ゲンドウには全共闘時代(70年安保)の過激派学生を思わせるところがあります。主要人物の過去が描かれるTV版のなかば、傷害事件で収監されたゲンドウが釈放されるシーンがありますが、引受人は善人そうな大学教授の冬月コウゾウ。この冬月は結局ゲンドウに、事実上自分の研究室(と女子学生・碇ユイ――シンジの母)を乗っとられるわけですが、その後一時はもぐりの医者をしてセカンドインパクトの被災者に尽くしたという描写にも、冷戦下の「良心的知識人」の戯画としての性格がうかがえます。
温厚で理知的だが、暴力をためらう冬月のような甘っちょろい(または、平和ボケした)インテリ教授の権威を転覆して、権謀術数に手を染め「解放区」のように治外法権が許される特務機関ネルフの支配者におさまったゲンドウ。しかし、彼の内面は空疎です。亡妻ユイの思い出にいつまでも執着し、その似姿としての人造人間・綾波レイをクローンのように量産しては溺愛する。いっぽうで実の――かつ同性の――子であるシンジとは向きあい方がわからず、世話役を部下の葛城ミサトに丸投げ。
そうした目で見ると「全共闘世代は父になれるか」こそが、『旧エヴァ』の命題ではなかったかという気がしてきます。全共闘の担い手は団塊の世代(終戦直後の1947~49年生まれ。命名者は堺屋太一)と重なりますが、「団塊親」こそは放映当時、宮台真司氏が「かれらの世代がかつて〔学生運動で〕世間や道徳を否定した実績ゆえに、親本人が絶対的な道徳を信じていない」[4]ため、ブルセラ女子高生を叱る権威をもちえないと指摘していた世代でした。叱ったところでゲンドウのような「厳父のコスプレ」にしかなりえない人びと、ということですね。
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