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「広告がなくなる日」はいつ訪れるのか?|牧野圭太
2020-09-17 07:00550pt
今朝のメルマガは、イベント「遅いインターネット会議」の冒頭60分間の書き起こしをお届けします。本日は、カラス代表/エードット取締役副社長の牧野圭太さんをゲストにお迎えした「『広告がなくなる日』はいつ訪れるのか?」です。SNS上のターゲティング広告が常態化し、そして、問題化されつつある現在。かつて、時代を牽引したマスメディア型の広告の遺産から、現代の表現者たちはなにを継承すべきかを考えます。(放送日:2020年8月18日)※本イベントのアーカイブ動画の前半30分はこちらから。後半30分はこちらから。
【次回『遅いインターネット会議』のお知らせ】10/6(火)矢島里佳「〈伝統のアップデート〉でなにをもたらすか」全国の職人と共にオリジナル商品を生み出し、伝統工芸を新しいかたちで暮らしの中に提供する矢島里佳さん。「伝統や先人の智慧」と「今を生きる私たちの感性」を「混ぜる」のではなく「和える」というコンセプトを掲げた“0歳からの伝統ブランド aeru”をはじめ、独自のスタイルでの〈伝統のアップデート〉の取り組みが目指すものについて、じっくりと伺います。生放送のご視聴はこちらから!
遅いインターネット会議 2020.8.18「広告がなくなる日」はいつ訪れるのか?|牧野圭太
得能 こんばんは。本日ファシリテーターを務めます、得能絵理子です。
宇野 こんばんは。評論家の宇野常寛です。
得能 「遅いインターネット会議」。この企画では政治からサブカルチャーまで、そしてビジネスからアートまで、様々な分野のプロフェッショナルをお招きしてお届けしております。本日は有楽町にある三菱地所さんのコワーキングスペース、SAAIから放送しています。本来ですとトークイベントとしてこの場を皆さんと共有したかったんですけれども、当面の間は新型コロナ感染防止のため動画配信に形式を変更しております。
宇野 3月から始まったんだけど、1回もお客さんを入れてないんです。いつかお客さんが入ることを想定しているんですけどね。
得能 ちゃんとここに飛沫が飛ばないようにしっかりシールドもできているんですよね。
宇野 シールドも完璧です。
得能 それでは早速、本日のゲストの方をご紹介します。今日のゲストはカラス代表、エードット取締役副社長の牧野圭太さんです。よろしくお願いします!
牧野 牧野です、よろしくお願いします。
得能 牧野さんと宇野さんはどういったご関係になるんですか?
牧野 リアルに会うのは今日が初めてですね。
宇野 オンラインイベントで一緒になったことはありますよね。
牧野 朝7時からのイベントがあって、それでご一緒したんですよね。
得能 朝7時ですか、マッチョな感じで。早いですね。
牧野 僕、そんなに朝強くないんですが、宇野さんと初めてのご一緒するイベントだから、これだけは寝坊できないと思って、気合で早く起きました。
宇野 「5時こーじ」っていう、早起きに魂を捧げている男がいて、彼に誘われて朝のイベントに出たんです。牧野さんは結構僕の仕事をフォローしてくれていて、以前からよく言及してもらっていたんですよね。
牧野 そうですね。
宇野 この人は何やっているのかなと思って調べたら、「文鳥文庫」とかいろいろなお仕事が出てきて、面白いことをやっている人がいるなって、ずっと意識はしていたんですよ。それが最近になってご縁ができて、一度じっくりお話を聞いてみたいなと思って、今日はお呼びしました。
牧野 ありがとうございます。
得能 牧野さんから見た宇野さんはいかがでしょうか?
牧野 僕はずっとウォッチさせていただいて、めちゃくちゃ尊敬している方なので、今日こうやって隣にいることが不思議な感覚ですね。さすがに僕もそれなりの歳なので、普段は講演会で緊張するようなこともないんですけど、昨日の夜から久々に緊張しています。
宇野 まじですか。今日はリミッター解除で行きましょうね。
牧野 解除できるように頑張ります。
得能 楽しみです。
牧野 よろしくお願いします。
得能 よろしくお願いします。さて、本日のテーマは「広告がなくなる日は訪れるのか」です。SNSでのターゲティング広告が常態化されつつある現代、かつて時代を牽引したマスメディア型の遺産から、現代の表現は何を継承すべきなのか、というようなテーマになります。本日は牧野さんとじっくりと考えていきたいと思います。
宇野 インターネットが生まれてから、広告業界は激変すると言われていて、広告業界の人って、挨拶代わりに「広告ってそもそもどうなのか」ってことを絶対に言うんですが、そこに対して本当にちゃんと考えている人は少ないと思うんです。牧野さんはその数少ない中の一人だと思うので、今日は21世紀の時代を生きている僕ら人類と、広告的なものとの関係がどう変わっていくのかというところまで、お話できたらなと思っています。
牧野 めちゃくちゃ楽しみです。では、僕も1つだけ。今、お話にあった、ターゲティング広告って、システム的なところで語られたことはあっても、クリエイティブ側の人間が語ることがものすごく少ない。僕は博報堂でコピーライターをやっていたんですけど、やっぱり、広告の文化的な要素はクリエイティブの方が担っていることは間違いないと思うんです。けれど、そちら側から語っている人間がほとんどいないんです。
宇野 そうなんですよ。僕はそこが大事だと思っていて。形式が変わることによって、響く中身や、受け入れられる中身は変わっているはずなんですよ。革袋と酒の話を今日は一緒にしたいと思っています。
「広告がなくなる日」はいつ訪れるのか
得能 それでは、議論に入っていきたいと思います。今日は大きく分けて2部構成でお届けします。前半では「文鳥文庫」や「旬八青果店」など、既存の広告の枠に捉われないユニークな活動をされている牧野さんのこれまでの活動についてご紹介いただきたいと思っています。後半は、広告とSNSの関係など3つの観点から、広告のこれからについて、さらに議論を進めていきます。では早速、牧野さんの現在の活動に至るまでの経緯をご説明いただきたいと思います。
牧野 よろしくお願いします。ではスライドを出していただいて、「広告がなくなる日」というタイトルで話させていただければと思います。
この後にも入れているんですが、2年くらい前、今ほどnoteが普及してないタイミングだと思うんですけど、noteで「広告がなくなる日」というブログを書いたら思いのほか拡がって、次の日の朝起きたら、自分のスマホに「広告がなくなる日」っていうタイトルのプッシュ通知が飛んできていたんです。NewsPicksが拾ってくれて、「NewsPicksで人気です」って飛んできていて、そこで初めてnoteに書いたものがNewsPicksに行くんだって知ったんです。
宇野 それはNewsPicksの伝家の宝刀、言葉の最良の意味でのPV泥棒ですよ(笑)
牧野 けっこう話題になって、3000picksされたんです。当時は3000picksされる記事ってあんまりないよな、と思っていたんですが、すごくシェアされて。そんなつもりで書いてなかったんですけど、みんな関心のあるテーマなんだなと、その時に気づきました。ずっとこのテーマを言い続けたり、書き続けたりしている中で、今日こういった場に呼んでいただいているのかなと思っています。
今までの仕事としては、こんなことをやっています。 僕は、2009年に博報堂に入社してコピーライターという職種に就いたんですけど、もともとクリエイティブ志望ではなく、営業職志望で広告業界に入ったんです。ここが僕の特徴的な流れかなと思っています。広告ビジネスってどうなってるんだろうなとか、どちらかというとビジネス側に興味があったんです。その頃は何も考えていない学生だったので、なんとなくビジネス的なお金儲けの要素とアートや音楽といったものを紐づけられるようなところに興味を持って博報堂に入りました。最初は全体像を知れた方がいいかなと思って、営業職を志望していたんですが、なぜかクリエイティブ職で採用されたんです。偉そうな言い方になってしまうんですけど、やっぱりクリエイティブ志望が一番多くて、例えば100人中50人ぐらいが第一希望にクリエイティブ職を書くんですが、そのうち5人ぐらいしか行かない。なぜかそこにぶち込まれて、そこから広告クリエイティブやコピーライターの仕事を学んでいきました。すごくよかったのは、最初からコピーが好きとかではなかったので、業界を客観的に見れる存在になれたなと思っています。例えば、学生時代からコピーが好きだったような人って、その世界に入ったら染まりがちな気がするんです。でもそうではなかったから、入ったときからずっと、コピーの賞とかあるけどおかしいな、めちゃくちゃ内輪的な世界だな、と疑問視することができたなと思っています。 ここには今までの仕事を載せているんですけど、去年一番話題が作れたかなと思っているのは、左上の「かあちゃんの夏休みいつなんだろう」っていう、Oisixとクレヨンしんちゃんのコラボレーションの仕事です。後でまた出てくるんですけど、これはすごくSNSで話題になったりしました。他には、あんまり外で言っちゃいけないって言われているんですが、2年ほど前から、ローソンのおにぎり屋さんのリブランディングという形で、パッケージなどを手掛けていました。その中では「悪魔のおにぎり」のデザインなども弊社で担当をしていました。
得能 けっこうハイカロリーなイメージがありますよね。
牧野 カロリーの高い悪魔的なイメージなのに、めちゃくちゃ売れたんです。それで、博報堂を辞めて今やっていることは、大きく言うと、やっぱりマスに依存しない広告クリエイティブを追究することを、会社でも、自分自身でもやっていきたいなと思ってやっております。その中で「旬八青果店」といったブランドづくりとか、「文鳥文庫」っていう16ページ以内の文学だけを集めた1枚150円で買える文庫本などを作ったり、というようなことをやっています。今日、「文鳥文庫」を持ってこようと思っていたのに忘れてしまいました。
得能 緊張しすぎたのかもしれないですね。
牧野 すみません、緊張しすぎましたね。今度改めて持っていきます。すでに長くなってしまっているんですけど、ガシガシ行ければなと思います。では、次のスライドをお願いします。
「広告がなくなる日」っていう偉そうなタイトルを書きましたが、広告はなくなるのか、なくなるとしたら、それはどんな世界で、一体いつなくなるんだろうか、とか僕なりにずっと考えています。
それで、自分でいきなりオチみたいなことを言うんですけど、結論として、広告というものはなくならないと思っています。なくならないけれど形とか見た目がすごく変わって、いま広告だと思っているものが、徐々にというか一気になくなるかもしれない。例えば、マスで広告といったらテレビCMや新聞広告や雑誌広告が思い浮かぶと思うんですけど、大きな流れとして、そういったメディアに何かを載せるという概念ではなくなっていくんじゃないかと思っています。ただ広告という、企業や作り手が伝えたいことを伝える技術は未来永劫なくならない行為なので、概念としての広告というものは残っていくはずです。
ここは、今日こんな話をするのも馬鹿らしいなと思いつつ持ってきているところです(笑)。インターネットとSNSというインフラの確立によって仕組みが変わって、広告業界の構造や可能性が変わっていくだろう、ということです。実際に今までも変わってきたし、これからさらに変わっていくだろうなと思っていて、先ほど宇野さんもおっしゃっていたように、この数年でその潮目が変わってきたんじゃないかなというのが個人的なイメージです。では、ここで改めてこの名著を出したいと思います。次のページをお願いします。
宇野 ありがとうございます。僕もそう思ってます(笑)
牧野 (笑) この中からちょっとだけ引用してるところがあるんですけれど、大きくはここらへんに全部書かれていることなので、僕が今日わざわざ言うことではないのかなと思いつつ、この構造が広告にもすごく当てはまっているように感じています。
やっぱり昔はCMも一方的で、他人の物語だったと思うんですよ。タレントが出てきて、フィクションとして作られていたものだった。そこから、みんながSNSでダイレクトにつながって、フィクションではないリアルな情報を得るようになった。当然、そちらの方が楽しいから、僕、勝手にここに「自分(たち)」って入れさせてもらったんですけど、自分たちの物語を共有するようになってしまったのだと思います。
この「映像の世紀」から「ネットワークの世紀」へ、ということも本当にそのまま当てはまります。一方的にテレビCMの枠で映像を見せていた時代から、ネットワークの中で何をするか、何が起きるかっていう構造へ、頭の中を変えていかなきゃいけないんですが、意外と広告業界ってまだまだ追いついていないと思っています。
ここはそのまま引用させてもらっているところなんですけど、インターネット上において動画や画像で常にシェアされる構造を前提に広告は作られていくべきなんです。今はそこの技術と行動が追いついていない状態です。ただ、どんどんいろんなものが出てきているので、一気にシフトしていくんじゃないかと思います。
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『シンプルフェイバー』──「これは誰にも言わないでね」の恐ろしさ|加藤るみ
2020-09-16 07:00550pt
今朝のメルマガは、加藤るみさんの「映画館(シアター)の女神 3rd Stage」、第8回をお届けします。今回ご紹介するのは、1人の女性の失踪をきっかけに明らかになっていく女同士の秘密を描いたサスペンス『シンプルフェイバー』。「これは誰にも言わないでね」とラフに打ち明けられる、薄っぺらくも心をざわつかせる「秘密」の恐ろしさを描いた本作の魅力を語り倒します。
加藤るみの映画館(シアター)の女神 3rd Stage第8回『シンプルフェイバー』
おはようございます、加藤るみです。
8月も終わり、もう9月半ば。 今年もあっという間にあと残り約3ヶ月になってしまいました。
先月は『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』について書きましたが、かなり好調らしく……! 沢山のミニシアターで満席が続出し、公開劇場の拡大まで決定という、このコロナ禍では異例のヒットを飛ばしています。 公開前から自信を持って「コレは良い!」と、イチオシしていた作品なので、心の中でドヤ顔をしています。
評判を検索してみたところ、毛色のまったく異なる作品ですが、去年アカデミー賞を受賞した『パラサイト』と同じような現象が起きているようで、TwitterやInstagramなどSNSでの盛り上がりに比例して、あまり映画に興味がない層にもジワジワと届いているようです……(映画ヲタの私はこれが一番嬉しい!)。
『パラサイト』はネタバレ厳禁というメッセージと、なんと言ってもアカデミー賞という最高の宣伝ワードがありましたが、「なんか流行ってるから観に行こう」と映画館に脚を運ぶミーハー層が、いまの映画界にとってめちゃくちゃ大事な存在だと私は思っていて、そう思わせることが、これからの映画マーケティングに必要なことかもしれないと『パラサイト』『ブックスマート』の一連の流れで痛感しました。 今年の作品では、『ミッドサマー』もミーハー層を上手く取り込めていた印象があります。
もちろん作品が面白く、魅力的であることは大前提ですが、一連の動きを見ていると、作品をどう届けるかが大事なのだと考えさせられます。
……と、いち映画ファンの戯言をつらつら書いたところで……(これについては語り出すと止まらない)。
今回はNetflixで見つけた掘り出し物を紹介します。 久々に「こんな傑作を見逃していたとは!」と、劇場で観なかったことを後悔しました。 去年公開の作品ですが、リアルタイムで観ていたら確実に年間ベストに入れていたでしょう!
タイトルは、『シンプルフェイバー』(’19)です。
▲『シンプルフェイバー』(画像出典)
ダーシー・ベルのミステリー小説『ささやかな頼み』を原作に『ゴーストバスターズ』('16)『ラストクリスマス』('19)のポール・フェイグ監督が映画化したサスペンス作品です。 サスペンスと謳っているものの、ひねりあるコメディ要素が効いていて、テンポ良くラフに観れるスッキリ感が大好きでした。 なんといっても、女同士のバトルが見もの! 主演のアナ・ケンドリックとブレイク・ライブリーが良い意味で「混ぜるな危険!」な組み合わせで、この二人の対比がなんとも面白かったです。
夫を事故で亡くし、ニューヨーク郊外で子育てをしているシングルマザーのステファニー(アナ・ケンドリック)が、子供と同じクラスに息子を通わせるエミリー(ブレイク・ライブリー)の自宅に招かれます。 華やかなファッション業界に身を置き、小説家の夫と豪華な家に暮らしながらもどこかミステリアスなエミリーと、夫の保険金を切り崩しながら、必死に子育てをしているステファニー。 対照的なステファニーとエミリーですが、徐々にお互いの秘密を言い合えるほど意気投合するようになっていきます。 しかしある日、エミリーはステファニーに息子を学校に迎えにいってほしいと頼み、そのまま姿を消してしまうのです…。
この作品の重要キーワードは「秘密」です。
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明日からできる「私の働き方改革(My WX)」その1|坂本崇博
2020-09-15 07:00550pt
「働き方改革アドバイザー」の坂本崇博さんが、「My WX(私の働き方改革)」の極意を説く異色のワークスタイル指南。今回から、いよいよ坂本さんのこれまでの取り組みを普遍化するメソッド編が始まります。コロナ禍を経て、多くの人々が働き方を強制的に変えさせられている中だからこそ、本当に「自分のやりたい」仕事をするには、何が必要なのでしょうか?
坂本崇博『(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革』第10回 明日からできる「私の働き方改革(My WX)」その1
もう働き方改革いらなくないですか?
最近こう聞かれることがあります。「坂本さん、コロナ禍によって強制的に働き方改革ができてしまった中で、働き方改革のコンサルティングってもういらないんじゃないの?」と。
2020年現在、世界はCOVID-19(新型コロナウイルス)による経済社会の大混乱の最中にあります。疫病という外敵によってもたらされた社会経済活動の強制停止は、個人の生活、そして企業の生産活動に未曾有の被害をもたらしました。 通勤、登校、集会、外食など、これまで息をするように当たり前に営まれていた様々な活動が禁止や自粛に追いやられ、生活習慣の抜本的な見直しを迫られています。 そうした中で、意識が高い人たちは「ピンチはチャンス」と口を揃えわめき立て、「withコロナ時代のニューノーマルとは?」と問いを掲げ、毎日オンラインセッションを開催しながら、これからの世界を予測し合って「政府はこうすべきだ」「社会はこうなっていくべきだ」「コロナによって日本の働き方改革が強制的に実行されてしまった」と盛り上がっています。
この状況は、日本中で働き方改革がブームになった2016年前後の状況を彷彿とさせます。
当時も今と同じく、メディアの論客や経営者、コンサルタントたちがこぞって「働き方改革とはこうあるべし」と持論を展開して、政府や企業への提言を“あさっての方向”に向かって発信していました。違ったのは、その発信の仕方がオンラインセッションではなく、広い会場を貸し切りしたシンポジウムであったことくらいです。
企業経営者らの動きも驚くほど酷似しています。現在ほとんどの企業で設置されている「コロナ対策委員会」と同じく、2016年ごろには「働き方改革推進委員会」や「働き方改革プロジェクト」を立ち上げ、委員会メンバーに対応を考えさせ、出てきた案にああでもないこうでもないと「審査」を下していました。
そして、企業で働く私たち一人ひとりの反応もそっくりです。すなわち「無関心」もしくは「無抵抗」です。 「きっと経営層が、政府が、何かするだろう」と達観したり、「うちの会社はなかなか対応が遅い、弱い」と愚痴を言い合いながら、なるべくこれまでの通りのやる事・やり方・やる力で、日々を送ろうとしています。また、現在のコロナ禍で「出社禁止」と言われれば粛々とそれに従う様は、「残業禁止」と言われてオフィスの照明を強制消灯されれば粛々と帰路につくサラリーマンたちと重なります。
リアルに集まっての会議ができなくなったのでオンライン会議に切り替える。判子を押すことができなくなったので電子押印を導入する。会社に出てこられないので在宅ワークを始める。コロナ禍での働き方の強制的な変化を受けて、彼らは「これで生産性が高まった」「ついに働き方改革ができた」と喜んでいます。 しかしこれは、残業削減と言われて業務を途中で切り上げて早く帰り、ペーパーレスと指示を受けて会議資料の配布を止めて見づらいプロジェクターで資料を閲覧し、最新のフリーアドレスオフィスで人気のない場所を選んで「集中しやすくなって生産性があがった」と喜んでいた当時とそう変わらない状況のように思えます。
つまり、コロナ禍によっても相変わらず「私の働き方改革(My WX)」は進まないままで、「誰かにお膳立てされた働き方改革(働かせられ方改革)」に乗っかっているだけではないかと思うのです。 もちろん、2016年前後の働き方改革ブームと違って、コロナ禍の現在は社会全体が強制的にアップデートされ、その成果を実感している人の絶対数が飛躍的に拡大したことは確かです。しかしこれは「My WXを進めた人が増えた」ということと同義ではなく、単に「働き方が変わった(変えさせられた)人が増えた」に過ぎません。
私は、コロナ禍を経た今も、いえ、皆が強制的に「新しい働き方」を受け入れ横並びになってしまった今だからこそ、My WXが必要だと思うのです。
だって、皆さん、コロナ禍の働き方の変化を通じて、アニメを思う存分観られるようになったのでしょうか? 多くの人が進む王道とは違う「外道」に入ることができたのでしょうか? そして何よりも新しい働き方をする自分に「萌え」を感じられているのでしょうか?
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『日本沈没2020』をカルトムービーとして観る~「正気」と「狂気」との狭間|山本寛
2020-09-14 07:00550pt
アニメーション監督の山本寛さんによる、アニメの深奥にある「意志」を浮き彫りにする連載の第12回。今回は、Netflixオリジナルアニメシリーズ『日本沈没2020』をめぐる考察です。小松左京の原作を大胆に再解釈し、東日本大震災以降のリアリティで映像化した本作を、山本監督はどう観たのか?
山本寛 アニメを愛するためのいくつかの方法第12回 『日本沈没2020』をカルトムービーとして観る~「正気」と「狂気」との狭間
『日本沈没2020』(2020)は、正直観るつもりがまったくなかった。 しかし、やはり先の震災を想起させる要素が多くあるらしく、僕のファン界隈でそこに違和感を持つ人が少なからず出始めたので、知りませんではまずいなと思い、観た。 ああ、こりゃアカン……。 最初はただ呆れた。
しかし、巷によくある批判としての「震災に対する冒涜」「反日」という感想とは、何か違う印象を持ち始めた。 そして気が付けば、全話完走してしまっていた。
あれれ、こんなに惹き付けられるとは? どういうことだろう? ある種の懐かしさまで感じた。
そうか、『日本沈没2020』は、カルトムービーとして観ればかなりのケッサク(傑作とは書かない)なのだ。 カルトムービーというのは、江戸木純の定義する「サイテー映画」とほぼ同義と考えていただいていい。 僕らは大学生の頃「バカ映画」とも称していた。
どの名称にしても穏やかではないが、それは『日本沈没2020』という作品に対する、情け容赦ない否定には必ずしも当てはまらないのが大きなポイントだ。むしろリスペクトの要素さえある。 この「狂気」と「正気」の寸分しかない境界に奇跡的に誕生したとも言える、希有な存在『日本沈没2020』について語ってみたい。
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三宅陽一郎 オートマトン・フィロソフィア──人工知能が「生命」になるとき〈リニューアル配信〉 第七章 街、都市、スマートシティ
2020-09-11 07:00550pt
(ほぼ)毎週金曜日は、ゲームAI開発者の三宅陽一郎さんが日本的想像力に基づく新しい人工知能のあり方を展望した人気連載『オートマトン・フィロソフィア──人工知能が「生命」になるとき』を改訂・リニューアル配信しています。今朝は第七章「街、都市、スマートシティ」をお届けします。今回は、人工知能による総合的な都市管理を実現するスマートシティ構想をテーマに、ビデオゲームやSF作品を手がかりにしながら、人間と都市が結ぶ新しい関係について掘り下げます。
今、人工知能を応用する最も射程の長い取り組みとして、街全体を人工知能で覆うとする試みがあります。試みというより、ビジネスとしてそれが最も大規模な応用分野になります。日本は比較的、安全な国なので気が付きませんが、世界には治安の悪い国が多いですから、人工知能によって街そのものを人工知能化し、治安を良くしサービスを徹底しようという機運が高まっているのです。 人工知能があらゆる場所に監視カメラ、センサーを設置することで、リアルタイムに街全体が監視され、街の治安が良くなります。街の治安が良くなれば企業が集まり、人も集まり、経済圏が良くなっていきます。現在の、特にディープラーニングなどを基本とする監視カメラに顔認証を入れれば、どの人がどの場所でどのような行動をしているかまで追跡することができます。2015年以降は、ベンチャーを含め監視カメラ業界の発展は大きな勢いになっています。監視カメラは街全体の人工知能の眼となり得るものです。それは可視光のみならず赤外線、超音波、レーザーなど人間の視覚を超えた波長の光さえ持ち得ます。質的にも量的にも、人間の認識を超えた把握が可能となります。まず家がスマートハウス(知能を持った家)に、マンションが、ビルが、そしてデパートが、そして街全体が、人工知能を搭載した知的存在となるのです。 もちろんプライバシーの問題もあります。その保護の原則を確立して強化していくことは、並行して導入していくべき課題となります。しかし、最終的にはやはり人が求めるもので「安全」と「健康」に勝るものはありません。監視カメラとその自動解析技術が発展し、世の中に浸透していく方向に進んでいく流れは、もはや避けられないのではないかと考えています。 進化した監視カメラのように、すべてのIoT(Internet of Things)デバイスは街の状況を収集するデバイスとして活躍し、その情報を解析し認識へと変換することで、人工知能は街の状態をリアルタイムに把捉することができます。さらに、そこから市民の安全を守るためにドローンやロボット、人に状態が伝達され、彼らがその場に赴くなどの行動を起こすことで、街全体を統御する人工知能は、インフラ技術として機能するわけです。行動を指令するのは街全体を制御する人工知能ですが、物理的な実行部隊はロボットやドローン、スクリーン上ではアバターとなるでしょう。 また、街の人の流れや事故なども即座に認識して、ドローンやロボット、人に通知し、事件が拡大する前に抑えることもできます。しかし、このような人工知能システムはかなり大規模な開発が可能な会社しかできません。そこで、このような「インフラとしての人工知能」の汎用システムを開発して発展させれば、世界中の街や都市に導入することができるようになり、これまでにない巨大な市場が立ち上がります。ガスや電気を融通するといった機能に加えて、このような情報の網の上に人工知能を組み上げるビジョンを「スマートシティ」と言います。 本章では、「人工知能化する都市」を主題として、都市と人工知能の関係について探求していきます。
(1)西洋の街、東洋の街
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読書のつづき[二〇二〇年五月第二〜五週] 悪い夢を見ているようだ|大見崇晴
2020-09-10 07:00550pt
会社員生活のかたわら日曜ジャーナリスト/文藝評論家として活動する大見崇晴さんが、日々の読書からの随想をディープに綴っていく日記連載「読書のつづき」。八月に訃報の流れた内海桂子師匠の入院に始まり、平田オリザやきゃりーぱみゅぱみゅのネット炎上にまつわる洞察、橋本治の足跡への憧憬、そして検察庁法改正問題が喚起する木堂犬養毅の血脈への随想まで、現代と昭和史を往還しながら令和の不穏への警笛が鳴らされます。
大見崇晴 読書のつづき[二〇二〇年五月第二〜五週] 悪い夢を見ているようだ
五月七日
内海桂子[1]さんが今年の一月から歩行困難で入院したとの報道が出た。舞台に出られるように回復されることを祈る。千葉では三越があったころ、毎年正月に師匠のイベントが催されていたものだ。その場で誰よりも大声で喋るから、いつも活況だった。九十七歳の師匠が元気であれば、われわれも心強い。
外国の事情に疎い本邦でもバンクシー[2]の名前は徐々に浸透しつつある。六本木ヒルズでイベントが開催されるほどだ。そのうちにバンクシー音頭でも無断で制作されるのではないか。そういう火事場泥棒的な面が日本にはある。
インターネット上で「カシオミニ」というワードがバズっていたので、何があったかと思ったが、コロナ中の連休向けに白泉社が『動物のお医者さん』[3]を無料公開していたらしい。わたしは「カシオミニ」よりも「おれはやるぜ」の印象が強く記憶に残っているが、なんにせよ、そうしたフレーズが集団で思い出されるように、このマンガは名作である。今後も読まれてほしい。
高見順の年譜を確認していたら、荷風が市川に引っ越した前後で、高見順も稲毛に引っ越していた。微妙に近い地域に住んでいて、この二人の作家は付かず離れずだったようだ。
「山田ルイ53世のルネッサンスラジオ」[4]が放送六百回記念ということで、文化放送で特番となった(普段はポッドキャストでないと聴くことができない)。本番組のヘヴィーリスナーとして知られる東野幸治がゲスト出演していた。東野氏曰く「まぼろしラジオ」[5]の原型は「ルネラジ」にあるらしい。そこに驚いたが、ヘヴィーリスナーならではの反応で、構成作家ウノT氏について触れ、松原うどん氏についても語るというディープさだった。たしか、わたしは松原うどん氏の名刺を持っているはずだが、そんな関心を持っているのは檀家(ルネラジリスナーのこと)ぐらいのもので、ヘヴィーリスナーには楽しい放送だったが、これは果たして地上波で流す放送だったかどうか。「ラストメッセージ」のコーナーも、もっと常連以外にも愉しみやすい単体で成立するものがよかったのではないか。
ヤフオクで落札した橋本治『武器よさらば』を読んでいるが、この本はとびきりに奇妙な本だ。固有名詞がたくさん伏せ字になっているのだが、なぜそのような私信を書籍化しようと思ったかは、わたしなんかにはわからない。そして困ったことに、わたしは伏せ字の内容を手にとるようにわかってしまうのだ。新人類だニューアカだなんだと世間が浮かれていた八〇年代の日本で、橋本治はこんなにも醒めきって世の中を見ていたのかと驚くし、左右関係なく権威ある出版社と仕事をすることに距離を置こうと自らに誓っていたことにも驚かされた。いつか橋本治の全集が編まれる日があるかもしれないが、そのときには使い走りでもよいから手伝いたいと、改めて感じた。
そろそろ寝るかと思っていたところに岡本行夫[6]氏急逝の報。新型コロナに感染してとのこと。あまりのことに喪失感が大きい。まだ、この国の将来を指し示してほしかった。
[1]内海桂子 一九二二年生(とされる)、二〇二〇年八月二二日死去。日本の喜劇人。内海好江とのコンビで人気を博す。学長を務めていた今村昌平とのつながりから横浜放送映画専門学院(現:日本映画大学)で講師を務める。講師時代にウッチャンナンチャンを見出し、自身の所属事務所であったマセキ芸能社を紹介する。内海好江が一九九七年に胃癌で死去。以後も漫才協会会長(のちに名誉会長)として活躍。ナイツを弟子に迎え、彼らにモノマネや近況エピソードを語られることなどで、再度脚光を浴びる。Twitterアカウントを開設し、活発な投稿があったことから若年層からも注目された。都度、時代に適合しながら自分を変えず、昭和・平成・令和と活躍を果たした。
[2]バンクシー 生年月日不明のアーティスト。二〇〇一年頃から壁にペイントした作品などが見つかりだす。二〇〇五年にヨルダンで作品が見つかり話題を呼ぶ。二〇一〇年にバンクシーを追った映画「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」が発表される。二〇二〇年日本でバンクシー展が開催される。
[3]『動物のお医者さん』 佐々木倫子が一九八七年から一九九三年に雑誌「花とゆめ」に連載したマンガ。北海道で獣医師を目指す青年たちを主人公にしている。主人公公輝が飼っている犬種シベリアンハスキーが大いに人気を博すきっかけとなった。テレビドラマ化された際には、主人公の祖母・タカ役に岸田今日子、恩師である教授・漆原には江守徹が配役されるなど、原作のイメージを壊さないキャスティングが好評となった。
[4]「山田ルイ53世のルネッサンスラジオ」 通称「ルネラジ」。二〇〇八年に放送を開始し、現在は主にポッドキャストによる配信が主となりながら六〇〇回を突破した。文化放送制作の番組であるが、文化放送で放送されることはあまりない。二〇〇九年のナイターオフの時期には土曜日のゴールデンタイムに放送をしていたが、先輩番組にあたる「アニスパ」のパーソナリティ浅野真澄・鷲崎健をゲストに迎えた際に、放送枠が何度か変わったことを伝えると、局から期待されていないとアドバイスをされたが、そのとおり以後流浪の番組と化す。文化放送で制作しながら文化放送で放送されないポッドキャスト番組であり、制作に関わった関係者も他局に移籍するなど、苦難に満ちた放送を続ける。それでも縋り付くように聞き続けたリスナーは、髭男爵山田ルイ53世の熱心な信奉者であることから「檀家」と呼ばれるようになった。スカパーの広告枠を取り付けるなどして、以後もゲリラ的な放送をしていたが、一発屋芸人ならではの過酷なロケや悲惨な営業をぼやいていたが、それを「新潮45」の編集者が聞きつけて日本ジャーナリスト大賞に輝く「一発屋芸人列伝」の連載へと繋がった。なお、「一発屋芸人列伝」連載時の編集者らは新潮社を退社しており、それが一層とこの番組の印象を禍々しいものとしている。神州纐纈城のごとく、地下にて生き血を啜り命脈を保つ。
[5]「まぼろしラジオ」 二〇二〇年二月二三日に東野幸治がラジオを放送したいという衝動に駆られて放送を開始したYoutube番組。「檀家」リスナーでは周知されていたことだが、数少ない芸能人での「ルネラジ」リスナーである東野幸治が、「ルネラジ」のフォーマットを参考にしながら放送したことが驚かれた。
[6]岡本行夫 一九四五年生、二〇二〇年没。日本の外交官、実業家。東西冷戦が終わり、新世界秩序が叫ばれた時代に、日本を代表する外交官として活動。インターネットなど新時代の技術を用いた産業を目の当たりにしたこともあり、インターネットビジネスを日本で普及させるにあたって助力した。『岡本行夫 現場主義を貫いた外交官 90年代の証言』に詳しい。
五月八日
亡くなった岡本行夫氏のことは、五百旗頭真先生がオーラルヒストリーを担当した『岡本行夫 現場主義を貫いた外交官』が面白かった。ああいう本はもっと読まれてもよいと思う。
平田オリザ[7]氏のTwitterでの振る舞いや発言が話題になっていた。批判があるのも納得する内容である。実際、現在の製造業のことを知らないで平田氏は呟いてしまったのだと思う。氏のそばにいるひとはさっさとアカウントを取り上げるべきだと思う。
「布製マスクの都道府県別全戸配布状況」という厚生労働省のWebページを眺めてみたが、中小企業の新入社員がコピペで作ったような代物で、この国の将来を本格的に憂えてしまうものだった。官僚機構は誰の目にも明らかなほどボロボロになっている。
PLANETS初期からのメンバー(という書き方はをするのは、いくらなんでも「同人」という言葉は古めかしいからなのだが)、藤谷千明さんが、十代を装ったアカウントを用いて、人気アーティストの名前を悪用している副業マルチアカウントを追跡した記事を書いているが、これが滅法矢鱈と面白かった。ぜひ多くの人に読んでもらいたい。
TBSラジオのCMに、過去の番組放送をリミックスしたものが使われているのだが、わたしはこれがとても好きだ。が、今日になって驚いたのは、このリミックスがRAM RIDER[8]氏の手によるものだったからだ。RAM RIDER氏というと、勝手ながら、わたしにとっては文化放送の印象なのである。きっと、多くの人にとってはなんで文化放送なのだ?と思うかもしれないが、そんなことは知ったことではない。折を見ては「ポアロのあと何分あるの?」に出演して、ポアロの楽曲をミックスしてきたRAM RIDER氏を知っているものとしては、ポアロの二人が多く出演している文化放送の印象が強いのだ。それでもって、水道橋博士のメルマガに連載を持っていることを含めて、高円寺的なひとという印象である。Skypeが登場するか否かぐらいからネットラジオや配信を見ていた──つまりニコニコ動画やYouTube以前である──世代からのリスナーにとっては、RAM RIDERというのは、あのRAM RIDERなのである。
ふと気づいてしまったのだが、みずほ銀行の元頭取がNHK会長に就いた翌年に渋沢栄一を主人公にした大河ドラマを放送するというのは、問題が生じないのだろうか。いや、放送を決定したのは元頭取がNHK会長に就任する前だから問題はないのだが、放送内容について不要な介入がなければよいのだが、と心配をしてしまうのである。わたしのようにNHKに料金をきちんと払っていた人間としては、私企業との利益相反なく、クリエーターが誇りをもって仕事に迎える環境を作っていただきたいな、とNHK会長に対して望むのみなのである。
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アイドルプロデューサーは何をしているのか?|伊藤公法
2020-09-09 07:00550pt
NPO法人ZESDAによる、様々な分野のカタリスト(媒介者)たちが活躍する事例を元に、日本経済に新時代型のイノベーションを起こすための「プロデューサーシップ®」を提唱するシリーズ連載。第8回目は、アイドルプロデューサーの伊藤公法さんです。
プロデューサーシップのススメ#08 アイドルプロデューサーは何をしているのか?
本連載では、イノベーションを引き起こす諸分野のカタリスト(媒介者)のタイプを、価値の流通経路のマネジメント手法に応じて、「inspire型」「introduce型」「produce型」の3類型に分けて解説しています。(詳しくは第1回「序論:プロデューサーシップを発揮するカタリストの3類型」をご参照ください。) 今回はカタリストの第3類型、すなわち、イノベーターに「コネ」や「チエ」を注ぐ座組を整える「produce型カタリスト」の事例の第2弾として、伊藤公法氏をご紹介します。
プロデューサーという職能の起源は、アメリカの音楽業界に求められます。歌手や作曲家などの才能を見つけ出して、他のミュージシャンと組み合わせて、バンドにしたり、レーベルと交渉したり、ラジオで流してもらえるようにDJに営業したり。自らの持つコネ(人脈)やチエ(マーケットセンス等)を、才能に注いで、カネを稼げる形に整えていきます。企画ごと、プロジェクトごとに、オーダーメイドで、様々な自営業者たちを組み上げ、組み換えていくわけです。この業態・職能は、映画などの他のエンタメにも広がっていきました。NPO法人ZESDAは、このような柔軟性に富み、あらゆる垣根をまたいで多様性と創造性を操るビジネスパーソンが、より保守的で縦割りな組織や業界にも、どんどん増えていくよう様々な活動を行っています。
日本でも、プロデューサーという単語は、やっぱりテレビ業界、芸能界を最初に連想しますよね。そこで、今回は、日本のアイドルのプロデューサーは何をしているのか、若手実力派アイドルプロデューサーの伊藤公法氏に、ズバリ、聞いてみました。
伊藤プロデューサーは、自分の役割は「素材」となるアイドルを中心に組まれるスーパーチームを組み上げること、そして、チームメンバーがまとまる核となる「コンセプト」を創ることである、と規定します。
座組みを組むという点では、伊藤プロデューサーは、東京のエンタメ業界内の必要な人材にかなりの程度アクセスできるチカラがある点で、地方において人材をかき集めることから始めなくてはならなかった桐山登士樹プロデューサーや田辺孝二プロデューサーの事例よりは恵まれているかもしれません。しかし、優秀な人材を奪い合う競争が厳しい分、より魅力的なコンセプトを0→1で創る必要があります。伊藤プロデューサーは、自身の競争力の要となるコンセプトの創り方を、驚くほど気前よく、しかも非常に具体的に語ってくれました。
表現するとはどういうことか、表現されるべきことは何か、時代の空気の捉え方、などなど、エンタメに限らず、あらゆるビジネスの企画職が明日から使える、珠玉のノウハウを一緒に学びたいと思います。(ZESDA)
アイドルプロデューサーという職能
伊藤公法と申します。職業はプロデューサーです。去年まで「夢みるアドレセンス」というソニーミュージックからデビューしていた女性アイドルグループをプロデュースしていました。今年からは、趣向を変えて「VOYZ BOY」という大人数の男性アイドルグループのプロデュースをやろうかなと思っています。今アイドルは男の子が面白いんですよ。これまではテレビが主戦場だった男性アイドルグループシーンに地殻変動が起きています。来年以降、カルチャーとしてますますおもしろくなる予感がしています。その地熱にのせて「VOYZ BOY」も、きっと皆さんの耳目に触れるような子たちになっていくんじゃないのかなと思いますので、ぜひ引き続き情報発信させてください。
さて、プロデュ―サーって何してるんだっけ?という話ですが、一言にプロデュースと言っても色々なレイヤーの話があると思っています。料理で例えれば、皿の上に乗っかる食べ物はコンテンツですよね。そのコンテンツを入れる器っていうのはメディアとか、イベント、ライブみたいなものだと思うんですよね。料理だけのレイヤーをプロデュースすることもあるだろうし、皿まで含めた料理、あるいはコース料理全体のレイヤーをプロデュースすることもあれば、さらにコース料理を提供する店舗のレイヤー、さらには店舗の運営、店舗チェーンの経営のレイヤーのプロデュースもあると思います。もっと視点を広げるならば、そもそも店をどこに開店するのかっていうことも大事です。さきほど述べたように、来年このカルチャーが熱くなるだろうから、ここにコンテンツを陣取っておこうというのは、「お店の立地」の話だったりすると思うんですね。プロデューサーという職能の正体が一見してよくわからないのは、一言にプロデューサーと言っても、それぞれのプロデューサーによって異なるレイヤーで、異なる職能を発揮しているせいかもしれません。
プロデューサーによって、得意なレイヤーは異なります。例えば、アイドルプロデューサーと言えば、皆さんがまず思い浮かべるのは秋元康さんだと思います。秋元康さんの名前を聞いて、皆さんが多分パッと思い浮かべるのは作詞家、つまり歌詞というお皿の上の料理そのものを作っているイメージがきっと強いんじゃないのかなと思います。でも実際には、レコード会社、メディア、広告代理店と向き合ってビジネス全体の指揮と設計をしている。それは料理だけではなく「お店の経営」とかそういうレイヤーの話だと思っています。
他にプロデューサーというと皆さんが思い浮かぶところで言うと、小室哲哉さんですよね。小室哲哉さんは絶対的に「料理」の人なんですよね。彼の作る料理の味に日本中が熱狂して、その味であればもうなんでもおいしい、そんな価値観で日本中の味覚を席巻した。今思えば、めちゃくちゃすごいことですよね……。小室さんには小室さんのレイヤーで、秋元さんには秋元さんのレイヤーでそれぞれ凄みがある。職能も違うけれど、それぞれプロデューサーと呼ばれています。
いろいろなレイヤーのプロデュース論がある中でも、今日は、お皿の上の料理=コンテンツの作り方の話をしようと思います。
食べログレビュアーには行列のできるつけ麺屋は作れない。
いろんな人に例え話で言っている話なんですけど、食べログで評価をつけて、つけ麺をレポしている人とか行列に並んでいる人とか、いっぱいいると思うんですけど、この人たちって、じゃあ明日、行列のできるつけ麺屋のつけ麺を作ってくださいって言われたら作れないと思うんですよ。どんなに美味しいつけ麺を食べたことがあっても、作れるようになるには、プロセスってものがありますよね。今日は、そのプロセスを因数分解して、お話しできればなと思っています。
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思想としての発酵/発酵する思考|小倉ヒラク
2020-09-08 07:00550pt
今朝のメルマガは、イベント「遅いインターネット会議」の冒頭60分間の書き起こしをお届けします。本日は、「発酵デザイナー」として活躍する小倉ヒラクさんをゲストにお迎えした「思想としての発酵/発酵する思考」です。味噌や醤油、ヨーグルトに醸造酒と、人類が古来から豊かな食文化を築くために活用してきた微生物たちの「発酵」という活動には、どんな叡智が隠されているのか。そして多彩な発酵食品や醸造文化との付き合い方を見つめ直すことで、現代人の生活をどう豊かにしていけるのか。目に見えないものたちとの協働が育む思考や世界各地の発酵文化の魅力など、「発酵」を通じて見えてくる社会とライフスタイルへの気づきについて、たっぷりと学んでいきます。(放送日:2020年8月4日)※本イベントのアーカイブ動画の前半30分はこちらから。後半30分はこちらから。
【本日開催!】9/8(火)19:30〜柴那典×藤えりか「文化現象としてのBLM」白人警官により黒人男性のジョージ・フロイドさんが殺された事件をきっかけに広がっている運動「Black Lives Matter」。ハリウッドスターや著名アーティストといったトップエンターテイナーをはじめ多くの人々を巻き込みながら、いまだ大きなうねりとして世界中で展開されています。アメリカを、そして世界を揺るがすムーブメントを、文化の視点から読み解きます。出演:柴那典(音楽ジャーナリスト)、藤えりか(朝日新聞記者(経済部兼GLOBE編集部))、宇野常寛(評論家・PLANETS編集長)生放送のご視聴はこちらから!
遅いインターネット会議 2020.8.4思想としての発酵/発酵する思考|小倉ヒラク
井本 こんばんは、本日ファシリテーターを務める、編集者の井本光俊です。
宇野 はい、PLANETSの宇野常寛です。
井本 「遅いインターネット会議」、この企画では政治からサブカルチャーまで、そしてビジネスからアートまで、様々な分野の講師の方をお迎えしてお送りしています。本日は有楽町にある三菱地所のコワーキングスペースSAAIからお届けします。それでは、本日のゲストをご紹介いたします。発酵デザイナーの小倉ヒラクさんです!
小倉 どうぞよろしくお願いします。
井本 本日のテーマは「思想としての発酵/発酵する思考」です。小倉さんのご著書『発酵文化人類学』は話題を集めておりますし、下北沢に開業なさった、各地のユニークな発酵食品を集めた専門店「発酵デパートメント」もたいへん興味深いお店です。世界でただ一人、発酵デザイナーという名のもとに精力的に活動している小倉さんに、古来から人類が豊かな食生活を築くために活用してきた、微生物たちによる発酵という現象に、人類のどういう叡智が隠されているかという点をお伺いできたらと思います。目に見えないものたちとの協働が育む思考や世界各地の発酵文化の魅力など、発酵を通じて見えてくる社会とライフスタイルの気づきについて、今日は小倉さんにたっぷり教えていただきたいと思っています。
宇野 僕が小倉さんのことを知ったのは、ほとんどの人がそうなのかもしれないけれども、この本なんですよ。『発酵文化人類学』が出てしばらく経った後に、友人から「宇野くん、これ面白いよ」と勧められて読んで、すごく面白かったなって思ったんです。僕と小倉さんは共通の知り合いはいっぱいいるんですが、これまで絡む機会がなくて、実は今日が初対面です。僕は小倉さんの活動をずっと意識していて、例えば青山ブックセンター店長の山下店長が自分の店舗で出版事業を始めようとしたときに、小倉さんの監修した写真集を選んだこととか、近いところで面白いことをしているなって思っていたんですよ。
そしてこのコロナ禍になってからずっと家にいる中で、今まで何かに急き立てられるように都市生活を送ってきたのを堰き止められて、「この時間をどう捉えていったらいいんだろう」と考えたときに、ふと「発酵」っていうキーワードを思い出したんです。小倉さんがやっていた「発酵」という文化のエヴァンジェリスト的な活動と「発酵」ってキーワードを世の中として見直していこうとすることが、どうシンクロするのか、僕はいまいちこの本を読んでもわからない部分があったんですが、ステイホーム期間になって初めて、感覚的に分かったところがある。なので、このタイミングで一度小倉さんとちゃんとお話してみようと思ってお呼びしました。よろしくお願いします!
小倉 はい。大変光栄でございます。今日はよろしくお願いします。実は僕も、宇野さんに聞きたいことがいっぱいあって。
宇野 まじですか! あんまり恥ずかしいこと聞かないでくださいよ(笑)。
文化人類学的な視点から見た「発酵」とは?
井本 今日は大きく2つに分けて進めていきたいと思います。最初の第1部では、発酵デザイナーとしての小倉さんのご経歴やこれまでのご活動についてお伺いしていきたいと思っております。それを受けて第2部では、「発酵と地方」「発行と食文化」「発酵と思想」という3つの大きなキーワードを考えているんですけれども、小倉さんと宇野さんとで議論を交わしていただければなと思っております。では、さっそく第1部のほうに入りたいと思います。
小倉 はい。まずは僕の活動のことを、スライド資料を使ってお話ししたいと思います。僕の活動を包括的にお話しする機会って何故か海外のほうが多くて、ちょっと英語が変でもご容赦くださいね。
宇野 この表紙は何ですか?
小倉 これは、新潟県の妙高っていう、新潟と長野の間くらいに日本でも有数の豪雪地帯があるんですよ。そこに「かんずり」っていう唐辛子を発酵させるすごく珍しいペースト調味料があって、1年で一番寒い大寒の日に、その唐辛子を雪の中に撒く工程の「雪さらし」ですね。
宇野 知らなかった。井本さん知ってた?
井本 「かんずり」は知ってますけど、この白い雪の中に赤い唐辛子撒いてる姿、すごく鮮烈ですね。
小倉 真っ白な平野に赤い花が咲いたようで、とても美しいんですよ。もこもこに着ぶくれしたお姉さんたちが唐辛子を撒いていて、僕もやらせてもらったんですけど、こんな綺麗に撒けない。
宇野 人生で一回やってみたいですね。
小倉 無茶苦茶寒いですよ、この時。
宇野 じゃあ、ちょっと考えます(笑)。
小倉 指、ブルブル震えながら撮ってたんです(笑)。それでは次のスライドに進みますね。
僕はもともとデザイナーで、今は発酵デザイナーって名乗っています。いろんな縁があってかなり特殊な仕事をしていて、スキルセット的には非常にデザイナー的なんですけれども。大学時代は早稲田大学で文化人類学を学び、30歳になる手前くらいで東京農業大学に研究生で入り直して微生物学・生物学を学んで、今はお店をやったり、仕事で食文化のこともやっています。いろんなことを複合的にやりながら、「発酵」の世界の面白さをいろんな人に伝えたり、その技術を社会の中でどうやって活用していくかっていうプロジェクトをやったりしているんですね。今日は、僕がどういうことをフィールドワークしているのかというお話と、具体的にどういうことをしているのかというお話をクロスしながらお話していきたいと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=-PdPCGkaOyM
宇野 これは何ですか?
小倉 僕の一番最初のキャリアのスタートって子供向けの食育プログラムで、これは「麹の歌」というアニメです。日本の和食のベースになっている麹っていう文化があるんですけど、その麹を作っている「アスペルギルス・オリゼ」っていうカビと麹のことが、楽しく歌って踊って分かるようになっています。宇野さんに読んでもらった本では、ちょっと学術的な要素とかもあるんですけど、基本的に僕はかなり直感的に、みんなが体験できて、手に取ったり、一緒に楽しめるようなものを作っていて、その出発点がこういうアニメだったりするんです。
それで、そもそも僕がやっているこの「発酵」というのは何なのかっていう話なんですけど、皆さん、微生物って見たことありますか。
宇野 ないですね。小さい生き物を目視したのはシロアリぐらいが限界です。
小倉 まぁ肉眼で見えないから微生物なんですけど。
井本 そうですね(笑)。
小倉 ここは都会のど真ん中ですけど、この中にもいっぱい微生物がいて、1立方平方メートルあたり、だいたい数千匹の菌がふわふわと舞っているんです。今ここに人間が3人いますけど、それぞれにいっぱい微生物がくっついている。実は人間って微生物の箱であるというお話もあるぐらい、微生物だらけなんですよ。一般的にはそれが目に見えないので、僕はデザインを使ってその微生物がどうやって働いてるのかとか、人間にどういうことをしてくれているのかを可視化するというところから仕事を始めているんですね。
スライドに「大きなものを分解するよ」とありますが、微生物が地球の生態系の中でどういうことをしているかというと、高校のときに、生態系の中で植物が生産者で、動物が消費者って習いませんでした? 実は分解者という第3の役割があって、それが僕の言っているこの菌、微生物です。微生物は酵素というハサミみたいなものを使って、いろいろな大きなものをチョキチョキと小さく細かく分解して、最後はその生態系の中の水とか空気とか大気に戻していく、還元していくことを通じて、生態系を掃除しているんですね。
その掃除していく化学的プロセスの中で、たまたま人間の役に立つことが稀にあって、そういうものを「発酵」と言うんです。これは後で詳しく説明しますけど。僕はそういう目に見えない世界の中で起こっている還元作用や分解作用を、具体的なプロダクトや展覧会といったデザインのプロジェクトによって、その機能をどういうふうに伝えていくのか。あるいは、どうやって社会の中に価値として埋め込んでいくのかというような活動をしています。では、次へいきましょう。
この本でもちょっと書いたんですが、発酵の世界って、今は割とライフスタイルとか健康という話に結びついていますが、実際はすごく理系の、化学の領域の話なんです。この式はヨーグルトの発酵のことですが、乳酸菌がどうやって発酵していくか、つまり、微生物の力を使って物質を分解していくことを指しています。今、微生物がコロナの話もあってすごく注目されているけれど、基本的に何をしているかというと、小さな場所に取り付いて、それを分解して別のものに変えていっているんですね。
今回のコロナはウイルスで、微生物とはまたちょっと違うんですけど、かなり端的に言うと微生物と同じで、人間に取り付いて、人間の細胞に変質を起こしていく。たまたま今回のコロナウイルスは人間に致命傷を与える恐れがあるっていう役割なんですけど。例えば、この乳酸菌の場合、牛乳とかにくっついて、牛乳を酸っぱくして爽やかな美味しいものにして、保存機能をよくして人間に役立つ、ということをしている。目に見えない微生物とかウイルスっていっぱいいるんですけど、ほとんどは人間にとってあまり関係ない。役に立たないし、害でもない。たまに病原菌とかでそういう害のあるものがいて、たまに役に立つものもある。僕の専門は、その役に立つものがどういう働きをしているかってことです。
「発酵」って理系の世界の中のもので、そのようなお話は僕も勉強してきたんです。けれど、もともと大学で文化人類学をやってきて、デザインとかアートとかを勉強して、デザイナー時代に地方を回っていろんなところでフィールドワークしていたので、発酵のことを単純な生物学とかケミストリーだけではなく、非常に文化的なものなんじゃないかと思い始めまして。その話も後から細かく出てきますけれども、そこから「発酵とデザインと人類学をくっつけてみたらどうなるだろう」っていうところから、今までに本を2冊書いています。実は他にも絵本とか書いているんですけれど、一般向けの読みものはこの2冊。特に1冊目の『発酵文化人類学』という本は、謎のニッチロングセラーになりまして、いまだにずっと売れ続けているという......。
井本 いや、まわりですごい評判ですよ。
小倉 本当にありがたいことで、いまだにいろんな感想が届きます。では、次へお願いします。
今日は化学的なところにはあまり深入りせずに、文化人類学的なお話をしていきたいと思うんですけれど。僕の研究は、菌を調べてその働きを論文にまとめるというよりは、具体的に、人類が発酵を使ってどういう文化を産み出してきたのかという、発酵の文化的な側面のフィールドワークをいっぱいしているんですね。この画像は今から4000年前以上前のエジプトの壁画なんですけれど、ブドウを積んでワイン作ってるとか、魚や鳥みたいなものを壺に入れて発酵させているように、おそらく、言葉ができるよりももっと前に人間は発酵を利用していた。例えば、古いものでジョージアでは8000年以上前のワインの文化が確認されているんですけど、実は人間の文化の起源に発酵というものが深く関与しているんですよね。
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ランダムに決めるというフェアネス|西田健志・消極性研究会 SIGSHY
2020-09-07 07:00550pt
消極性研究会(SIGSHY)による連載『消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。』。今回は西田健志さんの寄稿です。日々、デマやフェイクニュース、他人への悪口があふれ、刹那的なトレンドを追いかけ、振り回されてしまうTwitter。その中で、公正な公共コミュニケーション空間を築き、平和を取り戻すためのプロジェクト「Fair Tweeters」をご紹介します。
消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。第18回 ランダムに決めるというフェアネス
今回は、まさにこれから始めようとしている「Fair Tweeters」というプロジェクトについて書いていきます。このプロジェクトは、戦争と平和をテーマとした『PLANETS vol.10』におけるPLANETS×消極性研究会の座談会をきっかけとして着想したもので、大げさにいえばTwitterに、インターネットに平和を取り戻そうとするプロジェクトです。 (消極性デザインによって、現代の戦争としてのテロリズムを抑制することができるのではないかといった刺激的な議論が飛び交った2年前の対談、まだチェックされていない方はこの機会に本記事と合わせてお読みいただくことをお勧めします。)
Fair Tweeters
Fair Tweetersは、Twitterに/インターネットに公正な公共コミュニケーション空間を築きたいという志を共有するTwitterユーザで徒党を組んで大きな互恵グループを形成しようとする実験的なプロジェクトであり、それによって生み出そうとするグループの名称でもあります。 宇野氏の近著『遅いインターネット』の言葉を借りれば「愚民」と「カルト」に二分されてしまったインターネットの中で、その波に飲まれてしまうことなく地に足のついたツイートを続け、刹那的なトレンドを追いかけることよりもトレンドに表れないユニークなユーザの声に耳を傾けようとするようなユーザを結集させよう、それによってインターネットを少しでも理想の姿に近づけようとする試みです。
Fair Tweetersは次の2つのルールによって成り立ちます。 1. Fair Tweetersのメンバーは、抽選プログラムによって選ばれる1名のメンバー「スター」をTwitter上でフォローする。抽選は定期的に行われ、次のスターが決定したのちには前のスターはフォローし続けてもいいし、解除してもよい。 2. Fair Tweetersのメンバーは、日々Twitterをフェアに利用する。ここでいうTwitterのフェアな利用とは、スポーツで言うところのフェアプレーやスポーツマンシップ精神のようなものである。アンフェアな行為が目立つメンバーは「スター」となる権利を失う。
抽選メディアジャックの民主的な実装とその限界
1つ目のルールは、先に紹介した対談の中で出た「ランダムに選ばれた人がYouTubeを5分間ジャックできて世界中の人に話を聞いてもらえる」というアイデアの民主的な実装になります。現代世界の平和を脅かすテロリストたちが政治的なメッセージ等の発信を目的とするのであれば、平和的に強力なメッセージを発信する機会を与えることがその解決につながるのではないかという発想です。少し待っていればメディアジャック権が当たるかもしれないのであれば、危険を冒す必要も、人の命を奪う必要もなくなるのではないかという発想です。
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三宅陽一郎 オートマトン・フィロソフィア──人工知能が「生命」になるとき〈リニューアル配信〉第六章 人工知能とオートメーション(自動化)
2020-09-04 07:00550pt
(ほぼ)毎週金曜日は、ゲームAI開発者の三宅陽一郎さんが日本的想像力に基づく新しい人工知能のあり方を展望した人気連載『オートマトン・フィロソフィア──人工知能が「生命」になるとき』を改訂・リニューアル配信しています。今朝は第六章「人工知能とオートメーション(自動化)」をお届けします。急速に人間を理解し始めた人工知能ですが、その思考様式は人間とは大きく異なります。これからの人工知能の分岐点にもなりうる現代の「第三次AIブーム」までの流れを三宅さんが分析します。
本章では、人工知能によってもたらされる「自動化」(オートメーション)について扱います。コンピュータ技術の登場で、それまで人間が行ってきたことが次第に自動化されてきました。まずデータ集計や複雑な数値計算が自動化され、かつては人工知能の重要な技術課題だった漢字変換も、いまや誰も気に留めないほど自然な技術として実現しています。メールの自動分類やエクセルの自動計算なども、広義にとらえる場合の人工知能の機能と言えるでしょう。 このように、人工知能は長い時間をかけて人間の知的作業をオートメーション化してきたわけです。そしていったんオートメーション化されると、それが人工知能だという意識は不思議となくなってしまいます。そのことは、1980年代の第二次ブームから現在までの人工知能の歴史を追っていくと感じることができます。
かつてのファミコンゲームのソフトには、マップ作成(ステージエディット)機能が付いたものがありました。古くは『ピンボール』のコンストラクション・キット、さらに『ロードランナー』(ブローダーバンド)や『レッキングクルー』(任天堂)、さらに『エキサイトバイク』(任天堂)などです。 これらは、ひとつひとつのステージ構成要素をユーザーが置いていく必要がありました。デジタルゲームの人工知能には、ゲーム中のキャラクターの自律的な挙動を担う「キャラクターAI」のような、ユーザーのゲームプレイの中で使う技術と、ゲーム作成に使う技術の2つに分けられますが、その双方で使われているのが「プロシージャル(自動生成)技術」です。
ゲームにおけるプロシージャル技術は、『Rogue』(1980年)のダンジョン自動生成に始まり、『Elite』(Acornsoft、1984年)の星系・宇宙船生成、「不思議のダンジョン」(チュンソフト)シリーズ、『FarCry 2』(Ubisoft Montreal、2008年)の森の自動生成などに応用されてきました(表6.1)。さらに『Age of Empire』(Ensemble Studios)シリーズ、『The Witcher 3』(CD Projekt RED、2015年)では地形が自動生成され、「バトルフィールド」(DICE)シリーズはテクスチャリングが自動的に地表表面を彩ります。 中でも『Spore』(MAXIS、2008年) はフル・プロシージャルのゲームで、クリーチャーの形状自体と動作が自動生成されます。現代では、RPGの物語生成を自動的に行う開発が盛んになりつつあります。
▲表6.1 ダンジョン自動生成の歴史
要するにプロシージャル技術とは、本来人間が作るべきであったものを人工知能が代行して自動的に作っていくるという意味で、オートメーション技術なのです。 また、1980年代の人工知能画家「アーロン」のように、人工知能が芸術を作る、という方向があります。それ以外にも、人工知能がヒット曲の作詞をしたり、小説やイラストを自動生成したりと、人工知能による知的機能のオートメーション化は、より幅広い創造的分野に浸透しつつあります。
(1)ヒトの代わりとなるもの - 産業革命から知能革命へ -
ここからは、より包括的な視点から、人工知能とオートメーションの関係を紐解いていきましょう。
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