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【春の特別再配信】『シン・ゴジラ』――日本が実現できなかった“成熟”の可能性を描く、“お仕事映画”としての『シン・ゴジラ』(真実一郎×宇野常寛)
2017-05-01 07:00550pt
今朝のメルマガは、映画『シン・ゴジラ』をテーマに、真実一郎さんと宇野常寛の対談をお届けします。3・11以降の想像力を象徴する作品として高い評価を得ている『シン・ゴジラ』。本作を巡って、庵野秀明監督が見出した「お仕事映画」としての新境地、さらには、ポリティカル・フィクションの新しい可能性について議論します。(構成:須賀原みち/初出:「サイゾー」2016年10月号/本記事は2016年10月24日に配信した記事の再配信です)
(画像出典)
▼作品紹介
『シン・ゴジラ』
監督・脚本/庵野秀明 特技監督/樋口真嗣 出演/長谷川博己、竹野内豊、石原さとみほか 配給/東宝 公開日/16年7月29日
東京湾沖の海中で、突然謎の爆発が起きる。海中火山かと思われたそれは、出現した「巨大不明生物」によるものであると判断され、政治家たちは対応を迫られる。保守政党の若手議員である矢口蘭堂をリーダーに、各省庁や学識関係者の中から技能と知識を持った変わり者たちが集められ、「巨大不明生物特設災害対策本部」が設立。ゴジラと名付けられた生物の侵攻を食い止めるべく、奔走する。
真実 3・11の後、宇野さんにお会いした時「今後はフィクションにとって、厳しい時代になる。その代わり、“怪獣”的な想像力が蘇るかもしれない」とおっしゃっていたのを覚えているんですが、東日本大震災から5年たって、まさに『シン・ゴジラ』で、その通りになりましたね。怪獣好きにとっては、まさか21世紀に、オタクじゃない人たちと、こんなに怪獣のことを語れる日が来るなんて──と、それだけでうれしい。そもそも僕のような第二次オタク世代にとって、庵野秀明はDAICON版『帰ってきたウルトラマン』【1】などをリアルタイムで見ていたりして、もともと特撮の人というイメージでした。アマチュア特撮映画を作っていた人が『新世紀エヴァンゲリオン』を経由して、ついに日本を代表するゴジラというキャラクターで特撮映画を撮ったことは、非常に感慨深いです。
宇野 正直、公開前はそんなに期待していなかった。理由はいくつかあるけど、ひとつは『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(12年)ですよね。『エヴァQ』では冷戦期にイメージされていた終末の風景、つまり世界を一瞬で焼き尽くす原爆的な破滅が大安売りされていて、そのセカイ系的な陳腐さに白けてしまった。その庵野秀明が、『シン・ゴジラ』では、この先半永久的に世界を内部から蝕んで壊死していくような原発的な破滅を描くことによって、新しい形で「ゴジラ」を再生させたのは、良い意味で意外だった。
真実 『エヴァ』でずっと10代の少年の自意識や承認欲求について描いてきた人が、 “働く”ということを真正面から描くようになったのは、僕にはものすごく大きな変化に思えました。『シン・ゴジラ』は “お仕事映画”だった。劇中では、ほぼ全部のキャラクターが、大事なシーンで「仕事」という言葉を使う。「仕事ですから」とか「総理の仕事って大変だなぁ」とか、「国民を安心させるのが我々の仕事だろ!」とか。組織の中での自分の使命を最優先にして働く大人たちというのは、これまで庵野さんが描いていたキャラクターとかなり違うものだな、と。それは、自分の会社として株式会社カラーを作った影響も大きいのかな、と思いました。
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加藤るみの映画館(シアター)の女神 2nd Stage ☆ 第11回『ゾンビランド』『ピザボーイ 史上最凶のご注文』【毎月第2木曜配信】
2017-04-13 07:00550pt
バラエティに富んだ趣味を生かして活躍中のタレント・加藤るみさんの映画コラム『映画館(シアター)の女神』。今回は“アメリカンB級コメディー特集”と題して『ゾンビランド』『ピザボーイ 史上最凶のご注文』をご紹介します。るみさんが大注目中のジェシー・アイゼンバーグ出演の、何も考えずにとにかく笑える2作品です。
どうも、加藤るみです。
今回の映画コラムは、“アメリカンB級コメディー特集”です。
4月が始まり、新生活でバタバタと忙しい日々を送っている方も多いのではないでしょうか?
今回は、そんなせわしい季節だからこそオススメしたい、
何も考えずに笑って楽しめる、B級コメディーをセレクトしました。
今回ご紹介するのは、大ヒットゾンビコメディ映画『ゾンビランド』と、
級感を味わうなら持ってこいな映画『ピザボーイ 史上最凶のご注文』です。
どちらも、「くだらねー!」は褒め言葉。
大いに、笑い飛ばしたい2作品です。
〜スマッシュヒットのゾンビ映画〜
『ゾンビランド』
普段、ゾンビ映画やホラー映画といったジャンルをあまり好んで観ることがない私。
そんな私でも……超! 超! 超!! 楽しむことができた映画が『ゾンビランド』です。
人類のほとんどがゾンビ化した世界で必死に生き抜く4人のロードムービー。
怖さより笑いが勝る映画なので、ゾンビが苦手な女子でも大丈夫!!!
私的に、はじめてのお家デートで
「DVD観よっか〜」
「何観る〜?」
「これ観てみない?」って、
『ゾンビランド』を借りてきていたら、
もうその男子に100点あげちゃう。
気になる彼女と「ワーキャー」言いながら距離を縮めたい男子の皆さん、必見ですよ。
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加藤るみの映画館(シアター)の女神 2nd Stage ☆ 第10回『デジモンアドベンチャーtri.第4章「喪失」』【毎月第2木曜配信】
2017-03-09 07:00550pt
バラエティに富んだ趣味を生かして活躍中のタレント・加藤るみさんの映画コラム『映画館(シアター)の女神』。今回紹介するのは、るみさんが小学生の頃から大好きな『デジモンアドベンチャー』の最新作『デジモンアドベンチャー tri.』です。高校生になった太一・ヤマト・空たちの冒険を、るみさんが思い入れたっぷりに語ります。
どうも、最近烏龍茶の美味しさに気づきました加藤るみです。
今回のコラムは「加藤るみ、デジモンアドベンチャー tri.を語る!!」
……と題して、2月25日に公開された
『デジモンアドベンチャー tri. 第4章「喪失」』のコラムをメインに、
デジモンアドベンチャーの魅力についてがっつり語りたいと思います。
デジモンを語るということもあり、
冒頭は光子郎の烏龍茶ネタと絡めてみました(笑)。
私がデジモンに出会ったのは小学生の頃でした。
出会ってから今までに至るまで、
ずっと変わらない熱さを持って観られるアニメがデジモンシリーズです。
デジモンを語る上で欠かせないことは、
ただの敵を倒して戦うだけのアニメじゃないということ!
人間味溢れるストーリーが最大の魅力だと思います。
私のスマホカバーがアグモンなんですが、
このカバーをつけていると美容院で100%の確率で
美容師さんに話しかけられます(笑)。
20代はデジモンドンピシャ世代ということもあり……
「アグモン!? 懐かし~!!」って、
出会う美容師さんのほとんどが口を揃えて言います。
そこから必ずデジモンの話になるのですが、
今、『デジモンアドベンチャーtri.』という映画が
上映されていることを知る人は少なく……
あの頃、観ていたデジモンアドベンチャーの続きが
映画館で観られることを知らない人が多いのです。
「なんて、もったいないんだ!!!」
勝手にデジモン布教活動している私としては……
子供の頃、デジモンアドベンチャーに熱くなっていた大人たちに
ぜひ、『tri.』を観てほしいと思うのです。
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加藤るみの映画館(シアター)の女神 2nd Stage ☆ 第9回『mommy』『ラブ・アゲイン』【毎月第2木曜配信】
2017-02-09 07:00550pt
バラエティに富んだ趣味を生かして活躍中のタレント・加藤るみさんの映画コラム『映画館(シアター)の女神』。今回は、27歳にして数々の映画賞を受賞し注目を集めているグザヴィエ・ドラン監督『mommy』と、ラブコメ大好きるみさんが絶賛する『ラブ・アゲイン』を紹介します。
どうも、ダニエル・クレイグに抱かれたい加藤るみです。
この「◯◯◯◯◯加藤るみです。」の挨拶文で、
ダニエル・クレイグに抱かれたいと書くのはぶっ飛び過ぎかと思いましたが……。
007のダニエル・クレイグの筋肉を見たら書かざるを得ませんでした(笑)。
はい(笑)。
そんな私のダニエル・クレイグに抱かれたい願望は置いときまして……。
今回は、注目のイケメン監督グザヴィエ・ドランの『mommy』と、
個人的超オススメのラブコメディ『ラブ・アゲイン』をご紹介します。
この2作品は、今月公開の話題作『たかが世界の終わり』と『ラ・ラ・ランド』を観る前にぜひ観てもらいたい、要チェックな2作品です。
『たかが世界の終わり』は、『mommy』の監督であるグザヴィエ・ドラン監督の最新作。
『ラ・ラ・ランド』は、『ラブ・アゲイン』でカップル役を演じたライアン・ゴズリングとエマ・ストーンの再共演作であり、
アカデミー賞最有力と言われています。
今回は、話題の新作を観る前に「これを観とけば大丈夫!!」という、予習の意味も込めて観てほしい2作品です。
~過去はクソ~
『mommy』(出典)
“ADHD”(注意欠陥多動性症候群)という発達障がいを抱えたスティーヴと、
シングルマザーの母親、向かいの家の住人カイラの
息をするのも苦しくなるほどリアルでエモーショナルな物語。
この作品、ぱっと見ただのオシャレ映画かと思いきや……
そんな安っぽい言葉でまとめられるものではありませんでした。
心情の変化に画角の変化がリンクする撮影技法と、
挿入歌であるOasisの「Wonderwall」は素晴らしいの一言でした。
才能に溢れたグザヴィエ・ドランが世界に叩きつけた傑作を、
ぜひその目で見て欲しいと思います。
注目ポイント
①グザヴィエ・ドラン監督
この作品の監督であるグザヴィエ・ドランは、現在27歳でありながら、カンヌ国際映画祭で数々の賞を受賞し、
その若さと美貌と実力で“美しき天才”“若手カリスマ監督”と名声を轟かせている、今、大注目の監督です。
良い映画を撮る上に、イケメンでかっこいいなんて……神は何かと与えすぎではありませんか??(笑)。
世界中から注目されている彼ですが、
彼自身は、“若手”という言葉で映画に対するイメージが限定されることを良く思っていないそうです。
何のレッテルも張られたくない彼の意思こそが、唯一無二の映画を作り上げるルーツなんだと思いました。
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『この世界の片隅に』――『シン・ゴジラ』と対にして語るべき”日本の戦後”のプロローグ(中川大地×宇野常寛)【月刊カルチャー時評 毎月第4木曜配信】
2017-01-26 07:00550pt
話題のコンテンツを取り上げて批評する「月刊カルチャー時評」、今回のテーマはアニメ映画『この世界の片隅に』です。戦時下の一人の女性の視点を通して個人と世界の対峙を描き、大好評を博した本作。しかし、その出来の良さゆえに逆説的に明らかになった「戦後日本的メンタリティの限界」とは?(構成:須賀原みち/初出:「サイゾー」2017年1月号)
(出典)
▼作品紹介
『この世界の片隅に』
監督・脚本/片渕須直 原作/こうの史代 出演(声)/のん、細谷佳正ほか アニメーション制作/MAPPA 配給/東京テアトル 公開/16年11月12日より全国順次
1944年の広島県呉市。広島市で育ったすずは、知らない青年のもとに嫁いできた。戦争が激化し、呉もたびたび激しい空襲を受ける中で、絵を描くことが好きで得意だったすずが生活を守ろうとする姿と、ある出来事によってふさぎ込んでゆくさまを描く。
08年に単行本が刊行された、こうの史代の代表作のアニメ化。劇場版製作に至るまでのクラウドファンディングという手法も話題となった。
中川 本作は、『シン・ゴジラ』と対にして語るのに今年一番適した作品だと思いました。『シン・ゴジラ』は日本のミリタリー的な想像力が持ってきた最良の部分をリサイクルして、従来日本が苦手といわれてきた大局的な目線での状況コントロールに対する夢を描いていた。一方で、『この世界の片隅に』は『シン・ゴジラ』で一切描かれなかった庶民目線での大局との向き合い方を描ききった。この両極のコンテンツが2016年に出てきたことは、非常に重要です。
すでに多くの人が語っていますが、雑草を使ってご飯を作るような戦時下の生活を“3コマ撮りのフルアニメーション”に近い手法で丹精に描くことにより、絵として表現できる限りの緻密さと正確さで日常描写を追求するという高畑勲の最良の遺産を、見事に現代的にアップデートしていた。そうした虚構の力によって、劣化していく現実へのカウンターを打てていたのは、素晴らしいと思う。
宇野 片渕さんは高畑勲的な「アニメこそが自然主義的リアリズムを徹底し得る」というテーゼを、一番受け継いでいる人なんだと思う。高畑勲が前提にしていたのは、自然主義とは要するに近代的なパースペクティブに基づいた作り物の空間であるということ。だからこそ、作家がゼロから全てを生み出すアニメこそが自然主義リアリズムを貫徹できるという立場に立つ。対する宮﨑駿は、かつて押井守が批判した「塔から飛び降りてしまうコナン」問題が代表する反自然主義的な表現、彼のいう「漫画映画」的な表現こそがアニメのポテンシャルであるとする。
片渕さんの軸足は高畑的なものにあるのだけど、『アリーテ姫』【1】や『マイマイ新子と千年の魔法』【2】がそうであったように「アニメだからこそ獲得できる自然主義リアリズム」をストレートに再現するのではなく、常に別の基準のリアリズムと衝突させることでアニメを作ってきた。比喩的に言うと、本作はその集大成で、“高畑的なもの”と“宮﨑的なもの”がひとつの作品の中でぶつかっていて、しかもそれがコンセプトとして非常に有効に機能している。そういう意味で、戦後アニメーションの集大成と言ってもいいんじゃないかと思いますね。
【1】『アリーテ姫』:01年公開の、片渕監督の出世作。制作はSTUDIO 4℃。
【2】『マイマイ新子と千年の魔法』:09年公開。片渕監督の代表作。制作はマッドハウス。
中川 そうした大前提の上で、原作が持っていたコンセプトとのズレや違和を語るなら、こうの史代の幻想文学性とでもいうべきものが、映画では児童文学性に置き換えられて失われてしまった部分もある。片渕さんは「子どもだから見ることのできる世界」といった児童文学的なものへのこだわりが非常に強く、これはむしろ“宮崎的なもの”に近い。
『この世界の片隅に』は、周りから大人になることを押し付けられて嫁に行ったすずさんの日常の鬱憤が、最終的に戦争という理不尽さの受け止め方につながる構造になっている。映画では周作と水原哲に対するすずさんの目線は、子どもでいたかった人が大人の性愛関係を拒絶するように描かれている。それは、片渕さんがすず役の声優として、『あまちゃん』以来ユニセックスなイノセンスを持ち続けているのんという女優にこだわったことにも表れています。でも、こうのさんはミニマムな人間関係の中で表出する世界の残酷さに対する感性が非常に高い人で、『長い道』【3】でも描かれたように、こうの作品のヒロインは大人の性愛関係を前提に織り込んだ上で、男性との間の丁々発止のバーター関係を築いている。その違いが、片渕さんによるこうの史代解釈の限界とも感じました。
【3】『長い道』:訳ありで結婚した夫・壮介と妻・道の、穏やかだが奇妙な生活を描いた短編連作集。01~04年連載。
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加藤るみの映画館(シアター)の女神 2nd Stage ☆ 第8回『ブルージャスミン』『マッチポイント』【毎月第2木曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.768 ☆
2017-01-12 07:00550pt
加藤るみの映画館(シアター)の女神 2nd Stage第8回『ブルージャスミン』『マッチポイント』【毎月第2木曜配信】
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2017.1.12 vol.768
http://wakusei2nd.com
今朝のメルマガは、加藤るみさんの連載『加藤るみの映画館(シアター)の女神 2nd Stage』をお届けします。
今回は巨匠ウディ・アレン監督の描く「残念な男女」特集。欲望のままに生きる浮気性の女性を描いた『ブルージャスミン』と、スカーレット・ヨハンソンの魅力が炸裂する不倫サスペンス『マッチポイント』です。
▼執筆者プロフィール
加藤るみ(かとう・るみ)
1995年3月9日生まれ。岐阜県出身。サンミュージックプロダクション所属のタレント。映画鑑賞をはじめ、釣り、世界遺産、料理、カメラ、アニメと多趣味を活かしてマルチに活躍中。インターネットラジオK'z Station『おしゃべりやってま~すRevolution』にレギュラー出演中。雑誌『つり情報』でコラムを連載中。
本メルマガで連載中の『加藤るみの映画館(シアター)の女神』、過去記事一覧はこちらのリンクから。
前回:加藤るみの映画館(シアター)の女神 2nd Stage ☆ 第7回『ブルース・ブラザース』『ファンタスティックビーストと魔法使いの旅』【毎月第2木曜配信】
新年明けましておめでとうございます!!
2017年がやってきました。加藤るみです。
今回は、私の大好きなウディ・アレンが描く残念な男と残念な女特集!!
新年早々、パンチの効いた2作品をドヒャンとお届けしたいと思います。
ご紹介するのは、セレブの転落人生を描いた『ブルージャスミン』と、
サイテーなのに強運すぎる男の物語『マッチポイント』です。
この2作品に通ずるキーワードは、ズバリ、人間の欲望(笑)。
昨年、世の中では不倫騒ぎが大きなニュースとなりましたね。
そんな今だからこそ、欲望には大切なものを瞬時に奪ってしまう怖さがあるということを、
この2作品を観て感じていただけたらと思います。
そして、巨匠ウディ・アレンが描く、人間心理の本質を見抜いたストーリーに、
あなたもクスッと笑ってしまうはず。
私が初めてウディ・アレンに出逢ったきっかけ。
それは、『ミッドナイト・イン・パリ』という作品でした。
そう、略して「ミッパリ」です。
“現実逃避”をテーマに描いた、タイムスリップコメディーで、
私はミッパリを観て以来、雨のパリに強い憧れを持っています。
この作品を観て、ウディ・アレンの沼にどっぷりハマってしまい……
それからの私は、過去作を次々とチェックするようになりました。
私が思う、ウディ・アレン映画の魅力をざっくり三つ挙げたいと思います。
まず一つ目は、ただ単に世の中を綺麗事でまとめるのではなく、
世の中のイヤ〜〜な部分や矛盾点をユーモラスに描くところ。
人生の悲哀をしっかりと映し出すところが好きなんです。
彼自身の人生を映画に投影しているからこそ、リアリティがあるんでしょう。
基本的に、皮肉がたっぷり詰まっている脚本なんですが、
それでも「面白い!」って思える言葉のセンスが大好きなんです。
二つ目は、舞台の街に必ず行きたくなる魔法をかけてくれること。
毎回、映画らしいロマンチックな舞台にうっとりしてしまいます。
それに加え、音楽のセンスも抜群にオシャレなんです。
三つ目は、構成の上手さに「やられた〜〜!」ってなること。
起承転結がはっきりしていて、全てに意味があり理由がある。
そして、予測もできないような展開に驚かされることが多いです。
どんな結末であれ、余韻に浸れるところが魅力だと思います。
クセは強めでありますが……(笑)
ぜひとも、一度ウディ・アレン映画に足を踏み入れてみてはいかがでしょうか?
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『聲の形』――『君の名は。』の陰で善戦する京アニ最新作が、やれたこととやれなかったこと(稲田豊史×宇野常寛)【月刊カルチャー時評 毎月第4木曜配信】☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.759 ☆
2016-12-22 07:00550pt
『聲の形』――『君の名は。』の陰で善戦する京アニ最新作が、やれたこととやれなかったこと(稲田豊史×宇野常寛)【月刊カルチャー時評 毎月第4木曜配信】
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.12.22 vol.759
http://wakusei2nd.com
今朝のメルマガは、映画『聲の形』について、稲田豊史さんと宇野常寛の対談をお届けします。
後半失速した漫画原作を、統一感のある劇場向けアニメとして見事に再構成した本作。聴覚障害者を記号的な美少女として描くことで、00年代的な「萌え絵」を生々しい「現実」と対峙させる、その試みの是非について論じます。(初出:「サイゾー」2016年12月号)
(画像出典:映画『聲の形』公式サイトより)
▼作品紹介
『聲の形』
原作/大今良時 監督/山田尚子 脚本/吉田玲子 制作/京都アニメーション 出演(声)/入野自由、早見沙織、悠木碧ほか 配給/松竹 公開/16年9月17日
聴覚障害を持つ硝子は、普通学級に転入したが、クラスメイトからいじめや嫌がらせを受ける。その中心になっていた男子児童・石田だったが、ある日学校側からいじめを指摘されたことをきっかけに、今度は石田がいじめられる側に回ってしまう。硝子はその後転校し、石田は心の傷を抱えたまま高校生になった。ある時、硝子と石田は再会し、周囲の友人たちも含めて徐々に関係を深めていく。原作は作者のデビュー作であり、2011年に「別冊少年マガジン」にて読み切り版が掲載された際に、大きな反響を呼んだ(その後連載化)。
▼プロフィール
稲田豊史(いなだ・とよし)
編集者/ライター。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年にフリーランス。『セーラームーン世代の社会論』(単著)、『ヤンキーマンガガイドブック』(企画・編集)、『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(構成/原田曜平・著)、評論誌『PLANETS』『あまちゃんメモリーズ』(共同編集)。その他の編集担当書籍は、『団地団~ベランダから見渡す映画論~』(大山顕、佐藤大、速水健朗・著)、『成熟という檻「魔法少女まどか☆マギカ」論』(山川賢一・著)、『全方位型お笑いマガジン「コメ旬」』など。「サイゾー」「アニメビジエンス」などで執筆中。
http://inadatoyoshi.com
◎構成/金手健市
『月刊カルチャー時評』過去の配信記事一覧はこちらのリンクから。
前回:『君の名は。』――興収130億円でポストジブリ作家競争一歩リード――その過程で失われてしまった“新海作品”の力(石岡良治×宇野常寛)
宇野 前提として、僕は原作(連載版)を読んでいたときに、後半になるにつれて舵取りに失敗した作品だと思っていたんですよね。聴覚障害を持つヒロインを萌え系の絵で描くというある種露悪性のあるギミックを使って、取り扱いの難しい題材にどこまで深く切り込めるか、少年マンガの枠組みの中で挑んだ、かなり偉大な冒険作ではある。具体的には、どうしてもどこかの部分で絶対的な断絶がある存在と、あるいはどうしても消せない過去とどうやって向き合っていくのかを描きたかったんだと思うんですよ。コンセプトも面白いし、志も高かった。
でも、原作マンガの後半は明らかに失敗している。あの『中学生日記』ならぬ『高校生日記』みたいな青春群像劇はないでしょう?この設定を用いている意味がない内容だし、描写も凡庸。そして何より、前半で提示したテーマが、この展開で雲散霧消してしまっている。
作者としては、読者の感情移入の装置として群像劇にすることで、この物語を他人事じゃなくて自分事として捉えられるようにしようとしたんだと思うんだけど、結果、それが作者に対して高いハードルからの逃避として機能してしまったというのが、僕の原作理解です。その原作をどう映像化するのかというときに、劇場版では取捨選択がそれなりにうまくいって、結果として『聲の形』という作品自体をかなり救済したんじゃないか。
稲田 長めのコミック原作モノの映画化でありがちなのが、原作を読んでいなくても、エピソードを端折った部分がなんとなくわかっちゃうということ。「このシーンの前後が本当は描かれていたけど、尺の都合でカットした結果、描き込みが足りなくて説得力がなくなってるな」とか。でも、『聲の形』にはそれが全然なかった。僕は原作を読まずに劇場に行ったんですが、1本の映画として過不足なくまとまっていて、いくつかのエピソードは端折ったんだろうけど、そのことが作品の本質をまったく傷つけていないのが伝わりました。
観る前は、「障害者差別の話とそれに関する贖罪の話なのかな」程度の認識だったんですけど、実際はその数段上をいっていた。それをはっきり感じたのは、高校生になった植野【1】と硝子【2】の観覧車のシーンです。聴覚障害者の硝子を疎ましく思っている植野が、硝子に対して「あんたは5年前も今も、あたしと話す気がないのよ」と言う。「障害者を差別する側が100%悪い」という一般的な認識が絶対多数である中、ともすれば「いじめられていた障害者側の“非”を糾弾する」とも取られかねない、なんなら炎上しかねない展開ですが、ものすごく説得力がありました。
実際、硝子はなんでもすぐに謝ってしまうし、態度はずっと卑屈です。植野が示した不快感は「健常者だろうが障害者だろうが、卑屈なのは良くない」という、現実社会においてはなかなか口に出しては言えない心の叫びだった。だから終盤に硝子が飛び降り自殺を図ったときに、観客はそれが彼女の絶望から来る行動というよりは、「人として身勝手な行動」だという解釈に納得できる。それまでに説得力あるシーンを重ねたからこそ、そこに到達できるんです。
もうひとつ、若者コミュニケーション論的な部分にも目がいきました。この作品、とにかく登場人物がすぐ謝るんですよね。「ごめんなさい」のセリフがすごく多い。登場人物たちも含む“さとり世代”以降の世代に特有の、「深い人間関係を築いて不協和音に苦しむよりも、さっさと謝って距離を取ったほうが楽」というやつです。それに対して、「もっと深く関わらないと駄目なんだ」ということを描いている点は、非常に批評的だと感じました。
こういった主張や批評を実写でやったら、主張が剥き出しすぎて実に空々しくなってしまうと思うんですよ。でもアニメという様式美を通すことで、観客はストレートな主張や批評にも聞く耳を持つ。素直に受け入れられる。今後、いわゆる“文芸”と呼ばれるような、人間を描こうとする映像ジャンルは、実写よりアニメで伝えたほうが伝達効率がいいんじゃないか、とすら思いました。少なくとも若者層に対しては。
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加藤るみの映画館(シアター)の女神 2nd Stage ☆ 第7回『ブルース・ブラザース』『ファンタスティックビーストと魔法使いの旅』【毎月第2木曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.750 ☆
2016-12-08 07:00550ptチャンネル会員の皆様へお知らせ
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加藤るみの映画館(シアター)の女神 2nd Stage第7回『ブルース・ブラザース』『ファンタスティックビーストと魔法使いの旅』【毎月第2木曜配信】
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.12.8 vol.750
http://wakusei2nd.com
今朝のメルマガは、加藤るみさんの連載『加藤るみの映画館(シアター)の女神 2nd Stage』をお届けします。今回取り上げるのは、伝説的ミュージシャンが多数出演する音楽映画の名作『ブルース・ブラザース』と、るみさんをメロメロにする中性的な魅力の持ち主、エズラ・ミラーが出演する『ファンタスティックビーストと魔法使いの旅』です。
▼執筆者プロフィール
加藤るみ(かとう・るみ)
1995年3月9日生まれ。岐阜県出身。サンミュージックプロダクション所属のタレント。映画鑑賞をはじめ、釣り、世界遺産、料理、カメラ、アニメと多趣味を活かしてマルチに活躍中。インターネットラジオK'z Station『おしゃべりやってま~すRevolution』にレギュラー出演中。雑誌『つり情報』でコラムを連載中。
本メルマガで連載中の『加藤るみの映画館(シアター)の女神』、過去記事一覧はこちらのリンクから。
前回:加藤るみの映画館(シアター)の女神 2nd Stage ☆ 第6回『ローラーガールズ・ダイアリー』『PK』【毎月第2木曜配信】
どうも!加藤るみです。
最近は政治についてちゃんと勉強しようという意欲に溢れています。
夏に行われた東京都知事選以降、
なんとなく日本の政治の仕組みについてニュースを真剣に見るようになり、
ついこの間のアメリカ大統領選では
誰が選ばれたらどういうメリットとデメリットがあるのかを調べたり、
ネットで情報を集めて自分なりに分析をしたりしていました。
まだまだ分からないこともたくさんあるのですが、
これから先、明るい未来になるように自分自身がちゃんと理解をして、
政治に参加していかなきゃいけないと強く思っています。
政治について知ることは、映画の時代背景と照らし合わせて、
より作品を楽しめるようになるポイントのひとつになると思っていて、
それが改めて政治を学びたくなった大きなキッカケかもしれません。
さて、今回紹介するのは、つい最近、
立川シネマシティの極上爆音上映で鑑賞した
1980年代音楽映画の決定版『ブルース・ブラザース』と、
ハリーポッターでおなじみJ・K・ローリングの新シリーズ
『ファンタスティックビーストと魔法使いの旅』です。
不朽の名作と話題の最新作の2本立て、お楽しみください。
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『君の名は。』――興収130億円でポストジブリ作家競争一歩リード――その過程で失われてしまった“新海作品”の力(石岡良治×宇野常寛)【月刊カルチャー時評 毎月第4木曜配信】☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.740 ☆
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『君の名は。』興収130億円でポストジブリ作家競争一歩リード――その過程で失われてしまった“新海作品”の力(石岡良治×宇野常寛)【月刊カルチャー時評 毎月第4木曜配信】
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.11.24 vol.740
http://wakusei2nd.com
今朝のメルマガは、映画『君の名は。』について、石岡良治さんと宇野常寛の対談をお届けします。コアなアニメファン向けの映像作家だった新海誠監督が、なぜ6作目にして大ヒットを生み出せたのか。新海作品の根底にある“変態性”と、それを大衆向けにソフィスティケイトした川村元気プロデュースの功罪について語ります。(初出:「サイゾー」2016年11月号)
(画像出典)
▼作品紹介
『君の名は。』
監督・脚本・原作/新海誠 製作/川村元気ほか 出演(声)/神木隆之介、上白石萌音、長澤まさみほか 配給/東宝 公開日/8月26日
東京都心で暮らす男子高校生・瀧と、飛騨の山奥の村で暮らす女子高生・三葉は、ある時から、互いの肉体が入れ替わる不思議な現象を体験する。入れ替わって暮らす際の不便の解消のために、別の身体に入っている間に起こった出来事を互いに日記にし、その記録を通じて2人は次第に打ち解けていく。だがある日、突然入れ替わりは起きなくなり、瀧は突き動かされるように飛騨へ三葉を探しに行く。そこで彼は意外な事実を知り──。新海誠の6作目の劇場公開作品にして、まれに見る超メガヒットとなった。
▼プロフィール
石岡良治(いしおか・よしはる)
1972年東京生まれ。批評家・表象文化論(芸術理論・視覚文化)・ポピュラー文化研究。東京大学大学院総合文化研究科(表象文化論)博士後期課程単位取得満期退学。青山学院大学ほかで非常勤講師。PLANETSチャンネルにて「石岡良治の最強☆自宅警備塾」を放送中。著書に『視覚文化「超」講義』(フィルムアート社)、『「超」批評 視覚文化×マンガ』(青土社)など。
◎構成:金手健市
『月刊カルチャー時評』過去の配信記事一覧はこちらのリンクから。
前回:『シン・ゴジラ』――日本が実現できなかった“成熟”の可能性を描く、“お仕事映画”としての『シン・ゴジラ』(真実一郎×宇野常寛)
宇野 まあ、身もふたもないことを言えば、よくできたデート映画ですね、という感想以上のものはないんですよね。本当に川村元気って「悪いヤツ(褒め言葉)」だな、と思わされました。新海誠という、非常にクセのある作家の個性を確実に半分殺して、メジャー受けする部分だけをしっかり抽出するという、ものすごく大人の仕事を川村元気はやってのけた。
新海誠の最初の作品である『ほしのこえ』【1】は、二つの要素で評価されていた作品だと思う。ひとつは、キャラクターに関心が行きがちな日本のアニメのビジュアルイメージの中で、背景に重点を置いた表現を、それもインディーズならではのアプローチで再発掘したという点。もうひとつは、後に「セカイ系」と言われるように、インターネットが普及しつつあった時代の人と人、あるいは人と物事の距離感が変わってしまったときの感覚を、前述のビジュアルイメージと物語展開を重ね合わせてうまく表現していたところ、この二つです。ただ、それ以降の新海誠は、背景で世界観を表現しようというのはずっと続いていたけれど、ストーリーとしてはそうした時代批評的な部分からは一回離れて、ある種正当な童貞文学作家というか、ジュブナイル作家として機能していた。
今回、久しぶりに過去作を見返したんですけど、意外とというかやっぱりというか、あの気持ち悪さがいいんですよね(笑)。例えば『秒速5センチメートル』【2】でのヘタレ男子の延々と続く自己憐憫とか、『言の葉の庭』【3】の童貞高校生の足フェチっぷりとか。どっちも女性ファンを自ら減らしに行っているとしか思えない(笑)。でもそんな自分に正直な新海先生が愛おしいわけですよ。1万回気持ち悪いって言われても自分のフェティッシュを表現するのが『ほしのこえ』以降の新海誠作品であり、基本的に彼はそこを楽しむ作家だったと思う。
それが『君の名は。』では、その新海の本質であるところの気持ち悪さの残り香が、三葉の口噛み酒にわずかに残っているだけで、ほぼ完全に消え去ってしまった。おかげで興行収入130億円を達成したわけだけど、あの愛すべき、気持ち悪い新海誠はどこにいってしまったのか。まぁ、それも人生だと思いますが(笑)。
【1】『ほしのこえ』(公開/2002年):宇宙に現れた知的生命体を調査する艦隊に選ばれ宇宙へ旅立った少女と、地上の同級生男子の、ケータイメールを通じた超遠距離恋愛を描く。宇宙ゆえに、ケータイという身近なツールで連絡を取り合いながらも、それぞれの過ごす時間がズレていくという設定になっている。新海誠にとって初の劇場公開作品であり(短編)、本作で高い評価を受けたことが現在につながっている。
【2】『秒速5センチメートル』(公開/2007年):新海誠の3作目の劇場公開作。3話の短編で構成される連作。小学校時代に惹かれ合っていた3人が、転校後も文通を重ねて一度は再会するものの、離れ離れになって時が経ち、思春期を過ぎて大人になり……という長い時間が描かれる。
【3】『言の葉の庭』(公開/2013年):『君の名は。』の前作にあたる5作目。靴職人を目指す男子高校生が、雨の庭園で出会った大人の女性に惹かれてゆき、2人が近づく過程を描く。
石岡 僕が新海作品でずっと興味を持っているのは、エフェクトや背景の描写です。彼が日本ファルコム在籍時に作った、パソコンゲーム『イースⅡエターナル』のオープニングムービーは、ゲームムービーを刷新した。この当時から空や背景の描写はとんでもなく優れているんですが、自然に迫る美しさとは違っていて、ギラギラした光線をバシバシ見せつけるような、人工的なエフェクトの世界を高めていくものだった。宇野さんが言った「気持ち悪さ」でいうと背景自体も気持ち悪いというか、その方向へのフェティッシュも濃厚でした。なぜ彼の作品が童貞文学的になってしまうかというと、圧倒的な背景描写に対して、キャラクターをあまり描けなくて動かせないからなんですよね。でもその結果、豊かな背景を前に、キャラクターが立ち尽くす無力感が背景そのものに投影されて、観る人はそれに惹かれる仕組みがあった。
一方で今回は、キャラクターがよく動く作画でありながら、新海監督には由来しない別の気持ち悪さが生まれていると思う。去年この連載で『心が叫びたがってるんだ。』を取り上げた時、田中将賀【4】さんのキャラデザは中高年以上を描けないんじゃないか、という話をしましたよね。『君の名は。』も田中さんなんだけど、作画監督・安藤雅司【5】の力によって、三葉の父親や祖母はさすがにうまく描かれていた。だけどその代わりに、日本のアニメーター特有の病というか、演出的にはいらないはずのシーンでついパンチラを描いているあたりには、また別種の気持ち悪さがあるんじゃないか。
【4】田中将賀:アニメーター/キャラクターデザイナー。『とらドラ!』や『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』シリーズのキャラクターデザイナー・作画監督を務める。
【5】安藤雅司:アニメーター。『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』などのジブリ作品や、『東京ゴッドファーザーズ』『パプリカ』など今敏作品ほか、数々の人気アニメ作品の原画・作画監督を務めている。
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【特別対談】片渕須直×のん(能年玲奈)『この世界の片隅に』をこの世界の隅々に!(後編) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.736 ☆
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【特別対談】片渕須直×のん(能年玲奈)『この世界の片隅に』をこの世界の隅々に!(後編)
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.11.18 vol.736
http://wakusei2nd.com
今朝のメルマガでは、11月12日(土)に公開となった映画『この世界の片隅に』の監督・片渕須直さんと、声優として主人公すず役を演じるのんさんの対談の後編をお届けします。
後編では、物語後半に、主人公・すずが陥った困難な境遇を、のんさんと片渕監督がどのように咀嚼し、演技と映像に落とし込んでいったのか。作品の舞台となった呉を訪れたときの印象。登場人物のネーミングの秘密などのお話を伺いました。
※本記事には作品内容のネタバレ情報が含まれています。映画を未見の方はご注意ください。
▼特別ビデオメッセージ
片渕監督とのんさんからビデオメッセージをいただきました!
▼プロフィール
片渕須直(かたぶち・すなお)
アニメーション映画監督。1960年生まれ。日大芸術学部映画学科在学中に宮崎駿監督作品『名探偵ホームズ』に脚本・演出助手を担当。『魔女の宅急便』では演出補を務めた。監督作に『名犬ラッシー』、『アリーテ姫』、『ACECOMBAT 04』ムービーパート、『ブラック・ラグーン』『マイマイ新子と千年の魔法』、NHK復興支援ソング『花は咲く』短編アニメーションなど。
のん
女優、創作あーちすと。1993年7月13日生まれ。趣味・特技、ギター、絵を描くこと、洋服作り。オフィシャルブログ
©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
▼ストーリー
1944(昭和19)年2月。18歳のすずは、突然の縁談で軍港の街・呉へとお嫁に行くことになる。新しい家族には、夫・周作、そして周作の両親や義姉・径子、姪・晴美。配給物資がだんだん減っていく中でも、すずは工夫を凝らして食卓をにぎわせ、衣服を作り直し、時には好きな絵を描き、毎日のくらしを積み重ねていく。
1945(昭和20)年3月。呉は、空を埋め尽くすほどの艦載機による空襲にさらされ、すずが大切にしていたものが失われていく。それでも毎日は続く。
そして昭和20年の夏がやってくる―。
11月12日(土)八丁座、広島バルト11、T・ジョイ東広島、呉ポポロほか全国公開。
http://konosekai.jp/◎取材・構成:中川大地
◎写真:金田一元・ホリーニョ
本記事の前編はこちらから!
■「日常」が喪失していく物語の転調
©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
―――ここからは、公開から1週間経って映画をご覧になった人も増えたかと思うので、物語後半の展開についてもお伺いしていきたいと思います。戦争がどんどん進んでいって、呉への空襲が始まって、防空壕とかに逃げ込むようになって、それでどんどん爆弾が落ちていく。そんな、最初は非常事態だった出来事が、それ自体がだんだん日常になっていく感じになるじゃないですか。
そうやって前半に積み重ねていったすずさんの日常が別の何かに置き換わっていって、ついにすずさん自身の大切なものも失われていくという、劇的な展開に徐々になっていくわけですね。そのあたりは、どのように役作りをディレクションされていたのかな、と。
片渕 なんだろう。ディレクションっていうことで言うならば、あの辺までくるとシチュエーションがものすごいハッキリしてくるので、そのシチュエーションを正確に再現していけば良いかなという感じだったので、こちら側から補うことはほとんどなかった気がします。
興味から言うと、右手がない人の声を演じるのって、演じる側としてはどういう意識だったのかなとかなあとかは思いますけどね。なんか突きつけたぞ、今(笑)。
のん ……また難しいことを! うーんと、そうですね。うーん、はっきりした意識ではなくて、漠然と納得できないっていう思いが渦巻いていて。で、晴美さんに自分が着いて行ったのにっていう申し訳なさとかも、もちろんすごくあるんだけれど。なんだろう、根本的にもう、そういう状況になってしまっているっていうこと自体に悔しくなっている。
自分の右手がないっていうのとかは、その納得できない、悔しさの思いの象徴みたいな……なんだろ。すごくここから逃げたいっていう思いが強くなっていったのかなという風に感じました。
片渕 前編の話題で、役を演じることには自分が自分でなくなっちゃう怖さがあるって僕言ったじゃないですか。それは、右手がないっていうことの感覚とちょっと似ているような感じがして。右手を失ってしまうすずさんを描こうと思っているうちに、なんだか本当に自分が右手のない人になるみたいな感覚があった。
それは単純に物理的に右手がなくなるということじゃなくて、その瞬間にやっぱりすずさんが別のものに変えられちゃったような気がするんですよね。今までのすずさんの普通が普通でなくなってしまうという意識が、僕の方ではすごく強くあったような気がするんですよ。
でも、すずさんは広島から妹のすみちゃんが尋ねてきたら、普通に「よう来たね」って言ってしまうという、それまでにもあった二面性が、ものすごく極端になっていく……みたいな。それが、あの「歪んどる」というようなセリフに結びついていくのかな。だから、すみちゃんが来た場面では、たしか「本心ではない感じで演ってくれ」みたいなことをのんちゃんに言ったような気がします。
で、声を収録した後に絵の方の表情も描き直したりしてるんだけど、作画監督の松原秀典さんが最後まで悩んで描いていたという。すみちゃんが来た時に、どこで表情が変わってニコッと笑うのか。それまでは自分の右手がないことについて「あの時、これこれこういうことをした右手が……」って感じで落ち込んでいたのに、妹が来た瞬間にすずさんは微笑むんだよね。その微笑む瞬間がどこかっていうのは、声の方も絵の方も、結構難しいことだったような気がするんですよね。
のん ああ……。なんか私が思ってたのは、「この人に会った時にはこういう自分がいる」っていう意識だった気がします。「この人にはここまで見せていい」みたいな感じで、すみちゃんといるときのトーンと、径子さんとか周作さんといるとき、水原さんといるときとか。表に出てくるものは全然普通で、ほとんど変わらないように見えるんだけれど、なんだろう。使っている部分が違う。自分の中の使っている部分が違う……というか。そういう感覚なのかなあ、とは思ってたんですけれど。
片渕 うん。だからあれかなと思って。周作が来て、「怪我しとるんか」っていう一言で済ました時に、右手がないっていうことで別の人間に変えられていたはずの自分が、元の人間に戻されたみたいな感覚があって。それがなんか、実はものすごい救いになっていたんじゃないかということなんですよ。これが『アリーテ姫』みたいなファンタジー物だったら、魔法にかけられていて完全に別の存在に変えられていたものが、あそこで元の人に戻してもらったみたいな、ね。そんな感じが、あの場面ではしていて。
もちろん、それだけではすずさんの苦悩は決して晴れないんだけれど、でも意味合いとしては、そういう救いのヒントになってゆくセリフだったんだろうなと思う。
©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
■呉・広島の土地性が語りかけるもの
―――試写で完成した映画を見た時の、ご自分の中で改めての感想はどうでした?
のん 本当に素晴らしい作品に参加させていただいたなってことに尽きますね。公開したら観客としていこうかなと思ってるんですけど。
片渕 多分一番最後のところまた増えてるから。
のん え、そうなんですか?
片渕 クラウドファンディングの人の名前が何千人分か乗っかって、そこにも絵がついてるから、だいぶ変わってますよ。だからお楽しみに。
―――すでにマスコミ試写や先行上映で観た人たちからの反響がものすごいじゃないですか。その反響の中で、「え、こんな感想あるんだ」とか、特に嬉しいなって思ったものって何かありますか?
のん なんだろう、えーっと、「方言の違和感がない」っていうのは嬉しかったですね。
片渕 「自分は呉出身なんだけど、こんな方言だらけだと他の地方の人に伝わらないかもしれないから字幕つけたほうがいい」って言ってる人もいたよね。僕も広島の方言が本当にできてるかどうかはわからないんだけど、すごく苦労した部分だったし、普通に「広島弁が上手にできてます」と言われるよりも、本当に「やった!」と思えますよね。
―――映画のプロモーションイベントでお二人で広島や呉にも行かれて、劇中の舞台を訪ねられたそうですね。元々は、原作のこうの史代さんから教えてもらった場所なんですか?
片渕 原作を読んで、この作品をやりたいと思ったのが2010年の8月なんですよ。で、こうのさんに手紙を出したんだけど、いろいろ忙しくて全然会えなくて、初めて会えたのが確か2011年の6月。だから10ヵ月間くらいタイムラグがあるわけです。その間に自分たちで呉とか広島に2回くらい行って、原作の「この橋は◯◯橋だな」とか、「この向こうに見えてるのは◯◯島だな」とか、「すずさんが描いた絵はこうなっているから、この方角からこういう風に見たんじゃないか」とか、全部地図で照らし合わせながら勝手に調べていったんですよ。
▲ すずと周作が呉市街でのサプライズデート後に語らう小春橋から、北條家のある灰ヶ峰の方向を望む。
で、そういう考証をやった上で、こうのさんに会ったら、初対面なのに「あの場所がこの場所が」って話ができたんですね。もし最初からこうのさんに会って、「あの場面はここなんですよ」とか言われてたら、この作品はそんなに深まらなかったのかもしれない、という気がちょっとしますね。そういう自分で見つけたという感触のある、すずさんのホームグラウンドを見ておいてほしいと思ったので、イベントの合間の自由時間にのんちゃんを連れて案内したわけです。
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