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消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。第15回 理想の国アメリカで凡庸化する私(栗原一貴・消極性研究会 SIGSHY)
2020-02-06 07:00550pt
消極性研究会(SIGSHY)による連載『消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。』。今回は栗原一貴さんの寄稿です。客員研究員としてシアトルに滞在中の栗原さん。多文化的で自主性を重んじる米国西海岸のコミュニケーション様式からは、日本人の「消極性」を考える上での重要な知見が得られたようです。
こんにちは。 消極性研究会の栗原一貴(津田塾大学)です。今私はアメリカの西海岸の街、シアトルに住んでいます。1年間の滞在で、ワシントン大学で客員研究員として席を置きつつ、家族とともに生活をしています。
前回の執筆の続きとして、私の消極性研究について今回もお届けするつもりではあったのですが、ここアメリカはシアトルでの生活は私の消極性パーソナリティに予想外の強い影響を与えており、ぜひそれを皆様と共有させていただきたく、筆をとりました。
なお無遠慮にアメリカでは、などと主語を大きくして語ってしまっていますが、適宜「シアトルでは」や「栗原の生活圏では」と読み替えていただけるとありがたいです。また、昔から語られている、同調圧力・低コンテクスト・高コンテクスト文化みたいなことを今更語っているだけのような気もしますので、詳しい方々には有益な情報を提供できなくて申し訳ありません。理系の私が柄にもなく社会的なことを論じるので、皆様お手柔らかにお願いします……。
アメリカ人はナイスガイでありたい
アメリカ人は、基本的にナイスガイでありたい、そうでないといけないと思っている、と在米歴の長い知人に聞いたことがあります。確かにそう感じます。初対面でも愛想がよく、笑顔が素敵で、私のような一時滞在者にも「My Pleasure!」と親身に相談に乗ってくれます。一方でその反動のギャップもあります。日本的感覚で、「ここまで愛想がよく面倒見のいい人なら、信頼できる。きっとしっかり仕事してくれるだろう」と予想していた人でも、意外な仕事の杜撰さが後に発覚し、おいおい何だったんだあの笑顔と自信は、と思うこともしばしばです。しかし個人的には、そのギャップを差し引いても、とりあえず人当たりがよいというだけで、コミュニケーションの躊躇はぐっと少なくなります。
アメリカは空気が薄い
アメリカはとても空気が薄いと感じます。もちろん酸素濃度のことではなく、日本人が読むのに心血を注ぐあのコミュニケーションの空気です。多様性の極みともいうべきシアトルは、多種多様な人種と文化のサラダボウルであり、かつ「どんな人でもWelcomeだよ」という態度をとることをアメリカの皆さんはプライドに思っている、あるいはそこにアイデンティティを感じているように思います。そして、シアトルはマイクロソフト、アマゾン、コストコなどの有名大企業があり、実際のところ経済的にも潤っているのでしょう。物価は高いですが、人々に余裕が見られます。余裕があるとき、人は理想を追求したくなるもの。そういう意味で、シアトルは(リベラルな?)アメリカ人が理想とするアメリカ像をしっかり実践できている場所なのかもしれません。もちろんホームレスの人々も多いですよ。でもホームレスへの各種社会的支援もなかなかのボリュームです。
日本人がアメリカ文化で辟易する、飲食のカスタマイズ文化。スターバックスのコーヒーのカスタマイズ。サブウェイのサンドウィッチのカスタマイズ。これらもひとえに、「みんな違って当たり前。君は何を望むの?それを叶えるのが私達の喜びさ。」ということこそおもてなしと考える、アメリカ文化の一つの象徴のような気がします。「おまかせで」とは対極ですね。コミュニケーションにおいても、誰がどんな思想を持っているかなんてバラバラ。違っていて当たり前。言いたいことがあれば言えばいいし、言いたくないなら言わなければいい。興味があればwelcomeだし、興味が無いなら去ればいい。静かにそこに居たいならそれも自由。この考えが徹底している感じがします。
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インターネットは世の中の「速度」を決定的に上げた一方、その弊害がさまざまな場面で現出しています。世界の分断、排外主義の台頭、そしてポピュリズムによる民主主義の暴走は、「速すぎるインターネット」がもたらすそれの典型例といえます。インターネットによって本来辿り着くべきだった未来を取り戻すには今何が必要なのか、提言します。
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消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。第14回 デス・ストランディングで緩くつながる優しい世界(簗瀬洋平・消極性研究会 SIGSHY)
2019-12-19 07:00550pt
消極性研究会(SIGSHY)による連載『消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。』。前回に引き続き簗瀬洋平さんの寄稿です。最近発売されたばかりの、小島監督の「デス・ストランディング」を含む3本の話題のゲームタイトルから、ユーザーへの行き届いた配慮を促す「消極性デザイン」的な発想、そして、人々の「優しさ」を引き出すための世界設計のヒントを見出します。
こんにちは。 先月に引き続き消極性研究会の簗瀬がお送りします。
読者の方々は最近どんなゲームをプレイしているでしょうか? 最近、私がプレイしたものだと
『ゴースト・リコン ブレイクポイント』 『スターウォーズ ジェダイ:フォールン・オーダー』 『デス・ストランディング』
などが挙げられます。ゲームは1日1時間、など聞くことがありますが社会人になったいま、これは1日1時間までということではなく、がんばって1日1時間プレイしなければという目標の数字になっています。
すべてが無駄にならない『ゴーストリコン ブレイクポイント』の報酬システム
『ゴースト・リコン ブレイクポイント』は世界屈指のテック企業が買収した未来のテクノロジーで埋め尽くされた島が軍事組織に占領され、偵察にいった特殊部隊の乗るヘリコプターは墜落、生き残った主人公は本部とも連絡が取れないまま島の奪還を目指す……というストーリー。
▲『ゴースト・リコン ブレイクポイント』
もともとこの『ゴーストリコン』シリーズは近未来的な装備を持った特殊部隊ゴーストを率いて小隊単位でミッションをクリアしていくゲームでしたが本作から内容が大きく変わり、主人公は単独行動となりました。最初はこれが不満でしたが、単独で生き残ったというシチュエーションでの孤独な探索がなかなか面白く別なゲームとして楽しめるようになりました。本作はオンライン要素を強く打ち出しており、ゲームAIではなくオンラインの仲間と遊んでくださいという方向になっています。実のところ私は自分が下手すぎて知人以外と組むのを躊躇ってしまうタイプのプレイヤーなのですが、世界屈指の大手UBIソフトの作品だけあってそこもやはりきちんと想定されており、可能な限り敵に見つからないよう行動すれば一人でも十分に目的を果たせるため特に問題なくストーリークリアまで進んでいます。
オープンワールドの探索系サードパーソン・シューティングゲームとして本作は旧作とくらべ斬新な要素はないのですが私が感心したのは報酬の出し方でした。このゲームには多くのゲームと同様レベルの概念があります。レベルを上げるにはどうするか? というと通常は敵を倒して経験値をもらい、キャラクターが成長していきます。このゲームもその要素はあるのですが、もっとも重要なのは装備の強さで決まる装備レベルでした。この装備レベルは強い武器や防具を装備すれば上がり、弱いものを装備していると下がります。つまり、より強い装備の装備を求め続ける必要があるわけです。通常のRPGでは敵の強い地域、弱い地域があり、弱いところから順々に攻略するのですがこのゲームでは一部ストーリーのクリアに必要な固定レベルの敵がいるところを除き、敵は常に自分と同じか少し上のレベルになっています。そういう敵を倒せば自分が持っているより良い装備を手に入れることができます。マップに置いてある箱からもやはり自分のレベルより少し上に装備が出てきます。
つまり、自分のレベルを上げるのにどこから攻略する、というような順番を考える必要はないわけです。前述のように私はできるだけ見つからずに行動していましたがうっかり見つかって戦闘になっても少し良い武器が出るので、無駄になったという感覚はまったくなく、移動中に建物を見つけたらまめに装備が入っている箱を開けにいったりしていました。
これはなかなか画期的です。通常、ゲームを作る人は攻略順を考えさせる、というところを遊びと目していて広い地域があってもある程度レベルごとに区切るというようなことをします。しかし考えようによっては広いマップを歩き回るようなゲームで厳密にそれをするとプレイヤーに無駄な行動をさせてしまう可能性があるわけですね。どこへいってもそれなりにメリットがあるならプレイヤーはあちこち楽しんで歩き回れますし、私も実際にプレイしていてこのゲーム無限に歩き回れるなと思って遊んでいました。
ゲーム、特にコンソールゲームはわざわざ時間を作ってテレビの前に座り、数十分から数時間単位で遊んでいます。選択次第で成功したり失敗したりというのはゲームの醍醐味ですが、その選択を成功と大成功にしても困ることはないわけです。かつては楽しませるために必要と思っていたことも時には捨ててみる必要がある、と思い知らされます。
絶対に誰でもジェダイにする『スターウォーズ ジェダイ:フォールン・オーダー』の固い意志
続けてもう一本。こちらは『スターウォーズ』シリーズのスピンオフの作品です。スターウォーズには『フォース・アンリシュード』『スターウォーズ・バトルフロント』など過去にも良いゲームが何本も出ています。こういったゲームに一番必要なのはとにかく、プレイヤー自身がスターウォーズの世界の一員になれるかどうか、という点にあります。 『フォールン・オーダー』はまず難易度設定からスターウォーズです。通常の難易度ベリーハードがジェダイ・グランド・マスター、ハードがジェダイ・マスター、ノーマルでもジェダイ・ナイト、そしてイージーはストーリーモードとなります。シンプルに考えるとイージーはパダ・ワン(ジェダイの弟子)となるわけですが、プレイヤーがあこがれるのはやはりジェダイなんですよね。ゲームが下手だからイージーにしたのではなくスターウォーズのストーリーを楽しみたいんですよね、という優しさが感じられます。
▲『スターウォーズ ジェダイ:フォールン・オーダー』
また、難易度を下げた場合でも下がるのは敵の攻撃力と攻撃頻度だけです。このゲームはなかなかシビアで、ノーマルでも敵が複数いると四方八方から撃たれて死んでしまったり、容易に囲まれて殴られてダウンしてしまったりします。反面、ライトセイバーでしっかりと守り、隙を見てスバッと倒すというスリルのある戦いが楽しめるわけです。こういうとき、難易度を下げたら適当にボタンを押しているだけで敵が倒せるようにしてしまいがちですが、前述のような調整のため難易度を下げてもガードをして隙を見て斬る、という基本はまったくかわりません。下手でもうまく戦えるまで何度もチャンスをくれる、あまりやりなおさなくても良い、というややスパルタな優しさです。
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消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。第13回 コミュニケーションを介在する存在(簗瀬洋平・消極性研究会 SIGSHY)
2019-11-18 07:00550pt
消極性研究会(SIGSHY)による連載『消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。』。今回は簗瀬洋平さんの寄稿です。ペットの存在は、家庭内に潤いをもたらすだけでなく、社会的なコミュニケーションを発生させる契機にもなります。ゆるやかな社会的交流のきっかけとしてのテクノロジーの活用を考えます。
消極性研究会の簗瀬です。
2018年10月23日に我が家に子犬がやってきてもう1年が経過しました。犬は1歳ともなるとすっかり成犬で1歳3ヶ月になる我が家のエダ(パピヨン ♀)は人間に換算すると10代後半ということになります。終始動き回っている子犬の頃と違い落ち着きは出てきましたが、まだ3〜4歳の落ち着きがある子と比べるとまだまだ子供で、散歩中に出会う方々からも「まだお若いですか?」と言われます。
実は犬を飼って大きく環境が変化したことの一つに、社会とのコミュニケーションがあります。私は家を出てから大阪と横浜で十数年一人暮らしをしてきましたが、実のところ同じマンションの住人や近所の人とは挨拶以上の会話を交わしたことがありませんでした(とは言え、大阪だとお店や路上で突発的に話しかけられたりするのでやや例外です)が、生後半年近くなり、愛犬を散歩に連れて行くようになって知らない人との会話が劇的に増えました。
犬は基本的に散歩が必要な生き物です。これは運動と社会適応という二つの面があり、後者は人間社会で発生する様々な物音や他の人、犬、その他の生き物などに慣らしていくトレーニングでもあり、犬自身の好奇心を満たしていく行為でもあります。また、大型犬の場合は家でトイレをしない子も多く、排泄のために外に連れ出さなければならないという一面もあるようです。
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消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。第12回 消極性チームを救う鉄壁のface-work戦術(西田健志・消極性研究会 SIGSHY)
2019-07-11 07:00550pt
消極性研究会(SIGSHY)による連載『消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。』。今回は西田健志さんの寄稿です。誘いたいけど断られるのが怖くて声をかけられない……。傷付きやすさゆえに消極的になっている人々のために、コミュニケーションの場面でお互いを体面を守る「Face-work」のテクノロジーを紹介します。
Face-workを円滑にする曖昧さ
まだそれほど親しい距離感でもないと思っている相手から「LINE交換しませんか?」と持ちかけられたとき、みなさんは穏便に断ることができますか?今後もまた付き合いがあるかもしれないと思うとむげに断るわけにもいきません。
「私、LINEはやってないんです。」 「父がすごく厳しくてLINEとか全部チェックするから…ごめんなさい。」 「ごめん今、スマホの充電切れちゃっててまた今度でいいですか?」
相手を傷つけないように、そして自分も傷つけないようにちょっとした嘘をついてその場を収めたことが誰しもあるはずです。かかってきた電話に出ないとき、LINEに返事が遅れるとき、飲み会の誘いを断るとき…など同じような場面は日々の生活の中に満ち溢れています。
このような、お互いの体面を保持するために用いられる日常の方策は “face-work” と呼ばれ、社会学・心理学・言語学など様々な分野で研究されています。インタラクションデザインの分野も例外ではありません(こういうとき日本語でも英語でも同じ「顔 (face) 」という言葉を使うのがおもしろいですね)。
2005年のCHI(インタラクションデザイン分野のトップ国際学会です)で発表された “Making space for stories: ambiguity in the design of personal communication systems” という論文を紹介します。タイトルにある通り、コミュニケーションシステムのデザインでは嘘をつくためのゆとり (space) や曖昧さ (ambiguity) を考えることが大切だと提唱している、ちょっと珍しいタイプの論文です。曖昧さが大切とはいったいどういうことでしょうか?
たとえば、この論文では連絡先交換をリース制にするというデザイン案を検討しています。誰かと連絡できる権利はシステムから期限付きで借り受けるもので継続的に連絡をしたい場合には更新が必要。しかも、無料ユーザは〇人分、ノーマルプランは〇人分、プレミアムプランの人は〇人分まで連絡権を借りることができるという人数制限があるというデザインです。
もう一度最初の連絡先交換を断りにくいというシチュエーションに立ち返りましょう。
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『消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。』第11回 人はなぜ「じゃんけん」で決めてしまうのか? 〜AI時代の意思決定のヒント〜(渡邊恵太・消極性研究会 SIGSHY)
2019-04-23 07:00550pt
消極性研究会(SIGSHY)による連載『消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。』。今回は渡邊恵太さんによる寄稿です。私たちの身近な意思決定の手段のひとつである「じゃんけん」。簡易かつ合理的な方法ですが、参加人数が増えると必ずしも効率的ではありません。じゃんけんに象徴される「どうでもいい意思決定」を効率化する、新しいテクノロジーを提案します。
じゃんけんと意思決定の消極性
たとえば、6個入りのシュークリームを5人で食べ、1つあまったシュークリームを誰が食べるのかを決めるのに、5人のうち2人が食べたいと申し出てしまうような場合、どうやってそれを食べるべき人を決めればよいでしょうか。
たぶん、そこで必ず出てくる方法が「じゃんけんで」ということかと思います。 しかし、私たちは「じゃんけん」という方法をなぜ使うのでしょうか?そして、いつまでこの方法はベストな方法として使われるのでしょうか?
じゃんけんの日常性
じゃんけんは、三すくみの構造を利用した勝ち負けを決める遊びなわけです。じゃんけんは昔からある遊びですが、遊びである以上に、私たちの生活の中で子供から大人の世代まで幅広く、さまざまな状況で使われます。
朝、フジテレビの「めざましテレビ」では、めざましじゃんけんをやっていますね。「サザエさん」でもじゃんけんをしています。これらはエンターテイメントとしてでしょう。それ以外にも、スポーツの先手を決めるのにもじゃんけんを使うことがあります。1つ余分にあまったおやつを誰が食べるのかを決めるのにじゃんけんすることもありますし、学校や会社組織で順番決めをするときにもじゃんげんを使うことがあります。じゃんけんはそれ自体が、遊びとしてのエンターテイメントだけでなく、日常的な決めごとの問題解決の手段をして利用されていることがわかります。
今回はこの「じゃんけん」という方法で物事を「決める」という意思決定や、「抽選」という方法について考えていきたいと思います。だいたい、じゃんけんで決めなければならないことは、積極的に決めたいことというより「決まらない」「決めるのが難しい」ということが問題となったときに使われるため、消極的なシチュエーションといえます。このじゃんけんという方法は、消極性の文化を支えてきたともいえますし、この方法によって意思決定に折り合いつけて、物事を次のステップへ進めてきた方略とも言えます。さて、まずはじゃんけんの特徴について考えていきたいと思います。
じゃんけんの特徴
よくじゃんけんの話になると、そのゲーム性からの確率論が多く話題になります。そういう研究をしている人もいます。今回注目するのはインタラクションデザインの観点でのじゃんけんです。じゃんけんは日常化していることから分かるように、優れた特徴がたくさんあります。じゃんけんの特徴をちょっと言語化しまとめてみました。
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『消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。』第10回 物議を醸すモノづくりのはなし(栗原一貴・消極性研究会 SIGSHY)
2019-03-20 07:00550pt
消極性研究会(SIGSHY)による連載『消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。』。今回は栗原一貴さんの寄稿です。2015年のパリでのテロ後、Facebookではプロフィール写真の背景をフランス国旗に変えて追悼の意を示す運動が流行しました。しかし、消極的な人間は安易に流行に飛びつきません。どうせやるなら全世界の平和を祈るべし、と栗原さんが発明したものは……?
皆さんこんにちは。「物議を醸すモノづくり」が得意な情報科学者、栗原一貴と申します。2012年に珍妙な賞として世界的に知られている「イグノーベル賞」を受賞し、自らのマッドサイエンティスト人生を運命づけられました。現在は「秘境の女子大」と巷で呼ばれているらしい津田塾大学学芸学部情報科学科で、リケジョの育成に邁進しています。 拙著「消極性デザイン宣言」で私は、一対一、あるいは一対少数のコミュニケーションにおける「自衛兵器」の研究を紹介しました。 おしゃべりな人を邪魔する銃「スピーチジャマー」、性能の悪い人工知能の暴走を装って自分のスマホやパソコンの画面を覗く人を撃退する「PeepDetectorFake」、耳の「蓋」として働くことで聞きたくない声や音を遮断する「開放度調整ヘッドセット」、そして人の目を見て話せない人のために視界のすべての人にモザイクをかける「視線恐怖症的コミュ障支援メガネ」などです。
さて、前回の連載では、消極性デザインによって身近な環境改善を図る事例として、音声エージェントのアレクサを用いた育児について論じました。 本日は、「物議を醸すモノづくり」の最近の事例として、「The Universal Background Filter」と「痴漢冤罪対策音ゲー」を紹介します。身近な(?)社会問題に対して、ある種常軌を逸したモノづくりで挑みます。
The Universal Background Filter
まず小さなところから。 以下のリンクは、私のFacebookのプロフィール写真です。よろしければ御覧ください。動画になっているので、再生ボタンを押す必要があるかもしれません。
https://www.facebook.com/qurihara/videos/1726840290729754/?l=2889760844340208902
冴えない男で申し訳ありませんが、主にお話したいのは、私の肖像ではなく背景のことです。このチカチカする背景、実は意図してそのように作っています。
少し前のことになりますが、2015年のパリのテロのあと、Facebookが「自分のプロフィール画像の背景をフランス国旗にして哀悼の意を示そう」という画像加工サービスをはじめました。多くの著名人、そしてあなたの身の回りの方々も、しばらく背景がトリコロールカラーになったことと思います。
私はといえば、もちろんテロの犠牲者を気の毒に思う一方で、なんとなく流行りに流されてプロフィール画像を自分にあまりゆかりのない特定の国にすることに抵抗を感じ躊躇しておりました。自分にあまりゆかりのないハロウィンイベントに仮装して参加するのを躊躇するのと似たような気持ちです。一方は哀悼で、一方はお祭りですから、比較して論じるのも不謹慎でしょう。しかし結局フランス国旗背景の方々がFacebookでポストし続けているのは、日常のおいしい、かわいい、ためになる、などですから、喪服着ながらはしゃぐのと似たようなもので、それもそれで不謹慎さを感じます。
消極的な人は、考え過ぎな人。流行りを流行りとして取り入れて、日常に彩りを与えたり楽しんだり、人と共感したりすることに対し、素直になれない人たちだと自己分析します。
一方、世界的な流れを追いかけてみますと、その後Facebookのこの機能に対し、「パリだけじゃないだろ。全世界の平和を祈るべきだ」という批判が相次ぎました。 超・積極的な人からすると、フランスだけでは手ぬるいというわけです。世界平和。大変結構なことですね。 私はこの主張に感じるところがあり、自分の心のモヤモヤを自画像的に表出させたくて、文字通り全世界の国の国旗を背景にすることで平和を消極的に祈るプロフィール画像加工アプリ「The Universal Background Filter」を作りました。 ちょうどFacebookが動画によるプロフィール画像の登録を開始した時期だったので、私のFacebookプロフィールはそれ以来、このアプリで加工したものになっています。
数秒以内という制限のあるプロフィール動画の中で、全世界の平和を祈れるよう、超高速で全世界の国の国旗を切り替えています。その結果、どうでしょうか。速すぎてどの国旗もほとんど見えません!
私はこの結果に対し、失望と納得の入り混じった奇妙な気持ちになり、とても気に入りました。 私はたぶん、フランスとかベルギーとか特定の国に限定せず、世界中のすべての国の平和を思っています。でもそれは、つまりどの国もたいして思っていないのと同じということです。 平等に何かに思いを寄せるというのは、キレイなようで、同時にとても薄っぺらい気持ちであることがわかります。まさに薄っぺらい、自分にぴったりのプロフィール画像だなと思いました。
無理やり効用を挙げるとすれば、以下のようなことが言えるかもしれません。テロは私たちの過剰反応を得るのが目的の一つであるので、予めすべての国への配慮を表明していれば、どの国に今後テロが起きてもすでに「配慮済み」ですから、特段なにもする必要がありません。それによって結果的にテロに与しないという意思表示になります……たぶん。
時事ネタとして特定の国のテロを悼み、たくさんの友人とともに自分のプロフィール画像の背景をその国の国旗にし、盛り上がるとともに消費していく。 普段から人知れずこの技術によってすべての国の平和を祈っているが、微量すぎて誰も気づかないし、自分自身もそれぞれの国への思いの至らなさを自覚している。
あなたはどちらの自分を、世界に発信したいですか?
※The Universal Background Filter のソースコードはGitHubで公開しておりますので、興味のあるかたはどうぞ。http://www.unryu.org/home/ubf
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『消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。』第9回 Google FormでSHYHACK(簗瀬洋平・消極性研究会 SIGSHY)
2019-02-19 07:00550pt
消極性研究会(SIGSHY)による連載『消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。』。今回は簗瀬洋平さんの寄稿です。ECシンポジウムで毎年恒例となっているオーガナイズドゲームでの昨年のチャレンジ。そして、講演依頼で発生する気を遣うやりとりを軽減する「講演依頼フォーム」のアイディアについて語っていただきました。
オーナガイズドゲーム2018
みなさんこんにちは。消極性研究会の簗瀬です。第2回メールマガジンからだいぶ時間が経ってしまいました。前回のメールマガジンでは学会を楽しくし、記憶に止めるための工夫としてゲームデザインの知見を使うことについてお話ししました。その最後にオーガナイズドゲーム2018の報告は次回、と書いていましたので早速その話に入りたいと思います。
前回までのおさらいをすると、エンターテインメントの研究をしている学会なのだから、学会そのものを楽しませる仕組みにしようということで始まったのがオーガナイズドゲームです。それまでは講演者を殺した犯人を探す脱出ゲーム形式のもの、参加者同士でパーティを組んで強いチームを作り、最後に魔王と戦うRPG形式のものなどいろいろやってみましたが、消極性研究会の視点から見ると「積極的に情報交換をし、参加していかないと十分に楽しめない」という欠点がありました。そこで新しい試みをしてみようと考えたのがオーガナイズドゲーム2018でした。
情報処理学会エンタテインメントコンピューティング (EC) シンポジウム2018は東京都調布市にある電気通信大学で行われました。今回のオーガナイズドゲームはシンポジウムのスポンサーである架空の大富豪を満足させるためにコインを集めるという体で、発表や質問、デモの体験など学会の基本的な活動に参加するとポイントが得られるというシステムを導入しました。最終的にポイント総量が一定を超えると目標クリア! と、いうことです。
▲情報処理学会エンタテインメントコンピューティング (EC) シンポジウム2018 オーガナイズドゲーム
これだけではゲームに興味ない人が参加する動機が面白みだけになってしまうので、使用するアプリケーションにはそれぞれの発表に対して匿名で質問できるシステムや、良い質問に対していいね!がつけられるシステムも実装されています。このように、消極的な人たちだけを対象にするのではなく、誰もが便利に使えるようなシステムが積極的になれない人に対して効果を及ぼす、という形になっていればみんなに楽しく使ってもらえるはず……でした。
結論から言うとこのシステムを使った盛り上がりは「まあまあ」というところでした。 それまでのオーガナイズドゲームはやはりゲームという形を使うことにより参加者に対してワクワクさせるものがありました。それを日常使うシステムの中に溶け込ませてしまうと、非日常感がなくなって実務的なソフトウェアとして目の前のシステムを見るようになります。このシステムそのものは電気通信大学の学生さんが短期間で作ってくれたものなのですが、やはり我々が日常的に使っているシステムのような完成度を持っているわけではありません。私自身はゲーム開発の経験から得てきた「楽しい、面白い」という感情が様々な技術の未熟さを隠してくれるということをよくわかっていたはずなのですが、その辺りを軽視してしまったのは大きな反省点です。
積極的になれない人のためにちょっと変わったサービスやシステムを作る、というのはShyhackの中でも大きな仕事の部類ですが、当然それらは導入障壁が低く、使い続けやすいものでなければ多くの人に使ってもらうことはできません。大きな大義の前に当たり前のことを忘れないよう気をつけたいと志を新たにしています。
なお、最近様々なカンファレンスで使われていますがイベント用のルームを作り、匿名で質問をするシステムがいくつか出てきていますね。例えばSli.doなどが代表的です。
自力でシステムやサービスを作れることはそうそうありませんから、日頃からこういった外部のサービスを活用するShyhackの知見を積み重ねて行くのも良いですね。
オーガナイズドゲーム2018のポイントは以下でした。
・システムを使って学会への参加をポイントとして評価する ・ポイントを使った協力イベントを用意し一体感を高める ・実用システムには一定以上のクオリティが必要 ・逆に「遊び」感を出すとクオリティの負担が下がる
講演依頼に関するやりとりの労力を削減する
私は講演や講義、学生発表の講評などであちこち呼ばれる事が多くあります。数えてみたところ2018年の1年間でおおよそ70回ほど様々なイベント、学校などに行って話をしたり聞いたりしています。多くは必要な情報を過不足なく送ってくれるのですが、中にはあまり依頼に慣れないのかやりとりに手間と時間がかかってしまうケースもあるわけです。 そこでこういった情報が欲しい、ということを簡単にまとめてTweetしたところ大きな反響がありました。
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『消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。』第8回 みんなで話し合って決めようの消極性デザイン(西田健志・消極性研究会 SIGSHY)
2018-12-20 07:00550pt
消極性研究会(SIGSHY)による連載『消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。』。前回に引き続いて西田健志さんの寄稿です。話し合いへの参加を最初から諦めてしまう「消極的」な人々は、どうすれば大規模な集団の議論に参加できるのか。西田さんが考案した、1対1の「小さな議論」の勝者がトーナメントを勝ち上がる「トーナメント型議論システム」を紹介します。
消極性研究会の連載、前回に引き続き西田健志が担当させていただきます。
前回は、P10の消極性研究会座談会や「遅いインターネット計画」に触れながら、消極的な人たちでも発言しやすく、落ち着いた言動でも注目されやすい環境をデザインすることができれば、乱暴な言動で注目を集める必要性や免罪符がなくなって建設的なコミュニケーションの場をつくることができるのではないかとの立場を表明しました。そして、そのための消極性デザインの一例として傘連判状を採り入れたチャットシステムを紹介しました。
▲『PLANETS vol.10』
傘連判状は、言いたいことがあるけど言えないでいる人たちにあと一歩の勇気と少しの発言力を与える消極性デザインで、学会や企業、オンラインサロン内のコミュニケーションなどには効果的なのではないかと考えています。しかし、より大規模な国家~地球レベルの人数を相手取るにはやや心もとないところがあります。
Twitterで何万いいね集めたとしても、Change.orgで何万もの賛同を集めたとしても、デモに何万人集まったとしても、それよりも桁違いに多いその他大勢を動かすには至らない少数派。そうして量産される消耗品のように流れていく主張の数々を眺めていても無力感に苛まれることなく真っ当に主張を続けよう、議論を続けようとするのはよほどのエネルギーの持ち主だけでしょう。正攻法を諦めてダークサイドに落ちてしまうのも無理はありません。前編でも触れましたが、大勢の人がいると他人任せになって手を抜いてしまうSocial loafingの壁はまさに圧倒的なのです。
ここから紹介するのは、この壁に挑むことを諦めたくなかった消極的な割にわがままな私のいまだ成功を見ない長年の試行錯誤の跡です。もっとこうしたらいいのに、私ならこうするなどとじっくり考えながら読んでいただけますと幸いです。
「二人組に分かれてください」をドライに
「他の誰かががんばってくれるからいいでしょ」という気持ちで消極的になってしまうSocial loafingの解決に向けて私が最初に考えたのは、学校の授業などでよくやる「二人組に分かれて話し合いましょう」のパターンです。教室全体ではこっそりと発言しないでいた消極的な人も、二人組に分かれても黙っていたとしたら逆に余計に目立ってしまうので話始めることになるアレです。みなさんも経験したことがあるのではないでしょうか。
二人組に分かれて話すというプロセスを組み込んだコミュニケーションシステムを作れば、クラスやサークルなどで文化祭の企画や旅行の行き先など様々な話し合いの場面においてあまり意見しなかったような人からも意見を出してもらうことができるでしょう。インターネット上で利用することで、もっともっと大きな集団でのコミュニケーションで何かを決めなければならない政治などの場面においても、social loafingの解決にもつながるのではないかと考えました。 授業などでの二人組に分かれてと言われた過去の経験を思い出してとても嫌な気分になった人もいるかもしれません。誰とペアになろうかと考えているうちに一人取り残されてしまうという悲劇は考えるだけで恐ろしいものです。あるいは、ペアになった人と話がかみ合わなくてがっかりするということもあるかもしれません。
しかし、そこはコンピュータを利用して極めてドライに処理してしまうことによってかなり軽減できるものだと思います。ペアはランダムに決めてしまえばいいですし、話がかみ合わなければ相手を変えられるようにしてしまえばいいわけです。せっかく相手に歩み寄ろうしているのに相手から「チェンジ!」されたらショックだろうとは思いますが、そこは工夫次第でもっとドライにできるところです。
話し合いをトーナメントでしよう
分かれて話し合った後にはその結果をなんとかまとめたいところですが、その段階でやっぱり消極性が発露して他人任せになってしまうのではあまり意味がありません。
私が注目したのはトーナメントという仕組みです。トーナメントでは二者が対決し、その勝者が勝ち上がるというのを繰り返して、優勝者を決めます。最後まで二人組で話すことになるので勝ち残った人はずっとサボれません。
すべての参加者と対戦したわけではなくても、トーナメントの優勝者がそのとき最強だったということに異論をはさむ人はまずいません。話し合いもトーナメントにしてしまえば、何も言わないでいたくせに決まってから後で文句を言ってくるようなことはなくなるというメリットもありそうです。国家~レベルのコミュニケーションが主に結論に納得するために行われているものだとすると、決着のわかりやすさはとても大切です。
そんなことを考えながら開発したトーナメント型議論システムがこれです。
▲トーナメント型議論システム
左側には対戦トーナメント表が表示され、右側にはテキストチャット画面が表示されます。真ん中にあるのはフォロワーと全参加者のリストです。リストには名前とステータスメッセージが表示されるようになっています。
話し合いの「勝ち」とは?
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『消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。』第7回 消極性デザインは悪い積極性にも効く(西田健志・消極性研究会 SIGSHY)
2018-11-08 16:50550pt
消極性研究会(SIGSHY)による連載『消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。』。今回は西田健志さんの寄稿です。西田さんが開発し、学会で好評を博した傘連判状システム。この仕組みは(悪い意味で)積極的な人の声ばかり目立つ昨今のウェブで、消極的な人たちの意見に力を与えるシステムになりうるのでしょうか。その可能性と課題について論じました。※本記事に一部、誤記があったため修正し再配信いたしました。著者・読者の皆様にご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます。【11月8日16:30訂正】
【お知らせ】 11月12日(月)にPLANETS CLUBの定例会で、消極性研究会から栗原一貴、簗瀨洋平、渡邊恵太の3名がゲスト講師として参加します(消極性研究会×宇野常寛 社会をなだめる #SHYHACK・PLANETS CLUB第9回定例会)。残念ながら私(西田健志)は参加がかないませんが、P10の座談会や本連載、そして消極性研究会の今後の活動について色々とご意見・ご感想いただけましたら幸いです。
消極性デザインは悪い積極性にも効く
本連載も無事1周しまして今回は西田健志が担当します。よろしくお願いします。
みなさん、PLANETS vol.10(以下、P10) はもう読まれましたか?今回はP10と併せてお読みいただくとより楽しめる内容にしたいと思いまして、私もいま8割くらい読んだところです。おもしろすぎて執筆が遅くなってしまいました。心よりお詫び申し上げます。(これを書き終わったら残りを読むんだ…)
P10には消極性研究会も「消極性デザインで平和を実現する―消極的な人よ、戦争を止めよ。いや、そもそも戦争しなければよい。」という座談会で登場させていただきました。宇野さんから「戦争と平和」というテーマをうかがったときには、これまで私たちが消極性デザインを試みてきたフィールドとの距離感を少なからず感じて期待と不安が半々くらいでした。でも終わってみると消極性研究会の持ち味が発揮された読み応えのあるものになったと感じています。ぜひご一読ください。
▲『PLANETS vol.10』
この座談会、2つの意味でいつもの消極性研究会と違いました。1つは、何も作らないでアウトプットしているところです。私たちも普段からSlackだとか飲みの席だとかで、ちょうどこの座談会のように大いにブレストを繰り広げていますが、それがそのまま世に出るということはまずありません。アイデアを実際に体験することができる何かしらのプロトタイプを制作したうえで世に問うというのが私たちの基本スタンスです。「消極的な人が暮らしやすいようにする」という目標設定で活動していくには言葉だけではインパクト不足だと考えてきたわけです。
しかし、今回の座談会で飛び交った突飛とも言えるアイデアの数々が思っていたよりも評判よく受け入れられているようで、今後の活動についても考えさせられるところがありました。司会や編集の腕前なのか、読者が訓練されているのか。それとも、実はいつものブレストにそれだけの価値があるのか…。
もう1つの違いは、「(悪い意味で)積極的な人を消極的にするには?」という枠で思考を広げる展開になったところです。普段、私たちの活動では消極的な人がメインターゲットで、積極的な人については「積極的な人にも消極的になるときがありますよね?」として、やはり消極性を念頭にデザインをしてきました。座談会でも序盤はどちらかというといつもの流れに乗っていたと思うのですが、後半にかけていつもと逆の流れになっていたように感じました。これまでにも栗原さんのSpeech Jammerのように積極的な人に対して用いるアイデア事例もありますが、それもあくまで「静かにしてほしい」と言えないでいる消極的な人の方を主語としているものでした。
しかし、流れは反転させながらも「人の性格を変えられなくても環境を変えることで行動は変えられる、ハックできる」という観点においてはいつも通りのやり口はキープされていたので、私たちにとってもちょうど次の一歩を示されたような、司会の確かな腕前を感じる時間でした。(誉めすぎ…?)
「遅いインターネット計画」
積極的な人こそどうにかしたいという発想になるのは、私たちよりも宇野さんは日ごろ積極的な人に目を向けることが多い(悩まされている?)からなのかなとも感じました。拙速なインターネット上のコミュニケーションから距離を置くことで良質な情報を提供することに注力しようというP10 の「遅いインターネット計画」にもそれが表れているように思います。そのつながりを感じたこともあり、遅いインターネット計画に関する議論についても大変な興味関心を持って読ませていただきました。
私がデザインしたコミュニケーションシステム、懇親会の座席を決めてくれるシステムを導入して利用してもらってきたのは学会や大学など、ある程度は人数が多いながらも外界からは閉じていて、たとえシステム上は匿名にしたとしても度を越した悪ふざけはしづらいし、積極的に問題行動を起こす人がいたとしても少数なのでその都度個別に対応すればまあ何とかなる、そういう世界でした。その視点から観測されやすいのは大多数の消極的な人たちと行動で、取り組まなければならないと感じるのも消極性デザインということになるわけです。
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宇野常寛 NewsX vol.4 ゲスト:栗原一貴・濱崎雅弘(消極性研究会)「消極的な人よ、声を上げよ。……いや、上げなくてよい」【毎週金曜配信】
2018-10-26 07:00550pt
宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネル・ひかりTVチャンネル+にて放送中)の書き起こしをお届けします。9月25日に放送された第4回のテーマは「消極的な人よ、声を上げよ。……いや、上げなくてよい」。栗原一貴さんと濱崎雅弘さんをゲストに迎えて、消極的な人々のコミュニケーションを手助けすることで、彼らの秘められたポテンシャルを引き出す「消極性研究会」の活動について掘り下げます。(構成:籔和馬)
NewsX vol.4「消極的な人よ、声を上げよ。……いや、上げなくてよい」2018年9月25日放送ゲスト:栗原一貴・濱崎雅弘(消極性研究会) アシスタント:加藤るみ(タレント) アーカイブ動画はこちら
宇野常寛の担当する「NewsX」火曜日は毎週22:00より、dTVチャンネル、ひかりTVチャンネル+で生放送中です。アーカイブ動画は、「PLANETSチャンネル」「PLANETS CLUB」でも視聴できます。ご入会方法についての詳細は、以下のページをご覧ください。 ・PLANETSチャンネル ・PLANETS CLUB
『消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。』の記事一覧はこちら
消極性研究会との出会い
加藤 NewsX火曜日、今日のゲストは消極性研究会から、栗原一貴さん、濱崎雅弘さんのお二人です。よろしくお願いします。
栗原&濱崎 よろしくお願いします。
加藤 お二人とも本業は研究者なんですよね?
栗原 はい。でも、消極性研究会も本業としてやっている活動で、ユニット名とかじゃないんです(笑)。
宇野 お二人の厳密なご専門はどんな感じなんですか?
栗原 専門は主に情報科学の分野で、コンピューターをどういうふうにデザインしたり、プログラミングしたりすれば、人にとって役に立ったり、面白い応用ができるのかを研究しています。
加藤 お二人が参加している消極性研究会を、これから深掘りしていきたいと思うんですが、宇野さんはどういう経緯でお知り合いになられたんですか?
宇野 僕の友人に簗瀬洋平さんというゲーム作家の人がいるんですよ。簗瀬さんは、僕が作っている雑誌の「PLANETS vol.9」に参加してもらっていて。それがご縁で仲良くなって、僕がクローズドでやっていた勉強会のメンバーになってもらったんですよ。その中で、「実は私、消極性研究会に参加しています」と簗瀬さんに言われて、なんじゃそりゃと思って、くわしく話を聞いたら、めちゃめちゃ面白くて。その頃に、消極性研究会の研究をまとめた本(『消極性デザイン宣言-消極的な人よ、声を上げよ。……いや、上げなくてよい。』が出たんですよ。その本を読んで、本当に面白いなと思い、消極性研究会のみなさんにうちのメールマガジンで連載をしてほしいとラブコールをずっと送っていたんですよ。そのときは、本が出たばかりで事例がまだ溜まっていないから、ちょっと待ってくださいと言われたんですけど。念願叶って、数ヶ月前から、消極性研究会には5人のメンバーがいるんですけど、ローテーションでうちのメールマガジン用に記事を書いてもらっているんですよね。その流れで、「PLANETS vol.10」にも出てもらって、今日も来ていただいたという感じです。
『消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。』過去の配信記事はこちら。
加藤 今日のテーマは「消極的な人よ、声を上げよ。……いや、上げなくてよい。」としました。
宇野 これは先ほど紹介した消極性研究会さんの著書のサブタイトルなんですけど、すごくいいキャッチだと思うんですよね。
栗原 相当悩んでつけましたからね。
宇野 今のコンピューターの力を使うとか、最新の認知科学とか、いろんなものの知見を合わせると、積極的じゃない人でも気持ちよく世の中を暮らすデザインはいっぱいできるんじゃないかという、すごいポジティブな発想に溢れていて、その精神が凝縮されたコピーだと僕は思っているんですよね。
コミュニケーションの現代的困難に向き合う「消極性研究」
加藤 それでは、今日も三つのキーワードでトークしていきたいと思います。まず一つ目が「消極性研究とはなにか」。
宇野 「消極性研究」という言葉は、世界でたぶんみなさんしか使っていない言葉だと思うんです。
栗原&濱崎 (笑)。
宇野 消極性研究とはなにか、ということをストレートにお伺いしたいと思います。
栗原 まず、消極性を、コミュニケーションに対する苦手意識と、あとやる気が出ない、モチベーションが上がらないという、二つの意味で名付けて使っています。昔はやる気があることが当然で、やる気がなければ鍛えるとか教育して直すという感じで、人付き合いがうまい人が世の中でのし上がっていくような、単一リアル社会至上主義みたいなものがあったと思うんですよ。ジャイアンみたいな人が勝つみたいな。 昔はそういう世の中だったけど、今は情報化社会になってきたから、個人が扱わなきゃいけない情報も増えたし、関わらなきゃいけないコミュニティやコミュニケーションがどんどん増えてきたと思うんですよ。だから、自分の時間やコミュニケーションに関わるリソースをちゃんと配分して生活しなければ、すぐに個人が破綻してしまうような世の中になったんじゃないかと思うんですよね。なので、積極的な人、消極的な人と二分して話していましたけど、「実は積極的だと思っていたあなたの中にも消極的な部分、ちょっとぐらいはありませんか?」と言うと、だいたいの人が「あっ」と言うふうに思ってくれると僕は信じていますけどね。
宇野 そもそも説教とか、ああしろという強制とかは、自分にウットリした人がやることだと思うんですよね。本当に世の中を変えようとしたら、仕組みを変えないといけない。説教で世の中を変えられるんだったら、説教がうまい人が死んじゃったら意味ないし、持続しないですよね。だから、最終的には仕組みを変えていかないと、絶対に世の中はうまくいかないと思うんですよ。ただ、今のコミュニケーションとか、人間関係とか、やる気とかは、最近までデザインしようという発想が希薄だったと思うんですよ。それが今、認知科学とか、情報工学とか、いろんな科学の発展によって、デザインできるんじゃないかという段階にきたんだと思うんですよね。だから、消極性研究が自然と生まれてきたんじゃないかなと思うんですね。
栗原 グラフを出していただきたいんですけど。
栗原 圧倒的にコミュニケーションが求められ続けていますけど、「コミュニケーションとは何か」と聞かれたときに、「うーん……?」とみなさんなっていませんかね。コミュ力ってどうするの? 何かを説得する力なの? それとも、共感を得る力なの? というのが、わけがわからないまま、特に学生とかが就活で苦労しているわけですよね。
宇野 このグラフ、絶望的に頭悪いですよね。
一同 (笑)。
宇野 全部同じことを言っていません? 要は、自分におべんちゃらを使ってくれて、なんでも言うことを聞くような使いやすい社畜予備軍の学生が欲しいよ、ということでしょ。
加藤 たしかにコミュ力を鍛えたらいいと言いますけど、どうやって鍛えるんだろうとか思ったりもします。
栗原 個人が関わるコミュニティが多様化してくると、このコミュニティではやる気はあるけど、こっちはそうでもないとか。あれだけ好きな友達だったけど、5分おきにLINEがくると鬱陶しいとか。そういうのはいくらでもあると思うので、個人がどんな対象に、なけなしの積極性を発揮できるかというのは予測不可能なものであると捉えて、世の中を計画したほうがうまくいくんじゃないかと思うんですよね。なので、先ほどおっしゃったように、それは叱咤激励ではなくて、浮き沈みが人間にはあるから、どんな状況になってもやっていけるような仕組みを自分の身の回りからデザインしていきましょうと。それは難しいコンピュータ・プログラミングやモノづくりだけじゃなくて、取り決めや約束事ぐらいでもいいんですけどね。そういうところから始めていきましょうと言っているのが、本の中でも言っている「SHY HACK」しましょうということなんですよね。
加藤 「SHY HACK」とは?
栗原 シャイを懲らしめてその人を改善するんじゃなくて、シャイに向き合って状況や環境を改善するためにはどうすればいいのかということを、ローカルなところから始めていこうというような取り組みを紹介しています。
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