• このエントリーをはてなブックマークに追加

記事 24件
  • 宇野常寛 NewsX vol.34 ゲスト:森直人 「映画にとってMCUとは何か」【毎週月曜配信】

    2019-06-17 07:00  
    550pt

    宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネルにて放送中)の書き起こしをお届けします。5月14日の放送のテーマは「映画にとってMCUとは何か」。映画評論家の森直人さんをゲストに迎え、ディズニーやサブスクリプションサービスといった巨大資本のもと、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)がどのように映画を変えていったのかについて議論します。(構成:籔和馬)
    NewsX vol.34 「映画にとってMCUとは何か」 2019年5月14日放送 ゲスト:森直人(映画評論家) アシスタント:後藤楽々
    宇野常寛の担当する「NewsX」火曜日は毎週22:00より、dTVチャンネルで生放送中です。 番組公式ページ dTVチャンネルで視聴するための詳細はこちら。 なお、弊社オンラインサロン「PLANETS CLUB」では、放送後1週間後にアーカイブ動画を会員限定でアップしています。
    アイアンマン=個人とキャプテン・アメリカ=国家の関係
    後藤 NewsX火曜日、今日のゲストは映画評論家、森直人さんです。宇野さんと森さんは長い付き合いなんですよね?
    宇野 もう10年以上の付き合いですよね。気がついたら、長いですね。
    森 それこそ10年ぐらい前にMCUが始まったときが最初の出会いだったような気がするんですよ。
    宇野 森さんは、僕が最も信頼する映画評論家の人のひとりなんだよ。
    森 いやいや、恐縮でございます。
    宇野 僕は個人的に森さんが書いたものの読者で、僕のほうから是非ともウチの媒体で書いてくださいと声をかけて、それからずっと付き合っています。
    森 でも、ちょいちょい良いタイミングで呼んでいただいて、それで毎回おもしろい話なので、今日も『アベンジャーズ/エンドゲーム』(『エンドゲーム』)とMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)いうテーマもさすが。これは宇野さんと話したかった。
    後藤 いつぶりなんですか?
    森 前は『ラ・ラ・ランド』と『ダンケルク』のふたつを(音楽ジャーナリストの)柴那典さんと話したときに、宇野さんも一緒だった。1年に1回ぐらいは会うんちゃう?
    宇野 なんだかんだで1年に1回ぐらいですね。
    森 だから、その年の一番注目すべきタイトルが出てくると会うよね。今年は早くも出ちゃったけどね。
    宇野 その度に森さんと話さなきゃという気になって、毎回いろいろと理由をつけて呼んでいます。
    後藤 今日のテーマは「映画にとってMCUとは何か」です。
    宇野 前半は歴代のMCUの歴代の22作品を振り返りながら、各作品について話して、後半はMCUというシリーズ自体が今の映画産業、エンターテイメント、映画という表現自体に対して、どういう影響を長期的にもたらすのかというところまでいけたらいいなと思っています。
    後藤 最初のキーワードは「いま、MCUを振り返る」です。
    宇野 『アイアンマン』から『エンドゲーム』に至る、トニーがアイアンマンになってから、トニーが死ぬまで22作を順に振り返りながら、森さんと話していけたらと思います。
    後藤 年表がこちらです。


    宇野 MCUが始まったのが2008年だから、もう11年前ですね。
    森 『アイアンマン』は2008年公開でしょ。ここにDCの作品を並べると、面白いんですよ。『ダークナイト』が同じ2008年公開なんですよ。この頃、マーベルとDCはいい勝負というか、DC勝っているんじゃないかぐらいの勢いがありましたよね。
    宇野 DCは『ダークナイト』がヒットして『アベンジャーズ』が公開されるまでは、興行収入的にも、映画の評価的にも勝っているんですよね。
    森 それがこの10年で逆転しちゃったのも、ひとつの歴史なんですよ。フェイズ1のあたりは、完全にオバマが調子いい時代なんですよ。オバマは2009年の初頭に大統領就任でしょ。だから、『アイアンマン』の1作目はすごく明るくて「イエス・ウィー・キャン」感がすごいんですよ。
    宇野 『アイアンマン』と『ダークナイト』の公開時期はほとんど離れていない。でも、『ダークナイト』はブッシュ時代の総括でテーマ的にも露骨に9.11以降のアメリカのさまよえる正義をどう引き受けるかという、すごく時代に沿ったテーマと寝て、世界的に大ヒットした映画なんですね。対して、『アイアンマン』はブッシュ時代があって、オバマに切り替わって、その古き良きアメリカの正義が完全に滅んだ後に、もう一回どのようにしてアメリカらしさを、もっと言えばアメリカ的な男性性を定義するのか、という部分が前面に出ていた。
    森 だから、この話を宇野さんとしたかった。MCUの最初は、そこからなんだよね。初期はDCの作品が暗くて、マーベルの作品は明るかった。ただ、だんだんオバマが怪しくなってくると、マーベルの作品も暗くなる。
    宇野 クリストファー・ノーランの『ダークナイト』三部作を仮想敵にしていたことは、もう間違いないですよね。元々DCとマーベルはレーベル的にもライバルだし、『アイアンマン』の冒頭もアフガニスタンのシーンから始まる。トニー・スタークというキャラクターに託された、イラク戦争以降のアメリカンマッチョイズムを信じられなくなった男性性の在り方が、『アイアンマン』のテーマ。『アイアンマン』は2や3を観ても、基本的にはトニーの自分探しの話なんですよ。
    森 完全にそうですよね。次のエポックでいうと、フェーズ2の『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(『ウィンター・ソルジャー』)かな。この映画の監督は、『エンドゲーム』のアンソニー&ジョー・ルッソ兄弟。MCUにおいて、ルッソ兄弟の監督作がひとつの大きな生命線になっている。最初が『ウィンター・ソルジャー』なんですよ。次が後半になっちゃうんですけども、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(『シビル・ウォー』)。次が『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(『インフィニティ・ウォー』)。そして、『エンドゲーム』。この4作はトランプ時代になっていく流れと、気持ちいいくらい連動しています。
    宇野 やはり『アイアンマン』と『キャプテン・アメリカ』というのは誰もが認める対の存在なんですよね。『アイアンマン』は、9.11以降の男性性のあり方、「私」のあり方、プライベートをテーマにやったんだよ。対して『キャプテン・アメリカ』はパブリックなんですよね。イラク戦争以降、9.11以降のアメリカの正義をどう再定義するか。特に2作目の『ウィンター・ソルジャー』、あと3作目の『シビル・ウォー』が、そのテーマを正面から引き受けていっている。
    森 僕は『ウィンター・ソルジャー』と『シビル・ウォー』を観たときに、DCみたいじゃんと思った。
    宇野 『ウィンター・ソルジャー』はエポックでしたよね。『ウィンター・ソルジャー』までのマーベルの映画はエンターテイメントの映画としてはよくできているけれど、クリストファー・ノーランのバットマンが到達している領域を考えると、もっといろんなものを詰め込めるだろうという不満が常にあった。それを『ウィンター・ソルジャー』でかなり追いついてきた。
    森 MCUの作品は批評として語るには、ややエンタメ度だけでいきすぎているところがあったんだけれど、『ウィンター・ソルジャー』からは変わったね。特に『シビル・ウォー』は『エンドゲーム』への流れを考えても重要作。
    宇野 『シビル・ウォー』は良いですよね。
    森 もしかしたら『シビル・ウォー』は『エンドゲーム』を別格にするとシリーズ最高傑作かもな。
    ■PLANETSチャンネルの月額会員になると…・入会月以降の記事を読むことができるようになります。・PLANETSチャンネルの生放送や動画アーカイブが視聴できます。
     
  • 【全文無料公開】倉田徹 香港民主化問題:経済都市の変貌史(PLANETSアーカイブス)

    2019-06-14 07:00  

    今朝のPLANETSアーカイブスは、香港政治に詳しい立教大学の倉田徹教授の寄稿を再配信します。香港立法会補欠選挙への出馬を、基本法違反を理由に無効とされた周庭さん。なぜ香港の若者が活発に民主運動を行うことになったのか、なぜ政府は民主派を弾圧するのかーー。現在の状況に至るまでに香港が辿った歴史について解説していただきました。 ※この記事は2018年3月1日に配信された記事の再配信です。
     香港と聞いて、日本人がイメージするものは何か。グルメ天国、買い物天国、目もくらむような看板のネオンサインの洪水、あるいは林立する高層ビル、アジアの金融センター、はたまたブルース・リーやジャッキー・チェンのカンフー映画……。観光や文化、経済についての様々なキーワードが浮かんできそうだが、その一方で香港の政治は、従来注目されることが非常に少なかった。「香港人は金儲けにしか興味がない」が、自他共に認める香港人に
  • 本日20:00から放送!宇野常寛の〈木曜解放区 〉 2019.6.13

    2019-06-13 07:30  
    本日20:00からは、宇野常寛の〈木曜解放区 〉

    20:00から、宇野常寛の〈木曜解放区 〉生放送です!〈木曜解放区〉は、評論家の宇野常寛が政治からサブカルチャーまで、既存のメディアでは物足りない、欲張りな視聴者のために思う存分語り尽くす番組です。今夜の放送もお見逃しなく!
    ★★今夜のラインナップ★★メールテーマ「雨の日の過ごし方」今週の1本「海獣の子供」アシナビコーナー「加藤るみの映画館の女神」and more…今夜の放送もお見逃しなく!
    ▼放送情報放送日時:本日6月13日(木)20:00〜21:30☆☆放送URLはこちら☆☆
    ▼出演者
    ナビゲーター:宇野常寛アシスタントナビ:加藤るみ(タレント)
    ▼ハッシュタグ
    Twitterのハッシュタグは「#木曜解放区」です。
    ▼おたより募集中!
    番組では、皆さんからのおたよりを募集しています。番組へのご意見・ご感想、宇野に聞いてみたいこと、お悩
  • 橘宏樹 GQーーGovernment Curation 第10回 公務員の兼業促進と官民リベラル・エリート・ネットワークの思惑

    2019-06-13 07:00  
    550pt

    現役官僚の橘宏樹さんが「官報」から政府の活動を読み取る連載、『GQーーGovernment Curation』。久しぶりの連載再開となる今回は、3月に通達された公務員の兼業・副業解禁について取り上げます。この動きの背景には、この20年の間に発達した官民の協働体制、民間の公益団体や社会事業家の献身的な活動がありました。

     こんにちは。橘宏樹です。国家公務員をしております。このGovernment Curation(略してGQ)は、霞が関で働く国民のひとりとして、国家経営上本当は重要なはずなのに、マスメディアやネットでは埋もれがちな情報を「官報」から選んで取り上げていくという連載です。どんな省益も特定利益にも与さず、また玄人っぽくニッチな話を取り上げるわけでもなく、主権者である僕たちの間で一緒に考えたいことやその理由を、ピンポイントで指摘するという姿勢で書いて参ります。より詳しい連載のポリシーについては、第一回にしたためさせていただきました。
    【新連載】橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第1回「官報」から世の中を考えてみよう/EBPMについて
     前回が2018年12月号でちょうど半年ほどお休みをいただいておりました。かなり忙しい部署に異動してしまったこともあり、体力と時間を確保するのがなかなか難しく、すみませんでした。元号も令和に改まりましたし、心機一転、頑張っていきたいと思いますので、またどうぞよろしくお願いいたします。
    ▲ 6月15日(土)僕が所属するNPO法人ZESDAは明治大学とともに海外ビジネスに関するセミナーシリーズを開講します。学生は無料。PLANETS CLUBの皆様は割引があります!(詳細はfacebookグループの掲示板ご参照のこと)好奇心だけで結構ですので、ぜひ聞きにいらしてください。
     さて、今回は、本年3月に内閣人事局が各省に通知した公務員の兼業・副業「解禁」について取り上げたいと思います。きっと皆様の中には、「これは公務員の働き方改革の話であって、一般社会、国民全体にとって直接は関係ない話だ」とお感じになる方もおられるかもしれません。しかし僕は、今回の公務員の兼業促進は、公務員個人や組織の生産性やライフワークバランスを改善する働き方改革の文脈よりもむしろ「小さな政府」を準備するための政策のひとつとしても捉えられるのではないかと思っています。 そしてその経緯や展開は、行政が担えなくなった公共領域を巡って、この約20年間、政府の表舞台・裏舞台で躍動してきた官民にまたがるリベラル・エリートたちの共闘ドラマの一幕として見てみても面白いのではないか、と思います。
    「解禁」というよりは、基準の明確化
     まず、公務員の兼業・副業について、何がどうなったか。多くの方がご存知と思いますが、国家公務員には国家公務員法第104条等が規定するとおり、兼業・副業への制限があります。
    国家公務員法第104条(他の事業又は事務の関与制限) 「職員が報酬を得て、営利企業以外の事業の団体の役員、顧問若しくは評議員の職を兼ね、その他いかなる事業に従事し、若しくは事務を行うにも、内閣総理大臣及びその職員の所轄庁の長の許可を要する。」
     素直に読むと、許可を得たなら兼業やってよさそうですよね。実際、昭和41年にもやってよい兼業の範囲に関する通知は出ていたのですが、相続した不動産の賃貸収入、原稿料、講演料といった、限られたケースの収入しか念頭に置かれていませんでした。それ以外の「報酬あり」かつ「定期的な労働」による兼業・副業は、どういう場合ならば許されるのか、これまで示されてきませんでした。
     それが今回、非営利団体において、週8時間、月30時間を超えない範囲で、報酬(交通費等実費のほかにもらう分)も社会通念上相当と認められる額であれば貰ってよい、などというように、やってよい範囲の基準が示されました。もちろん、社会通念上相当の額っていくらだよ?というツッコミはあると思いますけど、業務内容や景気やご時勢によって変るので、まずはこう言っとくしかないんじゃないかな、と思います。
    国家公務員のNPO兼業後押し 政府、許可基準を明確化 共同通信(2019年3月27日)
    国家公務員の兼業について(概要)内閣官房内閣人事局(2019年3月)
    内閣官房内閣人事局通知第225号 「職員の兼業の許可について」に定める許可基準に関する事項について(通知)(2019年3月28日付)
     いずれにせよ、NPO活動であれば「報酬」ももらってよい、という基準が示されたのは「職務専念義務=副業・兼業禁止=副収入一切ゼロ」が当然だと思われていた公務員業界において、非常に画期的だと思います。
    ■PLANETSチャンネルの月額会員になると…・入会月以降の記事を読むことができるようになります。・PLANETSチャンネルの生放送や動画アーカイブが視聴できます。
     
  • 【お得なペア割&学割はじめました!】6/19(水)開催☆ 石山アンジュ×門脇耕三×長谷川リョー×南章行×宇野常寛×得能絵理子「これからの『衣食住』の話をしよう シェア時代のライフスタイル」

    2019-06-12 19:00  

    6/19(水)渋谷ヒカリエにて開催のトークショー、「これからの『衣食住』の話をしよう シェア時代のライフスタイル」ですが、このたびお得な「ペア割」&「学割」チケットの取扱を開始しました!
    どちらも、お一人様あたり一般価格より500円、お得な値段でイベントに参加できます。 お友だちやご家族を誘ってご来場いただいたり、学生の方にも気軽にお越しいただけると嬉しいです。 この機会をお見逃しなく!
    ☆参加お申込みはこちらから☆
    ▼イベント概要 タイトル これからの「衣食住」の話をしよう シェア時代のライフスタイル(Hikarie +PLANETS 渋谷セカンドステージ vol.21)
    大量消費からシェアの時代へ、経済・社会をとりまく環境が移り変わる中、あたらしいホワイトカラー層・都市部の現役世代をめぐるライフスタイル・衣食住や働き方のかたちも大きく変化しています。様々な業界のトップランナーとともに
  • 成馬零一 テレビドラマクロニクル(1995→2010)宮藤官九郎(3)『三月の5日間』と『鈍獣』

    2019-06-12 07:00  
    550pt

    ドラマ評論家の成馬零一さんが、90年代から00年代のテレビドラマを論じる『テレビドラマクロニクル(1995→2010)』。松尾スズキの漫画的方法論と、平田オリザの現代口語演劇は、2000年代以降、劇団☆新感線やチェルフィッシュといった劇団によって拡大・発展を遂げます。その二極化を象徴するのが、2005年に岸田國士戯曲賞を同時受賞した、岡田利規『三月の5日間』と宮藤官九郎『鈍獣』でした。
    90年台代小劇場演劇で起こった松尾スズキによる漫画的方法論と平田オリザの現代口語演劇の二極化は、演劇における方法論はもちろんのこと、劇団運営の在り方においても真逆の方向に発展している。
     松尾スズキ率いる大人計画は、人気俳優を輩出し、宮藤官九郎がテレビドラマの脚本家としてブレイクすると共に人気劇団となり、次第に大所帯となっていく。小劇場からスタートした劇団が、公演ごとに大きな劇場で公演し、動員人数を拡大しながら人気を博していく様は“小劇場すごろく”と呼ばれ、演劇における成功の一例として語られている。 80年代の、夢の遊眠社と第三舞台からはじまった傾向だが、新劇のカウンターとしてはじまったアンダーグラウンドな小劇場演劇がテレビ局や大企業と提携することで、ドームコンサートをおこなうミュージシャンのような人気を獲得するに至ったのだ。
     そのような時代の変化に乗って、大人計画以上の拡大路線を図ったのが、いのうえひでのりが主宰する劇団☆新感線だろう。古田新太が所属していることで知られる新感線は、いのうえを中心とする大阪芸術大学舞台芸術学科の学生を中心に旗揚げした劇団だ。 『髑髏城の七人』、『阿修羅城の瞳』、宮藤官九郎が脚本を担当した『メタルマクベス』などで知られる彼らの作風は一言で言うと痛快エンターテインメント。 おどろおどろしい時代劇の世界観にアクション、ミュージカル、笑いを散りばめ、ハードロックやヘビィメタルを劇中音楽として使用し、派手な照明を駆使した演出はミュージシャンのコンサートのよう。和のテイストを強く打ち出した豪華でケレン味のある演出は“いのうえ歌舞伎”と言われている。 座付作家の中島かずきは、アニメ『天元突破グレンラガン』『キルラキル』『プロメア』といった今石洋之監督作品の脚本でも知られている。大人計画とは違う意味で漫画やアニメの想像力を演劇に持ち込んだ劇団で、00年には高橋留美子の漫画『犬夜叉』(小学館)を舞台化している。
     劇団☆新感線のプロデュースを担当する株式会社ヴィレッヂ会長の細川展裕は自著『演劇プロデューサーという仕事「第三舞台」「劇団☆新幹線」はなぜヒットしたのか』(小学館)の中で、『犬夜叉』について「今から思えば「元祖2・5次元演劇」だったということです!」と、振り返っている。これはあながち間違ってはいないのではないかと思う。  2.5次元ミュージカルと、大人計画や劇団☆新感線といった小劇場演劇は別枠で語られてしまことがほとんどだ。しかし、漫画やアニメの想像力を舞台に移植する方法論においては、もっと比較検証されてもいいのではないかと思う。
    平田オリザの後継者たち
     一方、平田オリザの現代口語演劇は、後続の作家たちに大きな影響を与えた。
    2013年に刊行された『演劇最強論 反復とパッチワークの漂流者たち』著・徳永京子、藤原ちから(飛鳥新書)は、2010年代の小劇場シーンについてまとめられたものだ。  本作では、三浦直之(ロロ)、藤田貴大(マームとジプシー)、柴幸男(ままごと)、といった70~80年代生まれの劇作家について大きく扱われているが、彼らのルーツとして、チェルフィッシュの岡田利規の存在が挙げられている。
    ■PLANETSチャンネルの月額会員になると…・入会月以降の記事を読むことができるようになります。・PLANETSチャンネルの生放送や動画アーカイブが視聴できます。
     
  • 碇本学 ユートピアの終焉ーあだち充と戦後日本の青春 第6回 あだち充と少女漫画の時代(後編)

    2019-06-11 07:00  
    550pt

    ライターの碇本学さんが、あだち充を通じて戦後日本の〈成熟〉の問題を掘り下げる連載「ユートピアの終焉――あだち充と戦後日本の青春」。第6回では「花の24年組」以降を追いかけます。萩尾望都らのSFが少女漫画で隆盛する一方、少年漫画のSFは衰退。『仮面ライダー』と永井豪にその可能性が継承されます。そして、コミックマーケットの開始、耽美系雑誌JUNの創刊など、現在に繋がるオタク文化の土台が着々と準備されていきます。
    SFの衰退と特撮の隆盛
     萩尾望都、大島弓子、竹宮惠子という「HOT時代」あるいは「別コミマニア御三家」と呼ばれるスター少女漫画家と、彼女らを含む「花の24年組」が時代を変えていくのと同時に、70年代は少女漫画の読者層にも大きな変化が起きていた。彼女たちによって拡大された少女漫画の世界は男性の読者も増やすことになった。これは彼女たちが描く作品が、歴史ものだったりハードSFだったりすることも、要因のひとつになったかもしれない。  米澤嘉博著『戦後SFマンガ史』によれば、70年代に入って少年サンデー、少年マガジンから長篇SFマンガが消えたのは、少年SFマンガに好意的だった週刊ぼくらマガジンが休刊したためだという。以降は少女漫画で描かれるSFに多くの男性読者が惹かれていくことになるが、少年漫画は最後に二つの道(可能性)を残したと語っている。
     そのひとつが、現在まで特撮番組として続く石ノ森章太郎『仮面ライダー』だ。漫画で発表されてすぐにテレビで特撮番組として大ヒットし、「変身ヒーローもの」のブームを作り、後の低年齢層向けの特撮作品のパターンを生み出すことになった。ある意味ではこの作品が、少年SF漫画の最終段階だったと語っている。  宇野常寛著『リトルピープルの時代』の第二章「ヒーローと公共性」に書かれていることもここに結びつくだろう。この章では「ビッグ・ブラザー/リトル・ピープル」とは「ウルトラマン/仮面ライダー」であり、それぞれ「60年代/70年代」に社会現象化することで、国内のポップカルチャー全般に決定的な影響を与え、前者は「政治の季節」、後者はその終わりに誕生していたことに言及している。 「政治の季節」の終わりが明確になっていた1971年4月2日、『ウルトラマン』『ウルトラセブン』に続く待望のシリーズ最新作『帰ってきたウルトラマン』の放映が始まり、その翌日に放映がスタートしたのが『仮面ライダー』だった。  仮面ライダーの主人公である本郷猛は改造人間であり、彼を改造したショッカーは世界征服を企む悪の秘密結社である。仮面ライダーは人々の自由のために悪の力を用いてショッカーと戦うヒーローだった。一方、ウルトラマンにおける巨大ヒーロー、宇宙人や巨大怪獣は事実上、「軍隊」の比喩として機能していた。これらは脚本家や製作者たちが戦争の体験者だったことも多く関係していた。
     当初、週刊ぼくらマガジンで石ノ森章太郎が連載していた漫画版『仮面ライダー』は、バッタの改造人間である仮面ライダーが象徴する「正しい自然」と、ショッカーの「誤った科学」の対立といった文明批評的なモチーフが前面に押し出されていた。テレビ版の第1クールでは、異形の存在に改造された本郷猛の孤独な生をめぐる葛藤が物語を牽引していたが、本郷猛を演じていた藤岡弘のオートバイ事故による一時降板を機会に、石ノ森章太郎の原作を引き継いだシリアス路線を早々に放棄し、新主人公である一文字隼人(仮面ライダー2号)を迎えた第二クールは、勧善懲悪の娯楽活劇が全面展開された。また、『ウルトラマン』は戦意高揚映画をルーツに持っていたが、『仮面ライダー』は時代劇、浅草東映のチャンバラ映画をルーツに持つという、宿命的に非政治的な存在であった。  突然起きた主役の降板劇を発端にした、シリアス路線から子どもにもわかりやすい勧善懲悪への転換が、現在まで続く長寿番組であり、変身ヒーローものを牽引する特撮の代表作が生まれたきっかけだと考えると、歴史というものはやはりおもしろく、不思議な運命を感じずにはいられない。
    ▲石ノ森章太郎『仮面ライダー』
     もう一つの可能性は、永井豪による「『ガクエン退屈男』で物語のダイナミズムを主人公の早乙女門戸の闘争エネルギーをにおわせた『魔王ダンテ』だ」と米澤は書いている。補足すると石ノ森章太郎『仮面ライダー』も永井豪の2作品も、週刊少年マガジンの弟分として刊行されていた週刊ぼくらマガジンで掲載されていた。当時の週刊少年マガジンは大学生に読まれるほど高年齢化が進んでいたために、週刊ぼくらマガジンは低年齢層向けの雑誌として発行されていた。  週刊ぼくらマガジンでは、梶原一騎『タイガーマスク』、さいとう・たかを『バロム・1』、吉田竜夫『ハクション大魔王』、赤塚不二夫『天才バカボン』、藤子不二雄『モジャ公』、ちばてつや『餓鬼』などが連載されていたが、創刊された1969年から一年半で『週刊少年マガジン』に統合される形で廃刊となった。  永井豪が描いた『ガクエン退屈男』『魔王ダンテ』は、後の『デビルマン』に繋がっていくが、それは神と悪魔の立場を逆転させた暴力や殺戮を描くことになり、少年SF漫画とは多く違う方向性を持っていた。  この頃の男性SFファンが漫画に求めていたSFは、もはや少女漫画の中にしか残されていなかった、引き継がれていなかったという見方ができるかもしれない。
    ▲永井豪『ガクエン退屈男』『魔王ダンテ』
    コミケと「やおい」のはじまり
    ■PLANETSチャンネルの月額会員になると…・入会月以降の記事を読むことができるようになります。・PLANETSチャンネルの生放送や動画アーカイブが視聴できます。
     
  • 宇野常寛 NewsX vol.33 ゲスト:竹下隆一郎「メディアと平成」【毎週月曜配信】

    2019-06-10 07:00  
    550pt

    宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネルにて放送中)の書き起こしをお届けします。4月30日に放送されたvol.33のテーマは「メディアと平成」。ハフポスト日本版編集長の竹下隆一郎さんをゲストに迎えて、平成の30年間の出来事を振り返りながら、現在のメディア状況はいかにして生まれたのか。インターネットは日本をどう変えていったのかについて考えます。(構成:籔和馬)
    NewsX vol.33 「メディアと平成」 2019年4月30日放送 ゲスト:竹下隆一郎(ハフポスト日本版編集長) アシスタント:加藤るみ
    宇野常寛の担当する「NewsX」火曜日は毎週22:00より、dTVチャンネルで生放送中です。 番組公式ページ dTVチャンネルで視聴するための詳細はこちら。 なお、弊社オンラインサロン「PLANETS CLUB」では、放送後1週間後にアーカイブ動画を会員限定でアップしています。
    平成30年間のメディア史を三分割して振り返る
    加藤 NewsX火曜日、今日のゲストはハフポスト日本版編集長、竹下隆一郎さんです。
    宇野 平成最後の夜は、竹下さんとしっぽりとメディアについて語って終わろうかと思って、今日お呼びしました。
    加藤 今日のテーマは『メディアと平成』です。
    宇野 今ありとあらゆるところで、平成の30年を総括する企画が行われていると思うんだけれど、せっかく竹下さんがゲストなので、今日はメディア史の観点から平成の30年を総括してみたいと思っています。
    加藤 最初の議論のテーマは「平成のメディア史」です。
    宇野 前半は平成のメディア史を二人で振り返りながら議論して、後半にこれから僕らがどう攻めていくのかも含めて、総括していけたらなと思っています。竹下さん的に平成30年のメディアはどういうものだったんですか?
    竹下 SNSが出てきたのが、めちゃくちゃ大きいですよね。もちろんWindows95や98が出てきて、個人が発信できる時代だとか、マスメディアが意味なくなると言われていたんですけど、やっぱりリアリティを持って実感できたのは、2000年代半ばぐらいからFacebookやTwitterが出てきて、誰もが気軽に発信できるようになって、マスメディアの力が弱くなって、個人の力が強くなったというのは、めちゃくちゃ大きかったなと思いますよね。
    宇野 僕は「序破急」だと思っているんですよ。平成の30年は、ちょうど10年ずつ区切ることができて、最初の10年はとにかくマスメディアの力がマキシマムになった10年なんですよね。業界では有名な話ですけど、テレビも広告も出版も、全部1997〜1998年ぐらいが売り上げ的にはピークなんですね。なので、平成の最初の10年間は、20世紀の発明であるマスメディアが日本の人口1億2000万人を、ほぼ全体主義といっていいくらいひとつにした。 当時は学校で「昨日、何観た?」と聞かれたら、それは絶対に民放のドラマやバラエティ番組で何を観たかということだった。それに国民の大多数がJポップを聴いていたんだよ。Jポップという言葉をつくったJ-Waveができたのが、ちょうど平成のはじまった頃で、ドリカムやB’zや小室ファミリーなどの曲をみんなが聴いていた。 それが平成の中盤の10年でインターネットが生まれて、メディア状況がガラッと変わった。平成10年代は、人々がインターネットという新しい力に戸惑いながらも、希望を持っていた10年だと思う。 そして、平成の最後の10年は、インターネットという新しいメディアに逆に振り回されて、人々が迷走を始めた10年じゃないかなと僕はなんとなく思っているんですよね。
    ■PLANETSチャンネルの月額会員になると…・入会月以降の記事を読むことができるようになります。・PLANETSチャンネルの生放送や動画アーカイブが視聴できます。
     
  • 働く女性が〈子どもを産む自由〉を得られる日は来るのか?――社会学者・水無田気流インタビュー(PLANETSアーカイブス)

    2019-06-07 07:00  
    550pt

    今回のPLANETSアーカイブスは、「PLANETS vol.8」に掲載され好評を博した社会学者・水無田気流さんへのインタビュー「『産める自由』を獲得するために」を掲載します。これからの若者の〈働き方〉と〈結婚・家族〉の問題を考えるヒントになるかも――?(インタビュー:宇野常寛、構成:中野 慧) ※本記事は2014年3月28日に配信された記事の再配信です。
    ▲『PLANETS vol.8』
     水無田気流(本名:田中理恵子)は二つの顔を持つ。気鋭の現代詩人としてのそれと、女性問題や少子化、世代間格差などについて精力的に発言する社会学者としてのそれだ。そして僕がこれまで付き合ってきたのはおもに詩人としての彼女だ。僕らは東京工業大学と朝日カルチャーセンターのコラボレーション企画としての連続講義「Jポップと現代社会」を一緒に担当し、SMAPについて、ドリカムについて、ミスチルについて、あるいは浜崎あゆみについてひたすら語り合った。
     僕にとっての彼女、つまり詩人・水無田気流は乾いた言葉を好んで用いる、少し感傷的な詩人だった。そして言葉に対して驚くほど敏感な批評者だった。そんな彼女のもうひとつの側面、つまり社会学者・田中理恵子と付き合うようになったのは、そのしばらくあとの話だ。トークイベントやテレビの討論番組で顔を合わせる彼女は、「〜しなければならない」という義務感に全身を震わせながら発言しているように見えた。僕はその怒れる彼女の姿と、そして彼女の書く詩の言葉の裏側には同じものが渦巻いているのだと思った。それは何かを決定的に失ってしまったということへの「怒り」なのだと思う。それが静かな喪失感として表現されているのが詩人・水無田気流の仕事であり、少しでも間口を広げようという粘り強い局地戦への意志になって表われているのが社会学者・田中理恵子の仕事なのだ、と思った。
     彼女にはひとり男の子がいる。好奇心が旺盛で、甘えん坊な子だ。仕事の打ち合わせや対談収録に水無田さんはよく彼を連れてきていて、そしてよく退屈しては駄々をこねて彼女を困らせていた。そんなとき、僕は仮面ライダーやアンパンマンの似顔絵を手元のメモ用紙に描いて彼に見せたりしたものだった。水無田さんはそのたびに「ごめんなさい」と本当に申し訳なさそうに言った。僕は謝る必要なんてまったくないじゃないですかと毎回口にしながらいつか社会学者・田中理恵子とがっつり仕事をしたいな、と思っていた。
     僕と彼女が共有しているものは確実にある。でもそれがなくしたものの数を数えることではなくて、一緒に何かを積み上げていくものにつながればいい。そんなことを考えながら、僕は話していた。(宇野常寛)
     
     
    ■〈上野千鶴子的なもの〉の射程
     
    ――水無田さんは、2009年に出した『無頼化する女たち』(以下『無頼化』)を上野千鶴子さんに献本して感想をもらったんですよね。
    水無田 そうですね。お手紙でお褒めの言葉をいただいた一方で、上野さんの『おひとりさまの老後』について私が書いた部分に関して、「高齢者って格差も大きいし、とくに低年金・無年金高齢者は大変なのよ。あなたたちの世代にはわからないでしょうけど」というニュアンスのことを暗におっしゃっていました。上野さんたち団塊世代は、戦後の日本社会で家族が負担にならなくなった最初の世代です。それまでは、都市部に働きに出た子どもは、「実家への仕送り」義務を負っている人も珍しくなかった。それが、年金制度の確立などにより、必ずしも家族の相互扶助だけでやっていかなくても済むようになりました。もちろん、背景には高度成長により日本社会全体が豊かになったことがあげられます。
     ところが、私たち世代はちょうど社会に出るときに日本社会が低成長時代に突入し、先頭を切って就職氷河期を経験しただけではなく、「家族が負債化する」という問題に最初にぶち当たっている世代です。特に子育て世帯は扶養控除が廃止されたりと、すでに実質的に重税化していて負担が大きいですよね。もちろん、世代会計の問題も大きく、社会保障費の負担は重い。そのうえ、老親の介護の声も聞こえてきている。今後は非正規雇用者や未婚で、企業福祉や家族のケアの恩恵に与れないまま、親世代の介護をせねばならなくなる人も増加するでしょう。なので、「そんなこと私たちは(恐れながら)わかってらぁ!」というお返事を出してしまいました。
    ■PLANETSチャンネルの月額会員になると…・入会月以降の記事を読むことができるようになります。・PLANETSチャンネルの生放送や動画アーカイブが視聴できます。
     
  • 本日20:00から放送!宇野常寛の〈木曜解放区 〉 2019.6.6

    2019-06-06 07:30  
    本日20:00からは、宇野常寛の〈木曜解放区 〉

    20:00から、宇野常寛の〈木曜解放区 〉生放送です!〈木曜解放区〉は、評論家の宇野常寛が政治からサブカルチャーまで、既存のメディアでは物足りない、欲張りな視聴者のために思う存分語り尽くす番組です。今夜の放送もお見逃しなく!
    ★★今夜のラインナップ★★メールテーマ「イケメンの思い出」今週の1本「プロメア」アシナビコーナー「井本光俊、世界を語る」and more…今夜の放送もお見逃しなく!
    ▼放送情報放送日時:本日6月6日(木)20:00〜21:30☆☆放送URLはこちら☆☆
    ▼出演者
    ナビゲーター:宇野常寛アシスタントナビ:井本光俊(編集者)
    ▼ハッシュタグ
    Twitterのハッシュタグは「#木曜解放区」です。
    ▼おたより募集中!
    番組では、皆さんからのおたよりを募集しています。番組へのご意見・ご感想、宇野に聞いてみたいこと、お悩み相談、