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記事 41件
  • 宇野常寛 NewsX vol.30 ゲスト: 佐渡島庸平「これからのクリエイターの育て方」【毎週月曜配信】

    2019-05-20 07:00  
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    宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネルにて放送中)の書き起こしをお届けします。4月9日に放送されたvol.30のテーマは「これからのクリエイターの育て方」。株式会社コルクの佐渡島庸平さんをゲストに迎えて、「自分の物語」が中心になった時代にコンテンツは何ができるのか。マスメディアではなくコミュニティと繋がって生きる新しいクリエイターのあり方について考えます。(構成:佐藤雄)
    NewsX vol.30 「これからのクリエイターの育て方」 2019年4月9日放送 ゲスト:佐渡島庸平(株式会社コルク) アシスタント:加藤るみ
    宇野常寛の担当する「NewsX」火曜日は毎週22:00より、dTVチャンネルで生放送中です。 番組公式ページ dTVチャンネルで視聴するための詳細はこちら。 なお、弊社オンラインサロン「PLANETS CLUB」では、放送後1週間後にアーカイブ動画を会員限定でアップしています。
    日本のマンガはもう売れない! 今必要な「エンタメのIT化」とは?
    加藤 NewsX火曜日、今日のゲストは株式会社コルク代表の佐渡島庸平さんです。佐渡島さんと宇野さんはどこでお知り合いになったんですか?
    佐渡島 私が独立してから会いました。宇野さんのイベントによく呼んでもらっています。
    宇野 PLANETSを見てくれている人には常連になっていますね。
    加藤 佐渡島さんのコルクという会社を簡単に説明いただけますでしょうか。
    佐渡島 もともと僕は講談社で編集者をやってたんです。アメリカだとクリエイターはエージェント会社と契約していることが多くて、エージェントはクリエイター側に立ってどういう戦略を練れば良いか考える仕組みがあるんですが、日本ではまだ数少ないのです。作家は全部自分で出版社と交渉しなきゃいけないんですよね。だから日本では実質的に作家は出版社と交渉ができない存在だったんです。そこを世界基準に合わせたほうが良いなって思って、クリエイターのエージェント会社を作った感じですね。
    加藤 今日のテーマはこちら「これからのクリエイターの育て方」です。
    宇野 僕はコルクがやっていることは大きく分けて2つあると思う。自分も書き手だからよくわかるんだけど、日本は圧倒的に作家の立場が弱い国。そこに作家のエージェントという文化を入れることで作家の権利をしっかり保護するシステムを日本に根付かせるのが最初のミッション。もうひとつが、インターネットの登場によって根本的に世界中の文化産業の仕組みが揺らいでいる。従来の出版ビジネスや放送ビジネスが成り立たない時代にどう作家と作品を守っていくのか。そのための新しい仕組みづくりが必要で、そこに挑戦している。それが第二のミッション。外から見ると今は第二のミッションの比重のほうが大きくなっていると思う。
    佐渡島 たとえばテレビ業界で働いていて、ニュース番組を作っている人がいるとします。田舎に戻って、親戚のおばちゃんに「テレビ業界で働いてるならドラマ作れるでしょ。ちょっと家族ドラマ撮って」みたいなことを言われる。同じテレビでもニュースとドラマは違うし、同じドラマでもテレビドラマと映画では脚本のルールや映像の撮り方が違う。ほんの少しメディアが変わるだけで文法が全然変わるんです。マンガ文化も貸本が雑誌連載になったことで、マンガの描き方はすごく変わっていってた。さらに、今まで紙の本で楽しんでいたものがスマホで読むものに変わってきた。メディアが変わると絶対に中のコンテンツの在り方も変わるはずなんですよ。 中国ではそれがすごくうまく変わりだしています。5〜6年前の中国では日本の海賊版マンガを無料で読めるマンガアプリが500万ダウンロード近くあったんですよ。日本人の感覚だと、それだけ読まれていたら日本のマンガが輸出できないって考えるんですけど、中国の人口で考えると500万ダウンロードは少なすぎて投資に値しないんです。中国人マンガ家のチェン・アンニーという人が自分で「快看漫画(クァイカンマンホア)」というマンガアプリ作っているんですけど、それが今どれくらいダウンロードされているか知っていますか?
    宇野 500万よりは多いってことですよね。2000万とか?
    佐渡島 1億4000万ダウンロードになります。MUU(マンスリーユニークユーザー)は4000万人いて、掲載されている漫画は全部縦スクロールなんですよ。4〜5年前に中国の会社との交渉に日本のマンガを持っていくと一応は買ってくれたんです。それが今、クァイカンと交渉すると「日本のマンガは誰も読まないので要らないです」って言われるんです。縦スクロールじゃないと誰も読まない。クァイカンは今1000人のマンガ家を抱えています。中国人は今は平均所得が上がってきてるので、むちゃくちゃ課金するんですよ。好きなマンガのためなら、日本人よりも所得の低い人が、それなりの価格帯でも全然課金する。中国人が無料じゃないと読まないなんてことは全然ないんです。 それに合わせて、日本のマンガも作り方や内容が変わっていかなきゃいけないんですが、日本の出版社のシステムがあまりにもうまくいきすぎていた。もちろん書店や出版社が潰れるようなことはもう起きてますけど、2000年からの約20年間、ほぼ右肩下がりの業界なのに大手出版社でまともなリストラがまだ起きてないのは、それだけ余裕のあった仕組みなんだと思います。非常に優れた仕組みの上で、まだマンガが売れていて、電子書籍市場もマンガに牽引されてどんどん大きくなっているという状況です。さらに日本ではほとんどの出版社が上場していないので、イノベーションのジレンマが起きまくっています。今ジャンプとマガジンがコラボをやってますけど、それは「マンガのIT化」が起きているだけで、僕らのところで起きなきゃいけないのは「エンタメのIT化」なんです。人材がまったく流出してないので、エンタメのIT化に挑戦しているクリエイティブを支える周辺人材がまったくいないんです。新しいクリエイターと一緒にそれを作っていくというのが、今僕がやってることです。
    加藤 本日のテーマにいきたいと思います。「クリエイターエージェント業について」。既にお話いただいてますが、もう少しお話いただければと思います。
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  • 宇野常寛 NewsX vol.29 ゲスト:隅屋輝佳 「市民が法律を〈つくる〉方法」【毎週月曜配信】

    2019-05-13 07:00  
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    宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネルにて放送中)の書き起こしをお届けします。4月2日に放送されたvol.29のテーマは「市民が法律を〈つくる〉方法」。Pnika(プニカ)代表理事の隅屋輝佳さんをゲストに迎え、民間のニーズに応える法律の改正を可能にするには、どのような仕組みが求められるのか。インターネットを活用した海外の事例の紹介を交えながら、あるべき法律と社会の関係について考えていきます。(構成:籔 和馬)
    NewsX vol.29 「市民が法律を〈つくる〉方法」 2019年4月2日放送 ゲスト:隅屋輝佳(Pnika代表理事) アシスタント:得能絵里子
    宇野常寛の担当する「NewsX」火曜日は毎週22:00より、dTVチャンネルで生放送中です。 番組公式ページ dTVチャンネルで視聴するための詳細はこちら。 なお、弊社オンラインサロン「PLANETS CLUB」では、放送後1週間後にアーカイブ動画を会員限定でアップしています。
    現在の市民生活の障壁となる法律の問題
    得能 NewsX火曜日、今日のゲストは一般社団法人Pnika代表理事の隅屋輝佳です。宇野さんと隅屋さんはどのようにしてお知り合いになったんですか?
    宇野 Yahoo! JAPANの安宅和人さんという有名なデータサイエンティストがいるんだけれど、彼が主催している勉強会で一緒で、そこで知り合ったという感じ。
    得能 隅屋さんはどういう活動をしていらっしゃるんでしょうか?
    隅屋 社会のルールである法律を限られた人だけではなくて、いろんな立場の人、マルチセクターで一緒に考えて一緒につくることを可能にする新しい仕組みをつくりたいと思って活動している団体が、一般社団法人Pnikaです。
    得能 今日のテーマは「市民が法律を〈つくる〉方法」です。
    宇野 法律は立法府でつくられるし、もう少しレベルが低い政令や省令などは行政が定めるんだけど、僕ら市民がそれに直接コミットすることは難しいイメージがあると思うんですよ。でも隅屋さんたちは、今のインターネットや情報テクノロジーを使って、それを可能にしていく、市民と法律との距離を近づける活動をしようとしている。選挙で立法府に自分たちの代弁者を送り込んで世の中を変える。あるいは市民運動やデモなどで時の政権に圧力を加える。または、ある種のコネ政治的なロビイングなど、いろんな政治参加の方法はあるんだけれど、今までにない新しい方法をテクノロジーを背景につくろうとしている運動だと思うんですよ。
    得能 最初のキーワードは「法律の『壁』 法律の『ハードル』」です。
    宇野 今の日本に限らず、法律は常にアップデートされないといけないんだけれど、現行の民主主義の制度では変えるのに時間がかかったりする。法律が僕らの市民生活やビジネスの現場のイノベーションの邪魔をしているケースもあるんだよね。法律の内容もそうなんだけど、法律のあり方に問題がある。法律と市民との距離が、僕らの市民生活やビジネスを難しくしている側面があるはずなんですよ。そういうところに注目して、隅屋さんたちのPnikaは活動しているので、そこの問題整理から始めてみたいと思っています。
    隅屋 イノベーションがこんなに必要とされる時代もないし、いろんな新しい文化やIoTのような、今までの業種の枠組みにとらわれない新しいプラットフォームビジネスがたくさん起こってきていると思うんです。でも、それを前提としていない法律が邪魔してしまっている。そういう事例がたくさん起こってしまっています。だから、法律の内容やプロセスを変えていく必要があると思って活動しています。実際にどういうところの法律が、自分たちの市民生活と乖離しているんだろうというところを、具体例としてお見せしたほうがいいと思うので、いくつかの例を持ってきました。
    Fight for the Japanese Tatto culture
    隅屋 たとえば、あまり私も馴染みがないんですけど、一部アートとして海外では認められているタトゥー、それに対して、クラウドファンディング等で裁判費用を集めるのが話題になっています。タトゥーの彫り師が全員医師か。○か×かという、そういうようなことで。

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  • 宇野常寛 NewsX vol.28 ゲスト:久保田大海「仮想通貨の現在と未来」【毎週月曜配信】

    2019-04-22 07:00  
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    宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネルにて放送中)の書き起こしをお届けします。3月26日に放送されたvol.28のテーマは「仮想通貨の現在と未来」。CoinDesk Japan編集長の久保田大海さんをゲストに迎え、投機対象としてのブームが過ぎ去ったかに見える仮想通貨に、今、どのような動きがあるのか。トークンエコノミーによる活用の可能性や、ブロックチェーン技術が象徴する時代的潮流について議論しました。(構成:佐藤雄)
    NewsX vol.28 「仮想通貨の現在と未来」 2019年3月26日放送 ゲスト:久保田大海(CoinDesk Japan編集長) アシスタント:加藤るみ
    宇野常寛の担当する「NewsX」火曜日は毎週22:00より、dTVチャンネルで生放送中です。 番組公式ページ dTVチャンネルで視聴するための詳細はこちら。 なお、弊社オンラインサロン「PLANETS CLUB」では、放送後1週間後にアーカイブ動画を会員限定でアップしています。
    1ビットコイン225万円のピーク、90億流出事件……「激動の3年間」を経た仮想通貨のこれから
    加藤 NewsX火曜日、今日のゲストは編集者でCoinDesk Japan編集長の久保田大海さんです。よろしくお願いいたします。久保田さんと宇野さんはどういったきっかけでお知り合いになられたんですか?
    久保田 僕は以前出版社に勤めていました。初めて作った『ゲーミフィケーション』という本がありまして、著者がゲーム研究者の井上明人という方なんですね。あとから知ったんですが、井上さんがPLANETSに原稿を書いていたんです。
    宇野 井上明人くんはPLANETSによく書いてくれている僕の仕事仲間で、彼の最初の本を作ったのが、この久保田さん。そういったつながりなんですよ。
    加藤 そして「CoinDesk Japan」というのは?
    久保田 仮想通貨とブロックチェーン、このふたつの領域を扱うメディアです。名前に「Japan」と付いていているんですが、アメリカが本国のサイトになります。アメリカでは数百万人の読者をもつ大きなサイトで、また毎年ニューヨーク市と組んで「Blockchain Week」っていうイベントをやっています。その中でもCoindeskが主催する「Consensus」というカンファレンスが世界で一番集客する仮想通貨関連のイベントになっています。日本版はちょうど2019年3月創刊したばかりのサイトになるんですけど、創刊特集で日本でブロックチェーンや仮想通貨に縁のある方々、慶応大学の坂井豊貴先生、家入一真さん、このあいだ『ニムロッド』で芥川賞をとった上田岳弘さん、面白法人カヤックCEOの柳澤大輔さん、孫泰蔵さん、LINEの出澤剛CEOとかいろいろな方に登場していただいています。仮想通貨やブロックチェーンって遠い存在だと思うんですけど、近い未来このテクノロジーがどう経済や社会を変えていくのか、という点にフォーカスしたメディアですので、こういった方々に未来を語っていただいただきました。
    加藤 そして今日のテーマがこちらです。「仮想通貨の現在と未来」です。
    宇野 去年や一昨年くらいに仮想通貨関連ってすごくいろいろなことがあった。それがちょうど一段落したタイミングではあると思うんだよね。だからこのタイミングで投機対象うんぬんということは横においといて、仮想通貨とその背景にあるブロックチェーンが僕らが生きてるくらいの近未来に、どういったインパクトをもたらす可能性が高いのかを改めて議論したいと思います。
    加藤 では最初のキーワードにいきましょう。キーワード①「激動の3年間」です。
    宇野 この3年間ですごく状況が動いた。この3年間の流れを整理することによって、逆に今の仮想通貨の状況をまるごと整理できると思う。その整理をお願いしたうえで後半の議論に入っていきたいと思っています。
    久保田 早速ですがスライドを使ってざっとこの3年間を説明していきたいと思います。

    久保田 まず価格のピークだったのは忘れもしない2017年12月17日。1ビットコインが225万円という凄まじい価格がついてました。今は40万円ちょっと(※価格は放送当時)の価格がついていて、痛い目をみた人もたくさん居るだろうと思います。そのときの時価総額は世界一の小売業者であるウォルマートと同じくらいの規模まで膨らんでいました。

    久保田 日本仮想通貨交換協会が発表してる統計がありまして、去年の12月に発表されたものです。平成30年12月次の月間の取引高が7千7百億円弱になります。証拠金取引高という、いわゆるレバレッジをかけて取引していた額が8兆4千億円となりまして、これが投機的と言われる由縁なのかなと思います。外国為替市場もまったく同じだと思うんですけど、ゲーム的な感覚で取引してる人が多いことを示す統計なんじゃないかと思います。

    久保田 こちらみなさん記憶にあるかと思うんですが、去年2018年1月にCoincheckで680億円という非常に大きな金額が流出したわけですね。そのあと2018年9月にも70億近くの流出がありました。このあたりで仮想通貨は怖いってことが一気に社会に流布したようなタイミングでした。同時にこれをもとに金融庁がどういうルールを設定していったら良いのかという議論が進んだ1年でもありました。
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  • 宇野常寛 NewsX vol.27 ゲスト:瀬崎真広「パラレルキャリアによる地方創生」【毎週月曜配信】

    2019-04-15 07:00  
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    宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネル・ひかりTVチャンネル+にて放送中)の書き起こしをお届けします。3月19日に放送されたvol.27のテーマは「パラレルキャリアとしての地方創生」。NPO法人ZESDAの瀬崎真広さんをゲストに迎え、東京のプロボノであるZESDAが、石川県能登半島にある「春蘭の里」をいかに盛り上げていったか。その活動の詳細と、地域創生の理想的なあり方についてお話を伺いました。(構成:籔 和馬)
    NewsX vol.27 「パラレルキャリアによる地方創生」 2019年3月19日放送 ゲスト:瀬崎真広(NPO法人ZESDA) アシスタント:得能絵理子
    宇野常寛の担当する「NewsX」火曜日は毎週22:00より、dTVチャンネルで生放送中です。 番組公式ページ dTVチャンネルで視聴するための詳細はこちら。 なお、弊社オンラインサロン「PLANETS CLUB」では、放送後1週間後にアーカイブ動画を会員限定でアップしています。
    地方創生の成功例、春蘭の里の魅力
    得能 NewsX火曜日、今日のゲストはNPO法人 ZESDAの瀬崎真広さんです。瀬崎さんはパラレルキャリアで、プロボノとしての活動と本業がおありなんですよね。
    瀬崎 そのとおりです。私は某金融機関に勤めています。そこでの仕事ももちろん楽しいんですけども、それ以外の職域に囚われない、いろんな活動をしてみたいなと思っていまして、家庭と仕事以外の第三の場としてパラレルキャリアという選択肢をとっています。
    得能 今日のテーマは「パラレルキャリアによる地方創生」で、最初のキーワードは「ZESDAの取り組み」です。
    宇野 ZESDAとは何の略なの?
    瀬崎 これは略称で、最初のZがZipangのZですね。
    宇野 なんでJじゃないの?
    瀬崎 公共団体でよくJを使ってしまっているので、風変わりな代表がZにしようと考えて「Zipang Economic System Design Association」と名づけたと聞いております。
    宇野 ZESDAは具体的に何をやっているの?
    瀬崎 ZESDAはいわゆるプロボノ系の団体です。プロボノとは、本業の専門知識などを活かした公益性が高いボランティア活動ですね。
    宇野 ちなみにどんな人がいるの?
    瀬崎 プロボノはアメリカなどでは、弁護士やコンサルが集まって、専門知識を活かして公益性が高い活動をしようという団体なんです。その中でもZESDAは特徴的で、多様性があるんですね。商社マン、銀行員、コンサル、メーカー勤務者、学者の方など、いろんな職種の方がいます。そういう多様性のなかでのかけ合わせから、なにか価値のあるものをつくろうというような理念を持って活動しております。
    宇野 僕はZESDAの人たちと縁があって、何年も仲良くさせてもらっていて、その縁で石川県の春蘭の里に取材に行っています。春蘭の里は、ZESDAが関わった地方創生プロジェクトの中でも最大の成功例ですよね。前半は瀬崎さんに春蘭の里の取り組みなどをあらためて紹介してもらい、もう一回プロボノと地方創生というテーマの基礎知識を確認していきながら話していけたらと思っています。

    瀬崎 こちらは春蘭の里の場所を表しています。春蘭の里とは、そもそもは石川県の奥能登にある農家民宿群の呼称なんですね。今の流れで少子高齢化が進んでいくと、この地域の村落が消滅してしまうという中で、有志の方々がこの地域を創生していこうと民泊を始めたんです。石川県の奥能登は、遠いように見えるんですけども、実は羽田空港から1時間弱でアクセスできます。
    宇野 新幹線で金沢まで行くと、2〜3時間、余裕でかかるでしょ?だから、むしろ近いぐらいなんだよ。
    得能 めちゃめちゃ近いじゃないですか。通勤もやろうと思えば、できそうなぐらいの時間ですね。

    瀬崎 こちらが春蘭の里の農家民宿群の第一号なんですけども、多田喜一郎さんという全国的にも知られた、地方創生に取り組むリーダー的な存在の方のお家なんですね。
    宇野 多田さんは春蘭の里を成功させることによって、地方創生業界で超有名になった人だよね。俺はこの家に泊まった。
    得能 どうでした?
    宇野 すごくデカくて、中に囲炉裏があって、本当に昔の農家そのものという感じ。
    瀬崎 まさにそれがコンセプトです。昔ながらの農家はどこにでもある田舎の景色なんですけど、都会の人からすると新鮮な光景だったりします。また外国人の方からすると「これこそ日本文化」というふうに捉えてくださいます。そういう資源に着目して、この地域の長の多田喜一郎さんが農家民宿として立て直していこうとしたんですね。
    宇野 彼がどうやってそのアイデアに至ったかはわからないけど、自分たちで培ってきた生の生活がインバウンドの一番の武器になると彼は気づいたんだよね。彼はそれを自力で気づいたの?それともZESDAと話し合う中で気づいたの?
    瀬崎 20年ぐらい前に、多田喜一郎さんを含むその地域の有志の方々で考え出したことですね。
    宇野 素晴らしいね。
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  • 宇野常寛 NewsX vol.26 ゲスト:武藤真祐 「遠隔医療は社会をどう変えるか」【毎週月曜配信】

    2019-04-08 07:00  
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    宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネル・ひかりTVチャンネル+にて放送中)の書き起こしをお届けします。3月12日に放送されたvol.26のテーマは「遠隔医療は社会をどう変えるか」。株式会社インテグリティ・ヘルスケア代表取締役会長の武藤真祐さんをゲストに迎え、オンライン診療と患者の医療情報の共有がもたらす、新しいヘルスケアの可能性についてお話を伺いました。(構成: 佐藤雄)
    NewsX vol.26 「遠隔医療は社会をどう変えるか」 2019年3月12日放送 ゲスト:武藤真祐(株式会社インテグリティ・ヘルスケア代表取締役会長) アシスタント:大西ラドクリフ貴士
    宇野常寛の担当する「NewsX」火曜日は毎週22:00より、dTVチャンネルで生放送中です。 番組公式ページ dTVチャンネルで視聴するための詳細はこちら。 なお、弊社オンラインサロン「PLANETS CLUB」では、放送後1週間後にアーカイブ動画を会員限定でアップしています。
    2018年、新たに保険適用となった「オンライン診療」とはなにか?
    大西 NewsX火曜日、今日のゲストは株式会社インテグリティ・ヘルスケアの武藤真祐さんです。よろしくお願いします。まず武藤さんとインテグリティ・ヘルスケアという会社についてお聞かせ頂けますでしょうか。
    武藤 私は循環器内科医で、心臓のカテーテルの治療とかをしていたんですけど、そのあとマッキンゼーというコンサルティング会社でコンサルティングをしていました。
    宇野 ちょっと待ってください。お医者さんだったんですよね? で、マッキンゼー行くんですか。なぜですか?
    武藤 当時、医療崩壊とか言われていて、医師は一生懸命働いているのに世の中からバッシングを受けているようなときで。それには何か構造的な問題があるんだろうなと思ってたんですけど、中に居てはよくわからなかったんで、一度外から見て問題解決とか少し勉強したら良いじゃないかなと思ってマッキンゼーに。
    宇野 フラっと行くみたいに入れる会社じゃないように思いますけどね。
    武藤 当時マッキンゼーでは専門家を採用する方針があって、医師もその一つでした。その流れに乗ったんだと思います。
    宇野 マッキンゼーは何年居たんですか?
    武藤 2年居まして、そのあと在宅医療のクリニックを文京区に立ち上げたのが2010年のことですね。東日本大震災があった2011年に宮城県の石巻にもクリニックを開設し、今では全部で5つのクリニックを運営しています。
    宇野 武藤さんの病院が遠隔医療というテーマに携わっているのはどういう経緯なんですか?
    武藤 医師をやっていると現場での課題というのが見えてくるんです。急性期の医療を10年、そのあとの10年は慢性期の医療、つまり在宅医療のクリニックをやってますので、外来や入院、在宅っていう医療の現場をそれなりに見てきたんですね。今の医療は良い面もいっぱいあるんですが、たとえば病院に行って医師と話をする時間ってほとんどないと思うんですね。
    宇野 確かにないですね。「風邪だね、じゃあ薬出しておくね」とか。僕、喘息持ちなんですけど、「いつものね」みたいな感じで聴診器ちょっと当てるだけで総診療時間1分半みたいな世界ですね。
    武藤 そのために患者さんはどのくらいの時間をかけているか考えると、病院に行って受付して、待って、診療を受けて、お薬もらって帰ってくると何時間もかかるじゃないですか。その割に医師が患者さんと接する時間は少ないですし、実は会って聞ける情報も本当に限られています。また患者さんには高齢の方も多いので、日常生活の中での症状など、いざ診察時には覚えてなくて、伝えていただけないこと多くあります。これは高齢の方のみならず、若い人でもうまく伝えることはとてもむずかしいものです。診察時に、治療に必要な情報をもっと聞けるような仕組みがあったらいいんじゃないかなって想いから、今で言う遠隔医療を2016年に始めました。
    宇野 園田愛さんという方がインテグリティ・ヘルスケア代表取締役社長をされていて、彼女と僕は同じ勉強会で一緒になって、武藤さんや園田さんの取り組みを教えてもらったんですが、全然僕知らなかったんですよ。ここ1、2年で医療がこんなに動いてることを。そういうことも含めて今日はいろいろ勉強させてもらおうと思ってお呼びいたしました。
    大西 本日のテーマはこちらです。「遠隔医療は社会をどう変えるか」。
    宇野 このテーマってあまり報道されてると僕は思わないし、注視されてるとも思わないんだけど、実はこの先の僕らの社会や人生を考える上で、すごく大きい問題だと思うんですよ。まずは知るところから始めて、最終的には僕らの健康とか介護をどう捉えたら良いのかというところまで議論できたらいいなと思います。
    大西 最初のキーワードにいきましょう。ひとつ目は「遠隔医療のいま」。
    宇野 議論のベースになる基礎知識の確認に付き合っていただきたいと思っています。そもそもオンライン医療というものが今どのような状態なのか、というところから教えていただきたいんですよ。
    武藤 まずは「遠隔医療」と「オンライン診療」って、それぞれどういうものなのか、っていうところから話を始めたいと思います。遠隔医療っていうと、「遠隔」なので基本的には医療が届きにくい離島の人とか遠く離れた所に住んでる人に医療を届けたいっていうコンセプトから始まっているんです。遠隔医療は20年くらい前からいろいろな試みがなされてきました。当初はたとえば看護師さんが大きなコンピュータを患者さんのところに持っていって、離れた都市部の病院から、先生がすごく遅いインターネット回線で「●●さん、お加減いかがですかー?」と診察をする、といったことからはじめていました。
    宇野 やってたんですか。あんまりそれもわかってなかったです。
    武藤 医師がほとんど居ないような場所にどうやって医療を届けるかっていうのは昔から課題で、ITをなんとか使おうという試みはあったんです。ただご存知のように回線も遅いし、やれることも限られていて。それがだんだんとインターネットが速くなって、スマホがあるような時代になってきました。定義の問題なんですけど、その中で遠隔医療は大きくふたつに分けられました。ひとつは医者と医者を結ぶ遠隔医療で、もうひとつは医者と患者さんを結ぶ遠隔医療となりました。  医師と医師というのは例えばどういうものかというと、レントゲンを撮ったときに画像が出ますよね。その画像を診断する放射線科の先生が、日本全国どこにでも居るというわけじゃないんです。医師が少ない場所では画像をインターネットで共有して、都市部に居る専門医が診断して返す、という医師間での遠隔医療というのはかなり前から導入されていたんです。そして今回、医師と患者さんの間で、インターネットを通じての診療、いわゆる「オンライン診療」ができるようになったのが、2018年。初めて国で認められました。
    宇野 僕も全然知らなかったんですけど、去年2018年がオンライン診療元年だったんですね。
    武藤 2018年にオンライン診療をどう使ったらいいか、何をしてはいけないかという国のガイドラインが決まりまして、4月からはオンライン診療に公的保険が適応されることとなりました。実はこれは国の医療のIT化という大きな流れの一部なんですね。このあと2020年までに様々な医療情報をつなぐプラットフォームを作る計画が進められています。さらに医療でのAIの活用や、患者さんが自分の医療情報を保有できるようにするとか、医療のIT化をどんどん進めることとなっていて、オンライン診療はその中の最初の一歩という位置づけになるかと思います。
    オンライン診療によって変わる医師と患者のコミュニケーション
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  • 宇野常寛 NewsX vol.25 ゲスト:平澤直「アニメビジネスの未来」【毎週月曜配信】

    2019-04-01 07:00  
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    宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネル・ひかりTVチャンネル+にて放送中)の書き起こしをお届けします。3月5日に放送されたvol.25のテーマは「アニメビジネスの未来」。アニメプロデューサーの平澤直さんをゲストに迎え、Netflixなどの外資系サブスクリプションサービスの登場によって大きな変化を迎えているアニメビジネスと、日本のアニメ業界の今後について、お話を伺いました。(構成:籔 和馬)
    NewsX vol.25 「アニメビジネスの未来」 2019年3月5日放送 ゲスト:平澤直(アニメプロデューサー) アシスタント:後藤楽々
    宇野常寛の担当する「NewsX」火曜日は毎週22:00より、dTVチャンネルで生放送中です。 番組公式ページ dTVチャンネルで視聴するための詳細はこちら。 なお、弊社オンラインサロン「PLANETS CLUB」では、放送後1週間後にアーカイブ動画を会員限定でアップしています。
    スマホと配信プラットフォームの台頭で変わりゆくアニメ業界
    後藤 NewsX火曜日、今日のゲストはアニメプロデューサー、平澤直さんです。お二人は、どういう経緯で知り合ったんですか?
    宇野 ニッポン放送の吉田尚記というアナウンサーがいて、彼を介して仲良くなりました。その頃、平澤さんは有名なアニメスタジオにいたんですよ。そこからもう一社経て独立されて、今自分の会社をやられているんですけど、そこで平澤さんが日本のアニメ業界ではめずらしいユニークなビジネスをされているんです。今日はこれからのアニメはどうなっていくのかという話をしっかりとしたいなと思っています。
    後藤 平澤さんと考える今日のテーマは『アニメビジネスの未来』です。
    宇野 ソフトビジネスから配信にアニメの主戦場が変わっていくなかで、僕らが愛した日本アニメの傾向や中身も影響を受けていくと思うんだよね。そこで、産業構造の変化にしたがってアニメの未来はどこにいくのかという話をあらためてしたいなと思っています。
    後藤 最初のキーワードは「アニメビジネスのいま」です。
    宇野 議論の起点として、今のアニメ業界はどうなのか、ということを産業視点から平澤さんに解説してもらって、そこから話を始めたいと思います。

    平澤 ここ30年間ぐらいのビデオパッケージ、VHS、LD、DVD、ブルーレイが合計でどれぐらい売れているのかを示すグラフです。私が最初に会社員になったのは2001年ぐらいなんですけど、その頃はちょうどDVDが売れ始めた時期で、上り調子が2004〜2005年ぐらいまで続くんですね。その頃にちょっと危なくなってきたぞということで、I.Gに転職したんです。そのときのピークから、今だとだいたい半分ぐらいまでになってきちゃっています。
    宇野 これを見ると、下がってきたのもそうだけど、明らかに2000年代前半がバブルだよね。
    平澤 この時代はお客さんも買ってくれたし、家電量販店などでDVDを取り扱う棚がどんどん大きくなっていったんですよね。「今、DVDが売れているらしいから、CD売り場をもっと広げてDVDを置かなきゃいけない」と。そうすると商品も揃えないといけなくなる。だから、お客さんが買っている分も儲かったし、お店に並んでいる分も儲かったんですよね。 当時の売れている作品はテレビアニメだと1巻あたり10万本ぐらいのセールスで、今でも直近だと『ユーリ!!! on ICE』というアニメが10万本ぐらい売れていたりするんですが、ただ、昔だったら、売れないアニメでも4000〜5000本出るものもあったんです。今はテレビアニメで5000本出るとヒットと呼んでいい状態です。一番変わったのは売れないタイトルが極端に売れなくなった。それが2005〜2006年ぐらいから起き始めた事態ですね。
    宇野 10年前の2007〜2008年頃は、売れないアニメだと初動が4桁をいかないこともありましたよね?
    平澤 その頃から1000本を切り始めた恐怖がすごくありました。今だと買った人同士が校庭で一緒に体育の授業ができるようなレベルの数まで減っていますね。
    宇野 マジで関係者しか買っていないじゃないですか。
    平澤 市場で売れている量より関係者に配っているサンプルのほうが多いことも、まれにあったりするようですね。
    宇野 怖いですね。
    後藤 そこまで衰退しているんですね。

    平澤 みなさんが映像を観る手段がスマホにシフトしているんですよね。劇場が最初にあって、次に据え置きテレビ、その次はPCとアニメを観る環境がだんだん変わってきているんです。今、ゲームはPCからスマホへの移行がほぼ完了しましたよね。アニメは据え置き型のPCやテレビで観るものから、スマホで観るものにだんだん変わり始めている。そこでどんな作品が受けるのかが少しずつ変わってきている。
    後藤 スマホの画面も大きくなってきていますよね。昔はもうちょっと小さくて観にくかったので、テレビのほうがいいかなと思っていたんです。でも、最近のスマホは大きいから観やすい。それに画質もいい。
    平澤 もうひとつの変化が、視聴のタイミングが大きく変わったんですよね。PCもテレビも、家にありましたが、スマホはいつでも持っていられる。スマホでゲームをやるのは移動中が多いですよね。となったときに、はたして1話で約30分、厳密には20~24分のアニメを最初から最後まで観通せるのかどうか。スマホシフトで求められる変化にはそういうところがあります。これからスマホ向けにアニメをつくるときに考えなければならないのは、そもそも、なぜスマホを横にして観るのか、縦の方がいいんじゃないかとか。あるいは20分は長くないかとか。
    後藤 どんどん短くなるんですね。
    平澤 そういう変化が起こり始めるかもしれないですね。
    宇野 『ポプテピピック』はスマホの影響があると思います?
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  • 宇野常寛 NewsX vol.24 ゲスト:たかまつなな 「社会を変える〈お笑い〉とは」【毎週月曜配信】

    2019-03-25 07:00  
    550pt

    宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネル・ひかりTVチャンネル+にて放送中)の書き起こしをお届けします。2月26日に放送されたvol.24のテーマは「社会を変える〈お笑い〉とは」。お笑いジャーナリスト/(株)笑下村塾 取締役のたかまつななさんをゲストに迎え、「お笑い」を通じて、社会問題の認知や主権者教育などをいかに広げていくか。笑下村塾の活動を紹介しながら、その手法や可能性について議論しました。(構成:籔 和馬)
    NewsX vol.24 「社会を変える〈お笑い〉とは」 2019年2月26日放送 ゲスト:たかまつなな(お笑いジャーナリスト/(株)笑下村塾 取締役) アシスタント:加藤るみ
    宇野常寛の担当する「NewsX」火曜日は毎週22:00より、dTVチャンネルで生放送中です。 番組公式ページ dTVチャンネルで視聴するための詳細はこちら。 なお、弊社オンラインサロン「PLANETS CLUB」では、放送後1週間後にアーカイブ動画を会員限定でアップしています。
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  • 宇野常寛 NewsX vol.23 ゲスト:藤川大祐 「学校はいじめにどう立ち向かうか」【毎週月曜配信】

    2019-03-18 07:00  
    550pt

    宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネル・ひかりTVチャンネル+にて放送中)の書き起こしをお届けします。2月19日に放送されたvol.23のテーマは「学校はいじめにどう立ち向かうか」。千葉大学教育学部教授の藤川大祐さんをゲストに迎え、いじめ問題に対して今、学校で行われている対策についてや、藤川さんのNPOが現場で取り組んでいるスマホアプリ活用を促す授業などについてお話を伺いました。(構成 籔 和馬)
    NewsX vol.23 「学校はいじめにどう立ち向かうか」 2019年2月19日放送 ゲスト:藤川大祐(千葉大学教育学部教授) アシスタント:後藤楽々
    宇野常寛の担当する「NewsX」火曜日は毎週22:00より、dTVチャンネルで生放送中です。 番組公式ページ dTVチャンネルで視聴するための詳細はこちら。 なお、弊社オンラインサロン「PLANETS CLUB」では、放送後1週間後にアーカイブ動画を会員限定でアップしています。
    時代による、いじめの変化とその対策
    後藤 NewsX火曜日、今日のゲストは千葉大学教育学部教授、藤川大祐さんです。
    宇野 藤川先生のメインの研究は「授業をどうおもしろくするのか」で、エンタテイメントの手法で、より効果的な授業をする研究成果をまとめた『授業づくりエンタテイメント!』という本を出されています。
    ▲『授業づくりエンタテイメント!』
    藤川 エンタテイメントに学んで、楽しい授業をつくろうという研究をしています。
    宇野 また藤川先生は授業づくりの研究の一方で、メディアリテラシー教育をどうするか、いじめ対策をどうしたらいいかということも研究されていて、実際の教育現場で実験をされたりしているんですよ。なので、今日はいじめというテーマで、あらためて藤川先生と議論したいなと思っています。
    後藤 最初のキーワードは「なぜ、いじめ被害は起き続けるのか」です。
    宇野 「なぜ、いじめ被害は起き続けるのか」とテーマ設定をしたんですけど、今日大津の事件の裁判判決が出たりしましたけど、社会を挙げていじめ対策をしなきゃいけない動きがずっとあると思うんですよ。近年その声が高まっているんだけど、実際にどのような取り組みが行われて、どういう成果があって、どんな課題があるのかという前提は共有されていないというか、ブラックボックスになっていると思うんですね。そこを藤川先生に解説してもらうところから議論を始めたいと思っています。

    藤川 まず文部科学省の統計から見ていきたいと思うんですね。上のグラフが文部科学省のいじめ認知件数です。いくつかの線がありますが、一番上が合計なので、一番上の線を見ていただくとわかるんですが、ここのところ急激に多くなっているんですね。平成18年が少し多くて、平成24年からずっと多いですよね。これはちょうど今日判決が出た大津の事件が平成23年に発生して、平成24年からさまざまないじめ対策をきちんとやっていこうという動きが急速に強まって、いじめをしっかりと認知しようという動きになったので、こういう変化が起きているんです。
    宇野 つまり、きびしく取り締まろうと思ったことで、計上されるいじめの件数が増えたんですか?
    藤川 そうです。きちんといじめを認知しましょうとなりました。いじめは曖昧なものなので、先生の主観によって「これはいじめかな?どうかな?」と思ったときに、あまりいじめが多いと嫌だという気持ちも働きますから、「この程度だったらいじめとしてカウントしない」という主観的な判断が働きやすかったんですね。それを変えようというのが、大津のいじめ事件をきっかけにかなり進んだということですね。  それまでのいじめの問題は、ずっとグラフがありますけど、1980年頃、葬式ごっこがなされたことで知られる中野富士見中の鹿川くんという生徒が亡くなった事件あたりから、かなり注目されるようになり、何年かに一回深刻ないじめ事件が起きて、そのときは注目されるんだけど、しばらくすると冷めてしまう。それの繰り返しだったんですね。  いじめについての研究も、社会学的な分析が多いんです。教室の空気があって、誰かを排除する空気ができあがって、その人を排除するんじゃないか。あるいは、いじめを傍観者で見ている人がいじめに影響を与えているんじゃないか。そもそも学級組織のような、同じ人がずっといるような組織がよくないんじゃないか。そういった分析はたくさんあったんです。でも、対策の議論がほぼなかったんですね。だから、対策はほとんど経験則で、先生たちが工夫するばかりだったんです。  それを変える契機になったのが、大津のいじめ事件で、平成23年に起きて、翌平成24年に注目されるようになりました。私がいじめ研究に取り組むようになったのも実は新しくて、そのへんからなんですよ。それまでも関心があって、いろいろと文献を見ていたんですけども、本来授業づくりが専門だったものですから、あまり縁がなくて少し距離を置いていたんです。でも、やっぱりこれほどのことが起きていて、また同じことを繰り返してはいけないと私を含めて多くの人が思いました。ジャーナリストの荻上チキさんもそのように思って、当時いじめのデータをいろいろ分析して「ストップいじめ!ナビ」という組織をつくって、データに基づいたいじめ対策をしようと動きました。  私は過去のいじめの事例をきちんと振り返って、どういう教訓があるのかをもとにいじめ対策を進めようというような議論で本を出したりしていました。『授業づくりエンタテイメント!』のひとつ前の本は、いじめの本(『いじめで子どもが壊れる前に』)です。  ということで、平成24年を期にかなり研究の流れが変わった。それまでのアカデミックで社会学的な路線から、実効性のあるいじめ防止対策を実践的に研究しようという流れに変わった。政治の側でも、平成25年に、「いじめ防止対策推進法」という法律ができまして、いじめについて初めて法律に基づいた対策をすることになりました。  この法律で大きなポイントは、いじめについて計画を立てて、組織的に対応することを決めたことなんですね。それまで、いじめの対策は各学校にほとんど任せられていたんですけど、学校がいじめについて対策の方針を決めて、それを公表しましょうとなりました。そして、担任の先生が個人で動くのではなくて、学校の組織で対応することになった。そこが大きい変化です。その中で、いじめについては誰かがイヤな思いをしたら、それはもういじめですよと広く捉えようとなったんですね。だから、急激に件数が増えてきました。それもまだ数え方が足りていないんじゃないかと毎年言われているので、ここ2〜3年でどんどん増えていて、新聞の見出しではいじめの件数は41万件ぐらいと出ます。でも、件数が多いのは悪いことではなくて、きちんと数えるようになってきたということですね。こういう変化が今起きています。
    宇野 実際に教育現場でのいじめ対策は変わってきているんですか?
    藤川 もちろん温度差は学校や地域によって、かなり違います。実は、私は今千葉大学教育学部附属中学校の校長をやっていますが、私がいる学校や周りの学校では、いじめに該当する事案があると、見つけた教員は学年や組織で必ず共有して、その日のうちに管理職まで報告するようにしています。管理職の指示のもとで一定の方針を立てて、どんなに小さい事案でも対処していくようにしています。
    宇野 藤川先生はもうひとつの大きい研究テーマとして、メディアリテラシーの問題があると思うんですよ。今インターネットがあることによって、いじめの形態も変わってきていると思うんですけど、そのへんはどうなんですか?

    藤川 これは文科省が2006年から統計を公表しているものを私がグラフ化したものなんですが、一番上の緑が高校、真ん中の赤が中学校なんですね。同じようなカーブを描いていますけど、平成19年度にちょっと多いんですね。また下がって、平成25年から多いんです。これはピークが2回あったということです。平成19年度のところが多いのは、ガラケーでプロフィールサイトや学校裏サイトなどが流行った時期です。その後啓発が進んで、ネットいじめが下がってくるんですね。  ところが、今多いのはLINEなどのSNSのいじめです。これはスマホの普及から始まっていて、スマホが子どもたちに普及したのは、はっきりと平成25年度なんです。ちょうどいじめ防止対策推進法ができたときなんです。その時期に、たまたまスマホが一気に普及しました。やっぱりLINE関係のいじめが多くて、LINEで悪口を書いたり、仲間はずれにするとかはもちろんありますし、最近はバレないようにする方法で、タイムラインという機能で日記みたいなのがありますね。あれでちょっと悪口を書いておいて、しばらくすると消すんです。ということは証拠が残らないんですよ。今では24時間以内なら消せるようになってしまいましたけど、LINEでメッセージを送っちゃうと、誰かの端末に証拠が残ってしまいますからね。あるいはアカウントの下にちょっと一言を書く、ステータスメッセージがLINEにはありますよね。あそこに、「ちょっとうざいんだけど」や「ちょっと私のほうを見ないで」など誰のことかは見る人が見ればわかるようなことを書いて、また少ししたら変える。このように証拠が残らないようにして、ネチネチいじめるのも多いですね。  一方で、たとえば、女の子が男の子と一緒に歩いている写真を撮って「こいつら仲がいい」みたいなことを流しちゃう。(後藤さんに向けて)そういうのイヤですよね?
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  • 宇野常寛 NewsX vol.22 ゲスト:小島健志「エストニアの現在」【毎週月曜配信】

    2019-03-11 07:00  
    550pt

    宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネル・ひかりTVチャンネル+にて放送中)の書き起こしをお届けします。2月19日に放送されたvol.22のテーマは「エストニアの現在」。ハーバード・ビジネス・レビュー編集部の小島健志さんをゲストに迎え、東欧の小国でありながら、世界最先端の電子国家として注目を集めるエストニアの実態についてお話を聞きました。(構成 籔 和馬)
    宇野常寛 News X vol.22 「エストニアの現在」 201年2月19日放送 ゲスト 小島健志(ハーバード・ビジネス・レビュー編集部) アシスタント 得能絵理子
    宇野常寛の担当する「NewsX」火曜日は毎週22:00より、dTVチャンネルで生放送中です。 番組公式ページ dTVチャンネルで視聴するための詳細はこちら。 なお、弊社オンラインサロン「PLANETS CLUB」では、放送後1週間後にアーカイブ動画を会員限定でアップしています。
    エストニアの電子政府、その成功の理由
    得能 NewsX火曜日、今日のゲストはハーバード・ビジネス・レビュー編集部の小島健志さんです。小島さんは週刊ダイヤモンドを経て、今の編集部へ移られたとのことなんですが、これまでにどういう取材をされてきたんですか?
    小島 エネルギー関係から証券、金融、最後のほうはITやデータ分析を担当していました。そのときに、孫泰蔵さんの連載を担当しておりました。
    得能 宇野さんとはどのようにしてお知り合いになられたんですか?
    宇野 今は会場の都合でなくなっちゃっているんだけど、個人的な勉強会を去年までやっていたんですよ。小島さんはその勉強会に参加されていて、そこで知り合った感じですね。
    得能 小島さんと今日考えるテーマは「エストニアの現在」です。宇野さんが小島さんを呼ばれた理由は何ですか?
    宇野 小島さんが年末に出された『ブロックチェーン、AIで先を行くエストニアで見つけた つまらなくない未来』という本がすごくうまくまとまっていて、僕も非常に勉強になった。なので、著者の小島さんをお招きして、日本はエストニアから何を持ち帰るのかを正面から議論していきたいと思っています。
    ▲ 『ブロックチェーン、AIで先を行くエストニアで見つけた つまらなくない未来』
    得能 今日もキーワードを三つ出していきます。まず一つ目は「エストニアのここがすごい」です。
    宇野 エストニアは数年前から電子政府がうまくいっている。なんでこれが日本でできないんだと思う。エストニアがあたかも理想郷のように紹介されているわけじゃん。実際にエストニアは多くの成果を出しているんだけど、噂がひとり歩きしちゃっているところもあると思うんだよね。そこで、すごく時間とお金もかけて取材された小島さんに、まずエストニアとはなんなのかを教えてもらいたい。だって、僕らが子どもの頃、エストニアを含むバルト三国は小国の代名詞だったじゃないですか。僕がエストニアを最初に認知したのはソ連が崩壊していくときでした。ソ連から最初に離脱したのが、バルト三国だったのね。そういう印象だったところが、こんなに世界中から注目を浴びるような国になるとは本当に思っていなかった。エストニアの奇跡の要点を、小島さんに教えてもらうことから議論を始めたいと思うんです。

    小島 エストニアというと、こういう『ドラゴンクエスト』の町のような非常に美しい牧歌的なイメージがありますよね。
    宇野 ロシアンテイストというよりは北欧テイストに見えますね。
    小島 まさに文化圏が北欧ですからね。

    小島 エストニアをご存知じゃない方も多いと思うので、基本的な情報をまとめました。特に注目すべき点は、人口が130万人なんです。
    宇野 130万人って福岡の人口くらい?
    小島 福岡の人口と同じくらいですね。面積も九州ぐらいの国家なんです。だから、日本の地方自治体と同じぐらいの面積と人口の国と言えます。電子国家としてエストニアは非常に有名で、「enter e-estonia」という言葉を使っております。それは電子政府ということなんですけど、99パーセントの行政手続きがすべてオンラインでできるということが今起きています。私が聞いて驚いたのが、子どもが生まれたとき、日本だとお母さんとお父さんが出生届を出しに行くと、いろいろな助成制度の手続きのために列をなして2〜3時間待っても全部終わらないですよね。それがエストニアだと、病院側が国民番号を交付してくれます。システムがつないであって、生まれた瞬間に番号が発行されて、もうその瞬間に手続きがほぼ終わっている状況になります。だから、基本的に列をなしたり、行政手続きに並ぶことはないんですね。特に確定申告のシーズンをこれから迎えますけども、それも15分くらいチェックするだけで終わってしまうんです。
    得能 日本の場合だと、列ができますもんね。
    小島 あれは大変じゃないですか。それが一瞬で終わってしまうのが、非常に優れていると言われています。私も実際見させてもらったんですけども、カードをつないで、ポータルサイトの画面にいって、そこで手続きをすることで、車の所有権移転なんかも1分あれば終わるんですね。もし、これを日本でやろうとすると、陸運局に行って、もしくはそれを誰かに頼まなきゃいけない。下手したら、半日から一日かかるんですが、それも一瞬で終わる、という仕組みができております。

    小島 こちらに歴史をまとめましたけど、91年に独立を回復して以来、ITで国を興すことで、バンキングから電子化をどんどん進めています。アイボーティングで、選挙もIDとカードがあれば、どこでもできます。世界中で自分たちの自治体の選挙ができるようになっています。イーヘルスは、電子医療システムですね。これが稼働したことで、処方箋がいらなくなったんです。普通だったら、病院に行って、診察券を出して、処方箋を出してもらって、薬局に並びますよね。それがデータ化されているので、予約をして、薬出してくださいと言うと、データで全部飛ばすんですね。そうすると薬局にデータがすでにつないであるので、病院での会計待ちがなくて、そのまま薬局に入っていけます。だから、病院での待ち時間はほとんどないと聞きますね。ポイントは、IDに電子署名という暗号化されたサイン機能が入っていることです。銀行のカードも、健康保険証も、車の処方箋も、定期券も一枚のカードでできます。SUICAと運転免許と保険証がセットになっているような感じですね。今モバイルでもできるので、オンラインバンクですから、現金もいらないんですね。世界中のどこにいても、オンラインなので、別にどこからでもできるんですね。それを行政サービスで支えているのが、非常に優れていると言われています。
    得能 カード1枚ですむのはいいですね。でも、私はカードをなくしがちなので、なくしたら大変そうと思ってしまいます。
    小島 IDとパスワードを覚えていれば、カードを意識しなくてもいいんですよ。PINコードというんですけど、それをちゃんと持っていれば大丈夫です。
    宇野 カードそのものになにかの情報が入っているんじゃないんですよね。
    小島 アクセス権なので、そういう心配もないんです。
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  • 宇野常寛 NewsX vol.21 ゲスト:橋本倫史「ドライブインと戦後日本」【毎週月曜配信】

    2019-03-04 07:00  
    550pt

    宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネル・ひかりTVチャンネル+にて放送中)の書き起こしをお届けします。2月5日に放送されたvol.21のテーマは「ドライブインと戦後日本」。ライターの橋本倫史さんをゲストに迎え、モータリゼーションの隆盛と共に全国に広がり、今、消え去ろうとしている「ドライブイン」の文化を、日本の戦後史と重ね合わせながら考えます。(構成:籔 和馬)
    宇野常寛 News X vol.21 「ドライブインと戦後日本」 2019年2月5日放送 ゲスト:橋本倫史(ライター) アシスタント:得能絵理子
    宇野常寛の担当する「NewsX」火曜日は毎週22:00より、dTVチャンネルで生放送中です。 番組公式ページ dTVチャンネルで視聴するための詳細はこちら。 なお、弊社オンラインサロン「PLANETS CLUB」では、放送後1週間後にアーカイブ動画を会員限定でアップしています。
    アメリカが戦後日本にもたらしたドライブインという文化
    得能 NewsX火曜日、今日のゲストはライター、橋本倫史さんです。
    宇野 僕はサイゾーで10年ぐらい連載をしていたんだけど、対談連載があったときに、橋本くんにその再構成をよくやってもらっていたし、PLANETS本誌でも座談会の構成などをやってもらったりして、そんなに数は多くないけど、ずっと仕事を一緒にしているライターさんなんですよ。
    得能 今日橋本さんと一緒に考えるテーマは「ドライブインと戦後日本」です。
    宇野 橋本くんは月に二回、二店舗のドライブインを巡って、それに関する「月刊ドライブイン」というミニコミを書くことをずっとやっていたんだけど、それを一冊にまとめた『ドライブイン探訪』という本が出たんですよ。この本がすごくおもしろかった。そこで、今日はこんな機会はなかなかないから、橋本くんを呼んで、ドライブインというものから、もう一回戦後の70年を振り返る議論ができたらなと思っています。
    ▲『ドライブイン探訪』
    得能 そもそも、ドライブインはドライブスルーとは違うんですか?
    橋本 それはすごく間違えた認識で捉えられていることのひとつなんですけど、ハンバーガーショップなどでもよくある、車に乗ったまま買い物をして通りすぎていくのが「ドライブスルー」です。「ドライブイン」というのは、車を停めて、そこで休憩していくための場所なんですね。
    得能 サービスエリアのような感じですか?
    橋本 それもよく間違えられるんですけど、サービスエリアとかパーキングエリアは高速道路の上にあるものであって、ドライブインというのは高速道路ではなくて、一般道路、いわゆる下道にあるような休憩施設がドライブインで、だいたい食事をしたり、お土産を売っていたりする形態が多いですね。
    得能 今日はドライブインという存在から、戦後の日本を考えていきます。では、今日もキーワードを三つ出していきたいと思います。まず一つ目は「ドライブインが生まれた時代」です。
    宇野 正直ドライブインにはそんなに行かないよね。どちらかというと、今は「道の駅」の存在感のほうが大きいじゃないですか。それに高速道路だと、そこにあるのはサービスエリアで、基本的には高速道路をつくるときに、最初から設計されてつくられたもので、いわゆるドライブインとは全然違うんだよね。ドライブインは、僕らにとっては過去のものになろうとしている。だからこそ、わざわざドライブインを巡っていこうという本も成立するわけなんだけどね。議論のきっかけに、そもそもドライブインとはなんなのかということを掘っていくところからいきたいと思います。なんでドライブインに興味を持ったの?
    橋本 僕は1982年生まれなんですけど、小さい頃にドライブインに行った経験が全然なくて、まったく意識をしたこともなかったんですね。でも、今から12年ぐらい前に、その頃の僕は自分の好きなバンドを追いかけて、原付で日本全国をひたすら移動しまくっていたときに、原付だから一般道をずっと通るんです。あるとき、鹿児島ですごく異様な外観をした建物がありまして、少し立ち止まってみようと思って、近づいてみたら、そこにドライブインという看板が出ていたんです。そこで、鹿児島から東京に帰ってくるまでの間、気にしながら見ていたら、残念ながら廃墟のようになってしまったお店も含めて、すごい数のドライブインがありました。そこで、これはなんだろうと気になりはじめたのが最初のきっかけですね。
    宇野 どこにひっかかったの?
    橋本 自分が知らない、利用もしたこともないのに、ドライブインという看板を掲げるものが全国にこれだけあったということは、ドライブインの時代があったはずなのに、それができた経緯や、どんな場所だったのかが、その当時はあまり記録されていなかったように感じたんですね。誰も記録していないんだったら、自分が取材してみようかなと思ったのが、今から8年前ぐらいですかね。今残っているドライブインは、個人経営や家族経営でやっているところがほとんどですね。だいたい今は東京よりもロードサイドによく残っている建物ですけどね。
    宇野 そもそも戦後にどういう過程でドライブインは普及していったの?
    橋本 もちろん戦前からドライブイン自体はあったと思うんですけど、本格的に普及したのは戦後になってからですね。今でこそドライブインはロードサイドにある印象がありますけど、戦後間もない時期だと、都心の六本木みたいな場所にもドライブインがあったらしいんですね。

    橋本 1950年の雑誌の記事なんですけど、これはGHQに統治されている頃の日本の横浜にあったドライブインです。占領下の日本にこういうドライブインが最初にできはじめているんですね。というのは、アメリカの人たちが日本に来たときに、彼らのライフスタイルも一緒に持ち込まれて、車でそのまま乗りつけて食事をするという店が都心にまずできはじめました。もんぺ姿の女性が派手な外車に料理を運んで行っている写真もありますね。
    宇野 これはシュールな画だよね。
    橋本 この当時の日本は車がまだ普及していないし、ハンバーガーでさえ口にしたことがない日本人がほとんどである時代に、このライフスタイルはすごく衝撃的だったと思うんですね。ドライブインを都心で見た人が、「都会では今ドライブインというのができているらしいぞ」と言って、車の普及とともに地方にちょっとずつ広まっていったというのが、1950〜1960年ぐらいに起きていったことです。その中で、不思議な建物もできていったりしているんですよ。なんでもかんでもドライブインになっていった時代がありました。

    橋本 これは渋谷に今でもある大盛堂書店の1966年の様子ですね。そこにドライブイン書店というものをやっていました。
    得能 これはどういうシステムになるんですか?
    橋本 窓口で本のタイトルを言うと、探してきてくれる係の人が一人いて、その人が頑張って探してきて、その本をお客さんに渡して買っていくというしくみです。
    得能 ないケースもありますよね。
    宇野 なかったら切ないよね。車で颯爽と乗りつけて、お目当ての本がなくて、何も買わずに去っていくときの虚しさは察するに余り有るものがあるよね。デートをすっぽかされることの次ぐらいに悲しいと思う。ドライブインは50年代の草創期は基地カルチャーの需要としてはじまっていって、それが一回地方に普及していくの?
    橋本 そういう流れがあったんだと思います。
    宇野 その中で、60年代のドライブインはこういう謎の進化の袋小路に早くも入っていった。
    必要に応じて独自の進化を遂げたドライブイン
    得能 次のキーワードは「ドライブインの”いま”」です。
    宇野 『ドライブイン探訪』はまさに橋本くんが説明してくれた時代から半世紀以上経った時代を取材した本だよね。そこから半世紀、全国のドライブインは残っているんだけど、その最盛期はとっくに終わっている。それをまさに2010年代に一軒ずつまわってまとめたのが、橋本くんの本なんだよね。この本の内容をダイジェストで紹介してもらいながら、今ドライブインがどうなっているのかということから話していきたいと思っています。
    橋本 僕が興味を持ったのが、今からちょうど10年前ぐらいだったんですけど、その後2011年に日本全国のドライブインを友人の車を借りてぐるっと走りながら、とにかくドライブインがあったら立ち止まって、コーヒー1杯でも飲んで少し立ち話をしていくことをやったんですね。車の後部シートに布団を敷いて、そこで寝ながらの日々を過ごしていたんです。そのときは、具体的にこれを記事にまとめたり、原稿にすることができるかは、そんなに考えていなかったんですね。とにかく一軒ずつまわって、どういうふうにドライブインが存在しているのかを見ていこうと思ったのが、2011年だったんです。それからしばらく経って、2017年のお正月に一年の抱負を立てる折、そういえば、あのときに取材してまわったドライブインはどうなっているんだろうと思って検索したみたら、そのうちの何軒かがもう閉店してしまっていました。その8年で閉まった店がすごく多いんですね。それで一刻も早く取材をしなきゃということで、さっき紹介していただいた「月刊ドライブイン」というのを2017年春につくって、取材をはじめたのがきっかけですね。

    橋本 僕が書いた『ドライブイン探訪』という本は5つの章になっているんですけど、その5つの章から1軒ずつ紹介していこうと思っています。1章目が「ハイウェイ時代」という章になっています。その中で「山添ドライブイン」というお店が出てくるんですけども、奈良県にある渋い佇まいのお店なんですよね。ここは1964年に創業されたお店なんです。なんでハイウェイ時代かということが、ここでキーワードになってくると思うんです。都市間を自動車で高速移動するようになった時代が、ハイウェイ時代だと思うんですね。それ以前の日本は車じゃなくて、人や荷物の輸送に、鉄道もしくは海路で輸送していました。そんな状況から、戦後の日本はアメリカとの関わりが深かったこともあって、自動車での輸送にどんどん変わっていったときに、道路網が50〜60年代にかけて急激に整備されていくんです。この山添ドライブインもまさにそういう道路の中にあるドライブインなんですけど、山添というのは地名で奈良県の山添村というところなんです。1960年ぐらいに建設大臣だった河野一郎という人が関西を視察に来たときに「なんだこの状況は。道路が全然整備されていないじゃないか。今から1000日で道路をつくりなさい」と言ってできたのが、名阪国道になります。
    宇野 むちゃくちゃな話だね(笑)。
    橋本 でも、その当時は奈良もそんなに道路が整備されていない時代だったので、地元の人たちも喜んで土地を提供して、名阪国道が無料の自動車専用道路として開通したのが1965年です。その前年にオープンしたのが、この山添ドライブインですね。いかにも、ある時代の自民党の政治家というエピソードですよね。
    得能 実際に1000日でできたということですか?
    橋本 そうです。1000日以内にできたので、今でも1000日道路と呼ばれているらしいんです。でも、それができたおかげで、山添村という地域の人たちは買い物に行けるようになったし、ここのお店もたくさんお客さんが来るようになったんですね。ここのすごいところは、今この写真のタイミングではすべての商品がなくなっているんですけど、おかずを好きに選んで買い物ができて、会計が自己申告制なんですよね。しかも、お会計を全部そろばんでやっているという、本当に昭和のこんな風景が残っているのかというドライブインです。
    宇野 道路というすごく近代的なものができるんだけど、土着のコミュニティが全然残っているので、昔ながらのコミュニティの中核としてドライブインが栄えた。だから、申告制で買って食べていく文化が残っているんだね。
    得能 信頼も含めて残っているんですね。
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