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池田明季哉 “kakkoii”の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝 第三章 ビーダマン(2)「炎の魔神」がビー玉に宿した魂
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池田明季哉 “kakkoii”の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝 第三章 ビーダマン(2)「炎の魔神」がビー玉に宿した魂

2019-06-20 09:00
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    デザイナーの池田明季哉さんによる連載『"kakkoii"の誕生ーー世紀末ボーイズトイ列伝』。『スーパービーダマン』シリーズは、シリーズを重ねるごとにビーダマンに人格が付与され、『爆外伝』において完全なキャラクターとなりますが、同時に、物語からは人間が撤退します。そしてビーダマンは、鎧と人と機械の中間的存在から、それらの境界が完全に融解した存在へと深化します。

    『爆球連発!!スーパービーダマン』(以下『スーパービーダマン』)において、道具と人格の両義性を持つビーダマンというキャラクターは銃器のデザインと結びつき、不屈のフィジカルによって倫理を貫徹しようとするタマゴと、「軍人」あるいは「殺し屋」を彷彿とさせる20世紀的な男性の美学の体現者であるガンマというふたりのヒーローを生み出した。そしてその物語を通じて、ビー玉を発射する一種の銃器であるビーダマンがはらむ暴力を、倫理によって治める展開が描かれることになった。

    実はタマゴが得意とした「締め打ち」は、現実世界のビーダマンの玩具において大きな問題を引き起こしている。主人公であるタマゴの機体「フェニックス」シリーズは、パワーを重視しているという設定もあり、ビー玉発射の威力を増す方針で開発されていった。しかし硬く重いガラスでできたビー玉がプレイヤーの無茶な締め打ちによって撃ち出されることで威力が増し、競技中にプレイヤーが怪我をする事態が続出することになった。しかしビー玉の速度を限定することは、ただでさえ数少ないカスタマイズのパラメータを減らすことに繋がり、プレイバリューを大きく損なうことになる。そのため以降のビーダマンはパワーをどのように制御していくかを設計段階で考慮する必要に迫られ、締め打ちを構造上不可能にしたり、地面に設置しなければ発射できないような一種のセーフティを組み込むことで安全性を向上する工夫を余儀なくされていく。劇中で人間に向けてビー玉を撃つマダラがタマゴによって諌められるという物語は、相当に切実なものであったことは付記しておきたい。

    「人」の形をした「道具」

    『スーパービーダマン』において興味深いのは、ビーダマンに人格や魂を感じさせる描写がほとんどない点だ。初期にこそ、タマゴにとってビーダマンが「友達」であるという発言があるし、仮想空間内でビーダマンと一体化するというイベントも存在するのだが、ビーダマンに魂のようなものを感じる描写は基本的にはないといっていい。

    このことは『爆走兄弟レッツ&ゴー!!』(以下『レッツ&ゴー』)において、豪がマグナムに魂を見出し、マグナムが豪の叫びに応えることと対照的だ。ミニ四駆とビーダマンは、自動車と銃というアメリカ的な表象を象った同時代のカスタムホビー玩具という非常に似た位置づけながら、この点において決定的に異なっている。それぞれの作品で描かれる美学も異なったものになったのはそれゆえだ。

    このことは、デザインという観点から見れば、実に奇妙に思える。というのも、ミニ四駆が自動車という乗り物をベースにそのデザインを発展させたのに対して、ビーダマンは自律的に行動するロボットであったボンバーマンのデザインを基礎としている。あくまで「乗り物である」ということにこだわり機能的には必要ないコックピットにこだわったミニ四駆がむしろ魂を宿し、目があり瞳がある人型ロボットの形をデザインに残したビーダマンの方がプレイヤーの道具に徹した、という事実は、デザインとそこに宿る想像力が逆転しているように見えるからだ。

    この興味深い逆転は、ミニ四駆とビーダマンの、玩具としての性質の違いに根ざしている。ミニ四駆はいったん手を離してしまえば、直接操作することができないところに大きな特徴がある。ミニ四駆が魂の器たりえたのは、この直接的には操作できないという性質によるものであることはすでに論じたとおりである。一方、ビーダマンはあくまでプレイヤーが直接ビーダマンを操作し、トリガーを引いてビー玉を発射する。そこにはミニ四駆にあるような間接性が入り込む余地はなく、すべての結果はプレイヤーの操作と直接結びつき、身体の延長となる。ミニ四駆が「魂を持った乗り物」としての想像力を宿し、ビーダマンが「軍人」の美学にこだわったのは、そのインターフェースデザインによる必然といっていいだろう。

    後に『スーパービーダマン』の系譜は、威力を減衰させて直接打ち合う対戦形式を採用した2002年〜2005年の「バトルビーダマン」、タワーを破壊する間接競技へと切り替えグリップとトリガーを設けてより銃器に近いデザインとなった2005年〜2007年の「クラッシュビーダマン」へと受け継がれていく。やがて2011年〜2013年の「クロスファイト ビーダマン」では、キャラクター性を全面に押し出し基本的にすべてのビーダマンが人格を持ち会話する設定を取り入れた。これはスーパービーダマンの系譜が宿した想像力からは例外的と言えるもので、おそらくは他の玩具シリーズなどからさまざまな影響を受けている点で大変興味深いが、逆に言えばスーパービーダマンは顔を持ったそのデザインにもかかわらず、魂を持つまでに実に誕生から10年以上の歳月がかかったと考えることもできるだろう。

    「爆外伝」が描いたボンバーマンしかいない世界

    ボンバーマンというキャラクターが持つ両義性のうち、機械であるという点は競技に注力したスーパービーダマンの系譜において強調されていった。一方、人格を持つ点について拡張し、フィギュアとして発展していったのが、もうひとつのビーダマンの系譜「爆外伝」シリーズだ。


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