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劇場中編アニメーション『ハル』を観ました。わずか60分の短い作品ですが、いや、これは良かった。
いま、どこまでこういうわりあいに地味なストーリーに需要があるのかわからないけれど、この企画を実現し劇場公開にまで持っていったスタッフには拍手を送りたい。
タイトルの「ハル」とは、キューブリックの映画とは特に関係がない、ある青年の名前。しかし、ある意味ではまったく無関係ではないかもしれません。
というのも、この『ハル』もロボット(人工知能)が関わるお話なのです。物語は、ある飛行機事故から始まり、喧嘩別れしていた恋人同士のハルとくるみは、この事故により永遠に離れ離れになってしまいます。
そこで、白羽の矢が立ったのがヒト型ロボットのQ1(キューイチ)。高度な人工知能を持つかれは、亡くなったひとの姿を得て癒やしのために活動することができるのです。こうして、「ロボハル」とくるみの物語は始まります――。
いやー、ほんと、良かった。実に、こう、優しい映画を見たと思う。後半のシナリオにはかなり無理があると思うし、作画的にもわりと止め絵ばかりだったりするのですが、それでもこれはリリカルに胸に迫る素晴らしい作品。
女性向けの漫画の世界をみごとに映像に移し替えた、といえばいいでしょうか。内容的にも完全に女性向けで、ほとんどが男性であろうこれを読んでいる読者の皆さんにどこまで自信をもってオススメできるか微妙なところではあるのですが、しかしここは確信を込めて推薦したいところ。
これは良い映画です。あっというまに見ることができるので、ちょっとレンタルして観てみてほしい。面白いから。
何といっても「ロボハル」を通じてあきらかになっていく青年ハルの造形が良い。幼い日、虐待同然の環境で育てられていた過去をひきずり、いまなお金しか信じられない男。
ちょっと『クリスマス・キャロル』のスクルージを連想させるような造形です。もっとも、ハルはスクルージのようなガチガチの守銭奴というわけではなく、ひとを愛し支えることができる「いい奴」なのですが、それでも根本的なところで人間を信じることができません。
ひとは裏切る、騙す、利用するといった考えが骨絡みに染み付いているわけです。
回想シーンで、ハルが「金を持っていると皆が優しくて、親切で、いつまでもこんなことが続けばいい」と語るシーンは切なく胸に迫ります。これはくるみじゃなくても泣きたくなりますね。
愛を信じられない男――愛することはできなても、自分が愛されるとは考えられない男。しかし、じっさいにはかれの周りには友情があり、善意があり、優しい人々が存在しているのです。そのことがわかった時にはすべてはもう遅い、というあたりがいかにも切ない。
ハルならぬ「ロボハル」はしだいにくるみの心をひらいていくのですが、死によって離れ離れになったふたりが再開する日は、ほんとうの意味では決して訪れません。
ロボット・テーマの佳作といっていいでしょう。
しかし、観終えたあと、しばらく考え込んでしまいました。
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