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『無職転生』と大海小説の面白味。
2016-04-07 19:2951pt
雨です。
雨の日は外に出るのが億劫なので、自宅でアニメを見たり記事を書いたりします。
GoogleのChromecastを買ったので、dアニメストアのアニメが見放題です。
nasneで録っているものと合わせると、ほとんどのアニメが視聴可能になりました。つくづくありがたい時代だと思います。
『くまみこ』面白い。
ほんとうは晴れているときも怠らず仕事をしなければならないのだろうけれど、つい遊んでしまうんですよね。
さて、先日出た漫画版『無職転生』最新刊を読みました。
原作でいうと第3章、魔大陸に飛ばされたルーデウスとエリスがルイジェルドと出逢って旅を始めるあたりですね。
ここら辺、原作ではいくらか間延びした印象もある展開だったのですが、その処理のうまいこと、うまいこと。適度にショートカットして、さくさくっと話が進みます。
巻末にはシルフィを主役にしたオリジナルの番外編も載っていてお得感ありあり。
この漫画版は素晴らしいクオリティなので、原作既読者にも未読者にもオススメです。このまま行くと全何十巻になるかわからないけれど……。
「小説家になろう」で人気を集めている作品はどれも長いことが特徴ですが、『無職転生』も相当の大長編です。
たぶん、この調子で全巻が書籍化されると、全30巻くらいになるのではないかと思う。
おそらく厳密に構成していけばもう少し短くなるはずなんだけれど、あっちへ行ってみたりこっちへ行ってみたりと脱線をくり返す展開が連載の醍醐味でもあるわけで、一概に否定的に語れるものではないでしょう。じっさい、面白いし。
そもそも、全数十巻などという超大長編小説は、もはや人間がきれいにコントロールし切れる限界を超えていると思うのです。
笠井潔がいっていたことだけれど、人間が厳密に構成し切れる限界はドストエフスキーやトルストイの大長編あたりにあるのではないだろうかと。
『罪と罰』だとか『戦争と平和』のレベルですね。
一般的な厚さの文庫にして5、6冊というあたりでしょうか。
それを超える長さとなると、もはやどこかに「ゆるみ」や「計算外」が出て来る。
でも、それもまた大長編の味なんですよね。
昨日の記事で書きましたが、必ずしもきびしく構成された物語ばかりが優れているというわけではない。
どこかでゆるかったりする物語にも、それなりの面白みがあるものなのです。
文庫にして何十巻というスケールで展開し、読者の支持がある限り無限に長大化しうるとも思える超大長編小説の類を、笠井潔は「大海小説」と呼びました。もはや大河どころではないということでしょう。
「なろう」で連載されている大海小説は数多いわけですが、『無職転生』がそのなかでも最高の人気を誇っていることはご存知の通り。ぼくも素晴らしい作品だと思います。
先述したように、連載というスタイルのため、時々、物語が「ゆるむ」こともあるわけですが、それもまた、楽しみのひとつというべきでしょう。
「なろう」を読んでいて思うのですが、 -
漫画版『無職転生』が至上の完成度。
2015-09-29 22:5151pt
漫画版『無職転生』最新刊を読み終わりました。
あいかわらず素晴らしい出来ですねー。
「小説家になろう」で抜群の人気を誇る有名作の漫画化です。
ある事件をきっかけにしてひきこもりになった男が異世界に転生して、今度こそ本気で生きようと決意するというお話なのですが、この漫画版は原作を忠実に再現しています。
もっとも、原作の内容をそのままデッドコピーしているわけではなく、かなりエピソードの取捨選択が行われてもいます。
この巻では主人公のルーデウスにとって最初の「ターニングポイント」まで話が進むのですが、コンパクトに構成しなおされた展開が非常に美しい。
この調子だとかなり先まで話が進むかも、と思わせられます。
さすがにラストまで全部描き切るのはむずかしいだろうけれど、後半まで描くことはできるのでは。
ちなみに主人公の人生にとってターニングポイントにあたるエピソードを、そのまま「ターニングポイント」と題してしまうのは『無職転生』の発明ですね。
この「ターニングポイント」ではいつもルーデウスの人生が根本から揺り動かされるような事件が起こり、物語はドラマティックに進展します。
この第一の「ターニングポイント」は特に過激で、ルーデウスのそれまでの人生は根こそぎ破壊されてしまいます。
守るべきものはただひとり、傍らの少女エリスのみ。しかし、そのエリスを守って旅を続けることは至難。さて、そんなルーデウスの前に現れる男は何者なのか――?
原作を読んでいる人にしてみれば自明な話なのですが、非常に盛り上がる展開となっています。
この「どんなに幸せを積み上げても一瞬で覆される」という感覚は『無職転生』のオリジナリティですね。
あとで書きますが、これあっての『無職転生』という気がします。
漫画版はまだ序盤ではありますが、原作のサスペンスをうまく再現していますね。
まあ、とにかくこの漫画版は非常にうまくできていて、第1巻及び第2巻のときも感心した記憶がありますが、続くこの第3巻は輪をかけて高い完成度を示しています。
ルーデウスの日常を描く合間にロキシーの冒険がインサートされたりとか、とてもとても洗練された印象。
最近、小説や漫画を読んでも「面白い」より先に「うまい」という言葉が出て来ることが多くなったぼくですが、この作品もとにかくうまくできていると感じます。
もちろん、原作の物語の素晴らしさがあってこそですが、この序盤は『無職転生』全編のなかでも殊の外完成度が高い下りなので、こうも巧みに漫画化されたことはいち読者として嬉しいです。
以前にも書いた記憶がありますが、この『無職転生』という物語の面白さはひとつにはその「優しさ」にあると思います。
「ひとを裁かない優しさ」。 -
それは優しさのレッスン。『無職転生』で学ぶひとを赦す心。
2015-03-29 01:0951pt
「小説家になろう」で連載中の『無職転生』漫画版第2巻が出ました。原作は佳境を迎えているようですが、漫画はまだ始まったばかりです。
うーん、ほんとうはKindleで欲しいところなのだけれど、いつになるかわからないから紙で買おう。
では、いまからちょっとTSUTAYAまで行って来ます。――(移動中)――しゅたっ。買って来ました。
さっそく読んでみましょう。――(読書中)――びゅわっ。読み終えました。
いやー、この巻も面白かったですね!
小説を漫画化したときのクオリティは当然ながら千差万別であるわけなのですけれど、この『無職転生』の漫画版はほんとうによくできている。
原作に対する理解度の高さ、エピソードの取捨選択の見事さ、純粋な作画能力、キャラクターデザインのセンス、いずれも文句なし。
まさに『無職転生』の世界がここにある、と感じます。
いまさらながら説明しておくと、『無職転生』はあるとき偶然に異世界へ転生することとなったひとりの中年ニート男性が、その世界で新たに「本気で生きる」ことを決心して生きていくというストーリー。
いくらかの才能はあるものの、特別にチートを与えられているわけでもない主人公が、ただ「本気」の力で少しずつ成長していくさまが読みどころです。
大長編ではありますが、大変面白いので未読の方は読んでみてください。「小説家になろう」の不動の首位です。
で、この漫画版はその原作を実にうまく処理しているように感じられます。
それこそ「わかってる度」が高いという表現を使いたいくらいですが、もうひとつ、おそらく作者が女性であることがプラスに作用しているんじゃないかな。
男性作家が描いていたらルーデウス(転生前)の気持ち悪さがシャレにならないレベルになっていた可能性がある。
文字で読むぶんにはスルーできても、ヴィジュアルで見せられるときついことってありますからね。
原作では転生前の現実世界におけるルーデウスはほんとうにどうしようもない男として描かれているので、それをそのまま執拗に描いていたら辛いところだった。さらっと流した選択は正しかったと思う。
で、この第2巻です。
この巻では、前巻のロキシー、シルフィに続いて、第三のヒロインであるエリスが登場します。
ルーデウスをして「狂犬」といわしめる凶暴なお嬢様なのですが、ルーデウスはある手管を使ってこの「狂犬」を調教していきます。
いかにして凶暴きわまりないエリスがルーデウスに「デレ」ていくのか、そこらへんが読んでいて実に楽しい。
原作でもここらへんから一気に面白くなってくる感じだったんですよね。
そして、この先では第一の「ターニングポイント」が待ち受けているのですが、それはいったいどのようにして描かれるのでしょうか? いまから楽しみです。
それにしても、「小説家になろう」の膨大な作品群のなかで首位に屹立する『無職転生』の魅力とは何でしょう?
ぼくはそれは「ひとに対する優しさ」に尽きるとぼくは思います。
主人公のルーデウスは一度、堕ちるところまで堕ち切った人間です。
ひととして最低のところまで堕落しきった経験をもつかれは、それがために軽々にひとを責めません。
かれのまわりの人間は欠点だらけの人物が多いのですが、そういう人々に対しても、かれの目はどこか優しいのです。
もちろん、作品世界は現実世界とくらべても相当にひとにきびしい世界で、ともするとひとは簡単に死んだり廃人になったりします。
また、現代日本の倫理からすればかなりゲスな行動に走るひとも少なくありません。
ですが、そういう世界であり人々であっても、ルーデウスが周囲を見る目は決して責め咎めるものではない。
その底知れない優しさこそが、この小説の最大の魅力なのではないでしょうか。
現代日本は、あまりに「正しさ」ばかりが強く語られすぎる社会であるようにも思われます。
ぼくはひとを責める「正しさ」だけでは、それがどんなにほんとうに正しいとしても、社会は行き詰まると思う。
愚かで欲望に走りやすい人間たちを赦し、認める「優しさ」があって初めて、人間社会は円滑に動く。そうでないでしょうか?
なぜなら、 -
まだ読んでいないあなたに全力でオススメ! ウェブ小説の金字塔『無職転生』を読もう。(2081文字)
2013-08-13 11:0053pt
ウェブ小説投稿サイト「小説家になろう」連載の『無職転生 異世界行ったら本気だす』がここのところいっそうおもしろい。
もともと無類におもしろく、「なろう」でも傑出した人気を誇っている作品だが、物語は「第三のターニングポイント」を迎えてさらに加速して行っている。
連載は一章の区切りを迎えていま休眠期間にあるので、ここらへんでこの作品の魅力を解説しておきたい。
『無職転生』は理不尽な孫の手という奇妙なペンネームの書き手によるウェブ連載小説である。
物語は、あるひとりのひきこもり中年男が交通事故にあい、死亡し、異世界に転生するところから始まる。典型的な「なろうテンプレート」に沿った展開。
しかし、テンプレどおりであるからこそ、作家の個性は際立つ。『無職転生』はここから圧巻のオーヴァードライブを開始するのである。
異世界でひとりの赤ん坊に転生した男は、ルーデウスと名づけられ、第二の人生を充実させるために努力しはじめることになる。
初めの人生を絶望のなかで過ごし、ついに幕をとじた男には、深い後悔があった。今度こそ過ちを繰り返さない。素晴らしい人生にしてみせる。
そんな感慨とともに歩みはじめた男は、少しずつ成長しながら人生をより良いものに変えていく。一度目の人生での絶望は、男を思慮深く、おごり高ぶらない人材へと変えた。
そしてルディはひたすら敵をつくらないように気を付けながら、少しずつ少しずつ人間的にも成長していくのである。
それにしても、いったいこの小説のどこがおもしろいのか? それを明確に解説することはむずかしい。たしかに作者のストーリーテリングは紛れもなく一定以上の水準に達している。
しかし、ただ小説技術だけを問うなら、もっとうまい作家はいるだろう。それにもかかわらず、『無職転生』はほかに類のない個性と魅力をもった作品なのである。
ひとつには、この小説が、ひとの弱さや愚かしさに対して寛容であることが挙げられる。何しろ主人公ルディは、もとが絶望的なダメ人間である。ひとのことを声高に糾弾できるようなキャラクターの持ち主ではない。
だから、かれはひとの弱点を上から見下ろして責めるようなことはめったにしない。善悪でひとを測って断罪したりもしない。倫理感がないわけではないが、とくにそういうことにこだわるタイプではないのだ。どんな意味でも「正義の味方」には程遠い男である。
そんなルーデウスが、いちいち自分の行動の意味をたしかめながら世界を歩いて行くところに、この作品のおもしろさはある。
ルーデウスは、初め、あらゆるモラルやバリューを嘲笑する「傍観者」だった。しかし、じっさいにひとりの人間として生きていくうちに、かれは現実世界と向きあうことになる。
純粋なひとごとなら、どうとでもあざ笑うことができても、じっさいに目の前に困っている人間がいたらつい助けてしまう。そういうことはある。
かれの生き方は空想のナルシシズムのなかですべてを判断してきた人間がほんとうの現実と出会っていくプロセスそのものである。
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