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『あなたがしてくれなくても』とセックスレスと自尊心。
2018-08-08 11:4151pt◆セックスレスは女を、男を深く傷つける。
『あなたがしてくれなくても』。
ひらがなばかりの印象的なタイトルをもつこの作品のテーマは、そう、「セックスレス」。週刊誌やインターネットでひそやかに、あるいはときに公然と囁かれる「夫婦の秘密」。
セックスレスをテーマにした漫画というと、いかにも興味本位の物語が思い浮かびますが、この作品はまったくそうではありません。
むしろ、限りなく繊細に、しかし執拗に、セックスレスという問題がいかに人を傷つけていくかが描写されています。
いや、これは傑作。じつに素晴らしいと思う。このテーマを扱った作品としては最高傑作といって良いでしょう。
主人公は結婚5年目の女性。そして、夫とセックスレスになってから2年が経つ。夫とは仲が悪いわけではないが、セックスがないことだけは辛いと思っている。
そんな彼女が、夫から精神的にも肉体的にも愛されたいと願い、さまざ -
『爽年』。しずかに優しく奏でられる生と性のムジーク。
2018-04-27 03:5751pt石田衣良の『爽年』を読んだ。前回で紹介した『娼年』の続編で、この連作の完結編だ。
主人公リョウの人間としての成長と、物語のドラマツルギーはほぼ前作までで終わってしまっているので、今回はささやかな後日譚、あるいは黄金のハッピーエンドへつづく長いエピローグといいたいような一冊にしあがっている。
何とも芳醇かつ流麗、しかもすこぶる技巧的な小説で、読み進めることの幸せを目いっぱい味わえる。
作家はだれもが、その技巧の巧拙はともかく、それぞれの文体をもっている。石田衣良のスタイルは、シャープでありながら鋭すぎることなく、古い時代の宮廷音楽さながらの柔らかさを備えていて、やたらに心地よい。美しい川のせせらぎを聴くような静穏な幸福感。
テーマはあくまでセックスだが、この巻ではついにリョウは「性の不可能性」の領域へと足を踏みいれる。
それは、たとえば幼年期に虐待を受けた拒食症の女性の姿を取って -
松坂桃李主演の映画『娼年』は清冽なエロティシズムただよう佳編だ。
2018-04-23 22:02最近、Bluetoothのワイヤレスイヤフォンを購入したので、iPhoneに繋ぎ、音楽を聴くかたわら、石田衣良のポッドキャストを聴いている。
定番の人生相談なのだけれど、回答の冴えがさすがに素晴らしく、聴いていてとても楽しい。
まったくキャラクターは違うものの、平気で「その男はクズだから、別れたほうがいいよ」などとアドバイスする突き放した距離感がふしぎとちょっとペトロニウスさんを連想させる。意外と毒舌なのである。
それにしても、ほんとうによくバランスの取れた人だ。ただクールでセンスが良いだけの人物なら他にもいるだろうが、この人は優しさと冷ややかさのバランスが絶妙である。さすがに20年もベストセラー作家を続けている人はちがうとしかいいようがない。
相談内容は多岐にわかっているものの、当然というべきか、恋愛とセックスの話が多く、他人の恋愛話を聞いたり読んだりすることが好きでならないぼ -
マッチョなセクシュアリティの陥穽。
2018-04-16 10:3251ptNetflixでドキュメンタリー動画を見るのが読書と並ぶ最近の趣味なのですが、昨日、『フリーセックス -真の自由とは?-』という作品を見ました。
現代は「LIBERATED」で、春休みにビーチへ出かけてセックスを求めるアメリカの若者たちを描いた内容となっています。
この動画を見ると、アメリカには非常にマッチョな文化と同調圧力があるのだなあ、ということがわかる気がします。
もちろん、ここにアメリカのすべてが描かれているはずはないのですが、それにしても、この作品で描写されているマッチョな価値観の若者たちの姿は衝撃的です。
「酒とセックスがすべて」。「女はみな本当は服を脱ぎたがっている」。そのような意味のことを平然と口にし、セクハラに走りつづける青年たちの姿、そしてそのような若者たちに疑問を感じながらも結局は受け入れてしまう少女たちの姿は、見ていてため息をつきたくなるようなものがありま -
セックスがたましいを癒やすとき。
2018-03-05 11:4551pt二村ヒトシ監督のレズアダルトビデオを見てみました。
二村さんは女装美少年ものやレズビアンものばかりを撮りつづけている異端のAV監督で、以前から興味を持っていたのですが、じっさい見てみると、これはもう百合ですね、百合。
AVを百合に含めることには異論も多々あることと思いますが、多くの百合オタが百合に求めるものはおおむね入っているのではないかと思う。
もちろん百合とはあくまでフィクションに与えられる名称であるわけですが、それでも二村さんの作品がもつある種の雰囲気は百合そのものといっていいのではないかと思うのです。実に面白い。
そもそもアダルトビデオとは、官能的なセックスを映像に収めるという目的をもっているものだと思うのですが、じっさいにはかなり記号化された大量生産品のビジネスという印象になっています。
それはそれで商売として間違えてはいないのだろうけれど、40歳を控えて年々、スケベ -
「エッチなお仕事」に対する偏見と差別という「悪」。
2017-12-11 07:0051pt中村うさぎさんの対談集『エッチなお仕事なぜ悪いの?』を読んでいます。
タイトルからわかるように、対談のテーマはいわゆる「性風俗産業(セックスワーク)」。セックスワークの非犯罪化を希望する中村さんが、各界の著名人たちを向こうに回して、「ほんとうに「エッチなお仕事」は悪いことなのか?」と問い質していきます。
まあ、ぼくも「べつに悪いことじゃないんじゃね?」というポジションなので、「だよねー」と思いながら読んでいきました。
なかでも面白いのが冒頭のセックスワーカーさんたちのリアルなお仕事話。どの業界であってもお仕事の苦労話は面白いものですが、セックスワークの生な苦労話を楽しく(!)語っている対談はめずらしいので、とても興味深いものがあります。
ほかの話もどれも面白いですよ。ちなみにかの北原みのりさんにも出演のオファーを出したそうですが、出てもらえなかったとか。まあ、そりゃそうだろうな。 -
いったいどうすればぼくたちは真摯に愛しあえるのか?
2017-12-10 07:0051ptさてさて、今年もあっというまに年末になってしまいました。クリスマスとかいう伴天連の祭事も近づいていますが、皆さま、いかがお過ごしのご予定でしょうか。
ぼくはひとり寂しくセブンイレブンのケーキをついばむ予定です。か、哀しくなんかないよ! 哀しくなんかないんだからね! 哀しい……。
まあ、クリスマスも徐々に恋人たちのイベントというイメージは薄らいでいるかもしれません。恋愛そのものが、オワコンとはいわないまでも、ちょっとずつ廃れている感じだから、それはそうなるのでしょうね。
さて、モテる男にはなりたいけれどココロが傷つくのはイヤなぼくは、学習のため、宮台真司&二村ヒトシの性愛論『どうすれば愛しあえるの 幸せな性愛のヒント』を読んでいます。
いままでこのふたりの本を読んできた人間にとってはくり返しの部分も多い本ではありますが、でも、さすがに面白い。正直、「ほんとにそうなのだろうか?」と思 -
「地獄」から「天国」へたどり着くためのルートとは。
2016-09-20 17:0551pt
恋愛工学の話は終わったと書きましたが、どうにも書きたいことが湧いて出てくるので番外編をひとつ。いや、まだ続くかもしれないので「番外編1」としておきましょうか。
この話、いつまでも延々と続くような気もする。いいかげんいやになっている人もいるでしょうが、ぼくは書きたいことを書きたいように書くのだ!
すいません、『麒麟館グラフィティー』の話も必ず書きます。赦してください。平身低頭。
さて、ネットでおそらく最も手きびしく恋愛工学を批判した記事に以下があり、このように書かれています。
僕は恋愛工学の信奉者を、特別にミソジニーだとか下卑た人間だとは思わない。頭悪いんだなとは思う。ナンパブログにも言えることだが、恋愛工学徒が書いたりしてるものを見て思うところがあるのは、「とにかくやりまくりたい!」とかじゃなくて「ただ普通に女の子と仲良くなりたいだけなんだ…」という人が少なくないことだ。その -
恋愛工学はニヒリズムへと人を導く。
2016-09-17 18:1351pt
あいかわらず恋愛工学のことを考えています。じっさい、調べれば調べるほど面白い。このネタをまとめて電子書籍を出したいなあと思っているのですけれど、はたして実現するでしょうか。うーん。
ぼくが考えるに、恋愛工学の最大の特徴は、人と人の「コミュニケーション」を否定するところにあります。ふつう、コミュニケーションとは相手に何らかの「内面」が存在していることを想定し、その「内面」に向けて行うものなのですが、恋愛工学においてはそれは「非効率的」と却下されます。
たとえば藤沢さんは恋愛工学の教典『ぼくは愛を証明しようと思う。』の刊行にあたって、既存の恋愛物語を否定しています。
「文学もそうですし、ドラマや映画などを含めても、これまでの恋愛に関する作品は本当の恋愛を描いていなかったのではないでしょうか。恋愛がメインテーマでない作品にも、ほとんど必ずと言っていいほどサイドストーリーに恋愛が入ります -
個人の立場が平等になればなるほど、幸福になる才能の格差があきらかになる。
2016-07-02 18:3651pt
いまさらながら永田カビ『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』を読みました。
すでに各所で話題のこの本、人気のあまり品切れが続き、電子書籍刊行の予定が早まったそうです。
読んでみると、じっさい面白い。30歳を目前にして「さびすぎ」る日常を送る著者が、一念発起して「レズ風俗」へ行きちょっとだけ人生を前進するようすがセキララに描かれています。
セールスポイントは物事を綺麗ごとに落とし込まない点にあるといっていいでしょう。
自虐と自傷でズタボロになっている自分を分析するところから始めて、それならどうすればいいか? どうすれば「人生の甘い蜜」を啜れるのか? と著者が思索を進めていくようすは事実だけがもつ迫力に充ちています。
「レズ風俗」という言葉を見て購入をやめる人もいるかもしれませんが、少しでも気になる方はぜひ読んでほしいですね。
これは歳をとってもまったく大人になれない人間の実
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