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記事 2件
  • その瞬間、「真実のリアル」がかいま見える。タナトスの漫画家石渡治の世界。

    2014-07-31 07:00  
    51pt


     漫画家石渡治をご存知だろうか。いまとなってはメジャーシーンで活躍しているとは云えないかもしれないが、ひと昔前の少年漫画が好きなひとなら必ず熱く語れるであろう描き手である。
     もちろん、いまもって現役で、パワフルな新作を上梓しつづけてくれている。その石渡の最新作が『ODDS VERSUS!』。先日、第1巻が発売されたばかりだ。
     無印、『GP!』と続いてきた『ODDS』シリーズの完結編という位置づけなのだが、冒頭からして何とも暗く、陰惨な展開が示されている。
     長年の読者にとっては、「ああ、石渡漫画だなあ」と思わせられる展開なのだが、どうやら主人公の伴侶である女性が死んでしまっているらしいのである。
     物語はその事実を描くことなく過去にさかのぼって語り始めるので、ほんとうに死んだのかどうかはわからないのだが、とにかく何とも暗く、やるせなく、絶望的とも云えるオープニングだ。うーん、ダーク……。
     石渡治は、『少年サンデー』黄金時代(正確には「白銀の時代」かなあ、という気もする。ほら、サンデーのほんとうの黄金時代は『タッチ』とか『うる星やつら』が連載していた頃だという気もするわけで)に活躍していた作家のひとりなのだが、比較的明るい雑誌のカラーに逆らって、とにかく暗い情念がただよう作風の作家だ。
     当時、「不幸漫画の代名詞」的な扱いだった『B・B』を始め、その姉妹編である『LOVE』、また隠れた名作の『パスポートブルー』でも、すべての作品で主人公のパートナーである人物が、ほとんど必然性もなく死んでいる。
     相当に人気のある描き手だったはずなのにもかかわらず、アニメ化している作品がひとつもないのは、この「理不尽な死の描写」に原因があるような気もする。
     登場人物はひょうひょうとして明るい人物が多いにもかかわらず、世界観そのものは何とも残酷なのだ。突然、ほとんど意味もなくヒロインが死んでしまうのである。
     いや、『B・B』でヒロインの小雪が亡くなったときはほんとうにびっくりした。そこまでするか?と。『LOVE』の最終回で、いきなり時間が流れ、主人公の少女があっさりと物語中では脇役かと思われた男と結婚し、そして死別してしまう展開にも驚かされた。
     ある意味で異様としかいいようがない展開で、じっさい、連載当時は賛否両論うずまいたという。しかし、まさにこういう展開のために、『B・B』や『LOVE』はいまなお忘れがたい印象的な作品となっているのである。
     『LOVE』のストーリーやキャラクターはほとんど忘れてしまったけれど、あの悲壮感ただよう最終回は忘れられない……。
     いったい石渡はなぜ、こうも悲劇的な展開を好むのだろうか? 読者を泣かせるため? いや、どうやらそういうわけでもなさそうだ。何といっても、石渡が描く悲劇は、物語的に脈絡がなさすぎて、「泣ける」というより「怖い」ものに仕上がってしまっているのだ。
     これはやはり、この作家がそういう世界観を持って生きていると考えるしかないのではないか。つまり、「ひとはいつ死んでもおかしくない」、「この世界ではどんなに不条理なことでも起こりえる」という世界観である。
     ぼくなりの言葉を使うなら、この作家は「人間社会の裂け目」から露出した「自然世界のリアル」を描き出そうとしている。
     その 
  • 最後のパスを打つのはだれか? 宇宙開発という至上の夢。

    2014-05-18 02:14  
    51pt


     ひさしぶりに何となくブロマガ著名人枠ランキングを見てみたら、有料部門の17位に入っていました。おおー。嬉しいな。まあ、あしたには落ちているかもしれないけれど、いいじゃないですか、一時の栄華?でも。
     現在、著名人枠のブロマガがおそらく数百か、1000を超えるかな?くらいあるはずで、そのなかで17位というのはそれなりに偉いんじゃないかしらん。
     そういうわけで、ブロマガ購読者数は少しずつ少しずつ増えていっています。というか、毎日マジメに書けば増えるんだよね。もうずっと前からわかっているシンプルな法則なんだけれど、これがなかなか実践しつづけられないんだよな。
     まあでも、平均して1日1記事以上は書きたいところです。何といってもお金をもらって書いているわけですからね。もう少しマジメに運営しなければ……。
     さて、ぼくはといえばあい変わらず『ソードアート・オンライン』をプレイしているのですが、長大な物語に疲れ果てて、合間に漫画を読んだりしています。
     石渡治『パスポートブルー』。このあいだペトロニウスさんが絶賛していた作品ですね。いやー、なるほど、これは面白い。あと、やっぱりロケットが出て来る『ロケットマン』も全巻買ってちょっと読み返してみた。うん、これもすばらしいですね。
     『パスポートブルー』も『ロケットマン』も、いうなれば「宇宙開発もの」に属する作品です。『MOONLIGHT MILE』とか、『プラネテス』とか、あと、ぼくはなんと未読だったりする『宇宙兄弟』とかもこのジャンルに入ることでしょう。
     宇宙開発。それは人類の見果てぬ夢であり、最高のフロンティア・スピリットの現れです。『パスポートブルー』はひさしぶりにその興奮を味わわせてくれました。
     いま、ぼくたちはおそらくは長い停滞の時代に入ろうとしている社会の一員として生きていて、そしてぼく個人は普段はミクロの関係性の戯れの物語を楽しむことが多くなっています。
     すべてが狭い範囲で展開するラブコメとか、いわゆる無菌系、つまり「女の子だけの仲良し空間」ものとかですね。でも、時にはやっぱり「人類とは?」、「ひとが見ることができる最大の夢とは何か?」みたいな物語にふれたくなってしまう。
     ぼくらがじっさいに生きているミクロ空間を充実させようとする努力もたしかに大切だし、気高いものだとは思うんだけれど、でも、人類全体を駆動させる最大の夢、経済も社会も巻き込んでそれに向かって突き進んでいく人々、みたいなヴィジョンを見たくなるんですよね。
     ペトロニウスさんは書いています。

     僕は思うんですよ、教育の、そして進路を決めるときの基準の、あるべき姿ってのは、こういうものなんだろうって。もちろん、これは、僕が言うようなオリジナルな生き方なので、参考になるかは微妙です。子供時代に宇宙飛行士を目指す仲間がいて、それにふさわしい原風景があるなんて、どんなに悲惨な現実であったとしても、生きる上で凄いオリジナルです。けれどもそこを除けば、この作品の通底に流れるのは、日本のローカルな基準をそもそも超えた、人類の最前線の課題に対する挑戦へ、どうチャレンジするか?そのためには、世界中に、それをするための同志があり、可能な教育機関があり、縁やつながりがあるという確信です。宇宙での巨大なトラブルを回避するのに協力した主人公のもとに、一通の電話が来ます。中国の国家主席からの感謝の電話でした。彼の親友は防衛大学校を卒業した戦闘機乗りで、もう一人はアメリカ空軍の少尉です。みんな、子供のころごみ溜めのような街で、宇宙に行きたいと誓った仲間たちです。こういうのって、いいなって思うんですよ。ボーダーを超えて、人類の挑戦を信じている、その課題へのチャレンジに加わりたいと、願う気持ち。
    http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20140513/p1

     ゴミだめのような街から、はるかな宇宙へ。夢だけが少年を連れてゆく。
     ぼくたちが生きる人類社会には、たくさんの未解決の課題があって、国家同士の争いも、差別も貧困も一向に改善してはいないかもしれない。
     しかし、それでも、そういったボーダーを超えて、ただひとつの「夢」が人々を駆り立てる。そんな物語を見てみたいと思うことがあります。
     ぼくは時々思うのですが、世の中にはワールドカップの決勝ゴールを決める選手というものがいるわけです。そういう人は、