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記事 2件
  • C・A・スミスからG・R・R・マーティンまで。ダークファンタジーの黒い血脈。

    2017-12-12 07:00  
    50pt
     いまさらながら『ダークソウル3』が面白いです。やたら複雑な操作があるダークファンタジーアクションゲーム。暗鬱で陰惨な世界設定にダークファンタジー好きの血が騒ぎますね。
     ダークファンタジーというジャンルは昔からあって、たとえばクラーク・アシュトン・スミスという作家がいます。
     栗本薫の『グイン・サーガ』などにも影響を与えたといわれる伝説的な作家で、クトゥルー神話ものなども書いているのですが、その作品は暗く重々しく、現代のダークファンタジーに近いものがあります。
     100年ほど前のパルプ雑誌でその名を響かせた作家であるにもかかわらず、なぜか現代日本で再評価され、何冊か新刊が出ているようです。悠久の過去とも久遠の未来とも知れぬ世界を舞台に、闇黒と渇望の物語が展開します。く、暗い。でも好き。
     栗本さんの作品でいうと、このスミスの影響が直接ににじみ出ているのは『グイン・サーガ』よりむしろ『トワイライト・サーガ』のほうかもしれません。
     『グイン・サーガ』の数百年、あるいは数千年後、世界そのものがたそがれに落ちていこうとしている時代を舞台にしたダークファンタジーの傑作です。
     全2巻しかないのだけれど、その妖しくも頽廃したエロティックな世界の美しいこと。主人公の美少年ゼフィール王子と傭兵ヴァン・カルスの関係は、のちにJUNEものへと発展していくものですね。
     あとはやはり、マイケル・ムアコックが書いた〈白子のエルリック〉もの。いまの日本では『永遠の戦士エルリック』として知られる作品群は素晴らしいです。
     この物語の主人公であるエルリックは、一万年の時を閲するメルニボネ帝国の皇子として生まれながら、生まれつき体が弱い白子の身で、斬った相手の魂を吸う魔剣ストームブリンガーなしでは生きていけません。
     しかし、この意思をもつ魔剣は、時に主を裏切り、かれが最も愛する者たちをも手にかけていくのです――。この絶望的パラドックスと、〈法〉と〈混沌〉の神々の対立と対決という壮大な世界が、何とも素晴らしい。
     一時期、映画化の話があったようですが、さすがに実現しなかったようですね。まあ、ひとことにファンタジーとはいっても『指輪物語』よりはるかにマニアックな作品ですからね。
     ちなみにムアコックは『グローリアーナ』というファンタジーも書いています。これはマーヴィン・ビークの『ゴーメンガースト三部作』に強い影響を受けたと思しい作品で、とにかく凝った文体と世界を楽しむものですね。
     エンターテインメントとして読むならエルリックとかエレコーゼのほうがはるかに面白いでしょうが、この作品には文学の趣きがあります。そういうものが好きな人は高く評価するでしょう。
     ただ、かなり読むのに骨が折れる作品には違いないので、気軽に手を出すことはできそうにない感じ。よくこんなの翻訳したよなあ。
     あと、最近日本では、アンドレイ・サプコフスキの『ウィッチャー』シリーズも翻訳されています。ぼくはいまのところ未読ですが、売れないと続編が出ないそうなので、先の展開が心配です。
     早川書房は時々こういうことがあるんだよなあ。ぼくはマカヴォイの『ナズュレットの書』の続きを楽しみに待っていたんだけれど、ついに出なかった……。
     この手のヒロイック・ファンタジーものとは系列が違いますが、ダークファンタジーを語るなら天才作家タニス・リーの偉業は外せません。
     彼女の作品は数多く、すべてが日本に紹介されているわけではありませんが、訳出されたものを読むだけでもその恐るべき才幹は知れます。その代表作は何といっても『闇の公子』に始まる平たい地球のシリーズでしょう。
     「地球がいまだ平らかなりし頃」を舞台に、数人の闇の君たちの悪戯や闘争を描いた作品で、アラビアンナイトの雰囲気があります。耽美、耽美。すべてが徹底的に美しく、あるいは醜く、半端なものは何ひとつありません。
     主人公である闇の公子アズュラーンは邪悪そのもので、人間たちの意思をからかって遊びます。しかし、この世界に神はおらず、いや正確にはいるのですが人間たちに関心を持っておらず、かれの悪戯を止める者はだれもいないのです。
     まあ、こういう作品たちがダークファンタジーの世界を切り拓いてきてくれたからこそ、ぼくはいま『ダークソウル3』を遊ぶことができるわけですね。
     はっきりいってめちゃくちゃ好みの世界だけれど、クリアまで行けるかなあ。ちょっと無理そうな気がする。いまの時点で操作の複雑さ、多彩さにココロが折れそうだもの。
     それから、もちろん、現代におけるダークファンタジーの巨峰として、以前にも何度か触れたことがあるジョージ・R・R・マーティンの『氷と炎の歌(ゲーム・オブ・スローンズ)』があるのですが、これはスケールが壮大すぎてダークファンタジーの枠内にも入りきらないかもしれません。
     世界的に大人気の作品ですので、未読の方はぜひどうぞ。 
  • 異世界ファンタジーはいつ誕生したのか。(2548文字)

    2013-07-04 09:45  
    52pt




     異世界ファンタジーが花ざかりだ。たしかに、一時期のブームは何だったのか、商業作品としてはあまり見かけなくなってしまったが、小説投稿サイト「小説家になろう」ではほとんど異世界召喚/転生ものしか存在しないといっていい状況である。
     この手の小説はその特性から「ハイ・ファンタジー」と呼ばれることもある。一方、日常と生活の空間を舞台にした小説は「ロー・ファンタジー」。この区別は絶対的なものではないが、便利なのでいまでも使用されている。
     さて、主にどことも知れないはるかな異世界を舞台とするハイ・ファンタジーなのだが、そもそも「異世界」というアイディアはいつ頃から生まれたのだろう?
     これは昔から疑問に思っていたことだ。というのも、ファンタジーの古典と呼ばれる作品を読んでいると、あまり異世界は出てこないような気がするのである。
     たとえばロバート・E・ハワードやクラーク・アシュトン・スミスのヒロイック・ファンタジーを読むと、その舞台は太古だったり、超未来だったり、火星だったりするわけで、「異世界」の出番は少ないように思える。
     ハワードのコナンシリーズの舞台は一万何千年か前の世界なのだ。まあ、特別にその手の作品にくわしいわけではないので、その時代にも完全な異世界を舞台とした作品があるかもしれない。
     うん、いま思い出したけれど、ロード・ダンセイニの『ペガーナの神々』は一応は異世界が舞台ですね。
     しかし、とにかくいまより異世界ものが少なかったことはたしかで、つまり異世界というアイディアそのものがいまほどメジャーでなかったのだと思われる。
     太古のアトランティス大陸とか、超未来の退廃の大陸ポセイドニアとかのほうが、純然たる異世界よりも人気のある舞台だったのだろう。なぜだろう。非常に単純な話で、まだ過去や未来に夢を見ることができる時代だったのだと思われる。
     ハワードやスミスがパルプ雑誌にヒロイック・ファンタジーを書きまくったのは、前世紀初頭のことだ。その頃はまだ時間的に現実と地続きの世界に剣と魔法の時代があるという設定が読者を納得させられたのだろう。
     ただし、その頃すでに空間的に地続きの世界で素朴な冒険物語を書くことはできなかったわけだ。つまり、空間的には世界は征服されつくしていて、あとは時間に夢を託すよりなかったということ。
     そしてやがて時間的な過去未来にも冒険の舞台を求めることはできなくなり、どうしようもなく異世界が要求されることになる。そのターニングポイントはどこにあったのか。
     きちんと調べたわけではないので正確なところはわからないが、1950年発表の『ナルニア国ものがたり』あたりなのかなあ、という気がする。
     1954年発表の『指輪物語』は、一応は同じ地球のべつの時代の物語という設定だったはずなので(だよね?)、完全無欠の異世界ものとはいいがたい。ただ、『指輪』がのちの異世界ものに巨大な影響を与えたことは間違いないが。
     で、1961年の『エルリック・サーガ』まで行くと、これはもう完全に現代的な異世界ファンタジーである。
     そのあとの『エレコーゼ・サーガ』に至っては異世界に召喚されて英雄となる主人公が出て来る。完全になろう小説の原型ができあがっているといっていい。