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記事 3件
  • 『天使』と『小鳥たち』を併せて読む贅沢。

    2020-12-13 17:34  
    50pt
     いま、緩やかに読み進めている『リテラリー・ゴシック・イン・ジャパン』に収録されていた「就眠儀式」が途方もなく素晴らしい吸血鬼ものの掌編であったので、須永朝彦の傑作選『天使』を手に取ってみることにしました。

     二十編の掌編が収録された一冊で、いずれも美貌の吸血鬼や天使といったモティーフをもちいたいわゆる「耽美」な幻想文学なのですが、その完成度は異常に高い。
     たった一冊の本が、どのようにしてその美の達成によって猥雑な現実世界と拮抗するのか、典型を見せられている想いがします。
     もし一手を誤れば他愛ない冗談に堕ちかねない耽美と闇黒の世界を、本当にこの上なくうつくしい言葉で綿々と描き出しているのです。
     いわゆるショートショートとは異なり、別段、物語として何が面白いというものでもないのですが、その昏い美の趣きの深さはくり返し読み返すに値すると感じました。三島由紀夫や中井英夫の跡を追う作家の一
  • 背徳のアンソロジー『リテラリー・ゴシック・イン・ジャパン』で暗黒文学の精髄を味わおう!

    2020-12-07 16:23  
    50pt

     何年もまえから欲しいと思っていたアンソロジー『リテラリー・ゴシック・イン・ジャパン』をついに購入しました。
     もし電子書籍版があったらもっと早く買っていたとは思うけれど、とにかく入手できたことは嬉しい。珠玉のアンソロジーというウワサなので、これから舐めるように耽読するつもり。
     もう、目次を見ているだけでたまらないですね。わずかに既読の作品もある一方でいくつか知らない名前もあって、ここからさらに「暗黒系」の鉱脈を掘っていける予感がしています。収録作はこんな感じ。

    「夜」 北原白秋
    「絵本の春」 泉鏡花
    「毒もみのすきな署長さん」 宮沢賢治
    「残虐への郷愁」 江戸川乱歩
    「かいやぐら物語」 横溝正史
    「失楽園殺人事件」 小栗虫太郎
    「月澹荘綺譚」 三島由紀夫
    「醜魔たち」 倉橋由美子
    「僧帽筋」 塚本邦雄
    「塚本邦雄三十三種」
    「第九の欠落を含む十の詩編」 高橋睦郎
    「僧侶」 吉岡実
    「薔薇の縛め」 中井英夫
    「幼児殺戮者」 澁澤龍彦
    「就眠儀式 Einschlaf-Zauber」 須永朝彦
    「兎」 金井美恵子
    「葛原妙子三十三首」
    「高柳重信十一句」
    「大広間」 吉田知子
    「紫色の丘」 竹内健
    「花曝れ首」 赤江瀑
    「藤原月彦三十三句」
    「傳説」 山尾悠子
    「眉雨」 古井由吉
    「暗黒系 Goth」 乙一
    「セカイ、蛮族、ぼく。」 伊藤計劃
    「ジャングリン・パパの愛撫の手」 桜庭一樹
    「逃げよう」 京極夏彦
    「老婆J」 小川洋子
    「ステーシー異聞 再殺部隊隊長の回想」 大槻ケンヂ
    「老年」 倉坂鬼一郎
    「ミンク」 金原ひとみ
    「デーモン日和」 木下古栗
    「今日の心霊」 藤野香織
    「人魚の肉」 中里友香
    「壁」 川口晴美
    「グレー・グレー」 高原英理

     津原泰水の作品がないことがちょっと気になるくらいで、まさに圧倒的な布陣。白秋や鏡花の古典から現代の乙一、桜庭一樹といったライトノベル出身作家までカバーした日本の「リテラリー・ゴシック(文学的ゴシック作品)」の一覧表といえるのではないかと。
     いやあ、よくここまで集めましたね! 凄すぎ。
     何しろまだ読んでいないので感想も何もないのだけれど、じつに七百ページ近いボリュームは簡単に読み通せるものでもなく、いまのところ、ただ匣のような本の形から「不穏の文学」の気配を感じ取るだけです。
     表紙はあたりまえのように球体関節人形であるわけですが、いやあ、良いよね、人形。押井守の『イノセンス』もまあ、映画として客観的な出来不出来はともかく、好みの世界ではあった。
     まあ、ぼくは球体関節人形といっても、元祖のハンス・ベルメールくらいしか知らないのですけれどね。何か良い解説書はないものかな。
     ところで、 
  • 山尾悠子『歪み真珠』。

    2018-12-27 09:04  
    51pt
     山尾悠子の『歪み真珠』を読み終えた。2010年に発表された山尾の何十年ぶりかの作品集である。
     タイトルだけでもわかる人にはわかるように、バロック風のイメージで織りあげた一冊、ということになっている(バロックとは「歪んだ真珠」から生まれた言葉だ)。
     「ゴルゴンゾーラ大王あるいは草の冠」に始まり、「紫禁城の後宮で、ひとりの女が」に終わる十四の掌編、及びひとつの短篇が収められているのだが、それぞれの作品がバロックな想像力を感じさせるよう工夫されているということなのだろう。
     「娼婦たち、人魚でいっぱいの海」とか、「ドロテアの首と銀の皿」など、題名からしていかにもバロック、という感じ。
     じっさいに読んでみると、なるほど、と思わないでもない。まさに「歪んだ真珠」さながらのイマジネイション。バロックとは過剰の芸術だと人はいう。たしかに、作中の描写にはいかにも過剰なイメジャリーが並ぶ。
     そもそ