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  • 伏見つかさ『エロマンガ先生』の神がかった完成度にいまさらながら驚く。

    2015-09-19 20:39  
    51pt

     伏見つかさ『エロマンガ先生』の最新刊を読みました。
     ベストセラーになった代表作『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』に続く新シリーズであるわけですが、前作に負けず劣らず面白いです。
     始まったときは「ちょっと守りに入っているんじゃないの?」などと思っていたのですが、なかなかどうして、ここまで堅実に続けられると降参するしかない。
     圧倒的な完成度に全面降伏です。
     『エロマンガ先生』の主人公は高校生ライトノベル作家。
     そこそこ才能があり面白いものを書いてはいるものの、あまりヒット作には恵まれていないという状況。
     かれには義理の妹がひとりいるのだけれど、自室にひきこもって出てこない。
     ある日、ささいな偶然から、その妹が自作に絵を付けてくれているイラストレーター「エロマンガ先生」であることがあきらかとなるのだが――と話は進みます。
     人気作家やらイラストレーターがことごとく中高生であるあたり、荒唐無稽といえばそうですが、ライトノベルとしては十分に「あり」な設定でしょう。
     偶然にも、というか必然なのかもしれませんが、平坂読が同時期にやはりライトノベル作家を主人公にした『妹さえいればいい』を書いています。
     ぼくはどちらも好きなのですが、じっさい読み比べてみるとかなり作家性の違いを感じます。
     ネタがかぶったりしているから非常にわかりやすい。
     あえていうのなら、『妹さえいればいい』はわりに現実的な年齢の作家を主役に据え、徹底的にディティールに凝って見せているのに対し、『エロマンガ先生』は完全にファンタジーに走っている印象がある。
     いや、もちろん『妹さえいればいい』も非現実的な話ではあるのだけれど、そこにはひとさじの「毒」が垂らしてあって、奇妙にリアルに思えてくるのです。
     まあ、『エロマンガ先生』に毒がないわけでもないけれど、その毒は慎重に量が測られていて、決して一定のレベルは超えないよう調整されている、という感じを受ける。
     根本的に世界がひとに優しいというか、あまりひどいことが起こらないよう守られている世界なのだと思うのです。
     いや、物語の始まる前には交通事故で主人公の義母が亡くなっているので、何もかも幸福な世界、というわけではない。
     それなりに一定のリアリティに配慮が行われているのはたしかなのだけれど、それでも登場人物がみないい人で、深刻な裏切りがないという意味で、牧歌的な世界ということができると思います。
     それを指して、甘ったるいファンタジーに過ぎないという人はいるかもしれません。
     しかし、作者はこのファンタジーを成立させるためにどれほど繊細な努力をしていることか。
     それはなんというか、ほとんどジャック・フィニィあたりのファンタジー小説を思い起こさせるほどなのです。
     いや、ぼくもみんなが幸せで、みんなが互いに思い合っていて――というのは、やはりウソであるとは思うんですよね。
     でも、 
  • 平坂読『妹さいればいい。』は動機がない時代のバイブルとなるのか。

    2015-07-02 04:00  
    51pt

     七月です。今年ももう半分終わってしまいましたね。
     この半年、いろいろありましたが、厭なことは忘れてゼロからスタートしたいと思います。よろしくお願いします。
     さて、当然、厭なこともあれば良かったこともあるわけで、上半期はたくさんの面白い作品と出逢えました。
     そのなかでも個人的に高い評価を与えたい作品といえば、平坂読『妹さえいればいい。』がまず挙がります。
     一見するとライトノベル作家の他愛ない日常を綴っただけの作品とも見えかねないものの、じっさいには壮絶に計算されつくした一作とぼくは見ました。
     日常系ライトノベルもここまで来たのかと感嘆せずにはいられないという意味で、今年のベスト候補です。
     もちろん、シンプルに一本のラブコメディとして読んでもめちゃくちゃ面白い。
     ただ、これをぼくのようなすれっからしの読者ではない、いまの若い層が読んで面白いと思うかというと、それはよくわからない。
     Amazonなどでくり返し指摘されている通り、「一本の小説としての起承転結が構成されていない」作品だからです。
     物語はなんとなく始まりなんとなく終わっているように見えます。
     おそらくじっさいには見た目に反して精密な計算があるものと思われますが、それにしても一貫したストーリーは存在しないといってもいいくらい極端な構成に仕上がっている。
     一般的な意味での「物語」がないのです。
     そのかわり、くり出されるネタの「手数」で勝負している印象。
     いわば一撃入魂の必殺パンチではなく、計算ずくのコンビネーション・ブローで戦っている作品といえるかと思います。
     それでは、なぜ極端に「物語らしさ」を欠いたプロットになっているのか?
     もちろん、 
  • そこに童貞マインドはあるかい? 日常系ラノベがオタクファンタジーを捨てるとき。

    2015-04-03 12:46  
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     いまペトロニウスさんとLINEで話していた内容がちょっと面白かったのでメモ。
     平坂読『妹さえいればいい。』の話なのですが、これ凄いよね、さすがだよね、でも単純に面白いかというとどうなんだろう――という内容だったのでした。
     というのも、『妹さえいればいい。』は「あまりにも成熟しすぎている」作品に思えるからです。
     すべての登場人物がバランスよくトラウマとかコンプレックスを抱えていて、「特権的なリア充」とか「特権的な非リア」とかが存在しない。
     しかも各人物はみな自分の人生に責任をもてる大人で、特別大きな「欠落」といったものはない。
     したがって、極端な行動に出る動機がない。「いまこのとき」をひたすら幸せに過ごす――ただそれだけといえばそれだけの物語になっている。
     それは中高生向きの作品としてどうなのか、ということです。
     さすがペトロニウスさんはクリティカルなポイントを突いてくるなあ、と思うのですが、そうなのです。
     『妹さえいればいい。』は恐ろしくよくできた作品なのですが、それでもあえてひとつ足りないところを挙げるとすれば、「童貞マインド」が足りないとはいえると思うのです。
     世界が成熟しすぎている。童貞くささがない。中二病もない。
     いかにもそれっぽく装ってはいるけれど、じっさいはそこからは遥かに遠い。
     これは大人の小説なのです。
     前作『ぼくは友達が少ない』は「友達がいない自分たち」と「友達がたくさんいるリア充」を比較することによって、その「落差」でドラマを駆動していました。
     そう、面白い物語には必ず「落差」があります。
     王子とこじきでもいいし、光の鷹と狂戦士でもいいのですが、とにかく極端なコントラストが描けていればいるほどその物語は面白くなります。
     しかし、社会が成熟していけばいくほどに、そういう「格差」は失われていくのですね。
     『妹さえいればいい。』はあきらかに意識して「友達さがし系」の「次」を狙って来ているわけなのですが、そしてそれはきわめて考え抜かれた計算の結果だということもわかるのですが、「ぼくは友達が少ない」という呟きに続く世界は「ぼくは何もかも満たされている」としかいいようがないものだったのではないか、と思わざるを得ません。
     いや、正確にはちょっとした「欠落」は全員が抱えているのだけれど、もはや大騒ぎしてそのトラウマを叫びださないくらい状況が洗練されている。
     なぜなら、だれもが何かしらのことは抱えているということはわかっているのだから。
     それでどうなるかというと、もうほんとうにただ楽しいだけ、の世界にたどり着いてしまったのですね。
     悪くいうなら、ここには確固たるドラマツルギーがない。なぜなら、ドラマを牽引するモチベーションが存在しないからです。
     「何も欠けていない」のだから、あえて現状を変革する必要もないということ。
     あたりまえといえばあたりまえのことですが、しかし、ここには「それでは物語が存在する意義は何なのか?」という深刻な疑義が挟まれる余地があります。
     伏見つかささんの『エロマンガ先生』なんかもそうなんですけれどね。
     ある意味で、もはや「問題は解決してしまっている」のです。必死になって解決しなければならない問題は、もはやべつにない。
     したがって、 
  • 傑作? 凡作? 伏見つかさ最新作は『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』を超えられるか。

    2015-03-11 00:24  
    51pt


     さて――このところアニメの話ばかり続けたので、きょうはライトノベルのことを書くことにしよう。
     ここに取り出したるは伏見つかさの最新シリーズ『エロマンガ先生』! その最新刊! きのう発売されたばかりのぴっかぴかの一冊。これをいまから罵倒の限りを尽くして口汚く貶してやろうと――うわっ、何する、何だお前ら、やめ(以下略)。
     というのはイッツジョーク(寒い)、ただ、昨日発売の『エロマンガ先生』最新刊を購入したことはほんとう。「本物のエロマンガ先生」を名のるなぞの人物登場というクリフハンガーで終わった前巻も良かったが、この巻も面白い。
     エロマンガ先生と正体不明のイラストレーター「エロマンガ先生G(グレート)」の間でイラスト勝負の火蓋が切って落とされるという燃える展開!
     はたしてエロマンガ先生Gとは何者なのか? 必殺の「エロマンガ閃光(フラッシュ)」は炸裂するのか? 某大手動画サイト(どこだろ?)を舞台にくり広げられる勝負の行方は萌えイラストの神のみぞ知る!
     というわけで、きょうは期待と興奮の『エロマンガ先生』第4巻の話。そもそも『エロマンガ先生』を知らないという不勉強な読者のために一応は解説しておくと、この作品は『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』で大ヒットを飛ばした伏見つかさが『俺妹』に続いて電撃文庫から送り出したライトノベル。
     前作に続いて妹もの、イラストレーターも前作と同じかんざきひろということで、発売前には多くの読者に「どうなんだろ?」と思われていたであろう作品なのだけれど、現実に発売されたものを読んでみると、これがまあ良くできている。
     リーダビリティ抜群の文章といい、紙面狭しと躍動するキャラクターたちといい、あいかわらず可愛らしいイラストレーションといい、文句なしに出色の出来なのであった。
     じっさい、挑発的とも見えるタイトルに反し、お話の内容はすこぶる堅実。ライトノベルの書き方教室があったら教科書に採用したいくらいのクオリティ。
     中高生のベストセラー作家や天才イラストレーターが次々と出て来る設定にリアリティがないという批判もあるようだけれど、そもそもライトノベルで設定の現実性を問うことじたい意味がない。
     べつに現代文学の潮流に棹さす一作を目指しているわけではなく、あくまで一本のライトノベルとして面白いものを志しているだけなのだから、特に現実的な設定を採用する意味はないだろう。
     いや、ほんと、よく出来た少年読者向けエンターテインメントなのですよ。秀作。
     ――というところで終われれば良いのだけれど、残念ながらもう少し付言せざるを得ない。というのもこのシリーズ、きわめて完成度が高いことは論をまたないことながら、じっさい読んでみると、もうひとつ、ふたつ、物足りない印象が強いのだ。
     これはぼくの個人的な感想に過ぎないから、「めちゃくちゃ面白い!」と感じているひともいるだろうけれど、ぼくは高い完成度のわりにいまひとつ物足りないと思っている。
     間違いなく考え抜かれた作品ではあるんだけれど、何というか、「無難」だよなあ、と。『俺妹』の熱心な読者だったぼくとしてはどうしても『俺妹』と比較してしょんぼりしてしまうのである。
     いや、『エロマンガ先生』、あるいは作品のクオリティとしては『俺妹』よりさらに高いかもしれない。
     『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』は作者としては計算外の要素が入った作品だったはずだ。純粋に構成だけを見れば『俺妹』の展開はわりとめちゃくちゃである。
     行き当たりばったりとはいわないまでも、勢いまかせなところがある。最終的にほとんどの伏線を拾ったことはたしかだが、ネットを見る限り、最終巻は賛否両論の内容だった。
     それに対し、『エロマンガ先生』は十分に計算して作品世界を構築している印象が強い。主人公とメインヒロインが血の繋がらない兄妹であることはあらかじめ示されているし、各キャラクターとも嫌味なく描かれている。
     萌え耐性がない一般読者はともかく、ライトノベルをそこそこ読み慣れている人間なら、この小説を読んでいやな気持ちになるひとは少ないだろう。
     何より、文章がでたらめに読みやすい。いったん物語のなかに入ったら、あっというまにラストまで連れて行かれるようなスピーディーな快感がそこにはある。
     読者にとって読みやすい文章を書くためには作者は恐ろしく苦労しなければならないわけで、伏見つかさが懸命な努力の末にこの作品を組み立てたことをぼくは疑わない。
     しかし――そう、しかし。それでもなお、ぼくはこの小説を読むとき、一抹の物足りなさというか、歯ごたえのなさを感じずにはいられないのである。もう少しで傑作にたどり着けるだけの出来ではあるのだけれど、どうにも「置きに行っている」印象が強いな、と。
     「置きに行く」とはもともと野球用語で、投手がフォアボールを恐れてストライクゾーンにボールを「置きに行っている」かのような配球を行うことを指している。
     そして、それが転じてお笑いなどで無難なネタで勝負することを意味するようにもなった。ここでぼくが「『エロマンガ先生』は置きに行っている」というのは、つまりはこの作品がいかにも無難なネタで勝負しているという意味である。
     そう、『エロマンガ先生』に読んでいてヘイトが溜まるような仕掛けはほとんどない。どこまで行っても、平和で、明朗で、穏やかな笑いが続いていて、晴れた日にひなたぼっこをしているような気分になれる一作なのである。
     作品のどこを切り取っても、文句を付けるようなポイントはないのだ。それはまあ、現実感に乏しいことはたしかだが、先述したようにそこはライトノベルにとって欠点にならない。とはいえ、それでもやはり物足りなさを感じることは事実。どこかに何か足りないものがあるのだ。何だろう? 
  • 『俺妹』の伏見つかさの新作『エロマンガ先生』がまさに鉄板のクオリティ。

    2013-12-12 07:00  
    53pt
     伏見つかさ『エロマンガ先生』を読み終えました。『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』以来の待望の新シリーズです。
     妹ものの新境地を開拓し、ライトノベル全体でも指折りのセールスを記録した傑作のあと、次に挑むのはどんな作品なのか? 答え:妹もの。
     というわけで、今回もまた高校生ライトノベル作家の主人公と、そのイラストレーター「エロマンガ先生」である妹のラブやら葛藤の物語、になるらしい。
     まだ第一巻なのでよくわからないけれど、とにかくむやみとおもしろい。もちろん、この先もおもしろいかどうかはまだいまの時点では何ともいえないけれど、とりあえず今回も完全に鉄板の出来。
     伏見さんは『俺妹』で何かを掴んだと思しく、もう文句のつけようがないエンターテインメントに仕上がっています。気が早いけれど、もうアニメ化は確定なんじゃないでしょうか。
     いま思えば赤面するしかないのですが、伏見つかさという作家を