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記事 75件
  • 書評:生物化するコンピュータ

    2019-04-19 16:48  
     書評:生物化するコンピュータ デニス・シャシャ&キャシー・ラゼール著、講談社 https://amzn.to/2UZUrq2●デジタルは原始的である 「生物化するコンピュータ」という言葉の持つ意味は大きい。人類の文明において「デジタル」が表舞台に登場してきたのは、ここ半世紀ほどのことである。それまでは、すべて基本的にはアナログであった。 現在のトルコに残された、現存する人類最古の遺跡とされる「ギョベクリ・テペ」の時代から約1万年、同じ祖先からサルと分岐したのが2800万年から2400万年前頃と推定されていることを考えれば、ごくごく最近の話だ。 だから、世の中で「人類はアナログからデジタルに進化する」という考え方が流布するのも仕方が無いのかもしれない。 しかし、これはまったく間違った考えである。 生物はデジタルからアナログへ向かって進化しており、特に人間の脳はアナログだからこそ、高度な情報
  • 書評:二宮金次郎とは何だったのか

    2019-04-17 10:24  
     書評:二宮金次郎とは何だったのか 臣民の手本から民主主義者へ 小澤祥司 著、西日本出版社 https://amzn.to/2P2DiGQ ●二宮金次郎の虚像 今、二宮といえば、嵐(ジャニーズ)の二宮和也氏をさすのであろうが、二宮金次郎もたぶん日本人なら誰でも知っている有名人である。 ただ、「いったい何をやった人なのか?」ということについて、明確に答えることができる人は少ないのではないだろうか? 二宮金次郎は、江戸時代の後期、相模の国(現在の神奈川県)小田原藩の貧しい農家に生まれた。洪水で田畑を失い没落した家の再興を若くして果たし、その再興手腕を藩の重臣の家の再興でも活用。最後には幕臣にも取り立てられた立志伝中の人物である。 その活躍は、主に現在の栃木県で行われたが、その名声は近隣にも鳴り響いた。 その中でも、静岡県の掛川市は傍流とも言えるが、後の明治期に至るまで、二宮金次郎の始めた<報徳
  • 書評:銃・病原菌・鉄(上)

    2019-03-30 02:17  
     書評:銃・病原菌・鉄(上) 1万3000年にわたる人類史の謎  ジャレット・ダイヤモンド著、草思社  https://amzn.to/2OpVtpu  大航海時代以降、欧米が繁栄し、アジアやアフリカなどの人々を植民地化し蹂躙したのは偶然か?必然か?  本書では、欧米人が現在の世界を支配しているのはタイトルの三つが直接的な原因だと考えているようだが、それは(下)で議論が展開される模様だ。  (上)ではその三つの直接的原因の遠因について議論が展開される。 基本的には  1)人類がどのように余剰生産を生み出し、それを活用したのか?  2)余剰生産を生み出すための、栽培化、家畜化は、世界のそれぞれの地域でどのように発展したのか  3)後年、南米大陸で、自らの肉体を細菌兵器化し、アステカ人をほぼ全滅させたスペイン人をはじめとするヨーロッパ人は、どのように免疫を獲得したのか? に関する議論を展開し
  • 書評:ニュートン2019年4月号統計と確率

    2019-03-22 17:27  
     書評:ニュートン2019年4月号統計と確率   https://amzn.to/2TOVZmM  投資の神様ウォーレン・バフェットは、「投資をするのに高等数学が必要なら、私はいまだに新聞配達をしていただろう」というジョークをとばしている。  実際、私の35年以上におよぶ投資人生(バフェットの半分ほどしかないが・・・)においても、高等数学が必要な場面に遭遇したことが無い。  一時<金融工学>なるものが流行って、ディーラーや経済学者がやたら難解な数式を振り回して暴れたが、投資ではほとんど成功できなかった・・・・ノーベル賞経済学者を集結させたLTCMは、金融業界を揺るがすような破た んをしている。  バフェットが鋭く指摘するのは、「目の前に2メートルの柵があれば、それをよじ登ろうとせずに、周りに30センチの柵が無いか探すべきだ」ということである。私は、同じことを「鼻からうどんを食べる必要は無
  • 書評:サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠

    2019-03-16 12:32  
    書評:サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠  ジリアン・テット著、文芸春秋  https://amzn.to/2Hrzg96●タコツボ・シンドローム  サイロ・エフェクトというのは日本人にとってはいイメージしにくい言葉だと思うので、「負の側面」を強調した「タコツボ・シンドローム」という私の造語に置き換えて話をする。  例えば、村人が50人の村の村長は、なんでもやるし、ありとあらゆる人々と関わる。また村人も、畑仕事と鍛冶屋や機織り業を兼ねるのが普通だから、極端な専門化の弊害である「タコツボ・シンドローム」とは無縁といえよう。  しかし、1000万人以上が暮らす東京や1億人以上の人口を抱える日本を効率よく機能させるには「専門化」が不可欠であることは言うまでも無い。  昼間に畑仕事をして、夕方鍬を担いで戻ってから患者を診察する医師に、心臓のバイパス手術や脳腫瘍摘出手術を依頼したくないし、コン
  • 書評:市民政府論

    2019-02-22 14:35  
    書評:市民政府論    ジョン・ロック 著、光文社古典文庫    https://amzn.to/2Nb25HJ ●法律が無ければ自由は無い  そもそも、政府が国民(臣民)に対して、指示命令を行い服従させることが正しいのか?その根源的な問いかけに対して、330年近くも前(統治論第2編=市民政府論の発刊は1690年)に明確な回答を与えたのが本書である。  本書で定義される自然状態というのは、実のところエデンの園のような楽園では無い。現在で言えば、アフリカのソマリアやナイジェリアのような市民に殺戮が繰り返される無政府状態の地域。あるいは西部開拓時代のアメリカのように無法者が横行し、善良な人々が財産(生命・自由・資産)を脅かされる暗黒時代である。  だからこそ、人々は社会のルールを決め、そのルールに従って国民の財産(生命・自由・資産)を守る統治者の支配に従うことを望んだのである。  誤解されが
  • 書評:炭素文明論 「元素の王者」が歴史を動かす

    2019-02-14 14:54  
    炭素文明論 「元素の王者」が歴史を動かす    佐藤健太郎著、 新潮選書    https://amzn.to/2Il43Xl ●人間も脳も電気仕掛けでは無い  正直申し上げれば、私も亀の甲羅と呼ばれる化学式にはアレルギーがある。また、マスコミで騒がれる新技術は、概ねITかバイオテクノロジーであって、化学研究におけるブレイクスルーでは無い。  しかしバイオテクノロジーの基本は化学反応であり、生物も化学反応によってその生命を維持しているのだ。  よく人間の脳を電気信号で動くコンピュータに例えて、シンギュラリティー(人工知能が人間の脳の能力を超える瞬間)などの議論もなされるが、それは不毛である。  確かに、脳波や心電図などの例をあげるまでも無く、人間の体には電気が流れている。しかし、それらの電気はすべて化学反応によって生み出されるのである。正しくは「生命を維持する化学反応の結果電気が生じる」
  • 書評:ケインズ もっとも偉大な経済学者の激動の生涯

    2019-02-07 02:18  
    書評:ケインズ もっとも偉大な経済学者の激動の生涯    ピーター・クラーク著、中央経済社    https://amzn.to/2GokOy7 ●君子豹変  ケインズが経済学の歴史に偉大な足跡を残したことを否定する人はほとんどいないだろう。しかし、その評価はまるでジェットコースターのようにアップダウンを繰り返してきた。  また、アダム・スミス、フリードリヒ・ハイエク、ミルトン・フリードマン、さらにはカール・マルクスの主張には明確なイメージを持ちやすいが、ケインズの主張は一つの明確なイメージにまとめにくい。それは「君子豹変」という言葉に象徴されるカメレオンぶり(決して否定的意味では無い)のせいであると考える。  彼の有名な言葉に「状況が変わったのになぜ考え方を変えないのか?」というものがある。確かにその通りである。特に社会科学においては、考え方を変えることは「悪」とみなされがちで、同じ主
  • 書評:モサド・ファイル

    2019-01-24 21:26  
    書評:モサド・ファイル    マイケル・バー=ゾウハ―&二シム・ミシャル著、早川書房    https://amzn.to/2CBIYBy ●第2次冷戦の中核、諜報戦争  米中貿易戦争から始まった「第2次冷戦」が本格化している。第1次冷戦でもそうであったが、「ホット・ウォー」(実際に戦火を交える戦争)ではなく、その一歩手前の「コールド・ウォー」では、諜報合戦(スパイ工作)が極めて重要であった。  もちろん、諜報戦争でも多少の犠牲者は出たし、世界中から恐れられるイスラエルの諜報機関「モサド」のように、殺戮の限りを尽くす「殺人部隊」としか呼びようが無い組織があるし、CIA(米国中央情報局)も2011年5月にパキスタンという主権国家の意向を無視して、米国特殊部隊が行った、ビン・ラディン・斬首作戦に当然関わっている。  それでも、第一次冷戦時代に現実の恐怖であった「全面核戦争による人類滅亡」や、
  • 改めて日本の歴史を知ろう

    2019-01-24 21:03  
     30年間続いてきた平成と言う時代が終わり新年号が公布される今年は私たち日本人にとって、とても記念すべき年と言えます。  作家、百田尚樹氏はその著書、「日本国紀(幻冬舎刊・1800円+税)」の冒頭において「日本ほど素晴らしい歴史を持っている国はありません。」と述べています。  それに続いて、「神話とともに成立し以来2千年近く、一つの国が続いた例は世界のどこにもありません。これ自体が奇跡と言えるほどです。」と述べています。  日本国紀は戦後の自虐史観を醸成してきた多くの国民に勇気と自信を与えてくれたと言うこともできます。とりわけ戦前、戦後の近現代史を学ぶことは多くの国民にとって日本の置かれている立場や今起きている国内外の事象にいかに対応するかのヒントになります。  作家、百田氏の頭の中から飛び出た歴史的な情報をつかめばこれからの日本人の生き方が見えてきます。知っているようで案外知らないこと